君の熱い脈を感じて
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力は必要だ。戦うにしても、生きるにしても。そして、この国は今のままでは死ぬだろう。間違いなくね。後先考えないで、刀を振り回す連中は、ただの死にたがり屋、生きる屍だ。死んでるも同じさ、虫酸が走るよ。生きる為、この国の未来の為に、強くなくてはならない。理解しなければならない、故に力は必要なのだと。
「穏やかな考えではないですね」
「穏やかにはいられない時代なんだよ」
「生きる為には力ではなく、平穏が必要だと思います」
「平穏、ね。弱い人間の戯言だね。絵空事だよ」
「半兵衛さんが思ってるより人は必要以上に力があります。だから戦いは終わらないんです。武器を手にして簡単に人を殺してしまう」
「それは本当の力、強さではない。自分の弱さを手にした玩具で隠している、あるいは、弱さに気付かず自分は強いのだと思い違いをしているのだよ。愚かな事だ」
「…………けれど私は、平和になればと思います」
「僕は名前なら理解してると思ったけどね。理解してくれないのかい?」
「じゃあ…―
証明して下さい、あなたは正しいのだと
力は必要なのだと
未来の為に、
生きる為に
「半兵衛さんっ!半兵衛さん半兵衛さん半兵衛さん!」
ドクドクと夥しい真っ赤な血が流れ、それは死を予感させるには十分なもので。無情にも突き付けられた現実に酷い吐き気がした。
「嫌ッ!死なないで、死なないで下さいよ半兵衛さん!」
止まる事を知らないかのごとく流れる血を何とかしようと傷口を押さえるが、私の手に伝わる温かい血は隙間から零れ落ちて、体は冷たくなっていく。
駄目、駄目
駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目。
「…嫌っ、…お願いだから……お願いだから…死なないで下さいよ……」
「…っごふ……」
「!半兵衛さん?!」
まだ息はあるようだ。でも一度結び付いた死は脳裏からなかなか消えてはくれなくて。このままでは…―。
あなたはここで死んではいけないはずですよ
「っ半兵衛さん…」
次に僕が目を覚ます時は冥府なのだろう。しかし、目を開いて映るそこは、見慣れた戦場で、血と夕日で赤に染まっていた。どうやら僕はしぶとく生きているらしい。
「…っぐ…ぅ……」
起き上がろとしたら、自分の体も赤にまみれてて、傷が深いらしく、激痛が走った。何て様だ。しかし、良くこの深手で僕が生きていられたものだ。
辺りは静寂に包まれている。誰一人いない。生きている者は。無数の死があるだけ。その中、僕の傍らに、虚しく横たわる名前がいて驚愕した。
「!?名前!?」
動くと体は悲鳴をあげたが、気遣ってなんかいられなかった。僕は息を荒げ、這いつくばりながら、名前に寄る。
「…っはぁ……はぁ…っ名前?」
返事はない。そして胸を貫く凛刀を目にして愕然とした。
「なんてっ馬鹿な真似を…!」
その凛刀は人の命を奪い、吸収する。恐らく僕は名前に助けられた。自らの命と引き換えに。自分の物である異彩を放つ武器が名前を殺したなんて。これ以上の皮肉はないだろう。
「名前っ……!」
受け入れ難い死を目の当たりに、僕は一人、嗚咽を漏らした。
近江、浅井が占拠する小谷城。十万の軍勢を率いり、豊臣は遂に動き出した。全ては最強の軍を作る為、最強の国を築く為、圧倒的な力での天下統一を目指す。
「始まったな」
「ああ、いよいよだ………」
「?どうかしたか、半兵衛」
「…いや、何でもないよ」
やっとだ。やっと訪れたこの時を僕はどんなに待ち続けたことか。いや、まだここは夢の第一歩。始まったばかりなのだ。先はまだ長い。感傷に浸っている時間は僕にはないのだから。
「秀吉。準備はすでに整っているよ」
「うむ……豊臣軍全兵、出陣せよ!小谷城を攻め落とせ!」
必ず証明してみせるよ、名前。僕は前に進む。君がくれた命と共に。
「さぁ、行こうか。名前」
君の熱い脈を感じて
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MANA3*080325