お家に帰りたい
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作戦はこうだ。まず、前もって私ができる範囲で半兵衛さんのお仕事のお手伝いをする。お茶汲みから部屋の掃除、資料の運搬と整理等々。半兵衛さんは多忙の身故にこれらの手の回らない雑務をやっておくことによって少なからずの好感度が期待できるだろう。次に好きかどうかと聞くのではなく、好きか嫌いかの二択に絞る質問の仕方によって確率を一気に上昇させる。抑々、半兵衛さんは嫌いな人間、苦手とする人間を避ける傾向にある。つまり、隣に居ることをよしとされている私は半兵衛さんにとって少なくとも嫌いもしくは苦手な人間にカテゴライズされていない。よって、半兵衛さんから出る答えは「好き」または「どちらかといえば好き」になるのだ!異論は認めない!もうこんな鬼畜軍師とは一緒にいられない!元の世界に帰らせてもらう!
「半兵衛さんって私のこと好きか嫌いかといえば好きですよね。」
「名前。突然、気が触れた物言いをするのはやめてくれないか。」
気 が 触 れ た 物 言 い を す る の は や め て く れ な い か 。
まさかの第三の選択肢、「気が触れた物言いをするのはやめてくれないか。」の言葉の意味がわからず思考が完全に停止してしまう。その意味を理解するのに数十秒の時間を要した。いや、時間を要しても暴言を吐かれたこと以外は全く理解できなかった。異論以前に間髪入れずにそんな言葉が飛び出て来るのが本当に恐ろしい。流石は半兵衛さんである。気が触れているという称号はあなたにこそ相応しいので私は遠慮しておこう。というかどの口が気が触れているだなんて言ってるんだこのクレイジー軍師が!半兵衛さんにそれを言われてしまった私はもう終わりですよ!そんな沸き立つ感情を抑えつつ、私は話を続けた。
「いやですね。私って何の取り柄もない人間じゃないですか。」
「そうだね。君は何の取り柄もない哀れな存在だね。」
その暴言の拡張パックは今、必要なものですかね。無料だとしても要らないんですよねピンポイントで私だけを傷付けるサービスなんて。誰のせいで哀れな存在になっていると思っているんだ。そう指摘したいところを何とか飲み込む。
「そんな私を半兵衛さんのような方の隣に居させてもらえるのは何故だろうと考えた時、何だかんだで私は半兵衛さんに気に入ってもらえているのかなと思いまして。」
「どんな生き方をすれば、そんなことを恥ずかしげもなく言えるんだい、名前。」
「人生に疑問を持たれるほど酷いことを言ってるつもりはないのですが。そんなことよりどうなんですか!好きなんですか!嫌いなんですか!」
平素から半兵衛さんの気が触れているせいで私の作戦は台無しになってしまった。作戦が頓挫してしまった今、強硬手段に出る他ない。半ば強引に半兵衛さんから好きかどうかを聞き出そうとする姿は面倒くさい恋人みたいになってしまっているが、こうなっては形振構ってられない。半兵衛さんは少し考える素振りを見せて、何か思い及んだのか、笑みを浮かべて私を見ていた。あ、嫌な予感がする。
「僕は君を愛しているよ。」
思いがけない、求めてもいない甘い言葉に驚愕し、呆然とする。意味のない、表面だけの言葉だ。そう理解しているはずなのに脈が速くなるものだから訳がわからない。落ち着け考えるな。深呼吸をして心を鎮まらせて、冷静になるんだ。
「…すぅー…はぁー…ちょっと、待って下さいね。今、深呼吸して無心になりますので。」
「愛してるよ。」
「………。」
「愛してる。」
「人が涅槃に至ろうとしているのを邪魔しないでくれますか、半兵衛さん。」
「名前、愛してるよ。」
「…愛してるということはつまり好きってことですよね?はい、私に続いて。僕は、あなたが、好きです。どうぞ。」
「いや、もはや言葉の一つや二つでは言い表せないほどに僕は君のことを愛しているよ。」
「駄目だ!この人、気が触れていやがる!気が触れるほどに愛しているしか言わない!」
「踏んで縛って甚振ってもそれは僕の愛だから。」
「愛しているのゲシュタルト崩壊!」
結局、半兵衛さんは1/3も伝わらない愛しているを嫌がらせのようにほざいてくるだけで、何かを察したのか好きとは言ってくれなかった。言えよ。察するな。愛など要らぬ。その後もしばらく、毎日のように愛しているよハラスメントが続いた。
MANA3/240918