春は訪れ桜散る
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季節は廻り、桜散る春の訪れ。
春は訪れ桜散る
春。
暖かく過ごしやすい季節がやって来た。桜が満開に咲き誇った今はまさにお花見日和なのだろう。
だが、この辺りには桜の木がないのでお花見は出来ない。それでも私は構わなかった。今日も平和に過ごせたらそれで良いと思う。麗らかな春を満喫しようではないか。
太陽よ!この一時の平和を祝福するような光をありがとう!
「お花見をする。名前、出掛ける準備をしたまえ」
平和崩壊のカウントダウンが始まった。
違った。カウントダウンが始まったその時から平和は爆発した。そして、飛び散りました。跡形もなく。じゃあ何だ、何のカウントダウンだ。あ、何らかの事件へのカウントダウンか。
いつだってそうだ!平和は突然脅かされる!人が生きている限り、真の平和は来ないと言うのか?!
「半兵衛さん。言うのは勝手ですが、この近くに桜はありませんでしたよね?お花見なんて出来ないんじゃないですか?」
「桜がなければ、桜がある所に行けば良いだろう」
「えぇ…何処までですか?」
「北条の小田原城までさ」
遠ッ!遠足気分では乗り越えられない距離じゃないですか!挫けそうなくらいに遠い!いや、挫ける!すでに挫けてます!
「京都にもありましたよね、桜」
「ふざけるな。あそこには彼が居る。彼に逢うぐらいなら小田原まで行った方がよっぽどましだね」
ふざけてるのはあなただ。何故あなたの個人的な人間関係の都合に合わせなければならない。その都合に関係のない人まで巻き込まないで頂きたい。
てか、もうそんな遠出までしてお花見をしなくても良いと思う。縁側からたんぽぽを眺めてお茶を啜るので妥協してほしい。
「半兵衛さん達で行って来て下さい。私は留守番してますから」
私は不参加する事を申し出た。京都になら行ってたかもしれないが。
途端、半兵衛さんの表情が憂いを帯びた。そして私に背を向けて晴れ渡った春の空を見上げた。
「…半兵衛さん?」
「僕は…いつこの命が尽きても可笑しくはない」
「え……」
「儚く、短命。桜は人生のようだ」
「…………」
「しかし、どうだろう。咲き乱れ、散り逝くその時まで、桜は綺麗だ。そんな姿を見ると、少しだが僕にも生きる強さと希望を与えられている…そんな気がするんだ」
逆光で影が覆う背中に哀愁が漂う。それを見て何とも切なくなった。
「僕はまだ生きて春を迎えられている。けれど、次の保証はない。後、何回…この季節を迎えられるだろう…」
「……半兵衛さん…」
「だから見たいんだ、桜を。君と…名前と……」
振り返るその笑顔は力なく悲しくも、儚げだった。
それに私の目頭と心は熱くなった。
「っ…はい!わかりました!私もお花見に行きます!行かせて下さい!」
「…本当かい?」
「えぇ、勿論!」
「名前……感謝するよ」
半兵衛さんがそんな事を思ってただなんて気付きもしなかった。私は何て馬鹿なんだ。自分の事しか考えてないじゃないか。騙されてても良い、半兵衛さんの為にお花見をしようと思った。
私なんかで良ければお供しますよ!えぇ、喜んで!年に一度のお花見を楽しもうではないか!
「北条殿。すまないが、お花見をさせてはくれないだろうか?この子がどうしてもしたいと喚くもので」
騙 さ れ た 。
私は本当に何て馬鹿なんだ。騙された上に利用されてるではないか。半兵衛さんもあんな自分の弱さを露呈した話をしてまでお花見をしたかったのか。何ですか?年に一度桜を見ないと駄目なんですか?七夕ですか?桜とあなたは織姫と彦星ですか?
「と、豊臣軍が一体何の用じゃ!」
「ですから、お花見をさせて頂きたいと申した筈ですが。ほら、名前。君がお願いしないと駄目だろう?」
「わーい。桜だ桜だ、お花見やらせろー」
素人丸出しの棒読み演技を披露する。私だってこんな事したくない。サディスティックリアル彦星半兵衛さんの命令だ。因みに『無邪気な子供みたいに』と要求されて、そのつもりでやったのだが。
「名前、ちゃんと心を込めて言わないと駄目だろう?もう一度お願いしてごらん?」
「あの、すいません。お願いします。お花見をさせて下さい。でないと私、死んじゃうんですっ!本当に、本ッ当にお願いします!」
私の背後から凛刀の気配がする。えぇ、そりゃあ無邪気な子供を無視した迫真の演技に見えますよね。演技じゃないですもの、滅茶苦茶、必死なんですけど。
「この通りだ。この子もお花見が出来ないと死ぬようだからね」
あなたに殺されてね。
「…じゃが、しかし……」
「お願いだ。お花見をさせてもらえるなら、あそこでも構わない」
うん。半兵衛さん、あそこで良いと指差して謙虚に見えますけど、誰がどう見てもあそこはベストポジションじゃないか。謙虚の裏に隠れきれなかった欲望がだだ漏れしてるじゃないですか。
北条軍と同盟を結んでる訳でもなく、友好関係にある訳でもないのに、あの人はどうしてあんなちょっとフレンドリーな感じで会話するんでしょうか。私には理解出来ません。誰も理解出来ません。
敵である北条さんにも迷惑でしょう。迷惑ってか訳がわからないでしょうよ、豊臣軍がやって来て襲撃かと思いきやお花見をさせろだなんて。訳がわからない。そして大迷惑。突然大迷惑。
「秀吉さん、何で小田原まで来てお花見をしなくちゃいけないんですか?」
「ぬぅ、半兵衛が言い出し事だしな。仕方がない」
「いや、仕方がないって何ですか。何で諦めてるんですか。諦めないで下さいよ、間違ってるのはあの人なんですから」
「そうは言ってもだな名前。半兵衛には半兵衛の考えがあるのかも知れぬ」
「あの人の考えで心から笑顔になれる人はきっと一握り程ですよ。そしてその中に私は含まれません」
何で豊臣軍の主導権が半兵衛さんにあるんだ。何でここは豊臣軍って言うんだ。
敵だろうが何だろうが利用出来るものは利用する方針なのか。それで環境問題が解決されると、地球が救われると思っているのだろうか。だとしたら恐ろしい勘違いだ。早く間違いだと気付いてほしい。地球どころか誰も救われない。環境問題も解決しない。
「ぬぬ……そうじゃな…花見をやらせん事もない…」
「そうですか。話がわかって頂けて有難い」
「但し、条件があるがのぅ」
どうやら、タダではお花見をやらせてもらえないらしい。まぁ、仕方ないっちゃあ仕方ないと思う。
「んだと、糞爺」
あれ。今隣から囁く暴言が聞こえましたけど、私の隣って半兵衛さんなんですよね。うん。私の聞き間違いだと思う。うん。そうであってほしい。
「そうじゃのう…金を払うか、豊臣の兵を少しばかり寄越してくれるなら花見をさせてやろう」
ん~…ここは穏便にお金を支払うべきだろう。豊臣軍にはお金なら幾らでもあるだろうし。
「わかりました」
半兵衛さんは柔らかに微笑んだ。珍しく、物分かりが良いと思った。
「では、交渉決裂と言う事で」
そんな訳がなかった。
「豊臣軍、全兵に告ぐ!突撃せよ!小田原城を攻め落とせ!」
どええええええええええ!?!?!?!?!?
ちょっとこの人ったら!何が?!何が不満なの?!何があなたをそうも駆り立てるの?!動機は何なの!事件の動機は!
「ちょちょちょちょっと半兵衛さん!いくら何でもこれは!」
「秀吉の天下の為、僕の夢の為、遅かれ早かれ何れはこうなるんだよ」
「お花見は!?お花見をしに来たんじゃないんですか!?」
「条件を出して来た北条が悪い」
「あなたが一番悪い人ですよ!」
蒼烈瞬躙?いや、違う。この人には極悪非道の四字熟語がお似合いだ。
「ふ風魔は!風魔は居らんのか?!」
「忍殿は手当てが良いとの事で今後は松永軍の護衛をすると言う置き手紙が!」
「ななな何じゃとーーー!?!?」
「はは、城と浅知恵だけは立派だったよ」
名誉毀損罪に値する発言を平気で吐く半兵衛さんはやはり事件を起こされてしまった。あの人が行く所に事件は良く起こる。理由は簡単だ。あの人が犯人だからだ。
「小田原城を占領し、花見も出来る。一石二鳥とはこの事だね」
この人は最初からこれが狙いではなかったのだろうか。そう考えると恐ろしくて仕方ない。
事件が繰り広げられる上で桜が綺麗に散る様を見て私は何だか泣きたくなった。
小田原城は攻め落とせされました。呆気なく。北条さんは悪くないです。悪いのは事件を起こした犯人です。でも犯人は悪いとは思ってません。何故ならそれは竹中半兵衛と言う人間だからです。あ、違います、人間じゃないです、鬼です。
「良し、秀吉。あの桜にしよう」
「うむ」
何をするのかと思えば秀吉さんが桜の木を掴み―
「肩慣らしにもならぬわっ!」
ズバッ!
ひえええええええ!!!!!!!!
抜いた!抜いたよ!引っこ抜いちゃいましたよ!もうここまで来たら何でも有りですね!
「これを持って帰れば、毎年、豊臣の領地で花見が出来るだろう?」
「出来るだろう?じゃなくてあなたには聞こえませんか、桜の悲鳴が!」
「あぁ、聞こえるよ。君の喚き声がね。さぁ、帰るよ」
この人に何を言っても無駄だった。正真正銘の凶悪犯だ。
「これでまた来年もお花見が出来るね、名前」
その度に今回の事が思い出されるのかと思うと春なんか来なければ良いと思った。
それでも春は訪れて、桜は綺麗に散るのだろう。
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MANA3*0411