末裔
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「ななしちゃん」
考えごとをしていたのか、食事に手がつかない
様子のななしに、ぼくは痺れを切らしたように呼び掛けた。
「はっ。なぁに鬼太郎くん。」
慌てて橋を持ち直し、明るく返事をする。
これで取り繕っているつもりなのかと、
少し呆れる時もある。
そんなところだって可愛らしいと思う。
だけど ここで順序よく話を本題に運んでも、
きっときみに届かないだろうから。
それも知ってる。
「僕は永遠に、大人になることは出来ないんだ」
あえて目を合わせず咀嚼をしながら
返事を待った。
「………」
驚いた、という沈黙ではなくて、
先ほどの考え事の意表を突かれた、
というような、少しだけ張り詰めた沈黙。
「キミはもう、りっぱな大人だ」
答えが来ることも無いと分かって、
このまま進める。
彼女の箸を持つ手が震えている。
どうやら、嫌な予感がしているらしい。
「働いて、お金を稼いで」
「な…なんの話…」
「ぼくは妖怪で、キミは人間なんだよ」
なんとか分かって欲しいんだ。
ぼくの言いたいことを。
出会ったときは、ぼくとあまり背の変わらない、
幼いきみだったけど、今は違う。
ぼくはきっと永遠にこのまま変わらない、
きみは、このままもっともっと大人になって、
考え方も変わって、年老いて、それから。
「分かってる。だけど、何年経っても
こうして仲良しじゃない。…ちがうの…?」
不安げな声で問いかける。
「そうじゃ、ないんだ。」
食事なんて雰囲気じゃないのはとうに、
ぼくも彼女も、とりあえず箸を置いた。
どう伝えられたら、彼女に伝わるだろう?
ぼくはきっと、彼女が好きなんだ。
だから、付かずぼくのそばから
離れて欲しくはない。絶対に。
この先の彼女が死んでしまうなんて事は
このぼくが許してたまるもんか。
でも、それは仕方のない事じゃないか。
「鬼太郎くん…?」
「……、」
机が跳ね上がり、箸はとび散り、茶碗が転がる。
気付けば目の前に、驚いた彼女の顔があった。
床に両手を押さえつけ、馬乗りになって。
考え事してるのは、ぼくの方じゃないか。
こういう時、どうすればいいのか、何をするべきなのか、ぼくは誰にも教わってない。
「キミは、ぼくが好きかい?」
ぎり、と彼女を押さえ付ける手に力が入る。
きっと怖いだろう。
いつだって危ない目に合わないようにきみを
守ってきたぼくが、キミを、怖がらせている。
「…すきだよ。」
「本当に?」
「うん、すき」
「人間を辞めても、自分が妖怪になっても、
それでもいいと思うくらいかい?」
こんなことを聞いて何になる。
彼女を苦しめるだけだ。彼女には
彼女の、人間の自由がある。
ぼくは、僕は。
きっと今、自分は醜い顔をしている。
正義事をしていても、妖怪は妖怪なのだろうか。
「……」
「…ごめんなさい…」
世間のどんなオトナだって、子どもに
恋なんてしない。
分かってたことじゃないか。
ぼくは一体何を期待していたんだ。
「……、…」
今までの事はきれいさっぱり忘れて、
それぞれの生活に戻ればいい。
二度と会ってはいけないんだ。
きっとその方がいい。
二度と。これからずっと。
二度と…?
そんな。
自分が死ぬより恐ろしいこと。
「…いやだね、」
一層低い声で、沈黙を破った。
「…え?」
「僕がどうしていつだって君を守って、
助けて、大事にしてきたか分かるかい。」
そうだ。初めて手紙を出して僕に助けを
求めてきた時からずっと今まで。
「すきなんだ、君が。」
「だから、僕から離れる事も、僕を忘れる事も、僕を置いて人間のように勝手に死ぬ事も、許さない」
「鬼太郎く…、!」
「悪いようにはしないさ。絶対にね。」
妖怪になるのも悪くないと思うさ。
僕から離れないように、二度と。
人間の君が許せない。
僕をいつまでも愛すべきなんだ。
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