元JKの記憶喪失空っぽ夢主は、忍たま達に囲まれて生き延びたい
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午後の授業は、実技合同訓練だった。内容は先日、立花くんが話していた通りで、手裏剣打ち。忍者の基本動作の一つで、的の中心を狙って放つ技術を競う。
「構え!」
山田先生の張りのある声が、風に揺れる木々のざわめきを切り裂いた。その声に呼応するように、わたしを含む一年生たちが、一斉に腰を落とし、手にした手裏剣を構える。
遠方に見えるは、実技訓用に設けられた丸い木製の的。射し込む陽の光が、的の中心にわずかに陰影を作っている。
『それっ!』
一斉に手裏剣を打ち、銀色の刃は風を裂く音を立てながら一直線に飛んでいく。木製の的に鋭い音を立て、一枚の手裏剣のみがど真ん中に突き刺さっていた。そして、その手裏剣は、わたしが打ち込んだ物だ。
「凄い! ○○さん!」
「一人だけ…、しかも、的の真ん中に手裏剣を命中させるなんて……」
善法寺くんと立花くんは、わたしの手裏剣の腕前に感服した様子で、目を煌々と輝かせている。その姿を見て何故だか、わたしが恥ずかしくなってしまう。
「もしかすると、○○さんは手裏剣がお得意なのかもしれませんね」
『えっ?』
後少しの所で、打ち込んだ手裏剣が的の外へ外れたた潮江くんだが、わたしの打ち込んだ手裏剣を見ながら、小さく笑みを浮かべた。
「遠方に位置する的から今、俺達が立っている場所からど真ん中に射るなんて、俺には真似出来ません」
『そ、そうかなぁ?』
いくら年下相手でも、こんなに褒められると気恥しさから、照れを隠せない。同時に、胸の内が少し温かくなっていく。
「へぇ、文次郎が誰かを褒めるなんて珍しいな。ひょっとして、○○さんに良い所を見せたいってか?」
「なっ!…、そういう留三郎は、手裏剣が的から俺よりも大きく外れたじゃないか!」
「何だとぉ!? 今日は、たまたま外れただけで、お前よりもっと近く、的の真ん中に当てられるんだよ!」
「何をぉ!」
一年生の間で"犬猿コンビ"と呼ばれる、潮江くんと食満くんが手裏剣打ちの事で喧嘩を始める。それでも、わたしは先程の潮江くんの言葉が頭から離れず、嬉しい気持ちでいっぱいだ。
この学園で忍術について学んで、初めて自分の力を褒められた様な気がしたからと、思う事にする。
「おーい!」
的から大きく逸れていた手裏剣を拾いに向かっていた中在家くんの声が、演習場に響く。彼は何かを発見した様子で、駆け足で戻ってきた。
「あ、新しい先生が来たぁ!」
「新しい先生?」
わたしと中在家くん以外の、潮江くん・立花くん・七松くん・食満くん・善法寺くんの声が、ぴったりと揃う。
前方に顔を向けると、山田先生の隣に見慣れない、教員の証である黒色の忍消息を身に纏う、若い男性が立っていた。柔らかな表情を湛えていたが、遠くから見るだけでも若干の緊張が伝わってくる。その人が新しい先生だと分かると、一年生の皆は好奇心に駆られて、わああっと声をあげて、走り始める。
『あっ、ちょっと待って!』
勢いに気圧されながらも、皆の後ろを遅れて追いかける形で走り出す。足元の砂利が音を鳴らす中、数歩先に居た筈の若い男性の形が、視界から消えていた事に気がついた。
(えっ……!?)
不意に、不安が込み上げる。それでも一年生の皆は、声をあげて走り続けていたが、そこへ山田先生が止めに入り、足が止まる。
『や、山田先生?』
「よく見なさい。お前達がそのまま走り続けていたら今頃、ずぶ濡れになっていた所だ」
山田先生の背後を覗くと、光を湛えた静かな池が広がっていた。水面は、さざ波一つなく澄んでおり、青空をそのまま映し出している。
つまり、山田先生が来なければ、わたし達は池の中へと沈み、ずぶ濡れになっていたという訳か。
すると、若い男性の方が、今度はわたし達の背後に現れた。けれど、山田先生から何やら叱られ、困ったような笑みを浮かべて、返答に詰まっている。それでも、一年生の皆の好奇心は未だ失われておらず、若い男性の方の周りに群がっていく。
「小平太です!」
「僕、伊作です!」
「先生は、教科の担当ですか? それとも、実技の担当ですか?」
七松くん、善法寺くん、立花くんと、口々に話し掛けられる。明らかに困惑しているにも関わらず、若い男性の先生は、優しげな印象を受ける笑顔を見せてくれた。
「あの、其方の方は……?」
ふいに背後から声がかかる。穏やかでありながら、どこか戸惑いを含んだ声音。
一年生たちの肩越しに立つわたしを見た、黒い忍消息を纏う若い男性の先生その顔に、わずかな驚きの色が走る。涼しげな目元に、薄く眉を寄せる様な仕草。それは、戸惑いと確認を同時に抱えた、大人の気配を纏った表情だった。
「この子達と同じ様に、忍術学園に在籍している、名無し○○さんだ。忍たまの授業にも飛び入り参加出来るから、今回の合同授業にも参加している訳だ」
すると、山田先生が一言一句、飾り気のない説明を代わりに披露してくれた。
「女の子……、いや、女性…ですか? 何故、忍たまの授業に、飛び入り参加出来て……?」
若干の困惑と慎重さを含んだ声が、言葉の端々に滲む。学園の空気や、生徒たちの賑わいにもまだ馴染みきれないのか、その所作はぎこちない。それでも、目の前の状況を理解しようとする姿は、わたしが忍術学園の生活に慣れる前の姿と似ており、親近感を抱く。
「学園長先生が直々、許可を下ろしてくださったそうでな」
「えぇっ! そ、そんな事が、有り得るのですか……!?」
「学園長先生の突然の思いつき、だからなぁ」
山田先生は、まるでそれが当然であるかの様にと、あっさりと言い切る。わたしや一年生の子達にとっても、当たり前である事だ。
一方、若い男性の先生さ、その言葉の重みに気圧され、僅かに目を見開いて、沈黙した。
夕餉の鐘が鳴る頃、黄昏に染まった忍術学園は、山の影とともに静けさを深めていた。空には朱が滲み、鳥たちの囀りが遠く微かに聞こえる。教室棟の窓には、温かな灯りがぽつりぽつりと灯りはじめ、学園の一日が穏やかに終わろうとする。
わたしはその景色を背にしながら、下足場を抜け、夕餉の支度のため、くのたま長屋へと向かおうと足を動かす。その時、乾いた木の床を踏み鳴らし、軽やかな足音が六つ、近づいてくる。
「○○さん!」
六人の声が、まるで息を合わせたかの様に同時に響く。振り向くと、潮江くん・立花くん・中在家くん・七松くん・食満くん・善法寺くんと最近の中では、関わりの多い一年生の忍たま六人。夕暮れの逆光の中でも、彼らの顔は生き生きとしていて、頬は紅く、瞳は好奇心で満ちている。
「これから、夕餉の支度ですか?」
『うん。もう時期、慌ただしくなるからね』
立花くんの問いかけに、わたしの脳裏には、夕餉の準備で即座に役割分担をして、木のまな板に包丁の音が鳴り、鉄釜の蓋から湯気が立ちのぼり、誰からともなく手際よく役割が決まっていくーーーそんな慌ただしくも、温かい日常。
「○○さんは、くの一教室の授業に出られて、忍たまの授業にも飛び入り参加出来るのなら、忍たま長屋へ足を運べますか?」
食満くんにそう言われ、学園長先生から許可が下ろされていたのかと、記憶の底を探る。授業参加については言及されていたが、長屋への立ち入りは明確な許可は貰っていない気がした。
『うーん…、多分、それは駄目かも』
「ど、どうしてですか?」
少し困ったような笑みを浮かべながら、そう告げると、善法寺くんが眉を下げて、不安そうな目で見上げてくる。
『そもそも、くのたま長屋は忍たまの出入りが禁止されているから』
「あっ」
忍たま長屋、くのたま長屋の双方の出入りが禁止されているという規則を出すと、六人は一瞬、ぽかんとした顔をして、息ぴったりに声を発し、仲の良さが滲み出て、口元が緩む。
『……ねぇ、どうして皆は、こんなにわたしと関わってくれるの?』
ふと零れたその問いに、六人は一瞬だけ、顔を見合わせた。夕暮れの風が、木立を揺らし、ざわりと梢を撫でる。
忍術学園において、わたしは異質な存在だ。突然と学園長先生の庵前に現れ、身寄りも頼れる人も居ない(恐らく)天涯孤独の身で、胡散臭い匂いが纏わりつき、どこか空っぽ。
(それでも生きているわたしに、どうしてこんなに関わってくれて……、真っ直ぐな目を向けてくれるんだろう)
ここ最近、少しずつこの生活に慣れてきたからこそ、無意識のうちに一線を引かれていると感じる瞬間が、増えてきた。もしかしたら、わたし自身が、誰よりも自分に線を引いてしまっているからかもしれない。 この生活に順応してきたが故の代償だと思えば、楽になれるのか。
「だって、○○さんは…、一緒に忍術の勉強をしている仲間じゃないですか」
中在家くんの声が、わたしの中で響いた。喜怒哀楽の表現が豊かで、朗らかな笑みを見せる事の多い彼。
「そうです! ○○さんが将来、くの一になるのかは分かりませんが、今こうして、俺達と一緒に過ごす時間は楽しいと思っています!」
「ま、まさか留三郎の口から、俺が感じてた事と同じ発言が出るなんて……、お、俺も、○○さんと忍術の勉強するの、楽しいですから。遠慮なんて、しないで下さいっ」
言葉に不器用さが滲んでいても、その分だけ真心が伝わってくる。照れ隠しで目を逸らす潮江くんの姿を見て、胸の奥にふわりと何かが灯る。
『ありがとう、皆』
笑顔が灯った様な気がした。久しく忘れていた“自分らしさ”の輪郭をなぞるようでーーー、それに誰よりも早く反応を示したのは、七松くんだった。
「○○さんの笑顔! やっと、ちゃんと見れた気がしました!」
目を丸くしながらも、どこか誇らしげに告げた言葉。その声は作り物ではなく、純真さと嬉しさが、真っすぐに乗っている。
『や、やっと?』
「はい! 心から嬉しいんだって、私には分かります!」
まるで、陽だまりの様に柔らかく、風の様に軽やかで、こちらが戸を閉ざしていても、迷わずそこへ入り込んで来るみたい。
「それは、小平太の野生の勘という奴か?」
「ここぞという時に、発揮するんだよね」
立花くんと善法寺くんが、どこか茶化すように笑いながら、七松くんの顔を覗き込む。その声は、ふわりと軽く、でも確かに優しかった。
「そうかもしれん!」
その姿を見て、皆がふっと表情を緩めた。夕暮れの風が、彼らの間を通り抜けていく。わたしの胸の奥で、小さな孤独が、音もなく解けていく様な気がして。
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午後の授業は、実技合同訓練だった。内容は先日、立花くんが話していた通りで、手裏剣打ち。忍者の基本動作の一つで、的の中心を狙って放つ技術を競う。
「構え!」
山田先生の張りのある声が、風に揺れる木々のざわめきを切り裂いた。その声に呼応するように、わたしを含む一年生たちが、一斉に腰を落とし、手にした手裏剣を構える。
遠方に見えるは、実技訓用に設けられた丸い木製の的。射し込む陽の光が、的の中心にわずかに陰影を作っている。
『それっ!』
一斉に手裏剣を打ち、銀色の刃は風を裂く音を立てながら一直線に飛んでいく。木製の的に鋭い音を立て、一枚の手裏剣のみがど真ん中に突き刺さっていた。そして、その手裏剣は、わたしが打ち込んだ物だ。
「凄い! ○○さん!」
「一人だけ…、しかも、的の真ん中に手裏剣を命中させるなんて……」
善法寺くんと立花くんは、わたしの手裏剣の腕前に感服した様子で、目を煌々と輝かせている。その姿を見て何故だか、わたしが恥ずかしくなってしまう。
「もしかすると、○○さんは手裏剣がお得意なのかもしれませんね」
『えっ?』
後少しの所で、打ち込んだ手裏剣が的の外へ外れたた潮江くんだが、わたしの打ち込んだ手裏剣を見ながら、小さく笑みを浮かべた。
「遠方に位置する的から今、俺達が立っている場所からど真ん中に射るなんて、俺には真似出来ません」
『そ、そうかなぁ?』
いくら年下相手でも、こんなに褒められると気恥しさから、照れを隠せない。同時に、胸の内が少し温かくなっていく。
「へぇ、文次郎が誰かを褒めるなんて珍しいな。ひょっとして、○○さんに良い所を見せたいってか?」
「なっ!…、そういう留三郎は、手裏剣が的から俺よりも大きく外れたじゃないか!」
「何だとぉ!? 今日は、たまたま外れただけで、お前よりもっと近く、的の真ん中に当てられるんだよ!」
「何をぉ!」
一年生の間で"犬猿コンビ"と呼ばれる、潮江くんと食満くんが手裏剣打ちの事で喧嘩を始める。それでも、わたしは先程の潮江くんの言葉が頭から離れず、嬉しい気持ちでいっぱいだ。
この学園で忍術について学んで、初めて自分の力を褒められた様な気がしたからと、思う事にする。
「おーい!」
的から大きく逸れていた手裏剣を拾いに向かっていた中在家くんの声が、演習場に響く。彼は何かを発見した様子で、駆け足で戻ってきた。
「あ、新しい先生が来たぁ!」
「新しい先生?」
わたしと中在家くん以外の、潮江くん・立花くん・七松くん・食満くん・善法寺くんの声が、ぴったりと揃う。
前方に顔を向けると、山田先生の隣に見慣れない、教員の証である黒色の忍消息を身に纏う、若い男性が立っていた。柔らかな表情を湛えていたが、遠くから見るだけでも若干の緊張が伝わってくる。その人が新しい先生だと分かると、一年生の皆は好奇心に駆られて、わああっと声をあげて、走り始める。
『あっ、ちょっと待って!』
勢いに気圧されながらも、皆の後ろを遅れて追いかける形で走り出す。足元の砂利が音を鳴らす中、数歩先に居た筈の若い男性の形が、視界から消えていた事に気がついた。
(えっ……!?)
不意に、不安が込み上げる。それでも一年生の皆は、声をあげて走り続けていたが、そこへ山田先生が止めに入り、足が止まる。
『や、山田先生?』
「よく見なさい。お前達がそのまま走り続けていたら今頃、ずぶ濡れになっていた所だ」
山田先生の背後を覗くと、光を湛えた静かな池が広がっていた。水面は、さざ波一つなく澄んでおり、青空をそのまま映し出している。
つまり、山田先生が来なければ、わたし達は池の中へと沈み、ずぶ濡れになっていたという訳か。
すると、若い男性の方が、今度はわたし達の背後に現れた。けれど、山田先生から何やら叱られ、困ったような笑みを浮かべて、返答に詰まっている。それでも、一年生の皆の好奇心は未だ失われておらず、若い男性の方の周りに群がっていく。
「小平太です!」
「僕、伊作です!」
「先生は、教科の担当ですか? それとも、実技の担当ですか?」
七松くん、善法寺くん、立花くんと、口々に話し掛けられる。明らかに困惑しているにも関わらず、若い男性の先生は、優しげな印象を受ける笑顔を見せてくれた。
「あの、其方の方は……?」
ふいに背後から声がかかる。穏やかでありながら、どこか戸惑いを含んだ声音。
一年生たちの肩越しに立つわたしを見た、黒い忍消息を纏う若い男性の先生その顔に、わずかな驚きの色が走る。涼しげな目元に、薄く眉を寄せる様な仕草。それは、戸惑いと確認を同時に抱えた、大人の気配を纏った表情だった。
「この子達と同じ様に、忍術学園に在籍している、名無し○○さんだ。忍たまの授業にも飛び入り参加出来るから、今回の合同授業にも参加している訳だ」
すると、山田先生が一言一句、飾り気のない説明を代わりに披露してくれた。
「女の子……、いや、女性…ですか? 何故、忍たまの授業に、飛び入り参加出来て……?」
若干の困惑と慎重さを含んだ声が、言葉の端々に滲む。学園の空気や、生徒たちの賑わいにもまだ馴染みきれないのか、その所作はぎこちない。それでも、目の前の状況を理解しようとする姿は、わたしが忍術学園の生活に慣れる前の姿と似ており、親近感を抱く。
「学園長先生が直々、許可を下ろしてくださったそうでな」
「えぇっ! そ、そんな事が、有り得るのですか……!?」
「学園長先生の突然の思いつき、だからなぁ」
山田先生は、まるでそれが当然であるかの様にと、あっさりと言い切る。わたしや一年生の子達にとっても、当たり前である事だ。
一方、若い男性の先生さ、その言葉の重みに気圧され、僅かに目を見開いて、沈黙した。
夕餉の鐘が鳴る頃、黄昏に染まった忍術学園は、山の影とともに静けさを深めていた。空には朱が滲み、鳥たちの囀りが遠く微かに聞こえる。教室棟の窓には、温かな灯りがぽつりぽつりと灯りはじめ、学園の一日が穏やかに終わろうとする。
わたしはその景色を背にしながら、下足場を抜け、夕餉の支度のため、くのたま長屋へと向かおうと足を動かす。その時、乾いた木の床を踏み鳴らし、軽やかな足音が六つ、近づいてくる。
「○○さん!」
六人の声が、まるで息を合わせたかの様に同時に響く。振り向くと、潮江くん・立花くん・中在家くん・七松くん・食満くん・善法寺くんと最近の中では、関わりの多い一年生の忍たま六人。夕暮れの逆光の中でも、彼らの顔は生き生きとしていて、頬は紅く、瞳は好奇心で満ちている。
「これから、夕餉の支度ですか?」
『うん。もう時期、慌ただしくなるからね』
立花くんの問いかけに、わたしの脳裏には、夕餉の準備で即座に役割分担をして、木のまな板に包丁の音が鳴り、鉄釜の蓋から湯気が立ちのぼり、誰からともなく手際よく役割が決まっていくーーーそんな慌ただしくも、温かい日常。
「○○さんは、くの一教室の授業に出られて、忍たまの授業にも飛び入り参加出来るのなら、忍たま長屋へ足を運べますか?」
食満くんにそう言われ、学園長先生から許可が下ろされていたのかと、記憶の底を探る。授業参加については言及されていたが、長屋への立ち入りは明確な許可は貰っていない気がした。
『うーん…、多分、それは駄目かも』
「ど、どうしてですか?」
少し困ったような笑みを浮かべながら、そう告げると、善法寺くんが眉を下げて、不安そうな目で見上げてくる。
『そもそも、くのたま長屋は忍たまの出入りが禁止されているから』
「あっ」
忍たま長屋、くのたま長屋の双方の出入りが禁止されているという規則を出すと、六人は一瞬、ぽかんとした顔をして、息ぴったりに声を発し、仲の良さが滲み出て、口元が緩む。
『……ねぇ、どうして皆は、こんなにわたしと関わってくれるの?』
ふと零れたその問いに、六人は一瞬だけ、顔を見合わせた。夕暮れの風が、木立を揺らし、ざわりと梢を撫でる。
忍術学園において、わたしは異質な存在だ。突然と学園長先生の庵前に現れ、身寄りも頼れる人も居ない(恐らく)天涯孤独の身で、胡散臭い匂いが纏わりつき、どこか空っぽ。
(それでも生きているわたしに、どうしてこんなに関わってくれて……、真っ直ぐな目を向けてくれるんだろう)
ここ最近、少しずつこの生活に慣れてきたからこそ、無意識のうちに一線を引かれていると感じる瞬間が、増えてきた。もしかしたら、わたし自身が、誰よりも自分に線を引いてしまっているからかもしれない。 この生活に順応してきたが故の代償だと思えば、楽になれるのか。
「だって、○○さんは…、一緒に忍術の勉強をしている仲間じゃないですか」
中在家くんの声が、わたしの中で響いた。喜怒哀楽の表現が豊かで、朗らかな笑みを見せる事の多い彼。
「そうです! ○○さんが将来、くの一になるのかは分かりませんが、今こうして、俺達と一緒に過ごす時間は楽しいと思っています!」
「ま、まさか留三郎の口から、俺が感じてた事と同じ発言が出るなんて……、お、俺も、○○さんと忍術の勉強するの、楽しいですから。遠慮なんて、しないで下さいっ」
言葉に不器用さが滲んでいても、その分だけ真心が伝わってくる。照れ隠しで目を逸らす潮江くんの姿を見て、胸の奥にふわりと何かが灯る。
『ありがとう、皆』
笑顔が灯った様な気がした。久しく忘れていた“自分らしさ”の輪郭をなぞるようでーーー、それに誰よりも早く反応を示したのは、七松くんだった。
「○○さんの笑顔! やっと、ちゃんと見れた気がしました!」
目を丸くしながらも、どこか誇らしげに告げた言葉。その声は作り物ではなく、純真さと嬉しさが、真っすぐに乗っている。
『や、やっと?』
「はい! 心から嬉しいんだって、私には分かります!」
まるで、陽だまりの様に柔らかく、風の様に軽やかで、こちらが戸を閉ざしていても、迷わずそこへ入り込んで来るみたい。
「それは、小平太の野生の勘という奴か?」
「ここぞという時に、発揮するんだよね」
立花くんと善法寺くんが、どこか茶化すように笑いながら、七松くんの顔を覗き込む。その声は、ふわりと軽く、でも確かに優しかった。
「そうかもしれん!」
その姿を見て、皆がふっと表情を緩めた。夕暮れの風が、彼らの間を通り抜けていく。わたしの胸の奥で、小さな孤独が、音もなく解けていく様な気がして。
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