影の陰色
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外は夕闇。夜の漆黒の闇とは違う恐怖心を煽る。傍ら、独特の色彩は美しく、見る者全てを魅了し惑わせるのであろう。そう思うと不気味で目を逸らさずにはいられない。
この人は違う。
開け放した障子から夕闇を恐れる事なく見詰める。妖艶な色に白い体は絡められても、その瞳の紫は濁る事も揺らぐ事も決してなかった。さながら夕闇の支配者とでも称しようか。
この人には夢がある。
「半兵衛さんの夢って何ですか?」
「それはまた、今更な質問をするね。僕の夢はただ一つ。豊臣秀吉の天下、それだけさ」
「本当ですか?」
「…何だって?」
他人の夢を叶える事が夢だとは思えない。心からそう言えて、本人が喜ぶのなら、それはそれで夢なのだろうけど。
そうではない。
「半兵衛さん、何を考えてるんですか?」
「何をって…次の戦の策略、必要な兵や武器、秀吉の天下、僕がその為にどう行動するのが最適であり最善なのか、考える事は山程ある。上げたら切りがないよ」
「違います」
「…………」
「半兵衛さんは……もっと、別の事を考えてます」
そう。いつだったか、この人は親友の夢ではなく、どこか違う所を見ていた。全くの別人がそこに居て、その人なのにその人じゃない。そんな矛盾に私は悲しくなり、それ以上に恐怖した。今でも。
それは、さっき夕闇を見ていた半兵衛さんがそうであったから。
「どうしたんだい名前?今の君は可笑しいよ。そんな事を聞くだなんて」
「一体、何を考えてるんですか?半兵衛さんの本当の夢って何なんですか?」
半兵衛さんは夕闇を見詰めていた紫をゆっくりと私に向け、
ニタリと笑った。
「…知りたい?」
背筋が凍った。心臓が止まるかと思った。息が出来なかった。
この人は誰だ。
「名前になら教えてあげても良いよ?」
「っ…半兵衛さん………?」
いつもの柔らかな口調なのに、半兵衛さんが恐くて仕方ない。
一歩、一歩と近づく影。
逃げないと。逃げないと。考えとは裏腹に私は逃げなかった。逃げられなかった。
細めて笑う紫が心の片隅では美しいと思いつつ、恐くて堪らない。
私は魅了されていた。
そして影が私の手首を捕らえた。
「っあ…は離して…離して下さい…」
半兵衛さんは無言で、楽しそうに口だけが笑っていて。私は限界だった。
「離して下さい!離して!」
「あぁ、そんなに恐いのかい?僕が」
「嫌!お願いだから離して!」
「抵抗しないで。それとも抵抗出来ないように酷い事をされたいのかな?」
「っ!………」
捕まれた手を払おうとしたが、圧力がかった言葉に、直ぐに抵抗を止めた。抵抗を続けたならば、どうなるかわからなかった。今の半兵衛さんでは。
「そう、賢い選択だ。痛いのは嫌いだものね、名前は。尤も、僕はあのまま抵抗されても良かったけど」
「それはそれで楽しそうだろうから」と笑う半兵衛さん。今の心情が滲み出るように私の体は震え出す。
「ん?逃げたい?早く解放されたい?でももう遅い。君は僕からは逃れられない。残念だったね」
「…っ…ふ……」
「僕の事が恐い?嫌いになったかい?それでも僕の気持ちは変わらない。それに知りたいんだろう?僕の夢を」
「…っはぁ……ぅっ…」
「僕の側に居れば見れるよ。僕の本当の夢が。ずっと側に居ればね」
吐息を交え、耳で囁くその声と口調は確かに私の知っている半兵衛さんなのに。
呼吸が苦しい。無意識にやってた単純な事が出来ない。こんなにも苦しい。喉の奥が熱い。痛い。
これは現実なのだと告げるように。
「はぁ…っぅ…はぁはぁ…あ…」
「苦しいのかい?大丈夫、僕が居るよ。楽になるまで肩に凭れれば良い」
「はぁはぁ、っう…ふ、はぁ」
重くてだるい私の体を半兵衛さんは自分の肩に引き寄せる。背中を擦ってくれる手は冷たかったが、とても優しかった。
真実はそれだけで良かったのに。
「夢は必ず見れるさ、名前。僕の側に居ればね。ずっと僕の側に…」
夢の為と争い生きる舞台の裏で奥底知れぬ影の嘲笑いを確かに私は聞いた。
影の陰色
それは黒か白か夕闇か、それとも。
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MANA3*080402