罪科と知りながら
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国を統べる為の争いは未だに続く。抗争は益々激しくなる最中、そこには既に豊臣の名はなかった。軍の象徴とも言えるべき人物が居なくなったからだ。
即ち、豊臣秀吉の死去。
戦いでの討死ではなく、他軍の間者による暗殺だと言われている。
これにより豊臣軍は乱世の戦いから戦線離脱した。
現在、半兵衛さんと私、少数の兵士は稲葉山に身を潜め、この乱世の行く末を傍観者として眺めていた。
「名前。今…戦いはどうなってるんだい?」
「……官兵衛さん曰く、織田軍の勢力は止まる事なく、この戦いの一番の脅威には変わりないそうです。伊達軍も本格的に動き始めたらしいです。上杉、武田の両軍の争いも長く続きましたが、武田が有利な状況だと言ってました」
「………そうか…」
気のない返事をする半兵衛さんはずっと壁に凭れて、開けた窓から外を眺めている。ずっとだ。
今日も。
昨日も。
一昨日も。
ずっと。
以前なら戦況を聞いた後、策を練っては夢の為にと、天才軍師の名に相応しい働きを見せ、その姿は凛々しいものだった。
以前なら、
親友を喪い、夢が潰えたその時が来るまでは。
それほどまでに、豊臣秀吉という人物はこの人の中で大きな存在だったのだ。
容易く慰めの言葉なんて私にはかけられない。権利がない。どんな言葉も今の半兵衛さんの心には届かないだろう。
私ではどうしようもないのだ。
なんて、無力。それ以上に愚か。
しかし、どうにも心が痛むのだ。
何もせず、死を待つ事だけに時間を費やす半兵衛さんの姿を見ていると。
「…名前、」
「……はい…」
「君まで、僕のもとから去ったりしないでね」
その表情はあまりにも儚く、今にも目の前から消えそうで、許されないとわかってても涙が出そうになった。
「っ……はい…」
だから、
だから、どうかあなたも
消えたりしないで下さい。
「名前」
「は、いっ…」
「おいで」
脱力した白い手が私を手招く。
それに私が拒むはずもなく、ゆっくりと半兵衛さんに近付いた。
「名前」
「…っは、い」
「…触れても良いかい?」
声が震えて、まともに返事が出来ない私は首を縦に振った。
それを見た半兵衛さんはそっと、優しく、私を包んだ。
半兵衛さんの体は冷たかったが、確かな感触がその存在を証明してくれた。
「……良かった…君は確かにここに居る」
「…っ…!……」
「今の僕には、もう君しかいない」
「…半、兵衛さん…っ…」
涙が溢れ出て、私は半兵衛さんにしがみつく。
「…半…べ…さん、…ごめ……ごめん…なさい…」
「……どうして名前が謝るんだい」
「ごめっ…なさい……ごめん……な、っさい…」
泣きながらも私はひたすら謝り続ける。
何度も。何度も。
「……名前」
「…ごめんな…さいっ、ごめ、な……いっ……」
半兵衛さんの腕の力が強まる。
私は尚も泣きながら、謝る事を止めなかった。
「もう、泣かないで。謝ったりもしないで」
「ごめっ、なさいっ…私が……私がっ………」
罪科と知りながら
罪人は知らない。全てを知り、笑みを浮かべる者の存在を。
(君が愛故にやった事を愚行だなんて思わないよ。かけがえない親友を喪った事は非常に残念だけどね。でもこうやって絶望を演じる事で君はその身を一生僕に捧げてくれるのだろう?)
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MANA3*080405