ED1 Parasitic Ending
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心から渇望していた彼女との再会。しかし、彼女の様子は僕の知らない、以前と比べ全くの別人と錯覚するほど変わっていた。それに少なからず僕の心は動揺する。彼女の足元を見ると動かなくなった松永が微動だにせず横たわっていた。
「大丈夫です。一時的に動けなくしただけですから。」
死んだ訳ではないですよ、と冷静にそう言いながら名前は僕の方へ向き直る。
「既にお察しの通り、私は蟲です。この世界のすべてを蝕む変則的な存在。」
「……名前……。」
「可哀相な人。ずっと私に騙されていたことも知らないで。あなたは私に利用されたに過ぎないんですよ。全部この男が言った通り。相手なんて誰でも良かった。傍に居てほしいと思うのも私の力によるもの。偽りなんですよ。すべて。でも、それも今日で終わりです。あなたは良い退屈凌ぎでした。それだけは感謝しないといけませんね。」
名前は憐れむように僕を見てせせら笑う。胸の奥深くを鋭利な刃物で抉られるような痛みが襲う。僕を非難し、愚劣な者と見縊る姿はこの眼には彼女が泣いているようにしか写らなかったからだ。
「じゃあ、何であの時、君はあんなにも苦しそうにしていたんだい。」
僕の問いに名前は一瞬驚きを見せ、ばつ悪そうな顔をするだけで何も答えようとはしなかった。
「名前。僕は君に騙されたなんて思ったことは一度もない。君の一つ一つの仕種、一つ一つの言葉のすべてが僕には愛おしいんだ。それは今でも変わらない。それでもすべてが偽りだったと言うのなら、僕は君の本心が知りたい。君の偽りのない気持ちを聞かせてほしい。」
顔を背け、押し黙る彼女の唇は微かに震えていた。僕は静かに見守りながら、ただひたすらに彼女の答えを待っていた。
「……私、っ…私は…―――っ!」
―ザシュッ
不意に何処からともなく斬撃が響いたかと思えば不自然に名前の声が途切れる。途端、彼女の体が耳障りな雑音を立てると共に霞み始める。何が起こったのか理解出来ず、唖然とする僕の視界が捉らえたのは、彼女の背後に立つ、倒れ伏せていたはずの男の冷笑だった。
「油断したね、お嬢さん。」
体が霞む進行は止まることなく、今にも名前は消えそうだった。苦しそうに胸を押さえ前屈みになり、蹌踉めいて前に倒れそうになった体を片足を前に踏み出すことによって何とか持ち堪える。ゆっくりと項垂れた頭を上げれば切なく揺れる瞳が僕を見詰めた。
「……半…兵……え………さ……―」
「名前!!!!!!」
僕は名前の体を抱き留めようと駆け出す。しかし、手が届く寸前で彼女の姿は目の前から虚しく、無情にも完全に消滅する。暫く立ち竦んでいた体はがくりと崩れ落ち、地面に両膝をつけた。俯く僕はわななわなと震え、彼女に触れることはなく、救えることが出来なかった無力な手を食い入るように見詰めた。
「瑕疵としての力が僅少な衝撃でも存在が消える程に衰弱していたか。」
っ名前…!
「憂いることは何もない。すべては元に戻った。それだけのことだ。」
名前!
名前…っ
「良かったではないか。蟲は消え、卿は呪縛から解放された。」
名前…
名前…―
名前
名前
名前
名前
名前
名前
「……ふっ…ふふ………ふふふ……はは、あはははははっ………。」
抑えられなかった込み上げる笑いが不気味に木霊す。どうにも可笑しくて仕方がなかった。
「……名前が消えた?一体何を言ってるんだい?」
ゆらりと立ち上がると頭をだらりと後ろへ反らせ、片手を胸に当てながら相手を見てにたりと嗤う。
「彼女はここに居るじゃないか。」
この上ない心地好さ、言い知れぬ快感が僕を支配した。頗る気分が良かった。何もかもが僕の中で満ち足りている。実に愉快であった。果てしない悦楽にくつくつと笑いが止まらない。
「………卿は…まさかっ…!」
「さぁ、名前。二人で壊そう。君のことを受け入れないつまらないこの世界を。」
狂った笑い声だけがいつまでも闇の中で響いていた。
寄生蟲
MANA3*100906