死体の花婿
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不気味な雰囲気が漂う樹海。立ち入る事を禁じられているこの場所で、私は箱の上に立ち、木の枝に固く結ばれ垂れた先のロープの輪を握っていた。
今日、私はこの世からお去らばする。
五日前だ。家族を交通事故で失ってしまったのは。親戚の人達や友達が哀れみながら励ましてくれたが、私の心が癒える事はない。だから、こうして死んだ家族の後を追おうとしている。
「みんな…今逝くからね…」
恐れる事なく、ロープの輪を首に入れて踏み台にしていた箱を蹴る。重力に従って、体は下に落ちるのだが、それをロープが阻め、首が絞まる。
「っぐぇ!…ぐ…ぁぅ…お……が…っ!!」
あまりの苦しさに奇声を漏らし、足はばたつき、手で首を絞めるロープを掴む。今の私は死ぬほど醜い姿であろう。この苦しみさえ越えれば、私は死ぬのだけれど。
ブチッ ッブチブチ
遠退いていく意識の中、頭上で微かに千切れる様な音が聞こえる。
次の瞬間。宙に浮いていた私の体は地面に叩き付けられた。
「がはっ!!…ごほっがっ、がはっ…げっ!っ……はぁはぁはぁ…っは…はぁはぁ」
苦しみから解放された私は激しく咳き込む。そして、再び呼吸を行う事になった。意識が朦朧とする。焦点が定まらぬまま上を見上げた先には、輪が無くなったロープが力なく揺れていた。首に手をやると、未だにロープが掛かっている。
「………えー…」
どうやらロープが切れてしまった様だ。私が重かったのか、醜く暴れたせいか。兎も角、私は死ねなかった。あともう少しだったのに寸前で解放されるなんて。望んでもいないマニアックプレイに脱力した。
これは神様の慈悲なのだろうか。神様は残酷だ。
着地してからずっと四つん這いの姿勢だ。今だに呼吸は整わないものの、視界がはっきりとして来た。地面に付く自分の手が見える。
「……あれ!?指輪!」
落ちた拍子に外れてしまったのか、填めていた指輪が無くなっていた。必死に下を見渡すと前方に地面から生えた枝の先が小さく光るのが見えた。
その光は紛れもなく、私の指輪が放つものであった。
私は指輪を取ろうと枝に手を伸ばした。だが、手は直ぐに動き止めた。指輪が引っ掛かった枝なのだが、良く見ると枝ではない。そう、これはまるで―
「…………骨……?」
カタッ
「っひぃ!」
その枝が人の手の骨であると疑った瞬間、それは突然に動いた。思わず私は身を引いた。枝の周りの土が盛り上がり、中から人が出てきた。枝と思っていたものはやはり骨で、人の左腕の部分であった。
目の前の光景に私は目を見開け、口を半開きにして固まる。土から出てきた人は立ち上がり私を見ると微笑みながら、こう言った。
「やぁ、僕の花嫁」
死体の花婿
(樹海に悲鳴が木霊した)
MANA3*080515
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