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「ちょっと慶次。目隠しして、手まで縛ってどこに連れて行くのさ。」
「まあまあ、もうちょっとで着くからさ。それにほら!女の子ってサプライズ好きでしょ?」
「正直、嫌な予感しかしない。」
放課後。突然、今の所は同級生で来年は同い年の後輩になるかもしれない慶次が帰ろうとしていた私の目の前に現れて、目隠しを強要し、手を何かで拘束し、腕を引いてどこかへと連れて行こうとしている。視界は真っ暗ではあるが、今の自分の姿は旧時代の罪人がごとく、客観すれば、その光景はそこそこに異様なことであるのは想像に難くない。あまり、人目に晒されたくはないのだが、その点をこのノンデリ男は配慮してくれているのだろうか。先生にでも見つかってしまえば、生徒指導室直行は免れないだろう。何にせよ、早く目的の場所についてほしいところ。それに目隠しの状態で歩くのは中々に怖いものである。先生に見付かった場合の上手い言い訳を考えていると歩みが止まり、ドアがスライドする音が聞こえた。もしかして到着したのだろうか。
「失礼するぜ!」
「ついたの慶次?言っとくけど、女の子が皆してサプライズが好きなわけじゃないんだからね。」
「二人とも何をしているんだい。」
「おい、サプライズで軽々しく地獄に連れて来てんじゃねえぞ。」
恐らく、目的地であるどこかの一室。足を踏み入れてみれば、聞こえて来たのは地獄の使者こと半兵衛さんの声。慶次は何故、こんな所へ私を連れて来たのか。しかも、視覚と手の自由を奪った状態で。俄かに私のシックスセンスが告げる嫌な予感とやらが現実のものになりつつあることに胸がざわつく。
「半兵衛。お前、今日誕生日だろ?」
「え、そうなんですか。」
「…それがどうかしたのかい。」
驚きのあまりにおめでとうの一言がすんなりと出てこないどころか、誕生日があったのかというニュアンスの疑念が出てきてしまった。こんな人でも誕生日という祝福される日があったのか。それにしても、半兵衛さんの声が普段よりも低く、如何にも不機嫌そうなのだが。これは死人の一人や二人出ても何ら不思議ではない。私は巻き込まれただけなので、死ぬのなら慶次一人にしてほしい。
「だからな、ほら、プレゼントを持って来たぜ。」
「そもそも、何故、彼女は目隠しをしているんだい。」
「だって、お前こういうの好きだろ?」
「ド偏見が過ぎる。」
「否定はしないよ。」
「まさかのオフィシャルフェティシズムだった。」
「もっとも、それは自己主導で行った場合に限った話だけれども。」
「しかも、こだわりが強めの。」
「てっきり、僕の眼鏡を壊した代償を払いに来たのかと思ったよ。」
このアホ、なんてことを!お前、あの祠壊したんかと同等のあいつの眼鏡壊したんかという厄災をもたらしてんじゃあねえぞ!この世界を終わらせるつもりか!それにプレゼントって何だ!それに話の流れが全く掴めないのだが、私だけなのか。
「ははは。まあ、それも込みっつーか、これで手打ちってことにしといてくれよ!そんじゃ!」
「は!?慶次どこ行くの!置いていかないでよ!殺される!」
「大丈夫大丈夫!俺の知る限り、今のところ半兵衛は誰も殺しちゃいねーし、死にはしねーさ!」
「シュレーディンガーだろそんなの!あんたの知らない所で10や20やってるかもだろ!例えやってなかったとしても今日が初めてになる可能性があるだろ!おい!こら!逃げるな卑怯者!」
あの野郎!現代でも土着信仰が根強く残り続ける因習村で毎年行われる儀式のごとく、私を人柱にして逃げやがった!ちくしょう!絶対に許さない絶対にだ!これで済むと思うなよ!この厄災が鎮まったとしても私がお前を呪い殺す!死ぬまで永遠に留年し続ける呪いに苦しんで死ぬがよい!
斯くして、私は不本意にも厄災を鎮めるための生贄となってしまったわけだが、実際にそれが成功したかどうか、目隠しをされたままなので、喜びか、憂いか、怒りか、厄災がどのような表情を浮かべているのか知る由もない。見えたところであまり目を合わせたくないのも事実ではあるのだが。流れる沈黙が酷く心臓に悪い。私は一体、どうなってしまうのだろうか。
「やれやれ、慶次君にはほとほと困ったものだよ。」
呆れた溜息が沈黙を破ると同時にこちらへと近づく破滅の足音。視覚を奪われ、逃げることもかなわぬまま、私はただ萎縮して運命を受け入れるしかできなかった。すぐそばで人の気配がする。思わず身構えていたが、何も起こらない。すると、きつく施された目隠しが緩みつつあるのを感じた。
「君もとんだ災難に巻き込まれてしまったね。可哀想に。」
久々に見た光の眩しさに自然と目が細められる。徐々に慣れたところで私が目にしたもの。それは大事な眼鏡を壊されて困り果てた表情でも、ただ巻き込まれただけの被害者を哀れむ慈悲深い表情でも、そのどちらでもなく、至極、愉悦に浸った喜色満面の半兵衛さんの表情に、私は血の気が引いた。
「さて、君は僕のものになったわけだけれども、君は誕生日の僕に一体どんな特別なことをしてくれるのかな?」
MANA3/250927