死して尚その魂は死せず
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あれから数日。元就さんもこの家に住まう事になった。それに半兵衛さんは断固反対したが、元就さんがここに居られないのなら路頭を彷徨う事になり、それで死人である元就さんの存在が公になれば、世の中に想像だにしない混乱を招く事になるのは必至。良くて奇跡の人と崇め奉られるカリスマ教祖となるか、最悪NASAへと一直線だ。そうなって来ると同じ死人である半兵衛さんの存在も危うくなって来る。正直、既に私に取っては危険窮まりない存在なのだが。そうなってしまうのは半兵衛さんに取っても都合が悪いはずだ。即ち、元就さんをここに住まわせるしか選択肢はないのだ。私の懇切丁寧な説得に半兵衛さんも首を縦に振る他ないだろうと思いきや、あろうことかあの地底人は「君は僕達二人だけの世界に第三者が介入する事を良しとするのかい!?」と喚き立てるので「じゃあお前がNASAに行け。」と言って黙らせました。この家で主導権を握っているのは私なのだ。それから元就さんが苗字ではなく名前で呼んでくれと言ってくれたので遠慮なく名前で呼ばせてもらう事にした。
「名前、手伝おう。」
「え、良いんですか?」
「構わぬ。」
元就さんは私が家事なんかをしていると良く手伝いをしてくれる。洗濯物を畳んでいる時、ご飯の用意をしている時、今みたいに洗い物をしている時も屡々だ。学校の宿題でわからない所があれば教えてくれたりもする。元就さんは凄く頭が良く、教え方も非常にわかり易く上手だ。頭が良いと言うならば、もう一人の同居人も元就さんに引けを取らない程に頭が良い。何回か宿題を教えてもらった事もあるがその度にこれも勉強の一環とか言ってセクハラをして来るのでその度に私の筆箱の中のありとあらゆる筆記用具達がありとあらゆる凶器へと変わっていった。半兵衛さんは宿題以外にも頭が良い人イコール常識人であるとは限らない事を教えてくれました。本当にありがとうございます、くたばれ。それはそうと元就さんは本当に良く私を手伝ってくれている。お蔭で助かってはいるのだが。居候の立場から気を遣っているのだろうか。それが理由ならそこまで世話を焼かなくても良いのだけれど。それよりももう少し笑ってくれたら私としても嬉しいのだが。どうも元就さんは感情表現が乏しい。
「ぐふぉぉ…お、重い…。」
今し方、買い物を終えスーパーから出て家路につく私の両手には膨れたエコバッグがぶら下がっている。今日はペットボトルや洗剤やら重い上に嵩張る物が多く、更にティッシュペーパーまである。安さに釣られてついつい買い込んでしまったが、その代償に私の手にエコバッグの取っ手がこれでもかと言う程に食い込んで来る。そして、ティッシュペーパーの箱が歩く度に脚にぼんぼん当たって来るもんだから堪ったもんじゃない。しかも、角が当たって来るのが地味に痛い。家までは大凡、後半分位か。大した事のない距離だか今なら天竺への道程にも思えて来る。とてもじゃないが天竺まで私の手が持ちそうにもない。いっその事、荷物を置いて行こうなどと破れかぶれな考えが頭の中を過ぎった時だった。忽然と重量がなくなり軽くなる右手。不思議に思った私の視線は必然的に右に移る。
「元就さん!?」
予想外の人物の存在に私は目を見張った。いつの間にか右隣に立っていた元就さんの手には先程まで私が右手に持っていたエコバッグとティッシュペーパーが提げられている。
「何でここに…。」
「そなたの帰りが遅かったのでな。身を案じ手遅れになる前にと先手を打ったまで。」
手遅れって、そんな大袈裟な。元就さんはいつぞやの何処かの誰かさんの様にサングラスを掛けていた。それは自分の存在を隠蔽する為のものなのであろう。そもそも私が一人で買物に出掛けるのも半兵衛さんも元就さんも外に出て誰かに見られでもしたら、それこそ二人の知り合いなんかに出会してしまったらとてもまずいので、なるべく外出は控え、家に居てもらっているからなのだが。元就さん、あんまりサングラス似合わないな、誰かさんと同じで。サングラスより眼鏡の方が圧倒的に似合ってるな、誰かさんと同じで。共通点は結構あるがその人物と元就さんを同じカテゴリーに分類してもらっては困る。それはあまりにも元就さんが不憫だ。
「心配をかけてしまった様ですみません。正直、助かりました。」
「無事ならそれで良い。それにこれも亭主としての務めだ。」
亭主かどうかはさておき、何て洗練された人なんだ!!!!何処ぞの地底人とは偉い違いだ!その地底人には須らく元就さんの爪の垢を煎じて飲ませてバーストしてもらいたい。
「あ、そっちの方が荷物重いでしょう?私がそっちを持ちます。」
「必要ない。」
「じゃあせめてティッシュペーパーを持たせて下さい。右手が手持ち無沙汰なので。」
「ならば―」
右手をやんわりと温もりが包み込む。何かと右手を見ればその温もりの正体は元就さんの左手だった。突然の事に状況を飲み込めず言葉を失う私。私はティッシュペーパーを渡す様に頼んだつもりなのだが。何故に手を繋ぐ必要が。
「これで良かろう。」
流れる沈黙。何が良いのかわからないままに「直に日輪が暮れる。早く帰るぞ。」と元就さんが歩き出し、手が繋がれている私も必然的に歩き出す。心做しか、元就さんの顔が赤かった気がする。
「ただいまー。」
元就さんのお蔭で私は無事に家へと辿り着く事が出来、安堵した。重い荷物を玄関にどさりと置いて靴を脱いでいたらリビングから半兵衛さんが現れた。
「ああ、名前。おかえ…り……。」
微笑みながら出迎えてくれた半兵衛さんだったが、何かに気付いた様子で目を見開くと歯切れが悪くなると共に血相を変えて、すたすたと玄関の方へ接近して来る。すると、元就さんと繋がれていた手を手刀で切り離して、私を自分の方へと引き寄せて腕の中へと閉じ込めた。
「一体どう言うつもりなのかな元就君。夫である僕を差し置いて名前の隣に並ぶばかりか、手まで繋ぐとは。些か不躾ではないかい?」
「我は名前の身を案じて馳せ参じたまでだが。ただ名前の部屋を物色する様な下劣な輩とは違ってな。」
「 何 だ と ? 」
「人聞きの悪い事を言わないでくれたまえ。僕は名前の部屋と言う空間を完全に把握している。家具の配置は勿論、下着が箪笥の何段目にあるかも、枚数も、どの色、どの系統のものが多いかも全て熟知していると自負しているつもりだ。今日はベッドに寝転がってみたり、枕やシーツの臭いを嗅いでハアハアしたり、下着を拝借しげはああっ!!!!!!!!」
「くたばれ変態ゾンビ!!!!!!」
私は奴にアッパーカットを喰らわせ天誅を下した。目標は完全に沈黙。是非ともそのまま死んでくれ。私は何も言わず玄関に置いたエコバッグを持ち上げると変態の屍を踏み越えてリビングへと歩いて行った。
「無様だな、竹中。」
「ふっ、君にはわからないのかい?僕達の甘く柔らかな愛が。」
「ほざくな変態。しかし、貴様がここまで愚かなのはこちらとしても好機。そのまま自滅してくれるならば尚好都合だ。」
「…それはまた、笑えない冗談だね。」
「良いか?我は本気ぞ。」
死して尚その魂は死せず
(嗚呼、我が美しく輝く花嫁よ、)
(願わくばその全てを我が手に!)
―――――
本当はもう少し続くのですが長いので区切りました。
MANA3*111101