滲む幸せの青
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放課後、二人きりの屋上。聞こえだけなら青春の一場面でも思い描くのだろうが、隅っこで膝を抱えて俯く女の姿があっては、それ所じゃない。
誰かは知っている。こいつにとって俺は、唯一の男友達って奴だから。後、こいつが何でこんな状態なのかも俺は知ってる。
「なぁ、名前」
返事なんてないがそんなのはわかってた事だ。聞こえてはいるだろうから喋り続ける。
「あいつだって普通の人間だぜ?恋愛もすりゃ、彼氏だって欲しいとは思うだろーよ。そうゆう歳だぜ。俺達」
「…………」
「お前だってこうなる事、何となくわかってたんだろ」
やはり、返事はない。けど俺はこいつをほっておく気なんて更々ない。「一人にさせて」と言われても、一人にはさせない。ずっとこうしてたいって言うなら俺もそれに付き合うだけだ。
まぁ、そう言う訳にも行かないので、俺なりにどうにかしようとしているのだが。
「なぁ…」
「…………」
「そんなにあいつが好きなのか」
「………うん…」
絞り出された声はか細く、掠れていて、耳を澄ませなければ聞こえない程だった。久々に感じた名前の声はあいつの事に対して答えたものだ。こんなんになってんのもあいつのせいだ。そう考えると憤りを感じて仕方がないが、声を聞いて、どこかで安心している俺が居る。
「……好きとか愛してるとか、そんなのは別として、ただ一緒に居るのが楽しかった…」
あぁ、知ってる。
「…あの人は私の事を良くわかってくれた。私が勝手にそう思ってるだけかも知れないけど……」
それも知ってる。
「なのに…全然知らない男があの人を奪っていった。こうも簡単に…」
知ってる。
「多分…あの人は戻って来ない。私ももうあの人の前ではちゃんと笑えないと思う……」
全部知ってる。
俺はお前だけを見続けて来たんだぞ。
「……でも……心では…実は私を騙しているんだとか……全部私の間違いだとか………変な期待…してる私がいる…………それが凄く嫌だぁっ………」
段々と涙声になる名前。それが痛々しくて、悲しかった。
「…つらいっ……」
名前は丸くしていた体を更に縮まらせて、それ以上は喋らなくなった。微かに漏れる嗚咽だけが聞こえる。
頼むから、泣かないでくれ。
頼むから、顔を上げてくれ。
俺の存在に気付いてくれ。
「…名前」
俺は名前の直ぐ目の前にしゃがみこんだ。
「俺はお前を裏切らないぜ」
こんな時に言うなんて卑怯かも知れない。
「男が恐いのを無理して治す必要なんかねぇし、それで女の方が良いと思うなら、それも仕方ないかも知れねぇ」
何と言われ様と構わない。
「けど、俺なら他の奴と違って大丈夫なんだろ?」
名前が欲しい。
「なぁ、泣くなって。顔上げろよ」
俯いて垂れた髪を耳にかけて、そのままそっと手を添える。暫くすると名前はゆっくりと顔を上げてくれた。触れる手を頬に移し、輪郭をなぞる涙を親指で拭う。
「もう諦めて俺にしとけよ」
下唇を噛み締め、目を伏せると大粒の涙が止めどなく流れ出す。その姿を見て、俺は名前を腕の中に閉じ込めた。
滲む幸せの青
(俺は諦めないから。)
MANA3*080425
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