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いけいけどんどんの七松小平太と、表情筋が死んでいる平和ボケの○○が結ばれるまでの話 後編 その弐
獅子は、兎に何を想う(七松小平太)、兎は、獅子への思いを謳う(七松小平太)の続編。
◆名前変換夢の為、名前入力を推奨。
◆一人称(夢主、七松)視点で進みます。
◆既存キャラの解釈違い(口調や性格)が出てくると思われますので予め、ご了承下さい。
夢主の簡単な設定
・行儀見習いで、忍術学園に入学した。
・現六年生と同い歳(六年生に対して、苗字呼び)。背丈は、同学年のくのたまの中では高い方。
・表情筋は死んでいるが、人並みの感情は持ち合わせており、自由気まま。
・甘味物を食べる・寝る事が好き。
・
◆五年生時代 後編(七松視点)
◆お題:「愛したがりな君の心臓」
学園内で○○遭遇した私は、共に夜空を見ないかと誘う。物珍しそうな顔を向けられたものの、○○は了承の返事をくれた。けれど、私の目的は夜空を見る事などではない。
学園の敷地内に生い茂る森林を待ち合わせ場所に決め、一番に到着する。少ししてから、桃色の忍装束を着用していた○○が走って、こちらへ向かってきているのが見えた。
『七松くん』
○○の声が聞こえてきても、私は平時の笑顔を取り繕う事も出来ず、真顔のままの状態で、自分よりも背丈が小さい○○と向き合う。
「なぁ、○○。私に隠し事してるだろ」
『隠し事?』
「縁談が終わった後からだ。同室のくのたまと、長次とこそこそ何してる」
初めは俯き気味だったが、何かを決心した様に○○は顔を上げて、私と目を合わせる。
『実は、七松くんの隣に立てられる相応しい人になろうと、同室の子と中在家くんに協力して貰ってたんだ。御免なさい。七松くんには内緒にしていた事だから、心配かけちゃったみたい』
私の知っている、無表情で機能すらしない表情筋で話してくれたら、どれだけ良かったのか。今の○○は、口角を上げて、笑みを浮かべていると私以外の誰かでも分かってしまうものだ。
それを見た瞬間、自分の中で抑え切る事の出来ない感情に襲われ、両手で○○の肩を掴んでいた。
何故だ。何故、そのような考えに至ってしまったんだ。お前は縁談を終えたあの日から、自分の中で変化を求めてしまったのか。
『な、七松くんの隣に立てられる、相応しい人になろうとしてただけで、七松くんにとっても悪い事じゃ、』
釣り合わないからと、無理に自分を変えようが、私はそんな事を気にする男じゃない。ましてや、妻となるお前のありのままの姿を好いている私の気持ちを無視するな。私だけが知っている煌々と小さく輝いていたあの目は、私以外の人間にも向けてしまうのか。長次にも、いつか文次郎にも、仙蔵にも、留三郎にも、伊作にも。お前の同室にも向けるのか。
『や、止めてっ。七松くん痛いっ!』
お前の事を好いているのに、口吸いの一つを求めてもくれない。夫婦となるのに、それらしい振る舞いをしてもくれない。小平太と夫の名を呼ぶ事さえもしてくれない癖に、隣に立っていられる相応しい人になりたいなんて、軽々と口にするな。お前は自分の事しか考えず、私の気持ちなんて蔑ろにして、無視しているじゃないか。これのどこが、隣に立てる相応しい人間のあり方なんだ。
そこまで述べた時、私から目を逸らす事はないものの、悲しげな表情を浮かべる○○が目に入った。掴んでいた両肩からすぐに手を離したが、もう遅い。
『何で、そんな事言うの?』
初めて見る○○の表情にたじろぎ、言葉を失う。
『……御免なさい。同室の子が、遅くまで外に居ると心配するから、今日は、帰るねっ』
私からの返答は無いと切り捨てられ、○○は私から背を向けると、くのたま長屋のある敷地内の方向へと走り出していく。それに遅れて気がついた私は、○○を引き留めようと同じく走り出す。
待ってくれ、○○。お前の努力した姿は、美しく素晴らしい事だと賞賛すべき筈なのに、醜い感情が先行して、取り返しのつかない言葉をお前に向けてしまった。それだけでも、謝罪させてくれ。だから、行かないでくれ。
「こんばんは。五年ろ組の七松小平太くん」
くのたま長屋まで後少しの所で、老婆の声が聞こえた。それも聞き覚えがあり、止まらざるを得ない。
「山本シナ先生。こ、こんばんは」
「そんなに急いで、どちらへ向かうつもりだったの?」
くの一教室の担任を務めている山本シナ先生が、くのたま長屋の方向から足音を立てずに、私の前へと現れたのだ。
「くの一教室の名無し○○さんに御用がありまして、こちらまで足を運んだ所存です」
「七松くんの御用は、名無しさんの同室のあの子が済ませてくれている筈よ」
脳裏に、○○の同室相手のくのたまが浮かんだ。山本シナ先生の言葉の意味は、その同室相手が○○の傍に居てくれているという事を指しているのか。
「忍者のゴールデンタイムは、もうすぐ終わりを告げるわ。寝床に戻って、ゆっくりとお休みなさい」
遠回しに、私に○○の元へ近づけさせないという警告に思えた。けれど、事実なのだろう。忍たまが、くのたま長屋に入る事は禁じられている。待ち伏せしようと言うのならという浅慮な考えを見越し、先手を打ってそのような発言をしたに違いない。
「……お気遣い、感謝致します」
頭を深く下げてから、くのたま長屋を後にしていく。私が忍たま長屋へ戻るまで、山本シナ先生が背後に居るのではないかと思うものの、振り向く事は出来なかった。
▽
五年の忍たま長屋へと戻り、【中在家】【七松】と二つの札が取り付けられた長屋の引き戸を開ける。灯明台に乗せられた灯芯の火は、既に消されていた。その代わりとして、窓から差す青い光が今は消え去った灯芯代わりだ。
「長次、起きてるか」
「……随分と遅かったな」
どうやら、平時と異なる私の足音で、長次は目を覚ましたという。
「なぁ長次。私、取り返しのつかない事をしてしまった」
そこから、長次に話を打ち明けた。
○○がこれまで培ってきた努力を全て水の泡にした発言をしてしまった事。私以外の他者にも、小さな輝きの放つ目を向けていた○○の変化を恐れていた事。ありのままの○○が好きだったから、変わる必要なんてなかった事を。
「……○○は、甘味物の作り方と忍術について教えて欲しいと、人目も憚らずに私に頭を下げてきた」
長次が突然、話し出した。その内容も、どれも見覚えのある光景があったなと思うものばかり。
「……"ある人の隣に立っても恥ずかしくない様な、その人に相応しい人になりたいと決めた"……、この意味が分かるか」
その発言を聞くのは、二度目だ。一度目は、○○から。そして全く同じ言葉を長次から。
「……小平太。言葉というのは時として刃となり、人の心をいとも容易く刺し殺す事が出来る。いくら後悔しようが、謝罪の言葉を考えようが、お前が月夜の心を傷つけたという事実は変わりない」
長次の鋭い言葉達が、私の体に突き刺さる。それを受けて血を流そうが、今の長次は心配すらしないだろう。だって長次は、○○から自分を変えたいと直接、頼み事をされ、丁寧に指導し、努力している○○の姿を私よりも近くで見ていたのだから。
「長次。私の頬を殴ってくれ」
「……それは何に対して、私にお前の頬を殴れという意味だ」
「○○の友として、○○を傷つけた私への怒りを込めろ」
▽
数日後、裏山に赴いた私は、延々と塹壕を掘り進める。だが、どれだけ掘っても、心は満たされずに時間だけが虚しく過ぎ去っていくのみ。
無骨な手のひらには、何時間も二丁苦無を握り締めていた事により、血豆が出来上がっていた。自分の手のひらを見つめて時間を潰そうなんて、意味も無いのに。
そんな時、前方から気配を察知した。
『小平太くん!』
その時、地上から聞き馴染みのある声が聞こえた。しかも、裏山の山中でだ。
塹壕から顔を覗かせると、○○の姿があった。あったのだが、その姿は平時とは全く異なり、ギョッとして目を大きく見開いてしまった。
『良かった。中在家くんの話通り、塹壕掘りをして発散していたんだね』
表情筋を動かして、ほんの少しだけ口角を上げた○○は、ボロボロの桃色の頭巾を外している。見慣れた総髪も、裏山の山中の枝に引っかかって無理やり切り落としたのか、先端が整っていない乱れた短髪へと変わり果てていた。おまけに、桃色の忍装束の至る所が小さく破れて、掠り傷まで出来ている始末だ。
それはまるで、和邇によって皮を剥ぎ取られた因幡の白兎を彷彿とさせる。
『小平太くん、お願い。逃げないでっ…?!』
私の元へ向かおうとした○○だったが、塹壕の範囲が学園で行う時よりも広かった為、足を踏み外してしまう。
○○の体が落ちてくると、私の上に跨る形となって、「いたた…」と、○○が小さく言葉を零す。
『わたしも逃げないから、小平太くんも逃げないで』
「この体勢でか?」
今の○○は、異性の体の上に跨るという事に羞恥を感じていないのかと思い、声を掛けた。目を丸くさせ、ほんの少しだけ頬が紅潮したが、ぶんぶんと首を振る。
『今は、そんな細かい事は気にしないっ』
私の口癖を口にすると、○○と目が合ってから、両手を握られた。
『小平太くん。貴方の気持ちを蔑ろにして、貴方の姿を見ようとしないで、自分の事ばかり考えていて、御免なさい。あとね…、わたし、小平太くんの事が好きってちゃんと分かったよ。尊敬とかの意味じゃなくて、一人の男の人として好きなんだって事が』
どこかで見た覚えのある光景。そうだ。一年生の時、○○に手を握られて、謝罪の言葉を述べられた時だ。
あの時は、私は訳が分からなかった。意地悪だと思っていたくのたまから謝罪され、何の抵抗もなく私の手を握り、私に謝る姿が脳に焼き付き、離れなかったんだ。
その時から、少しずつ○○の事が気になり出して、気がつけば、○○との縁談が組まれて、○○の夫になるかと思ったら、○○が自分の隣に立てる相応しい妻になろうと努力していたのに、私はそれを否定してしまった。
私は、何て器が小さい男だ。そして、そんな私の元へ会いに向かうべくと、傷だらけになってまで裏山に足を運び、謝罪の言葉を述べてくれた○○。
そうと分かれば、沈んでいた気持ちが一気に晴れ晴れとした爽やかな物へと一瞬にして変わり、大きく息を吸い上げていく。
「いけいけどんどーーんっっ!!」
その声は、忍術学園にまで届いているのだろうか。
間近で私の大声を聞いた○○は、その場で硬直したまま、わたしを見下ろしていた。
「私の妻は、これ程までに器が大きく、傷だらけになっても尚、夫の元へ駆けつけて、自らにも非があると、さも当たり前の様に思い、謝罪の言葉を述べてくれた……そして私は、自分が恥ずかしく思う!」
勢いをつけて起き上がると、何事かと思って言葉を失う○○は体勢を崩し、後ろへ倒れ込みかける。それを見逃さず、私は○○の背中に両腕を回して、自分の胸元へと引き寄せる。
「すまなかった。美しくなり、私以外の他者をも魅了してしまうかもしれぬ不安から、○○の心を傷つけてしまった事を」
『……うん』
「でも、やっとお前の口から、ちゃんと名前を言って貰えて、私は嬉しい」
『……だって、わたしは小平太くんの妻なんでしょ? ちゃんと名前で呼ばないと、振り向いてくれないじゃない』
「あぁ。今更、苗字で呼ばれても、意地でも振り向かない」
背中に回した両腕に力を込めて、を○○抱き締める。すると、○○からも私の事を抱き締めたいと要望があり、私の背中に○○の両腕が回され、強く抱き締められた。
「なぁ、私の事が男として好きなのか?」
『うん』
「なら、口吸いしたい。今まで待てをされていた分、満足するまで、○○を感じたい」
『……わたしの初めて、小平太くんが貰ってくれるんだね』
「おぉ、奇遇だな。私も初めてだ。つまり、お互い初めての口吸い相手という訳か」
正確には、事故とは言えど○○の鼻に口付け擬きをしてしまったが、それは無しにしよう。細かい事に当てはまるから、数には入れない。
○○と視線が合い、見つめ合う。○○の瞳に私だけが映っているのは、何とも気持ちがいい。塹壕掘りでは満たされなかった幸福感が満ちていく。互いに近づき、ちゅっと唇が触れた。柔らかな感触がしてすぐ、○○の唇が離れていく。
「もっとしたいっ」
○○の唇に自分から触れて、小鳥が餌を啄むかの様に、口吸いを重ねる。軽く触れるだけのものから、今度は深くまで○○を味わう。抱き締める力が双方に強くなり、今までどこか遠くにいた○○が、ようやく近くに来たと実感が湧く。
『小平太くんって、口吸いする時は優しく触れてくれるんだね』
唇が離されると、頬が紅潮しきった月夜が口角を上げて、小さな笑みを見せてきた。
「そうだな。まぁ、父上からも桜木先輩からも、女性には丁重に接しろと何度も言われてきたからな」
そう言ってから、○○は心臓の位置である私の左胸に手のひらを当ててきた。
『愛したがりなきみの心臓の音、手のひら越しでも聞こえるのかなって』
「なははっ、私の心臓は今もどきどきして、○○との口吸いを止められないぞ」
背中に回していた両腕を解いてから、今度は○○の両頬に手を当て、私は何度目かの口吸いをした。
◆六年生時代
◆お題:「しあわせならばここにある」
両家との約束通り、正門前の桜の木が満開に咲く時期の前、わたしは忍術学園を去った。
七松家に身を置いたわたしは、弟妹の子達、一族の子達との遊びだったり、七松家での身の振る舞いについて学んだりと、それなりに多忙な日々を送っている。
そんな中、小平太くん宛の荷物を届けて欲しいと母上様から頼まれ、久方ぶりに忍術学園へと向かう事になった。
道中で団子屋を発見し、小平太くんと学友である彼らの分や、六年の進級前に笑顔で別れを告げてくれた元同室の彼女の分、小平太くんの分の団子を購入し、荷物が増えていく。
▽
忍術学園の正門前に到着し、小松田さんと再会した。軽い世間話や近況報告を終えてから、入門票に名前を記入して、数ヶ月ぶりに門を潜る。
「くんくんっ……、これ、お団子の匂いだ!」
すると突然、水色の忍装束を着たぽっちゃり体型の男の子がわたしの前に現れ、口の端からダラダラと涎を垂らしていた。
「ちょっと、しんベヱ! いきなり飛び出して、怪我でもされたら危なかったよ!」
「食いしん坊な所は、相変わらずだもんなぁ」
今度は、しんベヱと呼ばれる男の子の友達と思われる、赤茶色の髪に眼鏡を掛けた男の子と、ストレートな黒髪の総髪に、八重歯が特徴的な男の子が現れた。
「ひょっとして、先輩方のお客さんっすか?」
『うん。わたし、ここに通っていたから』
「もしかして、卒業生の方ですか?」
『ううん。結婚相手の方の家に暮らす事になったから、きみ達が入学する前に学園を出たの』
「ひょっとすると、一年生からやり直しですか?」
「しんベヱっ!」
しんベヱくんの言葉に、赤茶色の眼鏡をかけた男の子が突っ込みを入れた。
『きみ達、仲良しなんだね』
「はいっ! わたし、猪名寺乱太郎と言います」
「おれ、摂津のきり丸です」
「ぼく、福富しんべヱ!」
元気よく自己紹介をする姿を見て、何だかほっこりとする。当時のわたしは、表情筋も機能せず、他者に誤解されやすいくのたまであった。しかし今は、三人に小さく笑みを向ける事が出来る。
「乱太郎! きり丸! しんベヱ!」
その時、遠方から聞き慣れた彼の声が聞こえてきた。
「あっ、七松小平太先輩!」
乱太郎くんが、どどどどっと勢いよく走ってくる小平太くんに声を掛けるも、乱太郎くん達の前を素通りして、わたしの前で立ち止まる。
「紹介する! 私の妻だ!」
溌剌とした笑顔を浮かべて、小平太くんはわたしの背中に腕を回してきた。それに対して、三人はわたしが小平太くんの妻であると言われて、酷く驚いている様子を隠しきれていない。
「なな、七松先輩、ご結婚されていたんですか!?」
「"な"が二つ多いぞ。まだ苗字はそのままで、卒業前に祝言の予定だ」
「この人が、先輩方が話していた今は亡き七松先輩のストッパー役だった人って訳か……もしかすると、この人から色々と話が聞ければ、情報料で大儲け出来るかも〜!」
『あれ、わたしって死んだ事にされてたの?』
「それにしても、お団子の量が多いのは、どうしてですか?」
『これ、六年生の忍たまと、同室だったくのたまの子と、小平太くんに渡すお団子なの』
「おぉ、美味そう! よしっ、早速あいつらの所に行って、団子を渡してやろう。ついでに、あのくのたまにも」
小平太くんは未だに笑みを崩さず、荷物を抱えているわたしの背中と両膝に腕を入れて、横抱きの姿勢を作る。
「お前達! 私は最愛の妻に用があるから、好奇心とかで絶対、付いてくるなよ!」
小平太くんは乱太郎くん、きり丸くん、しんベヱくんにそう言ってから、素早い動きで学園内を移動していき、六年生の忍たま長屋の屋根上に到着した。
『小平太くん、大人気ない』
「何がだ?」
『乱太郎くん達に、あんな事言って』
「あの三人は入学してから、学園で問題事を起こすお騒がせ三人組として有名なんだ。あの三人が来ると、何かしらの問題に巻き込まれるってな」
『へぇ』
「何より、月夜を問題事に巻き込ませたくないのだ。これは、妻を心配する夫の憂鬱でもある」
『そうなんだ……じゃあ、心配事からわたしを遠ざけた今は幸せ?』
何気なく問いかけると、小平太くんと目が合った。わたしを見る目には、色情の意を込めた熱が帯びている。
「幸せならば、ここにある」
そう言って、影が出来上がると、小平太くんとわたしの唇が重なっていく。
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いけいけどんどんの七松小平太と、表情筋が死んでいる平和ボケの○○が結ばれるまでの話 後編 その弐
獅子は、兎に何を想う(七松小平太)、兎は、獅子への思いを謳う(七松小平太)の続編。
◆名前変換夢の為、名前入力を推奨。
◆一人称(夢主、七松)視点で進みます。
◆既存キャラの解釈違い(口調や性格)が出てくると思われますので予め、ご了承下さい。
夢主の簡単な設定
・行儀見習いで、忍術学園に入学した。
・現六年生と同い歳(六年生に対して、苗字呼び)。背丈は、同学年のくのたまの中では高い方。
・表情筋は死んでいるが、人並みの感情は持ち合わせており、自由気まま。
・甘味物を食べる・寝る事が好き。
・
◆五年生時代 後編(七松視点)
◆お題:「愛したがりな君の心臓」
学園内で○○遭遇した私は、共に夜空を見ないかと誘う。物珍しそうな顔を向けられたものの、○○は了承の返事をくれた。けれど、私の目的は夜空を見る事などではない。
学園の敷地内に生い茂る森林を待ち合わせ場所に決め、一番に到着する。少ししてから、桃色の忍装束を着用していた○○が走って、こちらへ向かってきているのが見えた。
『七松くん』
○○の声が聞こえてきても、私は平時の笑顔を取り繕う事も出来ず、真顔のままの状態で、自分よりも背丈が小さい○○と向き合う。
「なぁ、○○。私に隠し事してるだろ」
『隠し事?』
「縁談が終わった後からだ。同室のくのたまと、長次とこそこそ何してる」
初めは俯き気味だったが、何かを決心した様に○○は顔を上げて、私と目を合わせる。
『実は、七松くんの隣に立てられる相応しい人になろうと、同室の子と中在家くんに協力して貰ってたんだ。御免なさい。七松くんには内緒にしていた事だから、心配かけちゃったみたい』
私の知っている、無表情で機能すらしない表情筋で話してくれたら、どれだけ良かったのか。今の○○は、口角を上げて、笑みを浮かべていると私以外の誰かでも分かってしまうものだ。
それを見た瞬間、自分の中で抑え切る事の出来ない感情に襲われ、両手で○○の肩を掴んでいた。
何故だ。何故、そのような考えに至ってしまったんだ。お前は縁談を終えたあの日から、自分の中で変化を求めてしまったのか。
『な、七松くんの隣に立てられる、相応しい人になろうとしてただけで、七松くんにとっても悪い事じゃ、』
釣り合わないからと、無理に自分を変えようが、私はそんな事を気にする男じゃない。ましてや、妻となるお前のありのままの姿を好いている私の気持ちを無視するな。私だけが知っている煌々と小さく輝いていたあの目は、私以外の人間にも向けてしまうのか。長次にも、いつか文次郎にも、仙蔵にも、留三郎にも、伊作にも。お前の同室にも向けるのか。
『や、止めてっ。七松くん痛いっ!』
お前の事を好いているのに、口吸いの一つを求めてもくれない。夫婦となるのに、それらしい振る舞いをしてもくれない。小平太と夫の名を呼ぶ事さえもしてくれない癖に、隣に立っていられる相応しい人になりたいなんて、軽々と口にするな。お前は自分の事しか考えず、私の気持ちなんて蔑ろにして、無視しているじゃないか。これのどこが、隣に立てる相応しい人間のあり方なんだ。
そこまで述べた時、私から目を逸らす事はないものの、悲しげな表情を浮かべる○○が目に入った。掴んでいた両肩からすぐに手を離したが、もう遅い。
『何で、そんな事言うの?』
初めて見る○○の表情にたじろぎ、言葉を失う。
『……御免なさい。同室の子が、遅くまで外に居ると心配するから、今日は、帰るねっ』
私からの返答は無いと切り捨てられ、○○は私から背を向けると、くのたま長屋のある敷地内の方向へと走り出していく。それに遅れて気がついた私は、○○を引き留めようと同じく走り出す。
待ってくれ、○○。お前の努力した姿は、美しく素晴らしい事だと賞賛すべき筈なのに、醜い感情が先行して、取り返しのつかない言葉をお前に向けてしまった。それだけでも、謝罪させてくれ。だから、行かないでくれ。
「こんばんは。五年ろ組の七松小平太くん」
くのたま長屋まで後少しの所で、老婆の声が聞こえた。それも聞き覚えがあり、止まらざるを得ない。
「山本シナ先生。こ、こんばんは」
「そんなに急いで、どちらへ向かうつもりだったの?」
くの一教室の担任を務めている山本シナ先生が、くのたま長屋の方向から足音を立てずに、私の前へと現れたのだ。
「くの一教室の名無し○○さんに御用がありまして、こちらまで足を運んだ所存です」
「七松くんの御用は、名無しさんの同室のあの子が済ませてくれている筈よ」
脳裏に、○○の同室相手のくのたまが浮かんだ。山本シナ先生の言葉の意味は、その同室相手が○○の傍に居てくれているという事を指しているのか。
「忍者のゴールデンタイムは、もうすぐ終わりを告げるわ。寝床に戻って、ゆっくりとお休みなさい」
遠回しに、私に○○の元へ近づけさせないという警告に思えた。けれど、事実なのだろう。忍たまが、くのたま長屋に入る事は禁じられている。待ち伏せしようと言うのならという浅慮な考えを見越し、先手を打ってそのような発言をしたに違いない。
「……お気遣い、感謝致します」
頭を深く下げてから、くのたま長屋を後にしていく。私が忍たま長屋へ戻るまで、山本シナ先生が背後に居るのではないかと思うものの、振り向く事は出来なかった。
▽
五年の忍たま長屋へと戻り、【中在家】【七松】と二つの札が取り付けられた長屋の引き戸を開ける。灯明台に乗せられた灯芯の火は、既に消されていた。その代わりとして、窓から差す青い光が今は消え去った灯芯代わりだ。
「長次、起きてるか」
「……随分と遅かったな」
どうやら、平時と異なる私の足音で、長次は目を覚ましたという。
「なぁ長次。私、取り返しのつかない事をしてしまった」
そこから、長次に話を打ち明けた。
○○がこれまで培ってきた努力を全て水の泡にした発言をしてしまった事。私以外の他者にも、小さな輝きの放つ目を向けていた○○の変化を恐れていた事。ありのままの○○が好きだったから、変わる必要なんてなかった事を。
「……○○は、甘味物の作り方と忍術について教えて欲しいと、人目も憚らずに私に頭を下げてきた」
長次が突然、話し出した。その内容も、どれも見覚えのある光景があったなと思うものばかり。
「……"ある人の隣に立っても恥ずかしくない様な、その人に相応しい人になりたいと決めた"……、この意味が分かるか」
その発言を聞くのは、二度目だ。一度目は、○○から。そして全く同じ言葉を長次から。
「……小平太。言葉というのは時として刃となり、人の心をいとも容易く刺し殺す事が出来る。いくら後悔しようが、謝罪の言葉を考えようが、お前が月夜の心を傷つけたという事実は変わりない」
長次の鋭い言葉達が、私の体に突き刺さる。それを受けて血を流そうが、今の長次は心配すらしないだろう。だって長次は、○○から自分を変えたいと直接、頼み事をされ、丁寧に指導し、努力している○○の姿を私よりも近くで見ていたのだから。
「長次。私の頬を殴ってくれ」
「……それは何に対して、私にお前の頬を殴れという意味だ」
「○○の友として、○○を傷つけた私への怒りを込めろ」
▽
数日後、裏山に赴いた私は、延々と塹壕を掘り進める。だが、どれだけ掘っても、心は満たされずに時間だけが虚しく過ぎ去っていくのみ。
無骨な手のひらには、何時間も二丁苦無を握り締めていた事により、血豆が出来上がっていた。自分の手のひらを見つめて時間を潰そうなんて、意味も無いのに。
そんな時、前方から気配を察知した。
『小平太くん!』
その時、地上から聞き馴染みのある声が聞こえた。しかも、裏山の山中でだ。
塹壕から顔を覗かせると、○○の姿があった。あったのだが、その姿は平時とは全く異なり、ギョッとして目を大きく見開いてしまった。
『良かった。中在家くんの話通り、塹壕掘りをして発散していたんだね』
表情筋を動かして、ほんの少しだけ口角を上げた○○は、ボロボロの桃色の頭巾を外している。見慣れた総髪も、裏山の山中の枝に引っかかって無理やり切り落としたのか、先端が整っていない乱れた短髪へと変わり果てていた。おまけに、桃色の忍装束の至る所が小さく破れて、掠り傷まで出来ている始末だ。
それはまるで、和邇によって皮を剥ぎ取られた因幡の白兎を彷彿とさせる。
『小平太くん、お願い。逃げないでっ…?!』
私の元へ向かおうとした○○だったが、塹壕の範囲が学園で行う時よりも広かった為、足を踏み外してしまう。
○○の体が落ちてくると、私の上に跨る形となって、「いたた…」と、○○が小さく言葉を零す。
『わたしも逃げないから、小平太くんも逃げないで』
「この体勢でか?」
今の○○は、異性の体の上に跨るという事に羞恥を感じていないのかと思い、声を掛けた。目を丸くさせ、ほんの少しだけ頬が紅潮したが、ぶんぶんと首を振る。
『今は、そんな細かい事は気にしないっ』
私の口癖を口にすると、○○と目が合ってから、両手を握られた。
『小平太くん。貴方の気持ちを蔑ろにして、貴方の姿を見ようとしないで、自分の事ばかり考えていて、御免なさい。あとね…、わたし、小平太くんの事が好きってちゃんと分かったよ。尊敬とかの意味じゃなくて、一人の男の人として好きなんだって事が』
どこかで見た覚えのある光景。そうだ。一年生の時、○○に手を握られて、謝罪の言葉を述べられた時だ。
あの時は、私は訳が分からなかった。意地悪だと思っていたくのたまから謝罪され、何の抵抗もなく私の手を握り、私に謝る姿が脳に焼き付き、離れなかったんだ。
その時から、少しずつ○○の事が気になり出して、気がつけば、○○との縁談が組まれて、○○の夫になるかと思ったら、○○が自分の隣に立てる相応しい妻になろうと努力していたのに、私はそれを否定してしまった。
私は、何て器が小さい男だ。そして、そんな私の元へ会いに向かうべくと、傷だらけになってまで裏山に足を運び、謝罪の言葉を述べてくれた○○。
そうと分かれば、沈んでいた気持ちが一気に晴れ晴れとした爽やかな物へと一瞬にして変わり、大きく息を吸い上げていく。
「いけいけどんどーーんっっ!!」
その声は、忍術学園にまで届いているのだろうか。
間近で私の大声を聞いた○○は、その場で硬直したまま、わたしを見下ろしていた。
「私の妻は、これ程までに器が大きく、傷だらけになっても尚、夫の元へ駆けつけて、自らにも非があると、さも当たり前の様に思い、謝罪の言葉を述べてくれた……そして私は、自分が恥ずかしく思う!」
勢いをつけて起き上がると、何事かと思って言葉を失う○○は体勢を崩し、後ろへ倒れ込みかける。それを見逃さず、私は○○の背中に両腕を回して、自分の胸元へと引き寄せる。
「すまなかった。美しくなり、私以外の他者をも魅了してしまうかもしれぬ不安から、○○の心を傷つけてしまった事を」
『……うん』
「でも、やっとお前の口から、ちゃんと名前を言って貰えて、私は嬉しい」
『……だって、わたしは小平太くんの妻なんでしょ? ちゃんと名前で呼ばないと、振り向いてくれないじゃない』
「あぁ。今更、苗字で呼ばれても、意地でも振り向かない」
背中に回した両腕に力を込めて、を○○抱き締める。すると、○○からも私の事を抱き締めたいと要望があり、私の背中に○○の両腕が回され、強く抱き締められた。
「なぁ、私の事が男として好きなのか?」
『うん』
「なら、口吸いしたい。今まで待てをされていた分、満足するまで、○○を感じたい」
『……わたしの初めて、小平太くんが貰ってくれるんだね』
「おぉ、奇遇だな。私も初めてだ。つまり、お互い初めての口吸い相手という訳か」
正確には、事故とは言えど○○の鼻に口付け擬きをしてしまったが、それは無しにしよう。細かい事に当てはまるから、数には入れない。
○○と視線が合い、見つめ合う。○○の瞳に私だけが映っているのは、何とも気持ちがいい。塹壕掘りでは満たされなかった幸福感が満ちていく。互いに近づき、ちゅっと唇が触れた。柔らかな感触がしてすぐ、○○の唇が離れていく。
「もっとしたいっ」
○○の唇に自分から触れて、小鳥が餌を啄むかの様に、口吸いを重ねる。軽く触れるだけのものから、今度は深くまで○○を味わう。抱き締める力が双方に強くなり、今までどこか遠くにいた○○が、ようやく近くに来たと実感が湧く。
『小平太くんって、口吸いする時は優しく触れてくれるんだね』
唇が離されると、頬が紅潮しきった月夜が口角を上げて、小さな笑みを見せてきた。
「そうだな。まぁ、父上からも桜木先輩からも、女性には丁重に接しろと何度も言われてきたからな」
そう言ってから、○○は心臓の位置である私の左胸に手のひらを当ててきた。
『愛したがりなきみの心臓の音、手のひら越しでも聞こえるのかなって』
「なははっ、私の心臓は今もどきどきして、○○との口吸いを止められないぞ」
背中に回していた両腕を解いてから、今度は○○の両頬に手を当て、私は何度目かの口吸いをした。
◆六年生時代
◆お題:「しあわせならばここにある」
両家との約束通り、正門前の桜の木が満開に咲く時期の前、わたしは忍術学園を去った。
七松家に身を置いたわたしは、弟妹の子達、一族の子達との遊びだったり、七松家での身の振る舞いについて学んだりと、それなりに多忙な日々を送っている。
そんな中、小平太くん宛の荷物を届けて欲しいと母上様から頼まれ、久方ぶりに忍術学園へと向かう事になった。
道中で団子屋を発見し、小平太くんと学友である彼らの分や、六年の進級前に笑顔で別れを告げてくれた元同室の彼女の分、小平太くんの分の団子を購入し、荷物が増えていく。
▽
忍術学園の正門前に到着し、小松田さんと再会した。軽い世間話や近況報告を終えてから、入門票に名前を記入して、数ヶ月ぶりに門を潜る。
「くんくんっ……、これ、お団子の匂いだ!」
すると突然、水色の忍装束を着たぽっちゃり体型の男の子がわたしの前に現れ、口の端からダラダラと涎を垂らしていた。
「ちょっと、しんベヱ! いきなり飛び出して、怪我でもされたら危なかったよ!」
「食いしん坊な所は、相変わらずだもんなぁ」
今度は、しんベヱと呼ばれる男の子の友達と思われる、赤茶色の髪に眼鏡を掛けた男の子と、ストレートな黒髪の総髪に、八重歯が特徴的な男の子が現れた。
「ひょっとして、先輩方のお客さんっすか?」
『うん。わたし、ここに通っていたから』
「もしかして、卒業生の方ですか?」
『ううん。結婚相手の方の家に暮らす事になったから、きみ達が入学する前に学園を出たの』
「ひょっとすると、一年生からやり直しですか?」
「しんベヱっ!」
しんベヱくんの言葉に、赤茶色の眼鏡をかけた男の子が突っ込みを入れた。
『きみ達、仲良しなんだね』
「はいっ! わたし、猪名寺乱太郎と言います」
「おれ、摂津のきり丸です」
「ぼく、福富しんべヱ!」
元気よく自己紹介をする姿を見て、何だかほっこりとする。当時のわたしは、表情筋も機能せず、他者に誤解されやすいくのたまであった。しかし今は、三人に小さく笑みを向ける事が出来る。
「乱太郎! きり丸! しんベヱ!」
その時、遠方から聞き慣れた彼の声が聞こえてきた。
「あっ、七松小平太先輩!」
乱太郎くんが、どどどどっと勢いよく走ってくる小平太くんに声を掛けるも、乱太郎くん達の前を素通りして、わたしの前で立ち止まる。
「紹介する! 私の妻だ!」
溌剌とした笑顔を浮かべて、小平太くんはわたしの背中に腕を回してきた。それに対して、三人はわたしが小平太くんの妻であると言われて、酷く驚いている様子を隠しきれていない。
「なな、七松先輩、ご結婚されていたんですか!?」
「"な"が二つ多いぞ。まだ苗字はそのままで、卒業前に祝言の予定だ」
「この人が、先輩方が話していた今は亡き七松先輩のストッパー役だった人って訳か……もしかすると、この人から色々と話が聞ければ、情報料で大儲け出来るかも〜!」
『あれ、わたしって死んだ事にされてたの?』
「それにしても、お団子の量が多いのは、どうしてですか?」
『これ、六年生の忍たまと、同室だったくのたまの子と、小平太くんに渡すお団子なの』
「おぉ、美味そう! よしっ、早速あいつらの所に行って、団子を渡してやろう。ついでに、あのくのたまにも」
小平太くんは未だに笑みを崩さず、荷物を抱えているわたしの背中と両膝に腕を入れて、横抱きの姿勢を作る。
「お前達! 私は最愛の妻に用があるから、好奇心とかで絶対、付いてくるなよ!」
小平太くんは乱太郎くん、きり丸くん、しんベヱくんにそう言ってから、素早い動きで学園内を移動していき、六年生の忍たま長屋の屋根上に到着した。
『小平太くん、大人気ない』
「何がだ?」
『乱太郎くん達に、あんな事言って』
「あの三人は入学してから、学園で問題事を起こすお騒がせ三人組として有名なんだ。あの三人が来ると、何かしらの問題に巻き込まれるってな」
『へぇ』
「何より、月夜を問題事に巻き込ませたくないのだ。これは、妻を心配する夫の憂鬱でもある」
『そうなんだ……じゃあ、心配事からわたしを遠ざけた今は幸せ?』
何気なく問いかけると、小平太くんと目が合った。わたしを見る目には、色情の意を込めた熱が帯びている。
「幸せならば、ここにある」
そう言って、影が出来上がると、小平太くんとわたしの唇が重なっていく。
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