愛情とは最大の苦痛である
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奥州筆頭の伊達さんが居る長谷堂城。ここの守りは固く、通り抜けるのは容易な事はではないそうだ。そんなのお構い無しでやって来た、豊臣軍の夢見る鬼畜軍師は突破をしようと試みていた。
半兵衛さんの目の前には一頭の白い馬。ここの領地に居る馬だから勿論、伊達軍の物だろう。
「良い馬だね」
そんなのお構い無しで半兵衛さんは馬に跨がる。
どこでもそうだ。そしてどこの馬も褒める。もう絶対どこの馬の事を褒めるものだから逆に本当に良い馬なのか疑わしい。
しかし、やってる事は別として馬に乗る姿は凛々しく、様になってると思う。馬も嫌がってないと言うか、懐いていると言うのか。大人しく半兵衛さんに従う。
全く恐ろしい人だ。色々な意味で。
「じゃあ頑張って来て下さい」
「何を言ってるんだい。君も早く乗りたまえ」
「何故!理由は!?」
「理由が有れば君は乗るのかい?」
理由が有ろうが無かろうが拒否したいのだが、私が何か言った次に半兵衛さんの口から「つべこべ言わずにさっさと乗れ」と言う台詞が出て来て無理矢理乗せられる筈だ、関節剣を向けながら。
いや、もう何か半兵衛さんの右手が既に関節剣を抜刀する準備をしている。
半兵衛さんの機嫌を損ねる前に私は馬に乗ろうとした。
「……半兵衛さん。高くて乗れそうにないんで乗らなくても良いですか?」
「ははっ。君は脚が短いんだね、名前」
いつも見下されているが、今日は一段と高い位置から見下され、嘲笑われた。決して脚が長くないし、胴長なのは認めるが、腹が立つ。落馬すれば良いと思った。
短足胴長の私に脚長軍師が手を差し伸べる。
「ほら、手を掴んで」
「…どうも」
半兵衛さんの手を貸してもらって、私は馬に乗る事が出来た。
「じゃあ、しっかり掴んでてね」
「えっ。あ、はい」
「名前、僕の首なんか掴んで絞め殺すつもりかい?」
しっかり掴めと言われ、私は半兵衛さんの首を掴んでしまった。悪気はない。でも無意識にやってしまった辺り自分でも怖い。日頃の半兵衛さんの仕打ちに私の心の奥に蓄積された憎悪の仕業と言う事にしておこう。首は駄目みたいなので、迷った私は遠慮がちに半兵衛さんの肩を掴む。
しかし、後ろを振り返らずに伸びて来た半兵衛さんの手に両手首を力強く掴まれ、腕ごと腰に回された。その為に私は半兵衛さんの体に密着する体勢になる。
「ちょっと半兵衛さん、」
「さぁ、行くよ」
馬は半兵衛さんと私を乗せ、風を切る様な速さで走り出した。思わず振り落とされそうになり、半兵衛さんの腰にしがみつく。蹄が地面を蹴り上げる度に、全身に振動が伝わった。
「痛い!!痛い痛い痛い痛い!!!!何これ!痛い!逆に何か笑っちゃう!もう痛過ぎて笑っちゃう!!」
「何だいそれは。大丈夫なのかい?色々と」
「大丈夫じゃないです!腰が、腰が痛い!腰に来る!」
「名前。君はいつからそんな破廉恥な事を言う子になったんだい?」
「何が!?そんな事考えてる半兵衛さんの方がよっぽど破廉恥ですよ!」
「……………ふっ」
「何で!?何で今笑ったんですか!?」
「煩いよ。君も良い加減、後ろで善がり声を出すのは止めたまえ」
「善がってないし、善がり声もあげてませんけど!腰が痛いって言ってるんですけど!」
「すまないね。僕のせいで腰を痛めてしまう事になってしまって」
「誤解を招く言い方は止めて下さい!」
戦場を馬で駆け抜ける私達の会話に緊張感など微塵もない。半兵衛さんは馬に乗り慣れてるから痛くはないのだろうけど私は痛い。ずっと痛い。これはもう拷問の一種だ。
「やっぱり乗らなきゃ良かった!」
「あの時に乗ってなかったら、君は今頃、足を縄で縛られて引き摺り回されている所だよ」
「何か知らないけど乗ってて良かったっぽい!」
それこそ真の拷問ではないか!死ぬ!想像の中の私は死んでいる!死んでも尚、引き摺られている!
「敵だ!敵が来たぞ!」
「奴を政宗様に近付けるでない!」
進路に立ちはだかる伊達軍。守りを固め、気合い十分の彼等を鬼畜軍師はそのまま馬で轢いていった。
「どおわあああああああ!!!!何て事を!」
「守るならもっと頭を使って守りたまえ」
「ええええぇぇぇぇええ!?!?!?」
伊達軍の人も頭を使って考えたであろう防衛を力で捩じ伏せる半兵衛さん。もうこの人ってば。誰もこの人は止められない。
次々と伊達軍の方々は馬に轢かれていく。どうやら、誰一人と突破出来なかった伝説は今日で終わりの様だ。
目の前に門が佇み、その先に青い人が見える。やっと地に足が着けると思った瞬間、馬が高く跳んだ。このまま突っ込むと門で顔面強打する。半兵衛さんが。
「半兵衛さん!!前!前前前!!!!」
慌てふためく私を余所に、半兵衛さんは冷静かつ素早く身を屈めた。
あ、これは非常に危険だ。私が。
ズガンッ
「がばぁっ!!!!!!」
顔面ではなかったが、額を強打し、そのまま落馬した私は額を抑えながら無言で地面をのたうち回った。
「やぁ。待たせたね、政宗君」
「…Ahー、お前……」
「言いたい事はわかる。今のは彼女に対する僕なりの愛情表現だ」
「But…」
「見たまえ、あの善がりに善がっている姿を」
「いや、どう見てもあれは」
「他人の事情に口を挟まないでくれないか、政宗君」
「…………」
愛情とは最大の苦痛である
(そんなの愛情ではない!)
MANA3*080611