再会の墓場
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お墓の前にしゃがみ込んで目を瞑り、手を合わせる。
さっき付けた線香の匂いが私の鼻腔を燻った。
皆、元気ですか?私は元気です。とは言っても昨日私は寂しさのあまり、皆の所へ逝こうとしてました。今でも寂しい気持ちは変わりません。でも、もう暫くこっちに居る事にしました。私がいつか皆の所へ逝くその時まで、どうか見守っていて下さい。私は頑張ります。
…頑張ろうと思うんですが、一つだけ…一つだけ問題が発生しました。
「うん。心で家族に語りにかけるその姿も素敵だよ」
「何でここに居るんですか、竹中半兵衛さん」
「嫌だな。僕の事は半兵衛、もしくはあなたと呼んでくれて良いんだよ。何ならダーリンと呼んでくれても構わない」
「おい、地底人。何故ここに居る」
ごく自然に私の隣に立つ竹中さん。現れてくれなければ、昨日の事は夢だ幻だと思う事が出来たのに。
「決まっているじゃないか。僕を三度も打った挙げ句、放置プレイをした君にお仕置きする為さ」
「あなたは口が開けばそうゆう事しか言えないんですね」
「まぁ、それは今は冗談として」
「今はって何ですか今はって」
「本当は愛する花嫁を追い掛けに来ただけだよ」
奴の方を見ると誇らしげな表情をしていたので、私は歪めていた顔をより一層歪める。今言った事も冗談だったら良かったのに。
「それより今日は平日だよ。学校はどうしたんだい?」
今は昼前だろうか。普通なら学校へ行き、学生として勉学に励む時間帯だ。家族を喪ってから一度も行く事がなかったが、そろそろ登校すべきであろう。
しかし、私は心の中である決意をしたのだ。
「…学校はもう辞めます」
風が立ち上る線香の煙を揺らし、私の頬を撫で、髪を鋤いていった。
穏やかに吹いた微風は少し冷たく感じた。
「何故?」
理由を尋ねるその声からは驚くなんて様は微塵もなく、随分と落ち着いているものだった。
「働こうと思って。学校に行ってたんじゃ、生活出来ないですから」
無心に線香の先で鈍く光る赤をぼんやりと眺めながら私は言った。静かに、確実に線香は灰へと化してゆく。
「学校へ行きたくないのかい?」
「行きたいですよ。でも、しょうがないじゃないですか」
仕方ないんだ。諦めるしか。私が自分で悩んで、考えて、出した結論なんだから。多少残る未練も今だけだろう。そう信じてる。後悔はしない。後悔はしないつもりで選択したんだ。
「なら、辞める事はないよ」
「は?」
「僕が君を支える。だから学校に行きたいのなら行くと良いよ」
再び奴の顔を見るとやんわりとした微笑みをこちらに向けている。
「何を言ってるんですか?」
「お金の事なら問題ない。さっき君の学校に学費を払ったからね」
「!?払ったって…まさか、地底のお金で…!?」
「何だい地底のお金って。違うよ、ちゃんとしたお金を払ったよ。この通り受領書もある」
提示された紙を受け取り、内容を見ると、確かに私の学校に学費は支払われた様だ。しかも、これから卒業までの学費を一括でだ。
いやいやいやいや、有りなのか!?これは有りなのか!?ってかこの人、死んでんのに地底以外のお金をどうやって用意出来たと言うんだ!?取り敢えず、きっと学校はうっはうはでお金を受け取ったのだろう。
「何でこんな事…」
「それは、僕が君の夫だからだよ」
「えぇー」
「いや、えぇーって」
学費を払った理由に頷く事は出来なかった。寧ろ、受け入れを拒否したいくらいだ。
しかしだ。既に卒業までの学費を支払い、学校はそれを受け取り、受け取った証拠まで有るのだ。学校に行けると思えば嬉しいのだが、内心はとても複雑だ。
兎も角。納得は出来ない事は大いにあるが、お礼を言っておくべきであろうか。
「…何か、良くわからないですけど……ありがとうございます…。あの…お金はいつか」
「ああ、良いよ気にしなくて。僕を君の家に住まわせてくれればそれで」
「は?」
「僕が君を学校に通えるにしてあげたんだ。断るなんて事、ないよね?」
な、何だとこの野郎!まさか、最初からそれが狙いか!?どんな顔してそんな事言ってんだ、って黒!!笑ってるけど、黒!!笑顔黒!!!!
「で、どうなのかな?名前」
断るなんて出来ないのを知りつつホームレス地底人は私に問い掛ける。相変わらず黒い笑顔で。人の弱味に漬け込むなんてとんでもない奴だ!とんでもない地底人だ!間違いない、こいつは策士だ!
どうやら、諦める他ならない様だ。
「…ふ、不本意ですが……どうぞ…住みたいのなら…」
「やれやれ。君はいつになったらデレの部分を見せてくれるのかな」
「私、別にツンデレじゃないんですけど」
「まぁ、これから調教して行けば良い話だしね」
「最悪な話ですね。この上なく鬱陶しいです」
私は家に向かって歩き出した。その後を嬉しそうに地底人が着いて来る。そろそろ、いいともが始まる時間だ。
「それから、僕の事はちゃんと名前で呼んでくれないか」
「…………わかりましたよ、半兵衛さん」
「…今はそれで許すけど。あぁ、ご主人様と呼んでくれても良いんだよ?」
再会の墓場
(花嫁は全速力で走り出した。)
(しかし、直ぐに花婿に追い付かれた。)
MANA3*080612