番外編02_夢とは違う残酷な現実
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いつも通り、設定された時刻に鳴るアラームに目が覚める。体を起こして眠い目を擦った後、何をするでもなくぼんやりとする。ふと奇妙な違和感を抱いて周りを見渡すが特に異常はない。いつもの私の部屋だ。しかし、何か変だ。何かが可笑しい。
「……あー………。」
寝起きの頭で考えた私はその違和感が何なのかに気が付く。そうだあの人だ。半兵衛さんが居ない。そう、いつもなら朝はあの人が部屋に突入してキスをせがんだり、起きたらいつの間にかベッドの中で私を抱き枕の様にして寝ていたり押し倒されたり脱がせ様としたり縛られてたりとあの人が来てからと言うもの碌な朝を迎えた事がない。そろそろ、部屋を要塞と呼ぶまでにセキュリティを強固たるものにするべきだと思ったが、そんな事をするよりもあの地底人を闇に葬る方が早いし手頃なんじゃないかと思い始めた今日この頃なのだが。しかし、こう何もなく静かなのも逆に不気味だ。嵐の前の静けさではないかと内心穏やかではない。何だこれは。新手の心理戦なのか。一人ベッドでやきもきしていると部屋のドアが開く音が聞こえた。
ゆっくりとドアを開け、部屋に入って来たのは半兵衛さんだった。出たな地底人め!やはり今日も今日とて私の清々しい朝を泥臭くするつもりか!そうはさせん、そうはさせんぞ!
「おはよう、名前。」
柔らかく微笑みかける相手をじろりと睨みつける私の体は自然と身構えて威嚇する。それに動じもせずに半兵衛さんはこちらへ近付いて来る。これ以上、間合いを詰めさせない為、何か投げつけてやろうと右手で枕を掴んだが別の手が右手に覆い被さり動きを封じられる。その手が誰の手かだなんて考えるまでもない。目と鼻の先には奴の憎たらしく笑った顔が。
「っ!」
「大丈夫、怖がらないで。何もしないから。」
そっと頭を撫でる半兵衛さんが纏う雰囲気がいつもと違う様に感じた。その紳士的な振る舞いはまるで別人だ。いや、これは油断させておきながら隙を突いて来る作戦ではなかろうか。狡猾な地底人の事だ、それは十二分に有り得る。しかし、半兵衛さんからは襲って来る様な気配は全く感じない。いつまでも髪に指を絡ませながら頭を撫でるだけ。その指先が心地好くも何だか擽ったかった。
「名前、君が僕を疎ましく思うのは理解しているつもりだ。今まで君の気持ちを考えもせずに軽率な行動ばかり取っていた。心からすまないと思っている。だが、全ては君を愛するが故なんだ。わかってくれとは言わないよ。でもこれからも君を愛する権利を僕にくれないか。」
誰 だ お 前 は !
この人、本当に半兵衛さんなのか!?本当に別人の様、いや別人だ!頭でも打ったのか!?昨日までの変態地底人は見る影もないではないか!気持ち悪い!紳士的な態度は好感が持てるが今までこの人が犯して来た過ちの数々を嫌と言う程に思い知っている私はそれが薄気味悪くて仕方がなかった。しかし、いつもとはあまりにも違うギャップに少なからずときめいているのもまた事実。
「…へ、変な事しないで、普段から今みたいな感じで居てくれれば…別に…構わないですよ…。」
何故、私はこんなにも照れているのだろう。相手はあの変態で気狂いで卑しく浅はかな気持ち悪い変態の半兵衛さんなのに。でも今はそうではない。端正な顔、長い睫毛、白い肌、しなやかな指、すらりと伸びる脚。黙っていれば半兵衛さんは普通に格好良いのだ。私を壊れ物様に優しく接する彼は紛れもなく洗練された魅力的な一人の男性だった。
頭を撫でていた手が頬へと滑り下りて来る。細められた瞳が恍惚に私を見詰めていた。ねっとりとしたを静かなる執着を孕んだ視線は私を捉えて離そうとはしない。心臓がどくどくと脈を打ち、全身を熱が帯びていく。触れられている頬と右手が溶ける様に、熱い。
「名前。」
色めいた熱っぽい吐息を交えながら私の名を呼ぶその声は敏感になった聴覚を刺激した。半兵衛さんはそのまま言葉を続ける。
「キス、しても良いかい?」
私は目を見開いて言葉を失う。何もしないと言ったくせに。この流れでそんな事を言うだなんて。いや、拒絶すれば良いのだ。一言、ただ一言、拒絶を口にすれば良い。だけど私の口は何も言葉を紡ごうとはせず、開こうとはしない。理由は自分でも良くわからなかった。熱くて頭が上手く働かず、正しい事と悪い事を識別出来なかったのかもしれない。私は何も言わなかった。私は何も言えなかった。
「何も言わないのは、肯定、と受け取ってしまうよ。」
ゆっくり、段々半兵衛さんとの距離が確実に縮まっていく。何も考えていなかった。何も考えられなかった。後で何も考えなかった自分を悔いて後悔するかもしれない。しかし、思考も全て熱に溶かされてしまうのだ。そして、流れに身を委ねて、私はそのまま目を閉じた。
いつも通り、設定された時刻に鳴るアラームに目が覚める。体を起こして眠い目を擦った後、何をするでもなくぼんやりとする。鮮明に頭に残っているさっきまでの出来事を思い出す。しかし、その出来事をはっきりと思い出す事は出来ても、何と言うか、矛盾しているのだがあやふやなのだ。そこで私はやっと気付く。
「………夢か…。」
バアン!
その時、勢い良く部屋のドアが開き、反射的にそちらへ顔を向けた。
「おはよう名前。寝起きの君の表情も可愛らしいね。誘ってるんだね。そうか、朝から僕を誘っているのだね!?そうなんだね!?嗚呼!何て淫猥なんだ!そんな積極的な君も僕は愛しているよ!さあ、今すぐ君を縛らせてくれ!」
「夢と違い過ぎるじゃないか!!!!」
「ぐはあっ!!!!」
夢とは違う残酷な現実
(理想のあなたはもう死んでいた。)
(所詮は儚い夢。)
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知る人ぞ知る、都市伝説の『夢と違う』のパロディ。
MANA3*111026