竹中半兵衛
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あたかも死の淵から奇跡の力によって蘇生し、失われた命を取り戻した人間が何事もなかったかのように平然と過ごしている光景を目撃したかのごとく、その人は目を見開いて驚愕していた。そんな非現実を目の当たりにしてしまっては誰だってそうなってしまうだろう。しかし、死者が蘇るよりも驚くべきことがあり、問い質すべきことが私にはあった。
「どうして君は生きているんだい、名前。」
「何で私のことを殺したんですか、半兵衛さん。」
殺した者と殺された者が対面する現実では有り得ない世にも奇妙な状況が今、ここに実現した。死の淵から奇跡の力によって蘇生し、失われた命を取り戻した人間が何事もなかったかのように平然と過ごしている光景というのは例えではなく、殺したはずの私が生きているので犯人である半兵衛さんも流石に驚いたようだった。ただ訂正、補足をするならば私は殺された立場で平然とはしていないし、何だったら逃げようとした。そして、逃げようとしたところを半兵衛さんに見つかって捕縛されて畳の上に転がされている。腕を組んで私を見降ろす犯人が再び私を殺すのではないかという可能性に嫌な汗が頬を伝う。
「質問に質問で返すのは聊か不躾だと思わないのかい?」
「殺しという道徳や常識の埒外な所業をやっておきながら、あなたは礼儀を説こうとするのですか?」
「君は致死量の毒を摂取したはずだ。なのに不気味にもこうして生きている。」
「そう言われても致し方ないとは思いますが、殺された立場からすると殺した人に不気味だなんて言われるのは不服なことこの上ないんですよね。他に言うことないんですか。」
「ない。今はこの悍ましい目の前の人ならざる謎を解明すべきだ。」
「無害の人間を殺しておいて、どの口が悍ましいだの人ならざるだのなんてほざき散らしているんですか!あなたに罪悪感を抱く心はないのか!謝れ!今すぐ!涙を流して許しを乞え!」
「そもそも殺すつもりで殺したんだ。罪悪感なんてものがあるはずもないのに一体、何に対して謝罪を求めているのか、僕にはわからないよ。」
「こんなにも堂々と外道な言動をする相手から人ならざる認定を受けた私って一体!!そもそも、半兵衛さんなら私なんか一瞬で殺せることができたくせに、何で態々、すぐには死ねない毒殺だなんてじわじわと苦しむ手段を選んだんですか!」
「これまで毒殺という手法をとったことがないから、折角だしいい機会だと思ってね。」
「人の命を何だと思ってるんですかあなた!」
「君のもがき苦しむ様子は想定していたよりもそこそこ楽しめたよ。」
「誰がこの状況で感想なんて求めたんですかこのド畜生評論家が!」
いつか殺されると常々思っていたが、まさか本当に殺されてしまうだなんて。しかも、半兵衛さんの不興を買ったのならいざ知らず、何もしていないのに殺されてしまうなんて。毒殺だなんて実に嫌らしく陰険で残忍、その上、冷酷で狡猾であまりにも卑劣極まりない行為であり、実験のごとく自分の好奇心を織り込んでいただなんて、犯人の人間性が如実に現れている。そんな悪魔のような人間、もはや悪魔そのものに殺された挙句、人ではないと吐き捨てられる私。この戦国乱世、最も悲惨な運命を背負うことにおいて私の右に出る者は存在しない。
「それで。君は何故、生きているんだい?」
「…あくまで推測の域を出ないのですが、私がこの世界の人間ではないからじゃないですかね。」
考えられる可能性としてはそれくらいではないだろうか。私は目の前の悪魔とは違って至って普通の人間だ。そんな私が普通と異なる唯一の点といえば、この世界ではない別の世界から来た存在ということしかない。断言はできないが、そう推測すると有り得ない話ではないと思う。後は日常的に半兵衛さんから受ける千言万語を費やしても表現し得ない残虐行為の数々のせいで妙な耐性がついてしまったという説も否めないが。その場合、図らずも私は人ならざる存在に近付きつつあるとも言えるかもしれない。だとしたら半兵衛さんという悪魔のせいなのですが。謝ってほしい。深々と頭を垂れて土下座してほしい。それを聞くと半兵衛さんは口に手を添えて考える素振りを見せた。
「なるほど。確定ではないにせよ一理ある。名前にしては。」
「最後の一言要りますか要りませんよね?」
「その仮説が事実であれば、君は人智を超えた存在、不死ということになるね。」
「待ってください。まだ私の中で半兵衛さんから受けた人智を超える比類なき暴虐行為の積み重ねにより、体に異変が起こって人間をやめることを強いられている私一押しの説があります。」
「不死というならば今、殺してもまた生き返るということだろう?」
「聞く耳持たず!」
半兵衛さんはまた私のことを殺すつもりだ。自分の罪と向き合い、人の心を取り戻すまたとない機会を蔑ろにするどころか、同じ過ちを繰り返そうとしている。生粋の罪人である。その罪状は数えきれないほどあるにも関わらず誰もこの罪人を裁けない。狂ってやがる。この世界も半兵衛さんも。
「不死というのは仮説であって、人より命の残数が少しばかり多いだけかもしれないことをお忘れなく!」
「僕が自分の意志で君を殺したこともお忘れなく。それに何が真実かを確かめるためにも君を殺すのが手っ取り早いと思わないかい?」
「あまりにもサイコパスの思考回路!」
その提案の同意を被害者本人に求めるのはどういうことなんですか。思うわけないだろうが!私がそんなことを!しかし、例え同意しようが否定しようが関係はない。その先の未来は変わることはないだろう。いや、未来などない。それでもこんな理不尽なことで生きることを諦めたくなどなかった私は悟ったのだ。希望とは待つものでも、況してや誰かから与えられるものではない。それは自らが作り出すものなのだと。
「半兵衛さん!例え私が死ななかったとしても苦痛は感じるんですよ!それなのに理由もなく殺されるだなんて酷過ぎます!」
「誰がいつ、殺す理由はないと言ったんだい?」
「え、あるんですか?半兵衛さんとは違って清廉潔白であるこの私に殺される理由が、はやまらないでください半兵衛さん。あなたともあろう人が感情に流されるままに人を殺すだなんてらしくないですよ。これが私の早とちりというのであれば、今すぐその関節剣に手をかけるという斬殺支度をやめてはくれませんか。」
「理由なんて言ったところで一体何の意味があるというんだい?」
「対話をすることにより、互いの理解を深めて問題点を明確にし、現状をより良いものにできる可能性があるじゃないですか。なら、理由を話してみる価値は十分に―」
「僕が君を愛しているからと言ったら、どうする?」
この状況にそぐわない、その人に似合わない、耳を疑うほどの情熱的で悍ましい発言に言葉を失う。今、半兵衛さんは何と言ったのだろうか。君を愛しているから?誰が誰を?半兵衛さんが私を?アイシテイルって何だっけ。ご機嫌いかかですか、あなたの飲み物に一服盛りましたよって意味でしたか。言葉が泡沫のように浮かんでは消えていく。相手の真意どころか知っているはずの語彙の意味さえわからなくなってしまい、今まで学び得た経験や知識が、無に帰す感覚がした。頭が真っ白になって呆けている私を見ても、半兵衛さんは顔色一つ変えずに見下ろしている。まるで私の反応が最初から予想していたものだったかのように。
「ほら、だから言っただろう。一体何の意味があるんだって。理解されないことはわかっていたし、されようとも思っていない。何故ならこの僕自身、自分の言動を理解していないのだから。ただ君を自分のものだけにしたいというどうしようもない独占欲によって衝動的に突き動かされる僕の姿は君の瞳には常識を逸しているように映るのかもしれないが、僕は至って正気のつもりだ。例えそれが狂気だとしてもかまわない。君がこの手に入るのであれば過程や手段もそんなことはすべて些末なことでしかないのだから。」
狂気に澄み、無垢に曇った目に私を映す半兵衛さんはいつもの落ち着いた態度でまっすぐにそう宣った。そこにはある種の人間らしさを僅かながらにも感じた気がした。だが、人には理性という錘があり、その錘が衝動を抑え、境界で踏み止まることができるからこそ人たらしめる。それを越えてしまってはただの獣。いや、獣を越えた化け物になり果ててしまったのだった。矛盾に満ちた瞳に憂愁を垣間見たように思え、それが私に更なる混乱を齎す。
だからと言って何の罪もない人一人の命を脅かすそんな理屈が罷り通っていいというのだろうか。だとすれば、この世が愛で満たされるなら、地球は血のように赤い鮮血に染まる地獄と化すだろうし、ガガーリンもその衝撃的な赤さに言葉を失うだろうし、何とか声を絞り出したところで、ただ一言「何これやば」と呟くことしかできなかったであろう。地球が美しい青を保つためにも、何より私が生き延びるためにも、例え人知を超えた不死であったのだとしても、私は人であることを貫く。
「天才軍師と名高いあなたともあろう人がこんな為体を晒すだなんて。呆れたものですね。」
「…なんだって?」
「だってそうじゃないですか。明晰なる頭脳という天賦の才能を持つあなたが、私のような女一人を手懐けることもできずにこんな手段を選ばない力尽くの実力行使に出るだなんて、天才軍師の、いえ、豊臣の軍師としての名に傷がつくとは思いませんか?」
生殺与奪の権利を相手に掌握されていているこの状況において、私は吐き捨てるように挑発的な物言いをした。それこそ次の瞬間には殺されかねないほどの。普段であれば絶対にこんな命を軽視する破滅的な言動なんて取らない。絶対にだ。しかし、ここは間違いなく命の賭け時。どうせ殺されてしまうのであれば、やらないなんて選択はなかった。何も言わず黙って見下ろす半兵衛さんに私は続けた。
「こんなやり方を選んだのは自信がないという表れなのでは?真向から私を口説き落とすことができないと。それとも私に振られるかもしれないのが怖いんですか?」
後ろ手で固く縛られて動きづらい状態の中、歯を食いしばり、力を振り絞って何とか上体を起こす。
「半兵衛さん。私たちは気持ちを言葉にできる生き物です。さきほども言いましたが、言葉にすることで知れなかったことを知ることができますし、お互いの理解を深め合うことができます。あなたならこんな手段を使わずとも、より良い結果を見出せるのではないのですか。それに半兵衛さんは本当にこれで良いんですか?あなたは自分でその可能性を不意にしてしまっているのかもしれないんですよ。死んだ私はあなたに触れることも、一緒に何かを語ることも笑うこともできない。それより生きてそこに存在するという確かな温もりを感じながら、寄り添うことができるのであれば幸せではないですか。あなたの気持ちを私にちゃんと伝えてからでも殺すのは遅くはないと思いますよ。」
宛も相手を慮るようにつらつらと連ねる言葉。すべてが嘘だとは言わないが、それらは自らが助かりたいがための一心に尽きる。そんな言葉が愛しているから殺すという常軌を逸した殺人鬼にどこまで刺さるのか。もしくはどれだけ逆撫でてしまったのか。私を見下ろす人と獣の境界を彷徨う瞳と時が止まったような長い沈黙に息を呑む。半兵衛さんはそっとその目を伏せると微かに吐息も漏らした。
「わかった。君がそうまで言うなら。」
そう言うと半兵衛さんは徐に私の目の前に跪く。今までされたことのない、されるはずもないその所作にこんな場面にも関わらず心臓が高鳴る。跪くことにより、同じ高さとなる視線。真っすぐにこちらを見つめる半兵衛さんの瞳は私がよく知るもので、それが凄く久しく、懐かしささえ感じ、何だか胸の奥が少しだけ楽になった。
「君の言うように、君と何かを語らい、君と笑い合い、君と温もりを感じることはきっとそれも一つの幸せであることは僕もわかっているつもりさ。そして、それはきっと、生きている君としか味わえない、とても尊いものなのだろう。けれど、君はその命ある限り、他の誰かと言葉を交わし、笑いかけ、その優しさを分け与える。それでは駄目なんだ。僕はそれを目にしただけで、いや、考えただけで、筆舌しがたい怒りや嫉妬や不安から生まれた澱んだ感情で反吐が出そうになるよ。もしも、君が僕以外の誰かのものになることがあるとするならば、そんなの耐えられない、受け入れたくない事実だ。君のその声も、眼差しも、笑顔も、唇も、目も耳も手も腕も脚も髪も肌も爪も―僕だけのものであってほしい。君のすべてを、心も身体も、命すらも支配したい。誰の目にも晒さぬよう、触れられぬよう、僕しか愛せないように閉じ込めておきたい。例えこの独善的な行為が狂気と捉えられようが紛うことなき僕の君への愛だから。君が僕を選ばないと言うのならば、その命を奪うとこも厭わない。それはその身をもって知っているはずだ。僕の言っていることがどこまで本気かってことも。名前。君を愛している。だから僕のものになってくれるかい?」
「半兵衛さん…丁重にお断りさせていただきぐふッ―。」
体を揺さぶる衝撃と共に胸から滲み広がる赤。胸に刀が刺さったことに気が付けば、口からごぽりと血が溢れ出す。拒絶や混乱や驚愕や焦燥といった感情が鮮やかな色となって止め処なく流れて畳の上に広がり続け、呼吸もままならない。再び畳へと倒れ伏し、痛みと苦しみで霞む視界と意識の中、死に逝く私が最期に見たものは半兵衛さんの恍惚な表情だった。
「さようなら、名前。もし生き返ったその時は色好い返事を聞けることを期待しているよ。」
いや、無理ゲーでしょこれ。無理ゲーの上にクソゲーでしょ。詰んでた。最初から最後までずっと詰んでた。クリアさせる気がない。気持ちをちゃんと伝えてからでも遅くはないと言いましたが、半兵衛さんはもうすでに色々と手遅れだった。自分で言っておいてあれですが、聞きたくなかったし、流石に責任を持てません。誰があんなクソデカ激重デスエモーションを受け入れられるというのか。嘘でもはい喜んでなんて言えるほどの度量を私は持ち合わせてはいない。無理だったかもしれない、無茶だったのかもしれない、そして、無駄だった。何もかも。それでも懸命に最後まで戦い抜いた私を褒めてほしい。褒めなくていいから、せめて、もう二度と目覚めないでほしい。そう神様に祈ることだけが、私に残された唯一の救いだった。「笑う君も好きだけど、絶望する君の表情も愛おしいよ。」そんな狂った幻聴が耳を掠め、私は静かに意識を手放した。
しかし、そんな私の願いも虚しく、意識を取り戻し、瞼を開いて広がった景色は見知らぬ部屋と喜色満面に両手で持った縄を見せ付けるようにして乾いた音を立てて引き延ばす半兵衛さんの姿があった。神など居ない。
狂愛メビウス
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履歴書に書けるくらいには狂愛ギャグに自信があったつもりでしたが、今は何故だか難しく感じますし、昔も言うほど書いてなかったです。何ですか狂愛ギャグって。
MANA3/250708