竹中半兵衛
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今日も今日とて、いつもと変わらない一日が始まる。そう、昨日も、それから明日も変わらない今日という一日が始まるのだ。そんな365日のうちの一日である今日。今日という一日だけは、あの鬼畜軍師で戦国の世に名を轟かせている竹中半兵衛と遭遇してはならない。私としては、関わると碌な目に遭わないので、365日24時間年中無休、半兵衛さんとは遭遇したくないのだが、今日は、今日だけは、何が何でも、絶対に、決して、何があろうとも、出会してはいけないのだ。だからこそ、普段以上に細心の注意払い、慎重に行動をせねばならないと決意し、私は自室の部屋の襖を開けた。すると、眼前に満面の笑みを浮かべた半兵衛さんが立っていたので、私は思わず息を呑んだ。固まったはずの決意は一瞬にして砕け散った。そして、その後どうなったかと言うと―。
「名前。」
「何ですか。」
「僕に何か言うことはないのかい?」
「…ないですね。」
ずっとスタンバってましたと言わんばかりの出待ちトラップに嵌ってから、解放されることはなく、ずっとこの調子である。何かを私の口から言わせようとしている半兵衛さんと何も知らない、何も言うことはないと主張し続ける私の押し問答が延々と展開されている。ないものはないと言うのに、聞く耳を持とうとしない。こんな所で無駄な時間を費やしている暇はないだろうに。一刻も早く散りたまえよ。何でこんなに食い下がるんだ、この人。どこへなりとも、私の居ない場所へ消えてほしいのだが、そんな気配は微塵もない。
「本当に?本当に何もないのかい?」
「本当の本当に何もないですね。」
「今日が何の日かは知っているのだろう?」
「いやぁ…知らないですね。」
ひたすらに否を突き通す私ではあるが、実はこの人が一体何を求めているのか、凡その察しはつく。それは必ずしもこの極悪非道、冷酷無比、悪鬼羅漢、魑魅魍魎である半兵衛さんと同じ理念や価値観を持っているからではない。私はこの人のように人間をやめてはいない。すべては残虐非道な思考より齎された痛みから培われた危機感からくるものである。そして、何故、半兵衛さんが間怠くも、あえて答えを明かさないのは、何も知らず、何も言わない私に逃れようのない罪悪感を植え付けるためである。この窮地から脱する方法はただ一つ。徹頭徹尾、知らぬ存ぜぬで通すことのみ。
「そうか、それは実に残念だな。君からの一言がなければ、今日の戦の士気に関わるだろうね。困ったものだ。」
関わるわけないだろ!私からの一言が今日の戦の士気になんて!関わったとしても、それは私のせいではなく、私情を挟みまくって勝手なことを言っている軍師のせいだろ!困ったものだだと!?困っている奴が、そんな厭らしく笑っているはずがないだろうが!よくそんなことが言えたものだ!困っていると嘯くそのくせ、今まさしく私のことを困らせているのはそっちのくせに!私の保全と安寧のためにも絶対に半兵衛さんの思い通りにはさせやしない!
「名前。僕が抱えている問題は君も知っているだろう?」
「性格の話ですか?あ、いや、何でもないです。」
「この体に巣食う悪疾のことだよ。」
「あ、そっちでしたか。」
「その僕が、果たして明年の今日という日を変わらずに迎えることができるだろうか。」
「………。」
「避けようのない最期が訪れた時、きっと僕は君からたった一言も言葉をかけてもらえなかったことを思い出し、どうしようもない虚しさを抱きながら静かに目を閉ざすのだろうね。」
「………。」
「僕は心配なのだよ。僕が居なくなってしまった時に、あの日、君が何も言わなかったことを後悔せずにいられるのかと。僕のせいで君のこれからの未来に影を落とすようなことは避けたいんだ。」
「………。」
「ねえ、名前。僕に何か言うことは?」
こいつ!こんなことで自分の触れられたくない弱点を出に使って来やがった!触れられたくないからこそ自分からは絶対に言わないくせに、何で今ここで、曝け出してくるのか!とは言え、半兵衛さんの突然の奇行はさておき、生死に関わる病気を患っているのも、それにより、来年の今日をまた迎えられるのか、誰にもわからないのは紛れもない事実。いや、病気のことを踏まえれば、可能性としては難しいかもしれない。私がこのまま、何も知らない振りをして、半兵衛さんに何も言わずにいたことを後悔するかは、その時が来るまでは判断しかねるが、私はこの人とは違って、人の心があるからして、きっと、その心が痛まずにはいられないのだろう。半兵衛さんはそれらすべて織り込み済みでこんなことを言ってくるのだ。心配などとほざく口元を緩ませることも隠さず、微笑みを浮かべながら。心配だと!?心を持たない奴が、心にもなく、私の心の心配をするな!言いたくはない。言いたくはないけれども。この局面を凌いだところで、その先には私の想像を凌駕する第二、第三の精神攻撃が控えているに決まっている。私は最初から詰んでいたのだ。暫し、唸りながら、ぐぐぐと歯を食いしばった後、諦めたように全身を脱力させた。
「…お、…お誕生日…おめでとうございます…。」
せめてもの抵抗とばかりに、視線を足元に落とし、祝いの言葉を口にする。一年に一度しか贈ることのできない特別な言葉であるにも関わらず、到底、祝意を表しているとは思えない声色で。私が半兵衛さんの誕生日を知っていたことを本人が認知することにより、誕生日に託けて、どんな悍ましい要求をされるのか、わかったものではないのだから、それも致し方ないこと。そもそも、闇から出でし、異形の類にあるわけがないだろ、命の尊さを讃えられる日なんて。この世のものとは思えない、死に値するような宣告を覚悟して俯いていた私を半兵衛さんは少し体を屈めて覗き込む。
「ふふ、やっと言ってくれた。凄く嬉しいよ。」
てっきり、人の不幸を嘲り笑う極悪な表情かと思っていた。それとは裏腹に、おめでとうのたった一言を聞いただけで、まるで心の底から待ち望んでいた宝物を手にしたかのように破顔した半兵衛さんに、私は完全に毒気を抜かれてしまった。それなのに色々と勘繰ってしまった自分に、わずかに恥じらいを感じた。だが、これまでの経験を思えば無理もない、と自らを宥め、静かに心の折り合いをつけた。
「これで、今日の戦は首尾よく豊臣が勝ちを収めることができるよ。」
「いやいや、そんな大袈裟な。」
「それはそうと、名前。僕への贈り物はないのかな?」
「………。」
「ないんだね。」
「それは、後日、追々と言うことで…。」
「ああ、それなら、君の時間を僕にくれないかい?今夜、僕の部屋に来てくれる、それだけでいいから。」
「いや、あの、」
「来てくれるよね。」
畜生ッ!結局、こうなる!だから嫌だったんだ!いや、待て!この後、戦に赴くのであれば、逃げる時間は十分あるはず!まだ希望は絶たれていない!そんな思惑が顔に出てしまっていたのか、些細な変化も目敏く見逃すことがなかった半兵衛さんは、すぐさま私を厳重に拘束すると、自分の部屋へと隔離したので、ありとあらゆる希望が経たれました。
何でもない日
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命の限り半兵衛サン御誕生日おめでとうございます2025!!!!以前から何度か言ってますが、行事ネタや何番煎じネタでの話が全然、思い付かないので、誕生日のネタもう書かないと思っていましたが、思い付いたので書かせていただきました。すべて半兵衛サンの御蔭です。ありがとうございます。改めておめでとうございます!!!!
MANA3/250911