遭遇と死に際に
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「まさか、君が裏切り者だったとはね。正直、驚いてるよ」
「…」
目の前には、何時もとまるで雰囲気の異なった見慣れた人物が佇んで居る。僕を見るその眼は殺意と愁いを帯びていた。
僕はまだこれが現の出来事なのだと信じられなかった。
「最初から裏切ってたのかい?」
「はい。最初からです」
「今までの君は偽りだったのかい?」
「…未来から来たのは嘘じゃないですよ」
『未来から来たのは』?じゃあ、それ以外は全て偽りだったのか?今までの君が嘘だったなんて考えられない。
「未来から来た君がこの時代には深く干渉してはいけない………そう言ったのは君じゃないか」
「…私は…もう…元の時代には戻る事が出来ないんです。この時代に来て……どうする事も出来ない私を助けて下さったのが……あの御方なんです………。あの御方の願い……平和の世を築く手伝いをするのが私の恩返しなんです……」
あの御方?
僕より先に君を助けた奴が居たのか…。
「見逃してもらえませんか?」
「それは出来ない」
「………ですよね」
何でそんな苦しそうに笑う。
「仕方無いですね」
腰から抜くのは君には不似合い過ぎる凶器の刃。
「では」
死んで下さい
―ガキンッ
「容赦無いね」
「命が掛かってますから」
「思ってもみなかったよ。刀を握る君の姿を拝めるなんて」
「あの御方が鍛てくれたんです」
「そうかい。でもその御方の鍛錬は甘かった様だ」
僕は君の顔に斬り傷を与えた。流れ出てくる血が輪郭をなぞり地面に落ちた。
「痛いかい?」
「……相変わらずの鬼畜振りですね」
「泣きたかったら泣いても良いんだよ?」
「泣きません」
「おや、それは残念だ。だったらもっと傷付くと良いよ。そして、その醜態を死んだ後に、あの御方とやらに晒すと良い」
「……やっぱり貴方は鬼畜です」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
もし、そいつより先に君と逢えたなら…―
刀と刀が交わる音は完全に消えて辺りは静寂に包まれた。
「ここまでやるとはね。予想以上だったよ」
「…」
勝ったのは
「でも僕には勝てない」
僕だ。
「…ふ…やっぱり…………貴方は…強いですね……」
一応、抵抗がない様に刀を遠くへ蹴り飛ばし、体中、傷だらけで血まみれの重傷の君に馬乗りになっている状態。生かすも殺すも僕次第。
「あの御方とは誰だ」
「……言いません」
「………まぁ良いさ。近いうち、自ずと解るだろうから」
「…」
「君は此処で殺すには惜しい人間だ」
「…」
「豊臣に下りたまえ」
何を言っているんだ。裏切り者は速やかに殺すべきであるのに。僕の中にある何かが渦巻いている。その何かが僕の殺意をせき止める。
そして君は笑って答えた。
「嫌です」
「命を惜しめ。豊臣に下れ」
「…貴方達の言う天下には…平和は存在しない……」
ああ…渦巻いている。ゆっくりとじわじわと確実に。
実に不愉快だ。
「君は馬鹿だったけど、ここまで愚かだったとはね」
「…」
「殺してあげるよ」
凛刀を振り上げる。
が、その後、振り下げる事に僕は戸惑ってる。
「どうしたんですか。殺さないんですか」
そうだ。殺すんだ。誰であろうと秀吉の邪魔になる者は消し去らなければならない。
なのに、僕は何を躊躇する。
何が僕の中で渦巻いて蝕んでいる。
「殺せないのなら殺せるようにさせてあげますよ」
「今、あの御方が秀吉さんを襲撃しています」
「!?なんだって?!?!」
いや、そんな筈はない。どうせ虚言だ。
でも…それが本当なら………?
「どうしましたか?早く行かないと…大事な御友達が………死にますよ?」
「くっ!……お前…」
もし
そいつより先に君と逢えたなら
今までみたいに今日も明日も一緒に笑ってられただろうか?
あの一瞬…
あの一瞬だけ、渦巻く何かは消滅して殺意だけが僕を駆り立てた。
そして
僕は君を貫いた。
血塗れで眠る君を見て死ぬ間際の君が言った事を思い出す。
「私…負けず嫌いなんです…。だから…死ぬ前に…貴方に………呪いをかけます……生きて…苦しむと良いですよ…」
「愛してます。半兵衛さん」
久々に君に名前を呼ばれた気がする。そして、もう君に名前を呼んでもらう事はない。
「名前」
君は本当に馬鹿だ
「それが君の言う呪いかい?」
所詮、君の出来た悪足掻きは、そんな虚勢程度だ
「滑稽だよ」
しかし、消滅した筈の何かは再度、僕の中で渦巻いて
これまで以上に激しく蠢いていた
体がくらくらする。
目の前が霞む。
そうだ。全部、何時もの発作だろう。
「…秀吉………行かないと……」
その場に倒れそうな体に鞭打ち、僕は秀吉の所へ向かった。
城へ戻った僕は真っ先に友の無事を確認した。
無事なのは当然だった。
この城を襲撃する者なんて誰一人、居なかったのだ。
どうゆう事だ。意味が解らない。発作のせいで頭が働かない。
だけど僕の脚は、さっきの場所へと動いていた。
「…そんな……」
再び、あの場所に戻って来た。だけど、ある筈のものがない。
名前の亡骸がない。
辺りを見回しても何処にもない。あんな短時間で…一体。
夢だったのか?
いや違う。僕は名前を殺した。今でも、この手にあの時の感触が纏わり付いて離れない。
まさか、生きていた?
名前の亡骸があった場所に近付くと夥しい量の血がまだ渇くことなく地に広がっていた。その血は今まで僕が殺してきた人間とは明らかに色が違う。
こんなに血を流して生きていられる筈がない。
「誰かが…名前を…」
そうとしか考えられない。
だとしたら、名前が言っていた『あの御方』しか居ない。
気持ちが悪い。
頭痛がする。
吐き気を催す。
これは僕の体に住み着いた病魔ではない。
「…これが………君の言っていた呪いかい…名前…」
僕は見事に名前の呪いとやらに掛かっていた様だ。恐らく、この呪いは病魔より厄介な存在になるだろう。
渦巻いて
蝕んで
今も止めどなく蠢いている
もし
そいつより先に
君と逢えたなら
こんな事にはならなかっただろうか
今までみたいに
一緒に笑って過ごせられた?
どっちにしろ
君と逢った時から
既に僕は呪いに掛かっていた
遭遇と死に際に
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MANA3*0922