ハイリスクアンバランス
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「一つ賭けをしてみないか。」
唐突な提言だった。まるで今までの会話の流れに沿う様に極自然と淡々とこの人は言ったが、実際は何の脈絡もなく切り出された発言に私はただただ目を丸くする。その様子を見て半兵衛さんは顔を綻ばせていた。
「賭け、ですか?」
「そう、賭け。君は僕から逃げて僕は君を追い掛ける。名前が僕から逃げ切れたら君の言う事を一つ聞こう。」
つまりは鬼ごっこをすると言う事だろうか。ルールは王道の負けた方が勝った方の命令を一つ聞く単純且つ簡単ながらも恐ろしいものだ。しかし、これはあの半兵衛さんの鼻を明かす千載一遇のチャンスなのでは?鬼ごっこなら逃げる範疇と時間によっては私にも十分に勝機はある。半兵衛さんが持ち掛けた話だ。私にだってルールについて干渉する権利はあるだろう。
「良いですよ。やります。」
「因みに僕が勝った場合、君は僕のものになってもらう。」
言葉の意味がわからず、私は絶句した。僕ガ勝ッタ場合、君ハ僕ノモノニナッテモラウ?脳内で反響し、延々と繰り返される先程の半兵衛さんの台詞。それでもその意図を理解する言葉は出来なかった。君?君と言うのは私の事なのか?
「君はこの城内でなら何処へ逃げ回っても良い。時間は…そうだな、日没までにしよう。」
「え、あ、…あの…。」
「誰かを味方に付けても構わないよ。間違いなく僕はそいつを殺すけどね。」
「殺ッ!?」
あれ!?鬼ごっこってそんなルールだったっけ?何それローカルルールなの?私は今まで鬼ごっことは大衆的で馴染みのある平和な遊びだと思っていたのだが。いつからそんなデッドオアアライヴなサバイバルゲームになったのだろうか。時代は変わったものだ。いやいや、可笑しい。これは誰がどう考えても可笑しい。異常だ。鬼ごっこに死人が出る事を良しとする半兵衛さんの精神は健全なものではない。
「名前。僕はね、今まで良く耐えていた方だと自賛したい位なんだよ。しかし、僕だって人間であるからして限界と言うものは存在する。その限界がどうやら来てしまったみたいだ。君が僕以外の人間と話すのも、君が僕以外の人間に笑いかけるのも、君が僕以外の人間の目に映るのも、非常に不愉快なんだ。気が狂れそうな程にね。だから実力行使に出た訳さ。実に僕らしからぬ行動に出たと思っている。僕を狡猾で醜悪な人間だと軽蔑しているかい?でもね、裏を返せばそれ程必死だと言う事なのだよ。その為なら僕は人を殺す事を厭わないし躊躇ったりなどもしない。名前を僕だけのものにしたいんだ。僕が君を捕まえたら監禁して死ぬまでずっと愛してあげるよ。」
何 じ ゃ そ り ゃ 。 どうしてそうなったし!どうして私だし!大丈夫ですご安心を!あなたの気は疾っくに狂れていますよ!あまりの突然のカミングアウトに頭の中はしっちゃかめっちゃかだ。頬杖を付き、優雅に脚を組んで座る半兵衛さんの表情は笑っていたが、こちらを見遣る細められた目は一切笑ってなどはいない。濁りつつも、ぎらつくその瞳は確実に目の前の獲物を捕捉していた。瞳に映るのは牙を見せる獣に怯える人間の姿。それは紛れもなく、私だった。
「さあ、名前。三十数えるから逃げたまえ。」
何だか知らないが勝手にデスゲームが幕を開けてしまった。いや、確かに承諾したかもしれないけれど違うし!何か色々と違うし!思い描いていたものとかなり掛け離れているし!半兵衛さんが立て掛けていた凛刀を徐に手に取るとそれを腰へと帯刀させる。この人、本気じゃねえか!本気にやる気だ!いや、間違いなく殺る気だ!!殺る気満々じゃないですか!!!!まさか冗談じゃないだと!?!?そんなの冗談ではない!!!!そうこうしている間にも半兵衛さんはいーち、にーい、さーん…と間延びした地獄へのカウントダウンを始めていた。ちょちょちょ、待てよこの野郎!!!!こちとら心の準備が、それ以前に棄権する権利はないのか!ああ!もう十まで数え終わってしまっているではないか!このままでは監禁生活まっしぐらだ!そんなのは御免だ!!!!絶対に嫌だ!!!!そう思うや否や、私は全速力で走り出した。
ハイリスクアンバランス
(愛してるよ!)
(だから絶対に捕まえてあげる!)
MANA3*111104