番外編03_死人に梔子
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音を立てない様にそっと静かにドアを開けた。部屋の中は真っ暗で廊下から挿す光がぼんやりと部屋を照らす。部屋のベッドにはぐっすりと眠る名前の姿。僕は彼女の眠るベッドへとゆっくり近付いて腰をかけた。無邪気に眠るその寝顔に自然と心が安らぎ、顔も綻ぶ。指の背で頬を撫でるとそこから伝わる生きていると言う体温。温かい。死んでしまった僕にはもう失われてしまったものだ。こうして名前に触れるだけ幽霊よりは増しかもしれないが、こうして死人である自分は彼女とは絶対的に違う、抗い様のない事実をまざまざと突き付けられるのは言葉では言い表せられない程の虚しさと悲痛が押し寄せて来る。
「君は、覚えていないんだろうね。」
指の背で顎から蟀谷へ輪郭をなぞり、掌で頬に触れる。すうすうと規則正しい寝息を立てる彼女からの返事はないし、僕の声は届かない。しかし、名前の意識がある時に面と向かって聞こうだなんて気は更々ない。答えを知りたくないと言えば嘘になる。でも、それは聞いてはならない事だ。聞いた所で彼女を困惑させてしまうだけだろうから。彼女が望むのであれば全てを包み隠さず、打ち明けても構わないが、まだその時ではない。名前には幸せになってほしい。出来る事なら僕が幸せにしてあげたい。僕なら名前を幸せにしてあげられる自信がある。けれども、それはきっと儚い願いなのであろう。だから今だけ、そう、今だけで良い。もう少しだけ、この奇跡に縋らせてほしい。
「今はまだ知らなくていい。」
おやすみ、そう言って何も知らずに眠る彼女の唇に口付けた。
死人に梔子
(僕はこの数奇を万謝すべきか、呪うべきか。)
―――――
知ってましたか?この連載ってシリアスなんですよ?生と死のスクウェアで半兵衛サンが主人公のファーストキスはどうのこうの言ってた話。コープスグルームで主人公以外の視点で書いたのは初めてじゃないでしょうか。この日に限らず半兵衛サンは毎晩、主人公の部屋に訪れている設定。
(MANA3*130329)
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