竹中半兵衛
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君が、死ぬ夢を見た。
横たわる冷たい体、青白い肌、光を宿さない瞳。絶望的、非情なる光景がそこにはあった。
呼びかけようが、揺すろうが、抱き起こそうが、反応は一切なく、彼女が二度と目覚めることはなかった。
酷く現実感がある夢だった。例え夢だとしても悲しかった。夢から覚めた時、それでもそれが夢であって本当に良かったと僕は安堵に支配された。
「酷いですね。勝手に私を殺さないで下さい。」
名前は顔を顰めながら僕にそう言った。それもそうだろう。夢とは言えど、君が死ぬ夢を見た、と縁起でもないことを言われて気分を良くする人間はいないだろう。いるとすればその人間は余程の変わり者だ。
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。それに不可抗力だよ。夢なのだからね。」
名前がそんな表情をするとはわかりつつも夢のことを話した僕は弁明する。それでも彼女は納得いかなさそうな顔をして首を傾げる仕種を見せた。
「そう拗ねないでくれ。僕が言いたいのは僕が見たのは夢であって、目が覚めて君が居てくれて良かったということだよ。」
そう言いながら宥めるようにして彼女の頭を撫でた。先程と比べ、幾分かは機嫌が直ったようなのだが、まだ何か言いたそうに彼女の顔には不満の色が残っていた。
「……正夢にでもなったらどうしてくれるんですか。」
それを聞いて失笑を漏らす僕の態度に腹を立てたのか名前は肩を殴ってくる。男女の差なのか、殴られてる気がしないほど、彼女の攻撃からはまったく痛みを感じない。しかし。割に合わないと感じた僕は彼女の頬を思いっ切り引っ張ってやる。すると、彼女は殴るのを止めて言葉にならない声を出して苦痛を主張した。少しして引っ張っていた手を離せば、痛む頬を労るようにして摩りながら静かに彼女は僕を恨めしげに見やった。
「僕が居るんだ。心配要らないよ。」
そう言うと名前は疑惑の眼差しを注ぐものだから、もう一度、頬を引っ張ってやろうとしたら、彼女は直ぐさま平謝りをし出した。
「まぁ、全てではないですが悪い夢は良い夢って言いますけどね。良い夢だと現実逃避してるらしいですし。ああ、でも、私が見た夢じゃないので一概に悪い夢とは言えませんか。半兵衛さんからしたらどうか知らないですが私からすれば悪夢ですけど。」
いや、あの夢は僕にとっても、これ以上ないというほどの悪夢だ。君が死ぬ夢だなんて。自分が自分でなくなり、気が狂いそうな状態に陥る。あんなのは二度と御免蒙る。
「それにしても、何で私は死んでいたんでしょうね?」
名前の唐突な発言に僕は茫然自失させられる。少なからずその言葉に違和感を感じたからだ。“何で”というのは一体どういうことなのだろうか。それは死んだ原因について尋ねているものなのか。それとも他に何か別の意味が含まれているのか。
「ねぇ、半兵衛さん。私、どんな風に死んでいたんですか?」
「……どんな、って…。」
何も答えない僕に名前は続けて尋ねてきた。彼女は何故そんなことを聞くのだろうか。脳裏に夢の中で死んだ彼女の姿が過ぎり、思わず片手で顔を覆った。
「半兵衛さんは何で私が死んでると思ったんですか?」
「……それ、は……。」
彼女は死んでいた。それは確かだ。だが、今思えば確証がない。確証がないのに僕は何故、彼女が死んでいたと思ったのだろうか。いや、考えたって仕方ないことだ。だってそうであろう。所詮は夢の中の話であって、現実ではないのだから。
僕は彼女に触れようと手を伸ばす。
「半兵衛さん。どうして私は死んでいたんですか?」
「名前。もうこの話は止そう。君は生きている。僕はそれで―」
眼を見開くと一瞬にして景色が変わっていた。悍ましいくらい見覚えのある景色だった。激しくも静かに息遣い、滲み出た汗がじっとりと肌に髪を張り付かせているのが不快である。だが、それ以上に僕を不快にさせたのは傍らにごろりとそべる彼女の屍体。眩暈と動悸が起こり、顔がひくひくと引き攣れる。途端、状況を把握出来ない頭に走る痛みと胃の中のものが逆流する感覚に襲われた。
嗚呼、またこの夢か。そうだこれは夢だ。悪い夢なんだ。そうに違いない。
「早く…早く目を覚まさなければ。」
そして、彼女に逢いに行かないと。僕はその光景を拒むかのようにゆっくりと瞼を下ろし、視界を遮蔽した。
夢魘ループ
(それは永遠に醒めない悪夢。)
MANA3*100822