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「もしお前がダンデに勝ってチャンピオンになったら、俺様が何でも一つ願いを聞いてやる」
キバナが初めてユウリを見たのは、ジムチャレンジ開会式の時。
あのダンデが推薦状を書いたチャレンジャーが二人も出場すると聞き、キバナのみならず、ジムリーダー全員が二人に注目していた。
一人はダンデの弟ホップ。話に聞いていた通り、天真爛漫な少年のキラキラとした表情が印象的だった。その純粋な瞳は失わずに、人間として磨きのかかった彼も、素晴らしいトレーナーの一人に成長したと思う。
そしてもう一人が、ホップの友人でライバルの、ユウリだった。
大人しそうで小柄な少女は、観客の熱気に圧倒されつつも、強い意志を持った真っ直ぐな瞳をしていたことを憶えている。
そして今、ダンデとの一戦を控えた彼女の瞳は、あの日よりもさらに強い輝きを放っていた。
「本当ですか?」
「このキバナ様が嘘なんてつかねーよ」
挑戦者控え室で、険しい顔をしていたユウリの緊張を、少しでも解してやりたいと思った。
そんな気持ちで放った一言だったのだが、それを聞いたユウリの顔はパッと明るくなる。
もしかしたら、自分が心配するほど緊張していないのかもしれない。歳の割に肝の据わった女の子だ。
「わかりました、何にするか考えておきますね」
そう言ってユウリが笑うと、スタジアムへ繋がる扉の向こうから、歓声が聞こえてきた。
いよいよ、歴史に残る戦いが始まるのだ。
「よし、いってこい!しっかり見てるからな」
「はい。いってきます」
こちらに背を向けてスタジアムへと歩き出した背中は、つい先日このガラルを救った英雄とは思えないほど華奢だ。
しかし、その小さな体で演じるポケモンバトルの力強さと逞しさは、誰よりもキバナがよく知っていた。
バトルフィールドを煌々と照らす照明、地面が割れてしまいそうなほどの歓声、自分を取り囲むまばゆい光と音に目が眩みそうだ。
高揚感で鳥肌が止まらない。自分の長い旅が、終わった。それも、チャンピオンに勝利するという最高のエンディングで。
「ユウリ」
チャンピオンではなくなっても、ダンデが自分とホップの憧れであることに変わりはなく、見上げたその姿は、今までと同じように強く大きく見えた。
「お前がこれから見せてくれる未来、楽しみにしてるからな」
「はい…!私、頑張ります!」
ユウリが母と共にハロンタウンに引っ越して来た頃、ダンデはすでにガラル地方のチャンピオンだった。
テレビで見るダンデは確かにホップとよく似ていて、人々が言う通り、彼がいればそれだけで安心できる絶対無敵の存在だった。
そんな彼から、チャンピオンの座を引き継いだ。自分も、ガラル地方の全ての人々に夢と希望を与えられるような存在になりたい。そんなポケモンバトルができるようになりたい。
ダンデの言葉に頷き、決意を新たに拳を握りしめる。
そして高ぶるこの想いを、早く誰かに聞いて欲しいと思った。
誰か、という自分自身への問いに、ふとキバナの顔が思い浮かぶ。
ジムチャレンジ、そしてチャンピオンとの戦いを終えた今、キバナとの関係も、もう一歩進めなければ。
「(もう、ジムリーダーと、ただのチャレンジャーじゃないもんね)」
ポケモンバトルに挑むときとはまた違った緊張感に、おさまったはずの胸の高鳴りが戻ってくるのを感じた。
試合前にした約束を果たしてもらおうと、ユウリは控え室へ戻る。
しかし、キバナが待っているとばかり思っていたユウリを迎えたのは、スタジアムに負けないほどのフラッシュと、大勢の取材陣だった。
「押さないでください!控え室は関係者以外立ち入り禁止です!」
制止するスタッフを物ともせず、何十ものテレビカメラと、大量のマイクがこちらに向けられる。
「ユウリさん!新チャンピオンになったお気持ちを聞かせてください!」
「勝利の秘訣は!?やはりダンデさんの試合は研究されましたか!?」
「何か一言お願いします!」
ダンデはチャンピオンになってから、今までずっと無敗記録を更新してきたのだ。
それが、突然現れた少女に負けることになり、しかも先日のブラックナイト騒動でムゲンダイナを捕まえたトレーナーとなれば、注目されるのは当たり前だった。
取材陣の勢いに気圧されて、思わずひるんだユウリに、横から現れたスタッフが小声で囁く。
「別室に急遽控え室を用意しました。ユウリさんの荷物も移動してあります、ついて来てください」
「は、はい」
キバナと話をすると思い心構えをしていたのだが、変に拍子抜けしてしまった。
声をかけてきたスタッフの後ろについて、別室へと続く廊下を急ぐ。背後では、他のスタッフたちに止められる取材陣の声がしばらく聞こえていた。
控え室にいると思っていたキバナは、どこへ行ってしまったのだろう。取材陣の騒動に遭い、もうスタジアムを出てしまったのだろうか。
長く続く廊下に二人分の足音だけが響いて、観客の声が遠く聞こえる。熱気に包まれていたフィールドとは別世界のようで、対称的な様子は寒気すら感じる気がした。
もしかしたら、もうシュートシティを出てナックルシティに帰ってしまったのかもしれない。
彼は、ジムチャレンジ最後の門番。ダンデほどではないが多忙な日々を過ごしているし、ムゲンダイナによる街の被害も、まだ残っているはずだ。自分に構っている時間など、ない。
それに、次に会ったときに約束を果たしてもらえば良いだけの話だ。
次に会えるのは、いつだろう。
「……キバナさん…」
今までは、バトルに勝ち残れば必然的にキバナに会うことができた。しかしそれは自分がチャレンジャーで、彼がジムリーダーだったからだ。
旅が終わり、自分がチャンピオンになった今、お互いに会わなければならない理由はない。
けれど、顔が見たいから、話がしたいから…そんな理由は許されないだろうか。
俯きながら歩いていると、唐突に、ユウリのことを案内していたスタッフが立ち止まった。
ユウリも立ち止まり、どうしたのだろうかと様子を伺おうとしたその時。
振り返ったその顔に、心臓が跳ねるくらい驚いた。
「俺様を呼んだか?」
スタッフ用の帽子とサングラスを外した下から現れたのは、紛れもなく、まるで悪戯が成功した少年のように笑うキバナ本人だった。
「キバナさん!?何でここに…!?」
「クルーが集まってることに気付いて、試合が終わってから急いで着替えたんだ。まさか上手くいくとは思っていなかった」
外したスタッフ用の帽子をクルクルと指先で器用に回して、どこから取り出したのか、いつものバンダナを頭にかぶる。
「おめでとう、ユウリ。お前は本当にすげーよ」
そうであればいいと思っていたが、まさか本当に、チャンピオンになってから一番最初にキバナに祝ってもらえるなんて。
「ユウリの荷物を移動したのは本当だ。代わりの控え室もすぐそこだから、行くぞ」
「あ、待ってください!」
再び歩き出そうとするキバナを呼び止める。
いつも着ているドラゴン柄のユニフォームに比べて、白を基調としたスタッフ服姿は新鮮だ。
「どうした?」
「控え室に着いたら、キバナさんにお願いがあるんです」
誰もいない廊下に二人きり、改めて向かい合うと緊張してしまう。
優しく緩んだ目元や、にこやかに上がった口角、いつも穏やかな表情をしている彼からは、バトルで見せる獰猛な姿はとても想像できない。
でも、そんなところも大好き。
「試合前の約束のことだな。何にするか決まったのか?」
理由なんて無くても、貴方に会いたい。
「連絡先を、交換してくれませんか…?」
いつか、チャンピオンとしても女性としても自信が持てるようになって、この気持ちを伝える勇気ができたときのために。
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あのダンデが推薦状を書いたチャレンジャーが二人も出場すると聞き、キバナのみならず、ジムリーダー全員が二人に注目していた。
一人はダンデの弟ホップ。話に聞いていた通り、天真爛漫な少年のキラキラとした表情が印象的だった。その純粋な瞳は失わずに、人間として磨きのかかった彼も、素晴らしいトレーナーの一人に成長したと思う。
そしてもう一人が、ホップの友人でライバルの、ユウリだった。
大人しそうで小柄な少女は、観客の熱気に圧倒されつつも、強い意志を持った真っ直ぐな瞳をしていたことを憶えている。
そして今、ダンデとの一戦を控えた彼女の瞳は、あの日よりもさらに強い輝きを放っていた。
「本当ですか?」
「このキバナ様が嘘なんてつかねーよ」
挑戦者控え室で、険しい顔をしていたユウリの緊張を、少しでも解してやりたいと思った。
そんな気持ちで放った一言だったのだが、それを聞いたユウリの顔はパッと明るくなる。
もしかしたら、自分が心配するほど緊張していないのかもしれない。歳の割に肝の据わった女の子だ。
「わかりました、何にするか考えておきますね」
そう言ってユウリが笑うと、スタジアムへ繋がる扉の向こうから、歓声が聞こえてきた。
いよいよ、歴史に残る戦いが始まるのだ。
「よし、いってこい!しっかり見てるからな」
「はい。いってきます」
こちらに背を向けてスタジアムへと歩き出した背中は、つい先日このガラルを救った英雄とは思えないほど華奢だ。
しかし、その小さな体で演じるポケモンバトルの力強さと逞しさは、誰よりもキバナがよく知っていた。
バトルフィールドを煌々と照らす照明、地面が割れてしまいそうなほどの歓声、自分を取り囲むまばゆい光と音に目が眩みそうだ。
高揚感で鳥肌が止まらない。自分の長い旅が、終わった。それも、チャンピオンに勝利するという最高のエンディングで。
「ユウリ」
チャンピオンではなくなっても、ダンデが自分とホップの憧れであることに変わりはなく、見上げたその姿は、今までと同じように強く大きく見えた。
「お前がこれから見せてくれる未来、楽しみにしてるからな」
「はい…!私、頑張ります!」
ユウリが母と共にハロンタウンに引っ越して来た頃、ダンデはすでにガラル地方のチャンピオンだった。
テレビで見るダンデは確かにホップとよく似ていて、人々が言う通り、彼がいればそれだけで安心できる絶対無敵の存在だった。
そんな彼から、チャンピオンの座を引き継いだ。自分も、ガラル地方の全ての人々に夢と希望を与えられるような存在になりたい。そんなポケモンバトルができるようになりたい。
ダンデの言葉に頷き、決意を新たに拳を握りしめる。
そして高ぶるこの想いを、早く誰かに聞いて欲しいと思った。
誰か、という自分自身への問いに、ふとキバナの顔が思い浮かぶ。
ジムチャレンジ、そしてチャンピオンとの戦いを終えた今、キバナとの関係も、もう一歩進めなければ。
「(もう、ジムリーダーと、ただのチャレンジャーじゃないもんね)」
ポケモンバトルに挑むときとはまた違った緊張感に、おさまったはずの胸の高鳴りが戻ってくるのを感じた。
試合前にした約束を果たしてもらおうと、ユウリは控え室へ戻る。
しかし、キバナが待っているとばかり思っていたユウリを迎えたのは、スタジアムに負けないほどのフラッシュと、大勢の取材陣だった。
「押さないでください!控え室は関係者以外立ち入り禁止です!」
制止するスタッフを物ともせず、何十ものテレビカメラと、大量のマイクがこちらに向けられる。
「ユウリさん!新チャンピオンになったお気持ちを聞かせてください!」
「勝利の秘訣は!?やはりダンデさんの試合は研究されましたか!?」
「何か一言お願いします!」
ダンデはチャンピオンになってから、今までずっと無敗記録を更新してきたのだ。
それが、突然現れた少女に負けることになり、しかも先日のブラックナイト騒動でムゲンダイナを捕まえたトレーナーとなれば、注目されるのは当たり前だった。
取材陣の勢いに気圧されて、思わずひるんだユウリに、横から現れたスタッフが小声で囁く。
「別室に急遽控え室を用意しました。ユウリさんの荷物も移動してあります、ついて来てください」
「は、はい」
キバナと話をすると思い心構えをしていたのだが、変に拍子抜けしてしまった。
声をかけてきたスタッフの後ろについて、別室へと続く廊下を急ぐ。背後では、他のスタッフたちに止められる取材陣の声がしばらく聞こえていた。
控え室にいると思っていたキバナは、どこへ行ってしまったのだろう。取材陣の騒動に遭い、もうスタジアムを出てしまったのだろうか。
長く続く廊下に二人分の足音だけが響いて、観客の声が遠く聞こえる。熱気に包まれていたフィールドとは別世界のようで、対称的な様子は寒気すら感じる気がした。
もしかしたら、もうシュートシティを出てナックルシティに帰ってしまったのかもしれない。
彼は、ジムチャレンジ最後の門番。ダンデほどではないが多忙な日々を過ごしているし、ムゲンダイナによる街の被害も、まだ残っているはずだ。自分に構っている時間など、ない。
それに、次に会ったときに約束を果たしてもらえば良いだけの話だ。
次に会えるのは、いつだろう。
「……キバナさん…」
今までは、バトルに勝ち残れば必然的にキバナに会うことができた。しかしそれは自分がチャレンジャーで、彼がジムリーダーだったからだ。
旅が終わり、自分がチャンピオンになった今、お互いに会わなければならない理由はない。
けれど、顔が見たいから、話がしたいから…そんな理由は許されないだろうか。
俯きながら歩いていると、唐突に、ユウリのことを案内していたスタッフが立ち止まった。
ユウリも立ち止まり、どうしたのだろうかと様子を伺おうとしたその時。
振り返ったその顔に、心臓が跳ねるくらい驚いた。
「俺様を呼んだか?」
スタッフ用の帽子とサングラスを外した下から現れたのは、紛れもなく、まるで悪戯が成功した少年のように笑うキバナ本人だった。
「キバナさん!?何でここに…!?」
「クルーが集まってることに気付いて、試合が終わってから急いで着替えたんだ。まさか上手くいくとは思っていなかった」
外したスタッフ用の帽子をクルクルと指先で器用に回して、どこから取り出したのか、いつものバンダナを頭にかぶる。
「おめでとう、ユウリ。お前は本当にすげーよ」
そうであればいいと思っていたが、まさか本当に、チャンピオンになってから一番最初にキバナに祝ってもらえるなんて。
「ユウリの荷物を移動したのは本当だ。代わりの控え室もすぐそこだから、行くぞ」
「あ、待ってください!」
再び歩き出そうとするキバナを呼び止める。
いつも着ているドラゴン柄のユニフォームに比べて、白を基調としたスタッフ服姿は新鮮だ。
「どうした?」
「控え室に着いたら、キバナさんにお願いがあるんです」
誰もいない廊下に二人きり、改めて向かい合うと緊張してしまう。
優しく緩んだ目元や、にこやかに上がった口角、いつも穏やかな表情をしている彼からは、バトルで見せる獰猛な姿はとても想像できない。
でも、そんなところも大好き。
「試合前の約束のことだな。何にするか決まったのか?」
理由なんて無くても、貴方に会いたい。
「連絡先を、交換してくれませんか…?」
いつか、チャンピオンとしても女性としても自信が持てるようになって、この気持ちを伝える勇気ができたときのために。
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