切り裂かれるモノトーン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暇だ。物凄く暇だ。暇過ぎて死にそうだ。暇死しそうだ。誰も好きでこんな状況に身を置いている訳じゃない。やるべき事がなくてもやりたい事はある。しかし、残念ながら行動を制限し束縛する独裁者が居る為に私は決して自由の身ではない。その独裁者は私に背を向け、机に向かって何かを書いている。恐らく次の戦の策でも考えていらっしゃるのだろう。私には無関係の話だ。この空間に、流れに身を委ねる事が有意義だとはとても思えなかった。
「半兵衛さん。」
「何だい。」
「暇です。」
「そうか。」
「…………。」
「…………。」
「部屋に帰って良いですか?」
「僕がそれを許可するとでも思っているのかい?」
「イイエ、思ッテイマセン。」
「わかっているのなら一々聞かないでくれ。」
不毛だ。何て不毛なのだろうか。こんな事をしていたら腐敗してしまう。精神に異常を来してしまう。この部屋には本は積もる程ある。しかし、どれもこれもが常人には難解な内容の物でここまで難しいと奇々怪々に思えて来る思わず読む気が失せる書物ばかりであった。まあ、読む以前に字が達筆過ぎるのか何て記載されているのか理解出来ないのが現実だ。ぱらぱらと頁を繰って本の中身を知る事なく終わってしまう。
「何か手伝いましょうか?」
「はっ。」
鼻で笑われてしまった。腸が煮え繰り返りそうだ。
「君が手伝える様な事は何もないよ。」
「じゃあ、もう帰って良いですか。」
「駄目だ。」
ちょっと、そこら辺に鋭利な刃物の様な物、若しくは鋭利な刃物は転がっていないだろうか。無防備にも敵はこちらに背を向けているし今ならやれる気がするがそんな物はなかったので仕方なく諦めた。仕方なくだ。こっちはいつだってやれるんだ。これは愈、暇になって来た。このままだと私の存在意義を問われてしまう。てか、こっち向いて喋れよ!人と話をする時はちゃんと目を見て話せって言われなかったのか!一体どんな教養を受けて来たんだ!一体どんな教養を受ければそんな子に育つんだ!信じられんわ!
「大体、半兵衛さんが部屋に呼んだから来たのに、何も用がないってどう言う事なんですか。そりゃあ、手持ち無沙汰にもなりますよ。私だってやりたい事が色々あるんですけど。」
「名前。君はもう少し自分の身を弁えるべきだ。僕の側に居られる、それは一種の特恵だと思っても良い。況してや君の様な愚かで貧相な人間が僕と同じ空気を吸えるんだ。それだけで君は果報者なのだよ。有り難く思いたまえ。」
誰が思うか!!!!誰が有り難く思うか!あなたと居ると生命の危機しか感じないのだよ!血に餓えた猛獣の檻の中に放り込まれた気分になるのだよ!絶望的だよ!絶望しかないよ!そんな状況を誰が有り難いと思うものか!有り難いと思う人間が居ると言うのならもうその人は特殊な人に違いない!頭がいかれた人か人生に夢も希望も未来もない人か数々の死闘を繰り広げて来た猛者かただの変態だよ!私はどれにも当て嵌まらない!私はノーマルなんだ!そして、人と話す時はその人の目を見ろよ!何処見てんだこの野郎!そこに私が居るのか!居ないわ!
もう嫌だ。もうこんな状況耐え忍べないです。暇過ぎて息が詰まる。寧ろ、息の根を止められそうだ。ここは一つ、妙策を講じ、この異空間から脱出するのだ。
「あ、そうだ。確か私、石田さんとの約束があったんだ。そうだそうだ。忘れる所だった。危ない危ない。」
逸る気持ちを抑え、極自然に、ゆったりとした動作で腰を上げる。ずっと正座をしていたせいで足がびりびりと痺れてまるで産まれたての小鹿の様だったがそこは何とか気合いで耐える。くそっ、膝が笑ってやがる。この人の前だと無意識の内に正座をしてしまうのだ。何故だ。何故だかわからないが正座をしないと殺されそうな気がするのだ。
「じゃあ、そう言う事なんで。そろそろお暇させて頂きます。お邪魔しました。」
心にもない事を言って私は部屋から退室しようとした。勿論、約束だなんて嘘だ。言わずもがなここから脱出する為の口実である。石田さんは犠牲となったのだ。私は痺れる足を引き摺る様にしてそろそろと出入口の襖へと向かう。もう少し!後、もう少しだ!自由への扉は直ぐそこだぞ私!頑張れ!!!!
一瞬の事だった。気が付いたら畳の上で仰向けに倒れていた。襖に手をかけようとしたら後ろへと体が崩れた感覚が残っているが。これは足の痺れが原因ではない。まるで誰かの手によって後ろへと引き寄せられ、咄嗟の事に抗いもせず、そのまま倒れた様だ。その誰かと思しき容疑者、いや犯人があろう事か私を組み敷いているではないか。
「…な、何してるんですか、半兵衛さん…。」
「君がこの僕を出し抜こうとするとはね。僕も嘗められたものだ。」
「なな何の事やら。」
「三成君なら今は留守だよ。残念ながらね。」
何 だ と ! ? ! ? くそっ!あのアーモンドが!私はあなたの事を信じていたのに!裏切りやがった!土壇場になって裏切りやがった!この裏切り者アーモンドめ!もう私の中での石田さんの株は大暴落したから!信頼ゼロだから!一度失った信頼はそう簡単には帰って来ないんだからね!暫く口も利かないから!覚悟するんだな!
「そんなに暇なら僕が構ってあげるよ。」
「はい?何言ってぐふっ!?!?!?」
突然、布の様な物を乱暴に口の中に詰め込まれた。言葉も叫びも何を言っているか理解出来ないくぐもった声に変わり果てる。ついでに呼吸がし難い。布を取り出そうにも両手は半兵衛さんに拘束されていてそれは敵わない。本当に息の根を止められるかもしれないと言う恐怖に冷汗をかく。どうやら覚悟をするのは石田さんではなく私の方らしい。
「君を蔑ろにして悪かったよ、名前。僕に構ってもらえず、嘸や寂しかったのだろう?」
寂しくなんかないわ!あなたに構われない時間がどれ程心休まる事か!あんた、私の事何一つわかっちゃいねぇよ!もう良いから私の事はほっといてくれ!私を解き放ってくれ!私の悲痛なる叫びは意味があるものにはならず、虚しく布の隙間から息が漏れていくだけだった。はっきりと私の言う事がわからずとも私の言いたい事、意思は表情や反応で推し量れるだろう。ただ、それをはい、そうですかとすんなり聞き届けてくれる相手ではない。
「だから、君が寂しい思いをした分だけ、君が満足するまで、僕が構ってあげるよ。」
そう言って手袋を口で外しながら私を見下す半兵衛さんの至極、悦楽そうな表情を見て全身から血の気が引いていった。あまり見慣れない半兵衛さんの素手は病的に白くて、冷たそうだった。
「さあ、名前。何して遊ぼうか。」
切り裂かれるモノトーン
(退屈とは平和だ。)
(しかし、平和とは退屈なものだ。)
MANA3*11102