ED2 Disappearance Ending
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無意識に僕の口から漏れた名前に彼女は反応したのかだらりと大きく体を揺らしながらこちらへ振り返る。見るからに全身が気怠そうに脱力していてだらしなく彼女はそこに佇む。その瞳は心を失ったかのように虚ろでありながらも、まるで餓えた獣が獲物を前にしているかのようにぎらぎらとどぎつい眼光を放っていた。
「…名前…君は……っ!」
瞬時に名前の姿が消えたかと思えば、肉眼では捉えることが出来ない神速なる速さで僕の眼と鼻の先に接近していた。それに気付いたのと彼女が僕に攻撃して来たのはほぼ同時であった。ぎりぎりの所でそれを躱すも名前は更に僕を追い込んだ。
「止めてくれ、名前!僕のことがわからないのかい!?」
名前は何も答えず、ただひたすら無心に繰り出し続けられる怒涛の攻撃は一向に止む気配が見受けられなかった。
「―っち!」
流石に回避だけでは限界を悟った僕は止むを得ず凛刀を抜き、透かさず伸縮させる。だが、それは飽くまでも攻撃を防ぎ、今の間合いを保つものであって、彼女を傷付ける為ではない。不規則な動き、不規則な攻撃に翻弄され、付いていくだけでも必死だった。だが、それだけでは何も変わらない。この状況は打破出来なかった。
思考を巡らすも打開策は浮かばない。このままだと持久戦に縺れ込み、先に僕の体力が尽きるのは必至だった。再び視界から彼女が消え、それを確認した僕は神経を研ぎ澄まし、細心の注意を払い、警戒を強めた。不意に陽が陰り暗くなったと感じ、素早く頭上を見上げるとそこにはこちらに飛び掛かろうとする黒い影。咄嗟に凛刀を振り上げて、その攻撃を防ごうとするが、余裕がなかった為に制御がままならなかった凛刀が彼女の腕や足を掠める。がくりと均衡を崩し、動きが鈍くなる彼女を見て僕は狼狽した。
「!しまっ…………っ!」
何が起こったのか理解出来なかった。気付いた時には僕の脇腹は抉られていて、そこから稲光が漏れる。惨たらしく痛々しい深手の外見とは裏腹に不思議なことで痛みは全くない。血も流れることはなく、抉られた、というよりは恰もそこには初めから何もなかったかのように消えていた、という表現の方が近い。しかし、思うように動けなくなった僕はその場に片膝をつき、凛刀を地面に突き刺し、上体を支えた。
自分のものではないように全く体は言うことを聞かない。そんな僕の方へゆっくりと近付く足音。地面しか写らなかった眼界に二つの爪先が入り込む。最早、どうすることも出来なくなった僕はここまでかと諦めるようにして眼を閉じた。
「……半…兵、衛…さ…ん…?」
たどたどしい呼び声にはっと眼を開ける。強引にぐぐっと顔を上げると先程までの敵意はなく、雰囲気ががらりと変わった、いや、僕の知っている彼女に戻った名前が愕然と悲しそうに見下ろしていた。
「……名前……?」
「………あぁ、…あっ……わた私、……私っ………ごめ…ごめん、なさいっ…ごめんな、さい、ごめなさいっ!」
名前はへたりとしゃがみ込み、両手で顔を覆いながら謝り続けた。自我を取り戻した彼女に安堵するも、僕はまた彼女を傷付けてしまった。目の前の彼女の姿にずきずきと胸が痛み、それが何よりも苦しかった。
「名前。良いんだ。君が無事ならそれで。」
「でもっ、でも!私はあなたを…!」
がくがくと震える手を伸ばし、自分がやってしまったことに取り乱す名前の頬に触れる。
「お願いだからそんな風に悲しまないでくれ。僕は君のその姿を見るのが何よりも辛い。」
「……もう、…どうすることも出来ないんですっ…力を抑えられないっ、……次に自我を失ったら、この世界を……あなたを消してしまうっ……今ならまだ間に合うかもしれない……だからっ―!」
「だから、僕に君を消せ、とでも言うのかい?」
名前は黙ってこくんと首を縦に振る。そんな彼女に僕は呆れ、渇いた笑いを漏らす。
「滅多なことを言わないでくれ。僕にそんなこと、出来る訳ないだろう。」
「でもっ!でもっ…!」
僕はそっと苦しそうにする名前の体を抱き寄せ、宥めるように頭を撫でた。少しでも彼女の憂いが晴れるようにと。少しでも僕の思いが伝わるようにと。
「君は今まで、独りで堪えてきたんだ。だからもう我慢しなくていい。もう頑張る必要なんてない。僕が居る。君はもう独りじゃないんだ。」
「……半兵衛さん…。」
「例えこの世界が、この体が消えようとも、僕はずっと君の傍に居るよ。」
腕の中にあった名前の両肩に手をやって少しだけ彼女との距離を作る。彼女の頬に撫でるようにしてそっと片手を添えて僕は微笑んだ。
「だから、笑ってくれないか。」
名前は下唇を噛み締めて、ふるふると小刻みに体を震わせながら俯く。暫くして顔を上げた彼女の表情は今まで見て来た中でもいじらしく、純粋で輝かしい笑顔だった。やはり、彼女には笑っていてほしいとその笑顔を見て僕はもう一度微笑む。
この上なく幸せな僕達の姿にこの世界は悲嘆するだろうか。それとも憤怨するだろうか。でも、それは僕からすれば取るに足らない矮小なことだった。世界がどうなろうと構わない。名前が傍に居る。僕はそれだけで十分なのだから。
世界は二人の為に
MANA3*100908