不逞の輩を殲滅せよ
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やたらと分厚く重ねられた紙の一枚一枚に判を押していく。紙には大量の文字が羅列し読む気を失う。元々私が読むべきものではないが読む気なんて微塵もないし、紙の内容にも興味がない。適当に判を押していった。少しばかりずれたり掠れたりしても全く気にしなかった。だから、不意に紙に書かれた恐ろしい文字が目に入ってしまった時は口からではなく胸をぶち破って心臓が飛び出て来るかと思った。
途端、判子を持つ手が震え出す。このままだと判子を押すときにぶれてしまうのは一目瞭然だ。私は自分を落ち着かせてから再び判を押し出した。今度は丁寧に、時間を掛けて。
私は無心に判を押していった。一旦、のめり込むと集中力は著しく上昇する。慎重になり過ぎて時間が掛かった作業も、今はスムーズにこなす。まるで職人になった気分だ。判子を押す職人って何だ。てか、職人さんに失礼だ。
そんな、職人になった錯覚を起こしている私は先程から部長からの質問攻めを受けている。
「苗字」
「何ですか」
「…す………」
「…………
「好きな教科は、何だ」
「国語です」
「……そうか…」
「…………」
「苗字」
「何ですか」
「…好…す……好きな、本は何だ」
「星の王子さまです」
何故か質問が好きな物シリーズで統一されている。質問に答えながらも黙々と判を押し続ける。
「苗字」
「何ですか」
「す…好きな…」
「…………」
「好きな…奴は…」
あ、………ずれた……。
「先輩」
「なっ、何だ!」
「うるさいです」
バリーーーーーン!
突如、鼓膜を破る様な硝子が割れるけたたましい音が部室に響き渡る。タイミングがタイミングだったので、一瞬私は、先輩の硝子のハートが割れた音が聞こえたのかと思った。でも私は先輩のハートが硝子の様に繊細なのかは知らない。
「やべぇっ…やっちまったぜ…」
陽当たり良好の部室の窓は無惨にも砕け散り、その窓の前に席を置く毛利先輩は机に倒れ、更にその横には白髪で眼帯の人がが立っていた。この人は窓から入って来たのか。ここは三階だぞ。
私は突然の出来事に口を開けたままその人を見ていたら、目が合った。
「…あんた誰だよ」
それはこっちの台詞だ。
「こいつだよ。例の毛利のお気に入りってのは」
いつの間に入って来たのか、部屋の入り口に茶髪でまたしても眼帯の人が腕を組んで佇んでいた。
お洒落なのか怪我をしたのか知らないが室内に居る二分の一が眼帯なんて眼帯率が高い。四人しか居ないけど。
それよりも何なんだ。何なんだこの二人は。どう見ても不良にしか見えない。特に白髪の人が。何なんだ最近の眼帯は。
「あ~じゃああんたが苗字名前か」
「え、あーはい」
不本意にもあの集会以来、私の名前はこの学園内に轟かされてしまっている。
あぁ、嫌だ。もう嫌だ。帰りたい。取るに足らない事で笑っていたあの頃に帰りたい。
「ははっ、あんたも気の毒なこったな」
不良眼帯さんが私の背中を叩きながら哀れみの言葉を投げ掛ける。同情するのに何故笑う。人の不幸で笑うなんて全くなんて人だ。なんて眼帯だ。そんな人はもう片方の目も眼帯をして希望の光を失えば良いと思う。
「それにしても、毛利が誰かを入部させるなんて。何でだろうな」
「It doesn't know」
それは私も思う。判子を押すだけなら誰だって出来るし、はっきり言って私じゃなくて良い。
「そう言えば毛利は…Ahー…」
茶髪の眼帯の人が机に倒れている毛利先輩を見付けた。そして呆れた眼差しを白髪の眼帯の人に向けた。もう二人共眼帯なんでややこしい。頗るややこしい。
「いやいや、違ぇって、ロープが短かったんだよ!もうちょい長かったらちゃんと窓の下の壁に足が着いてたって!」
何やってんだ!何てワイルドデンジャラスな事をしてくれたんだ!あなたのせいで硝子は割れるし犠牲者まで出たではないか!何がロープが短かっただ!例えロープがもうちょい長くてもやるべきではなかった!思い止まるべきだった!何があなたを駆り立てたんだ!
「だから止めとけって言ったのによ」
「お前だって笑ってたじゃねぇか」
だから何だ。いや。笑ってたのはいけない。笑いながら止めてたならそれは止めてない。楽しんでる自分を抑制出来てない。これだから最近の眼帯は。
「それにしても、あんたなかなかCuteな顔してんな?」
「はい?」
「どうだい?俺のHoneyにならないか?」
茶髪の眼帯の人がやらしい声で私の顎に指を添えて口説いて来た。色んな意味で背筋がゾッとした。
「おいおい、あんま調子乗ってっと、がぁっ!!!!」
制止の声が詰まったのを不思議に思い振り返ると白髪の眼帯の人の首を指の一本一本食い込ませる様にして絞める意識を取り戻された毛利先輩の姿が。
しかし、まだ意識が朧気なのか、黒目の焦点が定まってない上に顔色が宜しくない。機嫌も宜しくない。目の前の光景がまるでホラー映画のワンシーンみたいになっていた。
「この…愚か者共めが…」
首を絞める手に更に力が込められる。白髪の眼帯の人の口から呻き声が漏れ、目も何かいっちゃってるみたいでさぞかし苦しそうだ。
「Ahー今日は退くか。じゃあな、Honey!」
「え、ちょっ!目の前のサスペンスをどうにかしないんですか!?」
「No problem。いつもの事だしな」
えぇ!!そんなの嫌だ!そんないつも嫌だ!サスペンスは一週間に一度で良いじゃないか、火曜日の一度だけで!サスペンスはフィクションの中だけで十分じゃないか!
茶髪の眼帯の人は白髪の眼帯の人を置いて去って行った。
私は少しだけ放心状態に陥ったが、何とか尊い命を救い、殺人未遂に終わらせるべく振り返りたくはなかったが、再度、サスペンスが繰り広げられている後ろへ振り返った。
毛利先輩は背中をこちらに向け何かを投げ飛ばした様な体勢をとっていて、破砕された窓の向こう側には太陽の逆光を浴びる白髪の眼帯の人の姿があった。
宙に浮いていた体は、重力に逆らう事なく落ちていった。
死んだあああああああああ!!!!!!!!
間違いなく死んだああ!!!!ってか既に死んでいたかも知れない!落ちる際に悲鳴の一つ聞こえやしなかったわ!!黙って落ちていきましたけど!?駄目だ!事件だ!事件が起きてしまった、ノンフィクションで!間違いなく死んだし、間違いなく夕方のニュースで報道されますよこれ!
毛利先輩の顔は未だに優れてはいない。ただ、目が殺人鬼の目になっている。
その目を向けたまま、殺人鬼は近寄って来た。私は恐くて身動きがとれなかった。
「あの輩とは関わるでない。良いな?」
「は、はい!よい、良いです!」
先輩は自分の席にある電話を取ると新しい硝子を注文した。多分、電話の相手は校長先生だろう。可哀想に。
この事件が夕方のニュースに報道される事はなく、私は安堵した。
―次の日―
「先輩はなんで私をこの部に入部させたんですか?」
「そ、それは…」
「それは?」
「我が…苗字を…―」
バリーーーーーン!
「んあ?っかしーな。ロープは長くしたのに何で、ぐがっ!!」
「可笑しいのは貴様の頭の方だこの屑めが!」
「Hey honey!俺が居ない間、浮気してなかったか?」
不逞の輩を殲滅せよ
(向こうから関わって来る場合どうすれば良いんですか。)
(ってか生きてた!けど死にそう!)
MANA3*080717
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