そして争いの先に何が
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PS2に電源を入れて、家から持って来た『戦国BASARA2英雄外伝』をセットし、コントローラを握り、さぁ準備は整った。
そして争いの先に何が
オープニングのアニメはスタートボタンで飛ばす。そしてタイトル画面でもう一度スタートボタンを押して、いくつかのモードの中から迷わず対戦を選ぶ。
「どれにします?」
「どれでも良いよ」
「じゃあ一心同体戦で」
個人的にお気に入りのものを選んだ私。達磨叩き戦でも良かったけど、今の気分は一心同体戦だったから。
さて、次に30人の武将の中から誰を使用するか。
「僕は戦国最強で」
「ホンダムか!?ホンダムは駄目ですよ!なし!」
「冗談だよ。それに最初から決まってるしね」
そう言って、半兵衛さんは29人(ホンダム除外)の中から竹中半兵衛を選択した。ああ~やっぱり。前にやってた時に、使いやすいって言ってたし。生き写しのようにそっくりだし。うん。
「私、どうしようかな…」
「そうだね、サビーにすれば良いんじゃないかな?」
「いや、良くないですよ。何を思って良いと言ってるんですか?」
「じゃあ、北条なんてどうだい?」
「死ねって言ってるんですか?放っておいても勝手に死にそうなキャラなのに。それとも手加減してくれるんですか?」
「安心したまえ。手加減なんて失礼な事はしないさ。ただ、全力でやるだけだよ」
全力で殺られる…!
「ん~…濃姫さんにしようかな…」
「まぁ、誰であろうと命の限りボコボコにするけどね」
鬼か!鬼の皮を被った鬼ですねあなた!長曽我部元親なんて目じゃない。
私の中で濃姫さんは最強キャラだ。負ける気はない。しかし、相手は鬼の皮を被った鬼だ。女性である濃姫さんが私のせいでもし、命の限りボコボコにされたら申し訳ないので違うキャラにする事にした。
「じゃあ、私、毛利さんで」
無難に筆頭辺りでも良かったが、私は毛利さんを選んだ。隙は多いけど、技が当たれば一発逆転の可能性は十分にある。もし、命の限りボコボコにされたら申し訳ない事に変わりはないが。
ハンディキャップをどうするか尋ねると「好きなようにすれば良いよ」と言うので私は容赦なく、半兵衛さんの星を一つにしてやった。勿論、私は五つで。
まだ勝負も始まってないのに勝ち誇った表情で半兵衛さんを見たら、ハッと鼻で笑われた。思わず私は、手にしてたコントローラのコードで首を絞めてやろうかと思った。
半兵衛さんは私の家のお隣に住む、年上のお兄さんだ。
見た目通り、頭も良く、プライドが高い。たまに潔癖症と思われる一面も見せる時がある。そんな人が、PS2を所持してゲームもそこそこ持ってると知った時には、そりゃあ驚きましたとも。推理ものや、テーブルゲームとか、この人らしいと思うものの中に『バイオハザード』と『ザ・コンビニ』が混ざってたのには本当に驚きましたとも。
バイオハザードは兎も角、何故にザ・コンビニを持ってるのかを聞くと、頭脳派の半兵衛さんの口から「コンビニから始まる世界征服があっても良いと思って」と訳のわからない発言が飛び出たので、その時の私はそれ以上何も聞かなかった。
器用な人だから、と言うのは理由になるのか、ゲームの腕前はと言うと、とても上手だ。バイオハザードも見せてもらったが凄いの何のって。ちなみにザ・コンビニは見てない。見たくもない。
そんな人と対戦するわけだが、勝つ自信はある。
画面からの《いざ尋常に勝負!》を合図に、戦いは火蓋を切って落とされた。
パートナーである兄貴は、敵目掛けて走り出した。私は動かずにその場で『禁じ手「縛」』を発動。前方に投げた日輪に、うまい事収まってくれたゴリラは大ダメージを受けた。
てか、半兵衛さんが居ない。何処だ?
《やれやれ…これだから嫌なんだ》
聞こえたのは半兵衛さんの挑発。私達から離れた階段の一番上で人を見下すかの様に立っていた。
《やれやれ…これだから嫌なんだ》
「ちょっ、何故、安全地帯で挑発を繰り返す?!」
「暇だったものだから」
仲間が孤独に戦って死にそうなのに良く言えますね、そんな事!「暇だったものだから」って何ですか!?何の為にコントローラ握ってるんですか!?
仲間に見殺しにされたゴリラに止めを刺し、階段に居る仲間を見殺しにした人物に孤独に戦ったゴリラの気持ちとセレクトボタンを押すだけのゲームじゃないんだと思い知らせる為に階段の方に走った。
「良く躊躇なく人を殺せるね、名前君」
「仲間を見殺しにした人に言われたくないんですけど!?」
「殺人は重罪だよ?」
「いや、半兵衛さんのが罪深いですけどね!許されないですよ!一生その罪を背負えば良いですよ!」
一撃喰らわせようとしたら、半兵衛さんはタイミング良くR1ボタンを押し、攻撃を跳ね返す。私も兄貴も無防備な状態になる。
しまった!と思ったら反撃する事なく半兵衛さんは走って少し離れた所で立ち止まった。
《やれやれ…これだから嫌なんだ》
「ちょっと何なんですか!挑発した回数が多い人の勝ちとか言いましたっけ!?」
「やるなら今しかない。僕はそう思ったんだ」
「あれ?!さっき仲間を見殺しにしてまでやってましたよね!?」
命の限りボコボコにされてはいないが、隙ある限り挑発を受ける。ゴリラも復活してしまい、私達に向かって走って来る。本当の敵は仲間なのだと気付く事はないのだろう。なんと哀れなゴリラなんだ。
そんなゴリラを無視して、先に奴の体力を削ろうと私は、無傷の半兵衛さんの所へ。防御体勢に入った半兵衛さんだが、お構いなしにバサラ技を発動。
《参の星よ!我が紋よ!》
ガードしててもバサラ技はダメージを与える。じわじわと減少する半兵衛さんの体力。しかし、毛利さんが輪刀を展開した瞬間、素早く回避され、そのまま、私に背中を向けて逃走した。
ああ!誰も居ないのに一人で可哀想な事になってしまったじゃないか!
「残念だったね。もう少し追い込んでいれば逃げられなかったけどね」
「敵に堂々と背を向けて逃げるなんて恥ずかしくないんですか?」
「一人でグルングルン回ってる元就君の方が恥ずかしいけどね」
「止めて!毛利さんは悪くないんです!私が悪いんです!私が一番恥ずかしい奴です!」
ごめんなさい毛利さん!私が無力なばかりにこんな羞恥プレイをさせてしまって…!
《日輪に捧げ奉らん》
ゴリラとはまた別の意味で孤独と戦った私。突然の羞恥プレイも終了し、今すぐにでも半兵衛さんを殺したかったが、そこは冷静になって、再度ゴリラを先に仕止める事にした。
再び、私と兄貴から私刑を受けるゴリラ。
「頑張れ、秀吉!」
「ゴリラはさっきから頑張ってますよ!本当に頑張らないといけないのは半兵衛さんですから!」
「名前君は気付いていないようだけど、僕は僕のやるべき事を頑張ってこなしているんだよ」
「そうですね。誰よりも頑張らない事を頑張ってるのには気付いてますけどね」
ゴリラが二度目の昇天をしかけたその時。上から突然、ジャンプ特殊攻撃をしながら現れた半兵衛さん。
「痛ッ!なんなんですか急に!」
「フッ…仲間がピンチなのだよ?助けに入るのは当然さ」
「当然のごとく仲間を見殺しにした過去が消えると思ってるんですか?もう一回言いますけど、許されないですからね!」
「今の僕は違う。それにね、名前君。僕は後ろを振り返らない。前に進むのみだ」
「わぁ、格好良いですね!そしてそれ以上にムカつくんですけど!」
ようやく、真面目に戦ってくれそうだ。多分。また挑発しだす恐れは十二分にあるが。そんな半兵衛さんの攻撃は続いた。
ジャンプしては攻撃。ジャンプしては攻撃。ジャンプしては攻撃。ジャンプしては攻撃。ジャンプしては…―
終 わ り が 見 え な い。
「ってちょっとおおおおお!!!!半兵衛さん、半兵衛さんってば!半兵衛さ、半兵衛ええええええ!!!!」
「はは、どうだい。腹が立つだろう?」
「この世界中の誰よりも罪深い犯罪者めえええええええ!!!!!!!」
「うわっ、ちょ、名前君!何をするんだ!止めたまえ!」
まさかの掟破りの現実世界での私の直接攻撃。私のバサラ技発動に、なす術もない半兵衛さんの眼鏡を奪い、一応は眼鏡を傷付けないようにと考えて、ベッドの上に投げる。半兵衛さんは別に視力が悪い訳ではない。
はっ!私はその眼鏡がただのおしゃれ眼鏡だと言う事を知ってるんですよ!
だけど、半兵衛さんは眼鏡をかけないと落ち着かないらしく、慌てて立ち上がり、眼鏡を取りに行った。この絶好の機会を逃す事なく、私は『禁じ手「縛」』でもう一人の半兵衛さんを圧殺し、素晴らしいまでの復讐劇を遂げた。
後は、ゴリラを始末すれば、この不毛な戦いにピリオドを打てる。
「…くっ!」
眼鏡をかけ、戻って来た罪人H。必死に左スティックをカチャカチャ鳴らせ、ボタンを連打して生き返ろうとしている。
だが、もう遅い!この勝負、私がもらったあ!
《急がなくては…!》
え!早ッ!!!!何ですかその死を乗り越える早さ!びっくりし過ぎて逆に私の心臓が止まるかと思いましたよ!
コンマの差で、私と兄貴がゴリラを倒すよりも、半兵衛さんの復活の方がどうやら早かったようで。あのまま死んで罪を償えば良いものの。
「折角、私の勝利でこの戦いに幕を下ろせたのに…!」
「幕は下ろすよ。僕自らの手でね」
《この先には僕の夢がある!》
なっ!油断した!バサラゲージが貯まってたなんて!
「申し訳ないね名前君。けど、僕にとってこの勝負、勝たないと意味がないのでね。勝たせてもらうよ」
戦いに終止符は打たれた。
戦場には三人の骸が転がっている。そして、ただ一人の生存者はその場で孤独に佇んでいた。
罪の十字架を背負ったままの生存者ただ一人が。
「………負けた」
「最後はさすがに焦ったよ。まさか、あんな事されるなんて」
笑顔で上機嫌の半兵衛さん。犯罪者ただ一人が生き残ってしまったなんて、なんとゆう悲劇的な結末であろう。これはとても教育上、良くないと思う。
兎も角、私は負けた。半兵衛さんと対をなすかのように凹む私。
「約束は守ってもらうよ、名前君」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「僕の彼女になるのはそんなに嫌なのかい?」
「そ、そんな事ないです、けど…」
「けど?」
「…………」
「ん?」
「……負けたのが悔しいだけです…」
「そんな拗ねた顔をしないでくれ。君が負けず嫌いなのは良く知ってるさ。でも、負けるわけにはいかなかったからね」
「っ、半兵衛さんがあんなにふざけてなかったら私だってここまで凹んだりなんかしませんよ!」
「ははは、ごめんごめん!次はちゃんとするから許してよ、ね?」
「…………次は負けませんから」
「はいはい。とりあえず、付き合う…って事で良いのかな?」
「………私で良ければ」
「君が良いんだよ」
何か負けっぱなしな気がして仕方ない!ムカつく!てか、顔が熱い!何でそんな恥ずかしい事を平気で言えるんですか!畜生ッ、絶対に次は勝ってみせますから!
「大軍撃破戦はどうだい?」
「嫌です」
「何で?」
「半兵衛さんが他の敵を無視して私を一人狙いするから」
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MANA3*080324