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「花屋敷君」
例の会談の後、ロビーの前を通ると、『優秀な』彼女が、帰る前に一杯、だろうか。コーヒーを飲んでいたため、声をかけた。
名前を呼べば固まって、錆びついた機械のようにぎこちない動きでこちらを振り返る。
「み、みみ、峯、会長」
強張った顔で、口角だけを無理やりあげて「お疲れ様です」と、口籠もりながら言った。
その彼女の様子に
「…なにも取って食いはしない」
思わず。
「へ、いや、あの」
ぎくりと、そんな反応でこちらを見る彼女を見て、ため息をつく。
花屋敷 恵蓮。
彼女が白峯会のフロント企業である「クライム」に入ったのは、2ヶ月前。
元々はもう一つのフロント企業「ファイン」でアルバイトとして働いていた。
ファインはフロント企業のフロント企業、とでも言うか、ただの目くらましのためだけに作った企業だった。
ただ存在していればいいだけの企業だったから、特別力も入れず、放ったらかしていた。
赤字はないが利益もない、そんな企業だったのだが、
ある時期、突然業績が伸びはじめた。
その原因がアルバイトとして入った彼女だった。
彼女は週に4回ほどのシフトながら、2ヶ月経たずに信頼を得て中枢に入り込み、中心になって仕事を進めていたようだ。
彼女の履歴書には日本最高学府の大学の心理学部に在籍している旨が記載され、資格の欄は英語検定からパソコン検定までぎっしりと埋まっていた。
俺は彼女の能力を買って、倍の給料を出す条件で彼女をクライムに引き抜いたのだった。
「君のおかげで商談はうまくいった。
礼が言いたかったんだ。ありがとう」
「あ…そうやったんですか」
あからさまにホッとした表情を浮かべると、ボソリと「なんかやらかしたんかと思た…」と呟いた。
「随分無理しただろう」
「へ…?い、いえ、そんな全然…」
「隠さなくていい」
「いや、…あの、まあ。で、でも!全然平気でした!ウチこう、あの、結構寝不足で頭ガンガンする感じ好きっていうか!なんかこう妙な快感があるんですよ!」
「…」
「ほらウチSかMかって言われたらMやし」
「…」
「酷いことされるん嫌いやない…し…」
「…」
「…」
「…」
「…ごめんなさい…」
「…これで失礼する」
涙目で「愛想笑いくらいしてくれてもええのに…!」と呟く彼女を無視し、くるりと踵を返し、部屋に向かう。
彼女と初めてあった時、随分驚いたのを覚えている。
「ファイン」で遠目から見た彼女は彼女は同僚と冗談を言い、いじられキャラに徹し、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
そして俺にはーーー慣れない相手には、ビクビクおどおどして、よくどもった。
彼女の履歴書に貼られた無表情の写真は、美人だが涼しげでキツい顔立ちをしていた。
履歴書の内容、アルバイトながら業績をここまで上げた手腕から、プライドが高い、気の強い性格の女だと思っていたのだが
実際にあった彼女は、真逆だった。
「(ああいううるさくて鬱陶しい女など大嫌いだがーーーーー)」
「峯会長」
後ろから、彼女の声がして、立ち止まって振り返ると少し早足でこちらに来る。
えっと、と少しどもった後、彼女の顔が、スッと変化した。
「まだ気が早いかなって思ったんですけど、ついでに仕上げてて」
差し出した資料は、次の会談の資料だった。
今日行った会談が、上手くいったと想定した場合の。
「今日の会談、上手くいってよかったです。
これが無駄にならずにすみました」
彼女の笑顔はいつか見た馬鹿笑いでも、さきほどの無理矢理作った怯えた笑顔でもない
当たり前だとでもいうような、勝ち誇ったような笑顔。
「君は本当に優秀だな」
鬱陶しくてうるさいのは、仕事とは関係のない時だけ。
仕事ではこの通りだ。
プライベートの顔と、仕事での顔
二つをよく使い分けている。
だから彼女をとても好ましく思っている。
もっとずっと近くに置きたいと思うくらいに。
例の会談の後、ロビーの前を通ると、『優秀な』彼女が、帰る前に一杯、だろうか。コーヒーを飲んでいたため、声をかけた。
名前を呼べば固まって、錆びついた機械のようにぎこちない動きでこちらを振り返る。
「み、みみ、峯、会長」
強張った顔で、口角だけを無理やりあげて「お疲れ様です」と、口籠もりながら言った。
その彼女の様子に
「…なにも取って食いはしない」
思わず。
「へ、いや、あの」
ぎくりと、そんな反応でこちらを見る彼女を見て、ため息をつく。
花屋敷 恵蓮。
彼女が白峯会のフロント企業である「クライム」に入ったのは、2ヶ月前。
元々はもう一つのフロント企業「ファイン」でアルバイトとして働いていた。
ファインはフロント企業のフロント企業、とでも言うか、ただの目くらましのためだけに作った企業だった。
ただ存在していればいいだけの企業だったから、特別力も入れず、放ったらかしていた。
赤字はないが利益もない、そんな企業だったのだが、
ある時期、突然業績が伸びはじめた。
その原因がアルバイトとして入った彼女だった。
彼女は週に4回ほどのシフトながら、2ヶ月経たずに信頼を得て中枢に入り込み、中心になって仕事を進めていたようだ。
彼女の履歴書には日本最高学府の大学の心理学部に在籍している旨が記載され、資格の欄は英語検定からパソコン検定までぎっしりと埋まっていた。
俺は彼女の能力を買って、倍の給料を出す条件で彼女をクライムに引き抜いたのだった。
「君のおかげで商談はうまくいった。
礼が言いたかったんだ。ありがとう」
「あ…そうやったんですか」
あからさまにホッとした表情を浮かべると、ボソリと「なんかやらかしたんかと思た…」と呟いた。
「随分無理しただろう」
「へ…?い、いえ、そんな全然…」
「隠さなくていい」
「いや、…あの、まあ。で、でも!全然平気でした!ウチこう、あの、結構寝不足で頭ガンガンする感じ好きっていうか!なんかこう妙な快感があるんですよ!」
「…」
「ほらウチSかMかって言われたらMやし」
「…」
「酷いことされるん嫌いやない…し…」
「…」
「…」
「…」
「…ごめんなさい…」
「…これで失礼する」
涙目で「愛想笑いくらいしてくれてもええのに…!」と呟く彼女を無視し、くるりと踵を返し、部屋に向かう。
彼女と初めてあった時、随分驚いたのを覚えている。
「ファイン」で遠目から見た彼女は彼女は同僚と冗談を言い、いじられキャラに徹し、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
そして俺にはーーー慣れない相手には、ビクビクおどおどして、よくどもった。
彼女の履歴書に貼られた無表情の写真は、美人だが涼しげでキツい顔立ちをしていた。
履歴書の内容、アルバイトながら業績をここまで上げた手腕から、プライドが高い、気の強い性格の女だと思っていたのだが
実際にあった彼女は、真逆だった。
「(ああいううるさくて鬱陶しい女など大嫌いだがーーーーー)」
「峯会長」
後ろから、彼女の声がして、立ち止まって振り返ると少し早足でこちらに来る。
えっと、と少しどもった後、彼女の顔が、スッと変化した。
「まだ気が早いかなって思ったんですけど、ついでに仕上げてて」
差し出した資料は、次の会談の資料だった。
今日行った会談が、上手くいったと想定した場合の。
「今日の会談、上手くいってよかったです。
これが無駄にならずにすみました」
彼女の笑顔はいつか見た馬鹿笑いでも、さきほどの無理矢理作った怯えた笑顔でもない
当たり前だとでもいうような、勝ち誇ったような笑顔。
「君は本当に優秀だな」
鬱陶しくてうるさいのは、仕事とは関係のない時だけ。
仕事ではこの通りだ。
プライベートの顔と、仕事での顔
二つをよく使い分けている。
だから彼女をとても好ましく思っている。
もっとずっと近くに置きたいと思うくらいに。
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