惨劇に散る紙吹雪
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大武闘会?勿論、私は出場しませんよ。
惨劇に散る紙吹雪
「僕とこの子で出場させてもらうよ」
「…………」
人はいつ『自由』と言う言葉を考え付いたのだろうか。私は心底知りたくなった。
二人一組が参加条件のこの大会。秀吉さんと出場すれば良いものの「秀吉の手を煩わせるまでもないよ」を理由に半兵衛さんは私を指名した。「他の兵の人と出れば良いじゃないですか。官兵衛さんとか」と言う官兵衛さん生け贄発言を無視された私は強制連行され今に至る。
私は何とか出場を阻止しようと、仮病をする事にした。いきなり苦しみ出すのもあれなので、とりあえず黙り込んでみた。
「名前をお願いします」
「竹中半兵衛」
「…………」
「あの…名前を」
「すまないね。喋れないわけではないのだけれど。名前は太郎衛門と永遠に語り継がれるよう、しっかり書き記しておいてくれたまえ」
「いや、や止めて!ごめんなさい!すいませんでした!だからせめて、せめて花子で…!」
危うく、太郎衛門とはっきりしないややこしい名前にされかけてしまった。そして、私は不本意にも半兵衛さんと大会に出場する事になる。
「半兵衛さん。私、丸腰なんですけど」
「何を言ってるんだ。君は君自身が武器、そうだろ?」
「何を言ってるんですか。そんな事言ってたら私、秒殺されますけど。今日が命日になってしまうんですけど」
「安心したまえ。僕の凛刀を貸すよ。好きなものを選ぶといい」
「え!貸してくれるんですか!?」
まさかあの半兵衛さんが自分の武器を人に、ましてや私なんかに貸してくれるなんて思ってもみなかった。関節剣として使いこなせない確信と不安はあったが、半兵衛さんの心遣いに嬉しくなり、私は遠慮なく貸してもらう事にした。
「じゃあ、あの……凍摩で」
半兵衛さんが所持する八つの武器の中で闇属性の内の一つ。凛刀、凍摩。選んだ理由は、私の体力が減っても敵を倒せば多少回復出来るからと妥当なもの。
「そうだね。はい」
「…………」
出ました、出ましたよ。『万国の象徴』。何故それを私に差し出すんですか、私『凍摩』って言いましたよね?あれ?もしかしてこれが凍摩だったか?だとしたら私は「闇属性の武器」と言うべきだった。もう仕方ないので私は差し出されたそれを貸してもらう事にした。
「…………ありがとうございます」
「うん、やはり名前にはその万国の象徴が良くお似合いだよ」
やはり万国の象徴じゃないか!てか、これ凛刀じゃないし!自分の記憶ではなく半兵衛さんを信じた私が馬鹿だった!
こんな見て呉れでもなかなかの攻撃力はあるのだと自分に言い聞かせ、私は大人しく諦めた。
「…時間だ。行こうか」
「はい」
「ああ、一つ言っておくけど、凍摩は確かに倒した人間の体力を奪うが、その体力は持ち主である僕に吸収されるから、僕の体力は回復するけど君には何の利益もないからね」
「…………」
選手入場口から出てきた私達を迎えたのは、試合をその目で見ようと足を運んだ大衆、その大衆から沸き上がる騒音と変わらない歓声、そして戦いの舞台。
一気に緊張と不安、恐怖に襲われた私は、落ち着こうと大会の規則を頭の中で確認する。
試合は通算100試合。誰が考えたんだ、多過ぎる。私を殺すつもりか。試合は相手を戦闘不能にすれば勝ちになる。逆に私達の二人が戦闘不能となれば負け。その場で終了。
半兵衛さんと私の二人一組の出場だが、一人で戦っても二人同時に戦っても構わない。どちらか一人が舞台に立って居れば良い。…ここの規則に凄く嫌な予感がしてしまう。一人が戦ってる最中のもう一人の仲間の参加は認められている。
別に100試合を連続でしなくても良くて、10試合毎に休憩をとるかとらないか選べる。私はもう全部、休憩する気満々ですけどね。
と、まぁこんなものだったであろうか。いつだったか「慌てず騒がず、君達に出来る事をやるんだ」と半兵衛さんが言っていたのを思い出す。そうだ。自分が出来る事をやれば良い。目標は生き残る事だ。
「ただ優勝しても意味はない。僕達が目指すのは完全制覇、100試合勝ち続ける事に意味はある。わかるね名前」
「いいえ、わかりません」
わかりませんよ!わかる訳ない!何故、そう簡単に10試合毎に休憩を設ける規則を考えた人の優しさを無駄に出来るんですか!?その人に謝ってほしい!そして私に!てか100連勝って!何だそのスパルタ教育!確実に今日が私の命日になっちゃいますよ!
「本日、この大会に挑む兵、豊臣軍から竹中半兵衛殿!太郎衛門殿!果たして見事、大会を制し、巨万の富と名誉を手にする事は出来るのであろうか!さぁ御二方よ!舞台へ上がられたし!」
「……………半兵衛さん、私、太郎衛門になってますけど!?!?太郎衛門のままなんですけど!?!?今、本気で「太郎衛門って誰?何で私の名前呼ばれないの?」って思っちゃいましたよ!」
「ははっ、そうだね。僕も一応驚いたよ」
「いやいやいやいや!笑ってないで訂正して来て下さいよ!一応って何ですか一応って!?」
抵抗も虚しく、名前が訂正される事なく私は太郎衛門の名のまま舞台に上がった。いよいよ試合が始まる。
「…………半兵衛さん。半兵衛さんから貸してもらった武器から紙吹雪が…塵が出てくるんですけど。止めどなく」
「塵と言わないでくれるかい?それに、それがその武器の魅力なのだから」
「いや、魅力って…後片付けをする人の事を考えると心が痛むんですけど」
「君が掃除すれば良いんじゃないか?」
「半兵衛さんが他の凛刀を貸してくれれば良いんじゃないんですか?」
「そうか。君の武器はやはり君自身、その手を血に染める…それが太郎衛門の戦い、運命なのだね」
「ごめんなさい」
丸腰は無理です。死にます。別の意味で私が血に染まります。後片付けの人頑張って下さい。てか太郎衛門って言わないで下さい。気にしてるんです。
手にしてみても一体どこから果てもなくこの紙吹雪が出ているのかがさっぱりわからない。どうなってるんだ。
「試合開始!いざ、尋常に勝負!」
えっ!いきなり!そんな!まだ心の準備が…!
「「「うおおおおおお!!!!」」」
ひぃ!こんなに沢山!恐っ!恐い!やっぱり恐い!無理無理無理!
「期待しているよ」
そう一言、言葉を残して半兵衛さんは華麗にジャンプして舞台から格好良く降りた。私を一人置き去りにして。
「えっ嘘!?ははは半兵衛さん!何でいきなり一人にするんですか!!一緒に居て下さいよ!半兵衛さん!」
「僕を求めるその声……うん、良いね」
「半兵衛さん、ふざけてないで!無理ですって真剣に!」
「大丈夫だ。僕もここで見ている」
「大丈夫じゃないですよ!もう本当に!本当に死んじゃいますって!」
「ふふっ、えぇ~本当かい?」
「何故笑う!?何故顔と声が笑っているんですか!?それもそんな楽しそうに!」
「ほら、来たよ」
「えっ!え、っえぃやああぅりゃああああ!!!!!!」
私は戦った。いや…戦ったのだろうか?狂った様に武器を振り回し、生きようとした。何も考えなかった。半兵衛さんの笑い声が聞こえた。万国の象徴の紙吹雪が私の目に入った。涙が出た。
「っうぅ……目が…目がぁ……万国の象徴の魅力がぁ…………万国の象徴の魅力がぁぁ…!」
「はいはい。じっとしててね。良く頑張ったね」
「……半兵衛さんが……半兵衛さんが…………私を一人にするから……」
「うん。すまないね。次からは一緒に頑張ろうか」
「…っうぅぅ…」
「悪かったよ。だから、泣かないでくれ」
「泣いてませんよ!万国の象徴の魅力が目に入ったから涙が出るんですよ!」
万国の象徴の魅力に襲われた私の目に入った塵を取ってくれる半兵衛さん。私を一人で戦わせた事を謝っているが、声に悦が混ざっている。何がそんなに楽しいのか、万国の象徴の魅力に苦しむ私の気持ちを思い知らせてやろうかと思った。
傍ら、それよりも、一人は恐い。頼みますから側に居てくれと思った。
それにしても、敵味方の見境なく攻撃してくるとは。まさに諸刃の剣。恐るべし、万国の象徴…!
「もう次が始まるからね」
「……えぇ…」
「Hey!そろそろStartさせても良いのか?」
素晴らしい発音の異国語を含んだ男の人の声。そこには、眼帯をした不良少年と顔に傷があるヤクザさんが立っていた。恐い。恐過ぎる…!
「あんたか。太郎衛門って妙な名前の奴は。そんなCuteな顔してんのに男なのか?」
眼帯の人が私に話しかけてきた。そして、なかなか太郎衛門が私から離れない現状。このままでは、本当に私が太郎衛門としてその名が永遠に語り継がれてしまう。
「違いますよ!ちゃんとした名前もあります!」
「ほー…まぁ可笑しいとは思ってたけどな。おい、小十郎。この試合が終わったら、太郎衛門をHoneyとして奥州に連れて帰るぜ。You see?」
「え!何故!?てか話聞いてましたか!?」
「承知致しました。政宗様」
「何故、承知する?!そして私の意志は?!」
やばい!この試合に負けたら誘拐されてしまう!相手は不良少年とヤクザさんだ!命の保証なんてない!何としても勝たなければ!
「じゃあ行くぜ、小十郎」
「はっ。あなたの背中、この小十郎が守ってみせます」
「上等。奥州筆頭、伊達政宗。推してぐはああああっ!!!!」
「政宗様ああああ!?!?」
「僕に無駄な時間などないんだ。試合はもう始まっているんだよ」
半兵衛さんが不良少年政宗様を背後から忍び寄り攻撃する、卑怯この上ない不意討ちを行った。あの人は正々堂々なんて言葉を知らない。
会場に響き渡る、背中を守る宣言をした直後に半兵衛さんに不意討ちされた政宗様の背中を守れなかったヤクザ小十郎さんの大絶叫。
動かなくなった奥州筆頭。
私は「嗚呼、いつも自分はあんな感じなんだな」と染々思い、今回は第三者側としてそれを見ているだけだった。
「竹中ぁ……てめぇ覚悟は出来てんだろぉなあ……」
ひいいい!!!!恐い!小十郎さんが完全にヤクザに覚醒されてしまった!半兵衛さんが正々堂々の言葉を知らないばかりに!
殺気に満ち溢れた小十郎さんから繰り出される猛攻撃に顔にこそ出さないが、半兵衛さんは防ぐので精一杯のようだ。今の小十郎さんと半兵衛さんとでは戦いの相性が悪い。
「名前!慌てず騒がず、君に出来る事をやるんだ!良いね!?」
ここでその台詞ですか!?
半兵衛さんの言いたい事はわかる。…いや駄目だ!危険過ぎる!でもこのままだと半兵衛さんがやられる…多分。何より、誘拐されるのは嫌だ!
「す、すいません!」
「なっ?!ぐぁあっ!目があああ!!!!」
小十郎さんを襲う、万国の象徴の魅力。目を開けられず、急に視界を失った人に容赦なく攻撃し、戦闘不能にした半兵衛さん。あの人に心は無いのだろうか。
それより今は、自分に降りかかった不幸を嘆くべきだろう。
「…うぁ……目がぁぁ……またしても万国の象徴の魅力にぃ…!」
閉じるのを忘れてしまった私の目に再び万国の象徴の魅力の魔の手が。地味に痛いこの攻撃。学習能力がない訳ではない。ただ、気付いた時には遅かったのだ。
「ああ…目がぁ…失明する……」
「やれやれ、またなのかい?はい、じっとしててね」
「うぅ…ゴーグルが欲しい…」
「ごーぐる?」
「…簡単に言えば…目を守る物…です…」
「目隠ししてあげようかい?」
「拒否します」
「それにしても…やはり使えるね。これは」
「…………」
私達はその後も難なく順調に勝ち進んだ。惨劇を繰り返し、多くの犠牲を出しながらも。その度に私は罪悪感で苛まれた。「生きたい」そう思う事で私の気は少しだけ楽になった。
それでもこの罪が消えない事はわかっている。いや、消えてはいけない。そして、忘れてはいけない。心を痛め、自分を戒めるんだ。私はこの人の様にはならない。
「案外、この大会も楽なものだったね。次で100試合目。幕引きだ」
「………そうですね」
笑っている。この人は間違いなく笑っている。
あの惨劇の後に笑えるなんて、この人は人間を捨ててしまったのだろうか?それとも、この世の全ての悪の集大成が服を着て歩いているとでも言うのか。
改めて半兵衛さんは恐ろしいのだと思い知った。そして最後の試合の相手をする人を心底哀れんだ。
「やぁ、良くここまで来れたね。感心感心」
柔らかな物腰で現れたおじさん。恐らく、最後の試合の相手、最後の倒すべき敵、そして最後の哀れな犠牲者。
「っあなたは……」
「おや、卿ではないか。御機嫌よう。暫くだね」
二人は面識のあるような会話を交えた。
「知り合いですか?」
「…………」
無視された。
それとも聞こえなかったのか。それでも私は二度、尋ねはしなかった。
半兵衛さんが凄く嫌そうな顔をしていたから。それは汚い物を見る時の顔でもなく、人を見下す時の顔でもなく。兎も角、私が見た事がない複雑な表情であるのは確かだ。
一体あの人は何者なのかと、おじさんを見る。
すると、視線が合ってしまい、心臓が跳ねた。
「そちらのお嬢さん」
わ、私…?
「卿は女性なのに何故『太郎衛門』と言う名なのだ?本当の名前ではなかろう」
吃驚した。えぇ、そりゃあ吃驚しますとも。同時に嬉しいと思った。その理由は今までの戦いを振り返ればわかる。
「太郎衛門!?何と面妖な!」
「違います!」
「君、男?太郎衛門だなんて可哀想に~」
「本当の名前じゃないですから!後、女ですから!」
「太郎衛門、だと?貴様、男か?」
「違います、女ですから!」
「太郎衛門~?あんた、女みたいな顔して、野郎なのか?」
「違います、」
「くくくくくっ…太郎衛門……くくくくく…ははははははは!」
「…………」
「太郎衛門ってのかい?あんた、折角、可愛い顔してんのにね~。いや、残念!」
「はい、太郎衛門って言います。残念です」
悲劇のオンパレードだ。
まさか『太郎衛門』でここまで苦しめられるとは。この呪縛からは逃れられない、永遠に語り継がれてしまうのだと、私は悟りましたさ。
なのに、このおじさんは今までの人は違った。本当に何者なのだろうか?
「名前、舞台から降りたまえ」
「え、……はい…」
降りろと言われ、それを素直に聞き入れた。半兵衛さんがとても恐い。いつも恐いけど。てか、良く考えたら初めて戦わない事になる。
ガキンッ キキキッ ッギィン
この大会の幕を引く為の最後の試合が幕を開いた。
刀と刀がぶつかり合い、耳が痛くなる聞き慣れない金属の音が鳴り響く。何とも言えない、とても激しい戦いだと言う事しか。今までとは違う。目の前で繰り広げられる光景に私は息を飲んだ。
「あのお嬢さんは戦わないのかね」
「あなたのお相手は僕がいたそう」
「余程、あのお嬢さんが大切だとみえる」
「…………」
「おや、図星かね?いやはや、知らぬ顔とは名ばかりに、卿の感情は手に取るようにわかり易い」
「あまり口が過ぎると敵に足を掬われる事を教えて差し上げよう」
違う。やっぱり違う。あんな風に、力押しに半兵衛さんは戦う人じゃない。どう言う事なのだろう。頭で考えただけでは勝てない。それ程の相手なのだろうか、あのおじさんは。
「どうした?卿の実力はそんなものなのか?」
「…くっ……」
「あまり無茶はしない方が良い。陰を晒すのは卿には苦痛だろうが、あのお嬢さんに逢えなくなるのは嫌であろう?」
「うるさ……!?!?っっぐ!!」
「!?半兵衛さん!?!?半兵衛さん!」
急に口元を押さえ、その場で膝を付いてしまった半兵衛さん。激しい戦いで無理が生じて発作が起きてしまったのか。
この絶体絶命の場面に傍観は出来なかった。
「…はぁ…はぁ……ぐっ…っ……」
「卿は誰よりも儚い、故に脆い」
「…っ……」
「さぁ、幕を閉じようではないか」
「待って下さい!」
私は滑り込むように二人の間に割り込み、謎に包まれたおじさんに向かって万国の象徴を構える。勝算なんてない。けど、やるしかない。
「ちち力及ばずながら、わたわわわ私がお相手しま、す!」
「名前!?何をしているんだ!下がっていたまえ!」
後ろで半兵衛さんが何か言ってるが聞き取れない。後にその声すら、周りの雑音すら聞こえなくなった。私の張り裂けそうな心音だけが聞こえる。震えが止まらない。
頑張れ私!立ち向かうんだ!神様、許して下さい!生きる為に!生きる為に最後に一度だけ万国の象徴の魅力を使う事を…!
「…………」
「…っ……!」
「ふっ…ふはははは!」
「……へ?」
突然、大声で笑い出したおじさん。警戒心を解くべきではないだろうが、私は拍子抜けしてしまった。
「はははは、実に愉快なお嬢さんだ。ははは」
「…………」
「失敬。突然、笑い出して驚いただろう」
「…えぇ……まぁ…」
「私の負けだ」
「へ?」
「試合を棄権すると言っている。彼に何かあれば、卿が泣いてしまうだろうからね。まぁ、それも面白味があるのだろうが、止しておく事にしよう」
「…………」
「おや?富と名声が手に入ると言うのに嬉しくはないのかね?」
「わ、わーい」
は、話がいきなり過ぎて良くわからないが、どうやら勝った……らしい。しかし、心の底から喜べない。それもこれも全てこのおじさんのせいだろう。何なんだ。何なんだこの人は。いきなりおじさんか。
そんないきなりおじさんは、未だ困惑する私に近付いて手を取り、甲に口付けた。
「「なっ!?!?!?!?」」
半兵衛さんと私の驚きの声が見事に重なった。これも長き戦いを共にした成果なのか。そんな事どうでも良い。やはりこの人はいきなりおじさんだ。
「勝ちを譲ったのだ。私にもこれくらいの報酬があっても良かろう?」
「ほほほ報酬てあなた!」
「名前!こっちに来るんだ!」
もう体は何ともないのか、復活した半兵衛さんは私を引っ張って、いきなりおじさんが口付けた手の甲を服の裾で勢い良く拭き出した。
「痛い痛い痛い痛い痛い熱い痛い熱い!!!!半兵衛さん摩擦!摩擦が!手の皮が無くなる!」
「我慢するんだ!」
我慢だと?!手の皮が無くなるまで我慢しろと!?何を言ってるんだこの人は!そんなの無理に決まってる!私は何とか半兵衛さんの摩擦拷問から脱出した。手の甲は真っ赤になっている。なんて可哀想に!私は手の甲に向かって優しく息を吹きかけた。
「それでは私は失礼させてもらおう。またいずれ逢える事を切に願うよ」
「あ、あの!」
いきなりおじさんがいきなり去って行こうとするのを私は大声で呼び止めた。
「何かね?」
「あ、ありがとうございました…」
一言お礼を言いたかった。何に対してと聞かれれば、ちゃんと答えられないけど。私はお礼を言わないといけないと思った。
「……………ふっ…なに、礼には及ばない」
そして、いきなりおじさんは去って行った。結局、いきなりおじさんの正体は解らず仕舞いだ。あえて言うなら、ミスターいきなりだったと言う事だ。後、ミステリアスダンディー。
「何でお礼なんか言ったんだい?」
何故、あなたがそれを聞くんですかミスターサディスティック。
「いや……何となくです」
「…………すまなかったね…」
「え………いや、別に…」
「それから、ありがとう」
「!?!?うっわ、半兵衛さんが私にお礼を!うっわうっわうっわああ!!!!っ!?!?うわああああ!いやあああ!ごめんなさい!止めて下さい!痛いっ痛い!万国の象徴の魅力があ!今度こそ失明する!」
こうして、多くの犠牲と多くの紙吹雪を残し、大会は幕を閉じた。半兵衛さんと私は、豊臣軍が占拠する領地へ大金と名誉を手土産に帰っていた。
「凄いお金ですね!何でも買えますね、これ!」
「まぁ、そんな端金、全て軍資金に回すけどね」
私の頑張りの形を端金だと罵る半兵衛さん。一週間位、今のと別の謎の病気にかかって生死をさ迷えば良いと思う。そして、このお金が戦いの為に使われると思うと、平和主義者の私としては涙が出そうだった。
「着物でも買ってあげようか?」
「へ?誰にですか?」
「君にだよ」
「…………わ、たしに似合うものがあれば…」
「大丈夫さ。馬子にも衣装と言うからね」
私の喜びを返せ。
「冗談だよ」と笑う半兵衛さんに心の中で「嘘つき」と私は呟いた。
‐‐‐
MANA3*080329