竹中半兵衛
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その部屋のことは人から話で聞いたり、創作物で目にしたことがあった。目を覚ますと、真っ白で無機質な部屋に閉じ込められていて、唯一の出入り口と思われるドアには鍵がかかっており、とある条件を満たさない限り、その部屋からは絶対に出られないと、そんなファンタジーなシチュエーションを。取り扱われるジャンルは様々で、部屋から脱出する条件などの詳細な設定を含めば部屋の種類は多岐に渡る。しかし、それらはあくまでフィクションの中での話。現実では起こり得ないし、有り得ない。紙や画面の向こうの世界だからこそ、楽しんでいたし、笑えていた。だからこそ、これはまったくもって笑えなかった。
私は今、唯一の出入り口と思われるドアには鍵がかかっている真っ白で無機質な部屋に閉じ込められていた。半兵衛さんと二人で。ただでさえ、半兵衛さんと密室で二人きりという状況は心が著しく摩耗するというのに、その密室というのが架空の世界でしか存在しないあの例の部屋。せめて、どうかこの鬼畜軍師と同じ空間、同じ時間を共有する檻の中から脱出する条件が比較的、簡単なものであればと願うしかなかったのだが、壁に掲げられた看板にはセから始まる行為しないと出られない部屋と書かれた文字に目をきつく閉じて、下唇をぎりりと噛み締めた。よりにもよって!これかよ!何で私にこんな仕打ちを!嫌だ!受け入れ難い現実に思わず両手で顔面を覆って、膝から崩れ落ち、床に倒れ伏して脚をバタつかせ、体を大回転させながら、濁音の叫びを木霊したい衝動に駆られるが何とか耐える。そんなことをしたら、鬱陶しいと半兵衛さんが私の鳩尾に踵を落として来そうだし、突然の奇行から何かを勘付かれたりしたら私が困る。バクバクと太鼓が打ち鳴らされるように心臓が跳ねる中、傍らの半兵衛さんの様子をちらりと盗み見れば、顎に手を添えて、部屋から出る条件のデカ文字をじっと見ていた。その表情はいつもと何ら変わらない冷静なものだった。きっとセのワードの意味がわかっていないのだろう。横文字だから。この人、戦国の武将だから。ワードの意味以前に読み方すらわからないのだろうけど。天才とは言え、そこは流石に理解に及ばないだろう。
「名前。」
「はッ、はい!」
半兵衛さんの様子を窺っていると、突然、こちらに顔を向けて名前を呼ぶものだから、吃驚して肩がびくりと跳ね、無駄に大きな返事をしてしまう。
「君はあそこに何が書かれているのか、わかるかい?」
「え?」
「君は未来からやって来たのだろう?僕の知識では捉え切れないことがあるとするのであれば、あるいは君にならと思ったのだけれども。」
ああ、そうですよね。私に聞いちゃいますよね。そうなりますよね。ええ、仰る通りわかりますよ。ご明察ですよ。でも、こちらとしては、わかっていても言えない深い事情があるのだ。
「…すみません。私もちょっと、読めないですね。」
「やれやれ、君はいつになったら人の役に立つことができるんだい。」
哀れなものを見るかのように半兵衛さんがそう吐き捨てるものだから、ラリアットをかましてやりたくなったが、その瞬間、私はこの部屋から出ることなく死ぬこととなるので、顔を背け、静かに拳を握り締めながら、ぎりぎりと歯軋りを立てて、怒りを抑える。どうして、部屋から出る条件がもっと簡単なものではなかったのか。身長が高い方がもう一人の気が済むまでボコボコに殴られるとか、顔の綺麗な方がもう一人の気が済むまで罵詈雑言を浴びせられるとか、男の方がもう一人の済むまで黒歴史を語り続けるとか、竹中半兵衛がもう一人が今まで傷付けられた分だけ毒を飲むとか。そんな条件であれば今頃、私達はこんな亜空間から脱出していたというのに。そんなことを考えたって仕方がないことではあるが、本来の条件をとてもじゃないが受け入る覚悟ができない。だが、いつまでもこの部屋に閉じ込められたままでいるわけにもいかないのは確か。
「後、手がかりがあるとするのであればこれだけど。」
手がかりと言うのが、出入り口の反対側、殆ど何もない無機質な空間にただ一つ備え付けられた、それはそれは寝心地のよさそうな大きめのサイズのベッド。もちろん、すやすやと安らかに寝るためのものではないだろう。いや、ある意味、寝るためではあるのだが。まざまざと見せつけられる残酷な現実に瞼を閉ざすが、それで何か変わるわけもない。
「僕の知るものとは少し異なるようだが、これは夜具なのだろうね。」
「長期化を見越して、休息を取らせる意図があるのではないでしょうか。」
迂闊に口を滑らしてしまうのを防ぐのであれば、黙っていた方が無難なのにも関わらず、答えに辿り着かれるのを恐れて、聞かれてもいないのに思わず自分の見解を挟んでしまう。
「情勢の長期的な展開を前提とするならば、夜具よりも水や食糧の備蓄が最優先事項となるはずだ。」
「あ、はい。そうですね。」
真実に辿り着きこそしないが、私の検討に値しない仮説はあえなく正論の前に脆くも崩れ去る。まだ可能性を一つ潰されただけなのに精神の消耗があまりにも激しい。次こそ軽率に発言をした時は事態を悪化させる危険が高いと判断し、私は貝のように口を閉ざすことにした。だが、それでは何も解決しないのは重々承知している。何とか別の脱出方法を考えねば。
「名前。」
「なんですぎゃあああああ!!!!」
呼ばれるがまま顔を上げた先には大層、顔立ちのいいご尊顔が。鼻先を掠め、互いの吐息が感じられるほどの距離に思わず悲鳴を上げ、後ろへと飛び退く。私が慌てふためくその一方で、相手は甚く涼しげな表情をしていた。
「な、何で顔を近付けていたのですか半兵衛さん!」
「何でと問われると、口—」
「ああ!いいですいいです!言わないで!穢らわしい!」
「今すぐ君を穢してやろうか。」
「ひょぉぉ…。」
この状況において、本気でも冗談でも笑えない発言に喉の奥から奇妙な音が漏れ出る。すぐに大人しくなった私を他所に半兵衛さんは続ける。
「君は何か大きな勘違いをしているようだね。」
「か、勘違いですか?」
「僕は一刻も早く、この異質な空間から脱したい。それは名前、君も同じだろう?」
「それは…もちろんです。」
「僕の中ではひとつの仮説が立てられている。その仮説が正しいと証明された時、恐らく僕達はここから脱出できるはずだ。」
「仮説ですか。ちなみにどう言った仮説なのか聞いても?」
「ああ、そのつもりさ。」
とんっと軽く押された体は容易く後ろへと傾く。景色はあっと言う間に変わっていく中、何が起こったのか理解できない私を受け止めるのは優しい感触。どうやら後ろにあったベッドのおかげで体が床に強打する危険はなかったが、それとは別の危険が身に迫っていた。ベッドに沈む私に身を重ねる半兵衛さんが上から見降ろし、影を落とす。ただでさえ現実味が湧かない現実に、際限を知らない混迷が追い打ちをかける。
「えっ…と、半兵衛さん?何を…。」
「ここから出るための仰々しく掲げられた条件らしきもの。あの冒頭部分、確かに文字のようにも見えるが、紋の可能性もあったはずだ。僕にはそれがわからなかったが、君はさきほどの質問に対してこう答えたね。 “読めない”と。」
ぼんやりと上手く回らない頭の中で半兵衛さんの言葉が何度も反響する。その一語一句をゆっくりと噛みしめ、相手が私の犯した失態を指摘していることに気付いた時、体中の血の気が引いていくのを感じ、まるで生きた心地がしなかった。じゃあ、まさかこの人!最初から私の失態を知りながら、あえて何も言わなかったのか!何て陰湿なことか!戦国のコロンボかよ!
「つまり、君はあれが文字であることを認識していた。その事実を隠したのには何か理由があったからだ。」
君、あれの意味を知ってるだろ?
まさにそれは死刑宣告を言い渡された死刑囚の気分だった。いや、死刑宣告されたと同時に刑が執行された死体の気分だった。ぐうの音も出ない正論に返す言葉も見付からないが、見付けた所で論戦するにはあまりにも相手が悪過ぎる。力でも敵いはしないが。ソリッドシチュエーションがいつの間にか倒叙ミステリーになった挙句、その犯人に仕立てあげられようとされているのだが。私も被害者だというのに。しかし、沈黙は肯定。はったりでも何でも、この竹中コロンボにかまさなければ。
「それはですね、言葉の綾というやつですよ。意味が読み解けないという意味では、私の発言も決して間違ってはいないでしょう?」
精神的にも物理的にも、これ以上なく追い詰められた状況。加えて相手は天才軍師と謳われる竹中半兵衛。四面楚歌の中でのこの切り返し。悪くはないはずだ。自分で自分を褒めてあげたいくらいだ。沈黙の異名には別の意味で沈黙してもらおう!次回、竹中コロンボ死す!
「ただの幽閉だけが目的なら、脱出の条件など端から出さない。条件を出すのであれば、こちらに正しく認知させる必要があるのにも関わらず、その条件の冒頭が僕には理解できない。暗号だとしても解読の手がかりはない。となると、先ほどの発言も踏まえれば、自ずと君には読めるものであることが推論される。さらに二人の男女、部屋には夜具、君の挙動不審な態度を考慮すれば、君が白状しなくとも大体の察しはつく。さあ、何か反論はあるかな?」
おい、誰か早く今すぐこのコロンボを黙らせてくれ。何が反論はあるかだ、させる気ないだろ。めちゃくちゃベラベラ喋りまくりやがって。しろよ沈黙。もう最初から何もかも詰んでるし、どうやら死ぬのは私の方かもしれない。コロンボが延々と講釈を垂れ続けて、延々と犯人気分を味わわせてくるせいで、鼓動は速く、息は浅く、嫌な汗が止まらない。
「まままま、待って下さい!飽くまでも、すべて半兵衛さんの推測に過ぎないですよね!?間違っている可能性も全然ありますよね!?」
「君が条件を黙秘する以上、考え付く限りの可能性を試していくしかない。君もここから出たいのなら、さっさと腹を括りたまえ。」
「さっきは勘違いと言ってたじゃないですか!やっぱり乱暴するんでしょ!艶本みたいに!」
「僕はそんなつもりはなかったけど、君が乱暴されたいというのなら、期待に応えようか。」
「ははははは、半兵衛さんが一体、何をするのか皆目見当もつきませんが、ぎ、ぎじ疑似的なものからやってみませんか!?」
「わかった。そうしよう。」
「いやああああああ!無理です!やっぱり無理です!無理無理無理無理!!信用できない!私の魂が否定している!」
「名前。いい加減にしたまえ。」
半兵衛さんの言っていることは紛れもない正論だ。しかし、そこに人の心はあるのか。否、ない。あまりにも心がなさ過ぎる。こんなところに閉じ込められて、時間を浪費するのはこの人にとっては苦痛でしかないだろう。だからとって言って、明らかに私の意志を蔑ろにしているのはいかがなものだろうか。そこはもう少し配慮があってもいいと思うのだが、それを半兵衛さんに求めるのは間違っているのかもしれない。邪神に世界の安寧を祈るくらい間違っているだろう。もはや打つ手なしの絶体絶命の窮地に震える唇から、か細い祈りを絞り出す。
「わ、私…実は、その、…は…初めてなので…だから―」
心が限界を迎えてしまい、羞恥のカミングアウト。顔に熱が染まり、目に涙を浮かべて、口元は引き攣って、ぎこちなく笑っていた。だからの後に続く言葉は何だったのか。だからやめてほしい?だから待ってほしい?だから―。遅かれ早かれこうなることは心のどこかでわかっていたのかもしれない。でも、いざその時が来てしまっても本能が悪足掻きを続けてしまう。半兵衛さんはそんな私の心情など汲み取ってはくれないだろうが。これ以上、非効率なことに時間を費やしたくはない半兵衛さんからすれば、非協力的な私は煩わしいことこの上ないだろう。それを裏づけるかのように、無表情だった顔が、次第に険しさを増し、目を細めて眉間に皺を寄せた。きっと、次の瞬間、今にも溜息が漏れそうなあの口から毒が吐かれる。そうなると、今度こそ私は正気を保っていられなくなるだろう。半兵衛さんは自分の首元に片手を添えると、少し乱暴に襟を崩した。
「大丈夫。優しくするから。」
「は―」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
突如、世界を揺るがすような咆哮と轟く破砕音に緊迫した空気が霧散する。何事かと驚く私達が目にしたものは、破壊された壁と舞い上がる砂塵の向こうに浮かぶ人影だった。
「秀吉!?」
「秀吉さん!?」
「半兵衛、名前。大事ないか?」
取り返しのつかない過ちを犯しかけた、その瀬戸際で現れた救世主、秀吉さんによって私達は窮地から脱することが出来た。やはり、力こそジャスティス。力こそパワー。半兵衛さんのように憎しみと悲しみしか生まない力もあるが、何やかんや力はすべてを解決するのだ。持つべきものは豊臣秀吉である。富国強兵万歳。まさしく九死に一生を得た私は秀吉さんの脚に縋りつくように泣き喚いたのだった。
「秀吉。」
「何だ、半兵衛。」
「来るのが早い。」
「早い?否、お前からすれば遅い到来であっただろう。」
「いや、早い。半刻は早いよ、秀吉。」
「…そうか。」
例の部屋
———
書くことはないと思っていたネタでしたが、思い付いたので書きました。最後に秀吉と一緒に石田サンを出して、もうひとわちゃさせる予定でしたが、蛇足だと思って割愛しました。面倒くさかったからではないです。面倒くさかったからではないです。2025年7月21日は戦国BASARAが20周年とのことで、カプコン様、作品に携わった声優サン、俳優サン、スタッフの方々が祝われていた中、公式では新作の発表はないにしろ、イベントやグッズやキャンペーンや自動調理鍋第二段か、最低でもX(旧Twitter)で何かしら呟くかと思いきや、無反応だったという、そんな20周年でしたね。おもしれー公式。20周年おめでとうございます!20周年に全然関係ないネタですがおめでとうございます!
MANA3/250731