樹海のマリアージュ
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うっかり地上に姿を現し地上の人間である私に目撃されてしまった地底人は動揺する事なく、微笑んだ。果たしてそれは「お前など今すぐにでも瞬殺出来るんだからな」と言う意味なのか。兎も角、左腕が骨と朽ち果てた地底人の出現に私は断末魔の悲鳴を上げた。
あぁ、そうか。これは夢なのだ。そうだ、そうに決まっている。目を瞑って五秒…いや、三秒数えたら目を開こう。そしたら夢から覚めて、現実に戻るはずだ。うん。
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2
1
0と同時に目を開く。
視界にはさっきの人の顔で覆い尽くされていた。
「ぎゃああああああああ!!!!!!」
バチンッ
「痛っ!!」
私は驚きのあまり手が出てしまい、痛快な音を響かせる平手打ちを炸裂させてしまった。でも、仕方ないと思う。これは正当防衛だ。
「な、何してんですか!?」
「何って、誓いの口付けだよ。君だって目を瞑ってたじゃないか」
「はいい!?!?」
平手打ちされた頬を抑えながら、訳のわからない事を平然とほざく地底人。
「それにしても。君は見掛けによらず、強かな女性だね」
地底人は立ち上がると、ゆっくりと歩み寄って来た。
「けれど―」
私の首に掛かったロープを手に取り、強めに自分の方へ持ち上げる様に引っ張った。項に食い込むロープの感覚、そしてこの行為自体に顔を歪めた。
「人を痛め付けると言う行為は僕の役目だ」
「へ、変態!!」
ドゴォッ
「痛ッ!!」
真顔で誇らしく気に変態発言をした地底人を私は拳で殴った。変態地底人は殴られた勢いで地面に倒れ込む。
「くっ、一度ならず二度までも…。だけど、サディズムは僕の専売特許、本能なんだ。このポジションだけは、例え花嫁である君にも譲る訳にはいかない!」
「譲らなくて良いんで、どうぞ地底にお戻りになって本能のままに生きて下さい」
「愛する人を加虐してこそのサディズムだろう。それに僕は地底人じゃないから。だけどこの通り。僕はこの世に生ける者ではない」
態々見せ付ける様に前に出された左腕の細い骨。その不必要な優しさに、立ち上がりながら服の汚れを払い背中を見せ逃走を計ろうとする私の腕をあの左腕が阻止する。
「何処へ行くんだい?」
「ぎゃあああああああああ!!!!!!嫌!止めて、離して!しかも剥き出しになってる方の手で掴まないで!触らないで!」
払おうと抗う度に掴む骨が空しい音を鳴らせるだけで、決して離れようとはしない。
「花婿を放置プレイするだなんて…それで僕が悦ぶと思ったら、大間違いだよ!」
「別にあなたの為に逃げようとした訳じゃないですから!」
「何だい、それは。俗に言うツンデレと言うやつかい?良いよ、それでこそ調教しがいがあるものだよ!」
「遭遇して間もないですが、あなたの言う本能に忠実な発言にはうんざりです!」
自分の本能と左腕の骨を剥き出しにする相手に一体どう対処すれば良いのか。兎に角、心底逃げたいのだが先程から振り払おうと激しく動かす腕はまだ解放されない。
不意に腕を掴んで解放しない骨の手の先が煌めいたのに気付く。不思議に思い動かすのを止め良く見ると、左手薬指に私の指輪が填められいる。
「あ!指輪!」
「あぁ、君が僕にくれた結婚指輪の事かい?」
「いや、違う!勘違いも甚だしい!」
この人は死んだのに何てポジティブなんだ。そのポジティブさに逆に私はネガティヴになってしまう。
「返して下さい」
「断る」
「母の形見なんです」
「今は僕の結婚指輪だ」
「形見って言ってるじゃないですか。少しは戸惑えよ」
人の親の形見だと言われても顔色一つ変えないなんてどうゆう神経をしているんだ。でも、死んでるのだし神経なんて残っているのだろうか。うん。きっと無神経だ。
「形見、か。そんな大事な指輪を填めて君は死のうとしたのかい?」
薬指に填められた指輪を見詰めながら言われた一言に胸が痛んだ。無神経なのは私の方だ。
けれど、私は寂しかったのだ。家族を失った事実を受け入れ、孤独に耐える事が出来なかった。耐えようとしなかった。現実から逃げようとした。
「こんな事をして、君の母親もあの世でさぞかし嘆いているだろうね、名前」
「え、名前…」
「君を一人にさせてしまった事を御家族の方はとても悔やんでいたよ」
「………逢ったん…ですか?」
「まぁ、ね」
突然、明かされた話の内容にそれ以上言葉が出なかった。ただ、私を戒める様に胸が大きく痛み続ける。だが、目の奥が熱くなって、涙が出そうになったのは痛みのせいではない。
「それでも君が死にたいと言うのなら、僕も一緒に首を吊ってあげるよ」
「結構です」
既に死んでるのに何故、一緒に首を吊る必要がある。私が苦しんで暴れる醜態を同じ目線でへらへら笑いながら見届けるつもりか。そうはさせるものか。
「もう…馬鹿な真似はしませんから」
「…そう」
本来ならば知るはずもなかった真実を知ったからには、私は生きなければならない。例えこの先、拭い切れぬ寂しさに涙を流し、孤独を痛感するとしても。
「でも、僕と結婚したからには寂しい思いはさせないけどね」
「あ、指輪返して下さい」
「僕は竹中半兵衛。君の花婿となる者の名前だ」
「竹中半兵衛さん。今すぐ指輪を返して下さい」
「さぁ、今こそ誓いの口付けを…」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!」
バチンッ
樹海のマリアージュ
(花嫁は花婿から逃げ出した。)
MANA3*080518