キスをしない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は必死だった。物凄く必死だ。兎に角、必死だ。私にとっては死活問題と言っても過言ではないのだから当然だろう。突然、部屋の襖をすぱんと豪快な音を立てながら開けて石田さんがどしどしと入って来たと思ったら問答無用で畳の上に押し倒されたかと思えば、頬を両手で抑えられ、顔を近付けて来るので私も咄嗟に石田さんの顔を押さえた。互いに一歩も譲ろうとはせず、攻防戦は続く。
「い、石田さん。何のつもりか知りませんが早まらないで下さい。」
「早まるだと?それは貴様の方ではないか!私を裏切る気か!」
「あなた二言目にはそればかりですね。いい加減にして下さい。私がいつ石田さんを裏切ったと言うんですか。寧ろ、あなたが本当に私を信頼してるのか疑わしいのですが。」
「貴様が元居た世界に帰りたいなどと血迷った事をほざいていると耳にした。」
「いや血迷ってませんよ!自分の家に帰りたいと思うのは至極当然の事でしょうが!何ですかそれ、誰から聞いたんですか!」
「刑部だ。」
畜生ッ、だと思ったわ!くそっ!やっぱりあの人か!あの人しか居ないわ!もうだって黒幕って書いて大谷吉継って読むからね!逆にあの人じゃなかったら不安になるわ!逆にあの人で良かったわ!
「刑部が言っていた。接吻すれば貴様は元の世界に帰れなくなると。」
大谷いいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!
くそがあああああああああああ!!!!!!!!!!
全然良くない!全然良くないし!!!!何であなたがそんな事知ってんだ!何で石田さんに言った!楽しいからか!?!?私が苦しむ様が楽しいからか!そんでどうせワロスワロスとか言って膝叩いてんだろ!人間じゃない!見た目からして人間じゃない!!!!石田さんも石田さんだ!そんな嘘か本当かもわからない事を鵜呑みにして、そうまでして私を元の世界に帰らせたくないと言うのか!
「あなたそれで良いんですかッ!私を帰らせたくないってだけで、簡単にそんな、せ、せせ、接吻するとか!」
「構うものか!」
「おい、構えよ!そこは構えよ!」
「接吻の一つや二つで貴様が私の元から離れないと言うのなら躊躇する理由など何一つない!」
な、何だこの胸の高鳴りは。時めき?いいや、違う。私にはわかる。これは至純の恐怖だ!たった一度のキスによって、戦国乱世と言う名の檻の中に死ぬまで幽閉、今なら漏れなく世界一凶悪なアーモンドと世界一ダークネスな妖精と共存出来る権利が付いて来るなんて!嫌だ!絶対に嫌だ!心の底から嫌だ!特に後者が嫌だ!その共存には私の明るい未来はない。私の思い描く理想的な共存ではない。
ここで屈してしまっては帰れないどころか死ぬよりも先に生き地獄の毎日に身を投じる事となるだろう。そう思うと自然と石田さんの顔を押さえる手に力が込められる。しかし、これもいつまで持つかどうか。どうにかこうにか逃れる術を考える私の顔を抑えていた石田さんの手が私の手首をがっちり掴み、畳に縫い付けた。驚く私の隙を突いて素早く石田さんは唇を重ねる。そして、何秒経ったのか、何分経ったのか、一瞬の様で長い様な時間が経ち、それは熱と感触を残して離れていく。
「どうだ!これでもう貴様は血迷った考えなど出来まい!」
恋人でもない人間とキスをしてしまった。しかも、これで私は帰れなくなってしまった。呆然としていると次第に目の奥が熱くなり、視界が歪み出す。
「……ひ、…酷い…。…酷い、ですよ、…石田さん…。」
塞き止められない悲しみに嗚咽が漏れる。泣いたって私が帰れない事実は変わりはしない。それでも涙を流すにはいられなかった。そんな私を見て石田さんはぎょっと目を見開いた。何だその反応は。私が泣かないとでも思ったのか。私は血も涙も流すんだよ!血も涙もないあなた達と違ってな!
「…名前…。」
「…うぅ…っ…。」
「私は謝らんぞ。」
「謝れ!!!!今すぐ私に深々と頭を垂れて謝罪しろ!!!!謝罪文を一万字以上で書いて、毒を飲んだ後、それを読みながら首吊って切腹して私に詫びろ!!!!」
「私は、貴様が私の元から居なくなるなど考えられない。その様な事、私は受け入れない。認めはしない。名前、私の目の前から消えてくれるな。離れるな。側に居ろ。帰れずとも、私が貴様を必ず幸せにする。だから、私を裏切るな。」
「石田さん…
うるせえええ!!!!私の幸せ奪っといて何を言ってんだてめえええ!!!!良いから謝れっつてんだろこの斬滅アーモンドがあああああ!!!!!!!!!!!!」
「ぐばはッ!!!!」
MANA3*130421