炬燵と蜜柑と死体
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時は悪戯に過ぎて行く。つい先日年が明けたと思えば桜が散り、五月病を発症しながら流し素麺を堪能した後は団栗拾いに精を出し、拾っては投げ拾っては投げを繰り返したものだ。そんな季節達に別れを告げ、到頭今年も例のイベントがやって来た。
「ううっ、寒い……!」
今年は振り替え休日で良かった。正当な理由を持って引き籠れる。私は炬燵布団を肩まで被るとぬくぬく団子虫宜しく丸まった。それにしてももっと可愛い例え方は無かったのかね。猫とかアルマジロとか蝸牛とか。それ本当に可愛いの。けれどもそんな事を言ったら大抵の動物は丸まって暖を取るものだ。よって、私は大人しく団子虫のまま名誉有る称号を授かる事にする。団子虫名前、満を持して推参!
「……嬉しくない」
「開口一番がそれかい」
何処から沸いてきたのか、ふらりと呆れ顔の半兵衛さんが視界に入り込む。驚いた拍子に肩を天盤へぶつけると大きな音が机上から聞こえた。恐らく湯呑みが倒れたのだろう。事前に空にしておいて良かったと胸を撫で下ろすも、湯呑みは様々な障害物を掻い潜り反対側のラグマットへ転げ落ちる。後で拾うか今拾うか、そこが問題だ。
「今拾えば良い話じゃないか」
「読心術ですか半兵衛さん!」
「名前の思考パターンは大凡把握しているからね」
それに今のは僕で無くとも明らかだったよ。半兵衛さんは肩を竦めると、所持していた蜜柑ネットを私の頭上に乗せ湯呑みを拾いに行った。流石半兵衛さん。この調子で私を一人にしてくれないかしら。それからこの蜜柑のお土産は一体何のつもりかしら。仕方無しに私は鏡餅になりきる。まさかこれは遠回しに二段腹とでも罵りたいのか。確かに冬に入ってから運動所か外出もせずゆるりとマイホームの居心地を満喫していた。その分食事も陸に摂取していなかった為体重は夏から略変化していないのだが、多少ウエスト周りの弛みが見られるのは否定出来なかった。そんな事は兎も角、炬燵が熱くなってきた様な気がする。動きたいのに動けないなんて、こんなの絶対可笑しいよ。少しでも避けようと無理矢理体を捻り曲げれば、何処かしらの関節がパキッと鳴った。
「色々考えている所悪いけど、蜜柑に関して特段他意は無いよ」
「私を弄んだのか!」
「名前がそう思うならそれで良いんじゃないかな」
半兵衛さんが吃驚するほど丸投げだ。と言うより面倒臭そうだ。酷い。顔を突っ伏し泣く振りをすると、蜜柑ネットが頭からずり落ち一つの蜜柑が飛び出す。虚しさが込み上げた。私は蜜柑にすら馬鹿にされているのか。腐った蜜柑将又規格外で商品価値すらない蜜柑とでも言いたいのか。許すまじ蜜柑。悪は滅却せねばと、私は目の前で鎮座していた蜜柑を拾い一心不乱に皮を剥いだ。どうかねその身を晒け出すと言うのは。開放的だろう。君は半兵衛さんと同じく変態紳士の素質があるね。余計な事を考えると半兵衛さんが読心術を使ってくる。プライバシーなんて有ったもんじゃない。それにしても何時まで半兵衛さんは湯呑みを拾っているんだろう。湯呑みが重過ぎるとかそんな馬鹿な事があるか。まさかペンより重い物を持った事が無いとか。だったら飛んだセレブリティじゃないか。一応心配しつつ蜜柑を一房咀嚼しながら彼の方へ嫌々首を伸ばす。それと同じくして、ヒヤリ、冷たい何かが私の足首に巻き付いた。
「ギャアアアアアア冷たい!死人の手じゃないですか半兵衛さん!何時死んだんですか半兵衛さん!!!」
「名前の為なら幾らでも甦るよ」
「と言うか人の足首掴んで何するつもりですか!」
半兵衛さんって足首フェチだったっけ?首を捻るも、余程冷えていたのか体温を全く感じられない手により私の足は炬燵外へ晒け出されたのである。蜜柑や半兵衛さんじゃ有るまいし、私は露出する趣味は無い。早く炬燵に戻して欲しかった。彼の手から逃れようと足を懸命にばたつかす。しかし細身なりにも男である半兵衛さんに掴まれた足はびくともしなかった。それ所かこれ以上下手に動かすと足が攣ってしまう予感がする。大人しく彼の出方を見るに徹するしか、私に成す術は無かった。
「それよりも半兵衛さん、どうやって家に上がったんですか」
「君の妹君を蜜柑で懐柔したら快く入れてくれたよ」
「薬物でも盛ったんですか!?」
私の家族に何をした!蜜柑って今私の胃に放り込まれた奴か!そんな格好良い台詞を言う機会が突如として私に与えられた。神よ感謝します!だと言うのに炬燵と言う名の怠惰の塊を背負い、傍目からは分かりにくいが片足のみ封印されしエクゾディア状態と言う何とも間の抜けた体勢を強いられている私にはとてもじゃないが吐く勇気が無い。この間にも生ける屍半兵衛さんの足枷と冷たい外気の影響で私の足は指先からじわじわ熱を奪われる。これから肉体或いは精神へ人の所業で無い辱しめを受けるのかと思うと炬燵を飛び出し街の喧騒の中へ姿を眩ましてやりたかった。加えてここまで足の裏を他人に凝視されると言う謎の事態に、半兵衛さんの折檻は既に始められている事を思い知らされる。
「だとしても半兵衛さんが私の足を掴む理由が皆目検討付きません」
「湯呑みを拾ってあげただろう」
「凄い!全然関係無い!」
「それに僕は君へ蜜柑を食べる許可を出していない筈だけど」
今更それを言うか。しかも既に一つ完食してしまった後じゃないか。けちん坊。無論意義あり!だ。半兵衛さんは論点の掏り替えをしているだけで、私にお咎めは無い。とも言い難い。ですよね。足と蜜柑は別件と言えども以前変わり無く問題は残されたままだ。等価でなくともこの場合、同じ天秤に掛けられる。そして私は有無を言わさず言い包められてしまうのだ。自分の不甲斐なさに臍を噛むも相手は半兵衛さんである。敵う筈等毛頭無かった。腹を据え固く瞑目すると、私は半兵衛さんに体の主導権を託す。もうどうにでもなれ。
「漸く僕の物になってくれたようだね」
「どんな思考回路をしてるんですか」
「そう言う名前も僕の事を大概に思っているじゃないか」
ばれていたのか。半兵衛さんは凄いなぁ。そう安直に思う呑気な私の土踏まずを不意に生暖かく湿った風が優しく撫でた。頭から爪先まで全身の有りと有らゆる毛が逆立つ。どうやら半兵衛さんが私の足裏へ息を吹いたようだ。くすぐったいやら恥ずかしいやら身を捩らせるも、炬燵布団で口を押さえ付ける事で悲鳴を上げたい衝動に耐える。
「名前が喜んでくれたようで僕も嬉しいよ」
「眼鏡合ってないみたいですよ半兵衛さん」
抓るなり刺すなり甚振る方法はいくらでも有るのに何故開始早々三十分二万円マニアックコースなのか。次はどの様な戒めを与えられるのか緊張していると、半兵衛さんのせせら笑う声が聞こえた。第六感が炬燵内へ避難しろと命令するので頭を潜らせるも、今度こそ小指を有らぬ方向へ圧し曲げると言う念願の力業によって妨害される。今だって陸に半兵衛さんの顔も見られないのだが、彼にとって表情が見えるか否かは重要なポイントらしい。
「そうだ。折角だから舐めてあげようか」
「耳鼻科に行ってきます」
「名前の足を舐めてやろうと言っているんだよ。聞き間違えでは無いから安心してくれ」
何処に安心できる要素があったのか。それに敢えて言うと半兵衛さんは舐めさせる方の人間だ。私もどちらかと言えば、半兵衛さんに舐められるより自分が舐めている絵の方がしっくり来る。自覚している辺り心外だが。半兵衛さんの変態っぷりは今日も絶好調の様だった。このど変態め。
「この厚くなった皮膚の臭いと足裏の蒸れた感触が至高だよね」
「知りませんし分かりませんし止めて下さい!でないと全国の半兵衛さんファンが冬の海へ入水してしまいます!」
「君が露骨に嫌がる様を見るのもまた愉快なんだよ」
「本当にすいません私が悪う御座いました!!!」
私は捕捉された足以外を五体倒地すると、全力で半兵衛さんに謝罪した。端から殆ど五体倒地はしていた様な物だが。どうせ半兵衛さんも世間に流され救世主生誕前夜を祝う訳でもなくイルミネーションの下カッポーとして闊歩したい輩なのだろう。今のは皮肉だから笑ってくれて構わないよ。
「今着替えて支度しますから手を離して下さい」
「えーっ」
「えーっ」
何だよえーっ、て。半兵衛さん意外とお茶目ですね。しかし私も半兵衛さんに解放してもらわねば炬燵から脱出できない。このまま彼の玩具になるしかないのか。すると先程まで私の体温を奪い微かに熱を帯だした末端冷え性半兵衛さんの手が離れているのに気付く。それを気にするより先ず第一に私の足や腰を伝いながらずりずり、上ってくる誰かさんの存在に恐怖した。炬燵がガタガタと大きく揺れているのに何故か湯呑みは落ちない。せせこましい炬燵内では身動きも取れず、もう一人が落ち着くまで私も待機せざるを得なかった。間も無くして綿毛のような頭が炬燵布団から抜け出すと、それは大きく深呼吸する。そして肩まで布団を被り、極自然な所作で私を抱き締めた。
「いやいやいや何してるんですか半兵衛さん!」
「名前は温かいね」
「寒かったなら最初から入れば良かったじゃないですか!あと!近い!!!」
「皮膚同士接触させた方が早く温まると言うじゃないか」
私に絡み付いた手足は確かに未だ冷えている。それならばと、私もすっかり冷めた片足で半兵衛さんを突っ付いた。が、向こう脛を蹴られかけた上逆に足を押し付けられる。私だけ理不尽だ。
「半兵衛さん、出掛けなくて良いんですか」
「名前が望んでいないのに何故出掛ける必要があるのかい?」
「クリスマスイブだから来た癖に」
私の発言に対し、戯れ言は止してくれ、と突然機嫌を損ねる半兵衛さん。違うとするなら何の為にこの日を選んで来訪したのか。一緒にケーキを食べれば良いの?それとも蜜柑?真実を訊きたいが、地雷を踏みそうで気後れする。半兵衛さんはそんな私の輪郭を冷えた指でなぞりながら首筋まで到達すると、項辺りに手を添わせた。冷たくて良い気持ち。顔を綻ばせた私に半兵衛さんは失笑する。
「今日は僕の名前がこの世に誕生した祝福すべき日じゃないか」
「ん……あ、ああ!」
「何だいその反応」
半兵衛さんは眉根を寄せるも何処か楽しんでいる風だった。私の事を気にかけてくれたとは。朝から不貞腐れていた悪心は季節外れの夏空の様に晴れ渡る。この人の中で“十二月二十四日は私の誕生日”と言ってくれた。その事実だけで充分なのだ。嬉しさの余り躊躇せず半兵衛さんの胸元へ顔を埋める。一瞬目を丸くするも、柔らかい表情を浮かべる半兵衛さんが愛おしい。彼は後ろ髪へ絡ませていた手で互いの顔を近付けると、徐に眼鏡を外した。顔が見えるって良いなぁ。
「今日は君だけの竹中半兵衛だから十二分に堪能すると良いよ」
「ではお言葉に甘えて」
「誕生日おめでとう、名前」
今日は思う存分引き籠ってやろうじゃないか。
炬燵と蜜柑と死体
「まあ、明日からは覚悟しといてね」
「ですよねー」
》私から限りなく感想に近い何か
マイカサンから誕生日の御祝いに頂きました半兵衛サンの小説です!!!!ひゃっふー!マイカサンが!私の為に!!半兵衛サンを!!!!私だけの為に!!!!!!この様なブラボーで超エキサイティングでハレルヤで御機嫌な夢の様な全米が震撼する程のビックサプライズが実現しようとは!生まれ来て良かった…!!!!!!!!小説の内容が正しく私の為に書いて下さったと言うのがゲロゲロと伝わって来ます!!!!ハイ!前夜祭ネタで妹出演やら蜜柑で買収されるとかマイカサンの隠そうとしても隠しきれない芳心が垂れ流しで思わず私も穴と言う穴から色んなものが垂れ流しになってしまうそんな作品!!!!酷い。御前の感想は酷い。御前と言う奴は酷い。酷い。仄々としたギャグの中に盛り込まれたマニアックな要素にズキュウウウンで御座います!!!!私には描写出来ない半兵衛サン、雰囲気、世界観ですね、流石はマイカサン!私に出来ない事を平然とやってのけるッそこに痺れる!憧れるゥ!ネタを詰め込めば良いと思っていたら大間違いやぞ。この度は私なんぞの為に命の限りニヤニヤウハウハハアハアデヘデヘニマニマするスーパーブラボーな小説を有難う御座います!!!!!!!!ビバマイカサン!!!!!!!!!!ビバ半兵衛サン!!!!!!!!!!
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