短編(R指定版)
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アニメ版 七松小平太×女夢主
七松家へ奉公に出ていた○○が、七松家の子供達から好かれている話。
◆名前変換夢ですが、最初のみ名前が登場。
◆一人称(夢主)視点で進みます。
◆既存キャラの解釈違い(口調や性格)が出てくると思われますので予め、ご了承下さい。
◆七松家の内部、弟妹達の口調の捏造・七松弟×夢主(しょたおね)の要素あり
夢主の簡単な設定
・小平太より二歳年上。
・七松家へ、奉公に出向いている。
・
冬のある日の、小さな出会い
わたしは、七松家に仕えている女中。
嫁入り前の子女として、一通りの礼儀作法や教養を身につけるべく、当時十歳のわたしは、七松家へ奉公に出され。
『小平太様』
庭先に咲く白梅が、冬の名残を残しつつもほころび、冷たい風が一房を揺らす中、当時八歳の小平太様と対面した。
わたしより身長は低く、くりくりとした丸い澄んだ目は、確かにわたしを捉えて離さない。
可愛らしいとは裏腹に、親譲りの凛々しい眉が小平太様の意志の強さを示している。
「名は、何と申されるのですか」
『名無し ○○と申します。小平太様、父上様、母上様、弟妹様方がお暮らしになられる、屋敷内で働かせて頂く女中の一人でございます』
簡単に自己紹介を終えると、小平太様は目を煌々と輝かせて、わたしを見つめる。
放たれている輝きが、今にでも外へ漏れ出てしまうのではないかと思うものの、意識を小平太様へ戻す。
「では、これから私の世話をして下さるというのなら、遊び相手となってくれるのですね」
七松家に雇われている女中には、小平太様と年齢の近い者は、わたし位しか居なかった。他は年上の女性に当たる方々であり、子の遊び相手となれば、幼い小平太様も気を遣うのであろう。
だが、わたしはその小平太様の無垢な期待を壊す、予め用意された回答を口にする。
『小平太様のご要望にお答えしたいのは山々ですが、わたしは雇われたばかりでございます。炊事家事等のいろはを教わっている身でありますが故に、そのような身分ではございません』
その回答を聞いた小平太様は、凛々しい眉を下げて、あからさまに落ち込んでいる様子をわたしに見せつけてきた。
この様な言い方は無礼であるのは承知だが、小平太様の心境は今のわたしには、分かりかねないのだ。
◇
女中として雇われてから、一年が経過した。
七松家での日々は、楽もあれば苦もあるという言葉を丁寧に表す事の出来るものだと思い返せる。
朝はまだ薄暗い内から、炊事場では釜戸の火がぱちぱちと小さく鳴り、井戸端では、水を汲む音が絶えない。
昼間は障子を開け放つと、遠く山々の青さが見え、時折吹き抜ける風が干した布を揺らす。
炊事家事、礼儀作法等を一通りを身につけるに当たり、様々な人間と出会った。
気のいい女中や境遇に同情する女中も居れば、女将気取りの女中と、七松家の女中は千差万別だ。
"屋敷内を走る"、"指定された門限を破る"、"風呂場または手洗い場の清潔さを保つ"……この様な何百も存在する規則を破った日には、批言帳に事細かく記録されてしまう。
それでも、わたしは奉公先の七松家に尽くす・この時代を生き抜く為という、私利的な目的を遂行すべく毎日、朝早くに起き、夜遅くまで働いた。
「ねえやは、私と離れ離れになるのを寂しく思われないのですか」
小平太様は、わたしの事を"ねえや"と呼び、有難い事に慕ってくれている。
話の内容というと、"忍術学園"と呼ばれる山奥の学園に、行儀見習いとして入学する事が決まり、わたしが小平太様と離れ、寂しいという感情を抱くのか抱かないのかという些細な問題を提示された所だ。
『それは勿論、寂しいとお思いになります。長期休みまでの間、文でのやり取りで、小平太様の安寧が得られるのであれば……』
「します!」
その提案に、小平太様は勢いよく顔を近づけると、確かにそう言った。
すると、小平太様は先程の勢いはどこへ行ったのか、頬をほんのりと紅潮させ、わたしを見つめる。
「……ねえや、またいつものをして下さい」
『えぇ、失礼させて頂きます』
両手を少し広げると、小平太様はわたしの胸の中にすっぽりと収まり、自身の両腕をわたしの背中に回してきた。
小平太様の温もりが伝わり、それはわたしだけでなく、小平太様もわたしの温もりを感じている。
母上様が双子の次弟様・三弟様。その後に長妹様を出産し、育児に励む母上様を想う小平太様は、心配をかけたくないからと、年相応に甘える姿を見せない。
それもあってか、年齢の近いわたしに対しては、こうして抱擁を交わして、甘えてくるのだ。
「ねえやだけに、忍術学園の事をお教えします」
耳元で、小平太様はわたしにそう話し掛けてきた。
「忍術学園は、忍者になる為の学び舎です。ねえやに胸を張れる一流の忍者になれる様、いけいけどんどんに精進します!」
口癖である、"いけいけどんどん"を間近で聞いてしまった事により、ビクッと肩を震わせた。
小平太様はキョトンとした様子であり、自身の大声でわたしが驚いた事に自覚がないのだ。
『わたしも微力ながら、応援させて頂きます。小平太様の夢を』
「微力などでは、ありません。ねえやの応援は、私の力の源にもなります」
そう言い、小平太様は快活な笑みを見せた。
休憩時間が終わりに近づいていた事で、わたしは小平太様と別れ、持ち場へ移動する。手短に挨拶を交わしてから、手を振る小平太様に、わたしも手を振り返す。
◇
小平太様が忍術学園に通われる年齢となった年、母上様は双子の四弟様・五弟様を出産した。小平太様の弟妹様が一気に五人となり、屋敷の女中達は、てんてこ舞いだ。
赤子である四弟様・五弟様は、歴の長い女中が世話をすると共に、産後間もない母上様の体調確認等を行う。
そうなれば、若い女中であるわたしは、次弟様・三弟様・長妹様との関わりが必然的に増え、現在もこうして、次弟様・三弟様の世話を担当している。
「ご馳走様でした」
次弟様と三弟様は、双子だからか息ぴったりで食後の挨拶をした。膳に並べられた器に残飯等は無く、全て二人の胃の中に取り込まれ、消化されている最中だ。
「ねえや。僕、今日も残さず完食しました。ご褒美、宜しいですか?」
次弟様が、わたしの頬に視線を向けながら、そう問いかける。
これは初めてでなく、何度も行っているやり取りだ。
『……周りに、誰も人は居ませんね?』
「はい!」
「ずるい! 僕も、ねえやにしたい! 僕だって苦手な物、残さずにちゃんと食べた!」
眉間に皺を寄せ、三弟様は分かりやすく怒りを露わにする。間に入られた事で、次弟様も苛立った様子を見せ、一触即発になりかけた所で、わたしは自身の手のひらを出した。
『喧嘩は、いけません。もし、喧嘩をなさるのなら、褒美はお預けとさせて頂きます』
「それは、嫌です!」
またしても、双子故に息ぴったりに声が合わさった。
「僕、ねえやの右の頬」
「じゃあ、僕は左」
次弟様は右頬、三弟様は左頬を指してから、同時に口付けをした。
ちゅっっと、同時に可愛らしいリップ音が聞こえてすぐ、唇は離れていく。
この二人も小平太様同様、わたしに懐いている。苦手な事が出来た、苦手な物を食べた等……、何かしらの事を達成した時の褒美で、わたしの頬に口付けをするという習慣が出来上がった。
いくら七松家に仕える女中とはいえ、人目も憚らずに行う訳がない。
「ねえや」
すると今度は、庭に咲いていた山茶花を抱えていた長妹様が現れた。
「お庭に咲いていた山茶花のお花、採って貰ったんです。ねえやにも見て欲しくて、持ってきました」
『お気遣い、感謝します。とても綺麗に咲いていらっしゃいます。その山茶花のお花、母上様に献上したら、きっとお喜びになりますよ』
「えへへっ。お母様、元気になるかなぁ」
産後間もなく、母上様は体調の優れない日が増えており、長妹様は母上様の体調に気にかけていたから、きっと山茶花を献上するだろう。
『お兄様に文をお送りしますが、もし書いて欲しい事がございましたら遠慮なくお教え下さい』
お兄様とは、小平太様を指している。入学後、わたしは約束通り、小平太様と文通をしており、日はまちまちだが、忍術学園から七松家に文が届くのだ。
忍者の学校だから、機密情報は外部に漏らさない為にと、授業内容と具体的な物は知らない。代わりに、小平太様の同室相手の子の話、同級生の子の話が綴られ、どれも飽きる事無く、最後まで読み切っている。
「僕も元気ですって、書いて下さい!」
「お母様の体調がよろしくない事も、兄上に伝えた方が良いよね?」
「山茶花のお花を採ったよって」
次弟様・三弟様・長妹様から順番に告げられた内容を、わたしは小平太様宛の文に忘れる事無く、記載するのだった。
夏の陽射しに紛れた、淡い思い
小平太様が、四年生に進級して迎えた夏。
蝉時雨が絶え間なく降り注ぎ、屋敷の庭に植えられた青々とした葉が、時折吹く温い風にざわりと揺れる。
忍術学園の長期休暇となり、小平太様は実家に帰って来た。
運動系の委員会に属しているとの事で、筋肉量は下級生時代から増え、付近に暮らしている同年代の男子よりも健康的である。
第二次性徴を迎え、背丈もわたしを追い抜こうと、ぐんぐん伸びている。高い声色も今では声変わりによって、濁声の混ざった低音となり、小平太様も着実に大人へと近づいているのだと、こうして気づかされるのだ。
「ねえやと二人で話す時間も、こうして限られてしまうのですね」
次弟様・三弟様・長妹様・四弟様・五弟様・今年生まれた次妹様が母屋内の寝室で眠りについた事を確認してから、小平太様はわたしを母屋の縁側に誘い、話をする。
薄暮の空はすっかりと茜色から群青へとゆっくりと溶け、家々の影は静かに長く伸びていく。
『文は毎月、欠かさずお送りしています。文で会話をするのも案外、悪いものでも……』
「そうではありません! 弟や妹達は、ねえやと触れ合っている! ねえやと話が出来ている!」
『こ、小平太様。皆様、起きられてしまいますよ』
慌てて声を掛けると、小平太様は目を丸くさせ、自身の口元を手で塞ぐ。
そうしても、既に遅い。
御家族の方々が、目を覚まさない事を願うばかりだ。
小平太様の弟妹様達が、わたしに懐いて甘える様子を見せるのは、わたしにとって嬉しい事ではあるものの、女中からして見れば、"贔屓されて面白くない"と白い目で見られた事も珍しくはなかった。
小平太様が忍術学園で勉学に励まれている間、わたしは自分より若い女中や歳の離れた女中から、それとなく嫌がらせを受けた。
理由は勿論、七松家の弟妹様方から贔屓されていると。
間接的に関係があると言えど、負の感情を罪のない弟妹様達に向けはしないと、笑顔を取り繕った。
その間、わたしは女中からの嫌がらせに屈する事もなく、毎日を過ごした。
だがある日、天がわたしの味方についた。
嫌がらせを仕掛けてきた女中達は、外出の際に規則違反(二股、不倫等の色恋沙汰)を犯し、罰され、これまでわたしに行ってきた仕打ち全てを白日の元に晒された。
罰として一番重い"暇を出される"の刑を下され、今はもうここには居ない。
「それにしても、ねえやは変わらずお綺麗です」
突然、小平太様はまじまじと顔を見てくるなり、平然とした様子で言いのけた。
『小平太様。その御冗談、学園の御学友の方にもおっしゃっているのですね』
「こんな事、ねえやにしか言いません。それに学園の[[rb:女子 > おなご]]は皆、凶暴で恐ろしいのです」
何を思い出したのか、小平太様は眉を潜めて、顔を歪ませる。忍術学園に通う女子は、精神的に強い方々が揃っているのだろうか。
如何せん、学園内の機密情報を漏らさない為にと、わたし自身も小平太様から話を聞かない事もあってか、どのような女子の方が居るのかを把握していない。
「更には心までも綺麗だから、弟と妹は皆、ねえやに懐いて甘える。ねえやの全てが綺麗だ」
『……小平太様。私は清廉潔白の人間では、ございません。私欲も兼ね備えています』
必要以上にお褒めの言葉を受けた事から、わたしは小平太様から目を逸らす。心做しか、頬に熱が集まっている気がする。
「ねえや、いつものをして下さい」
いつものと言われ、何かと聞く程に鈍くはない。もう何年も行っているやり取りだ。
縁側を抜ける風は確かに涼しい筈なのに、小平太様の体温に包まれると、それも霞んでしまう。
彼の背中に回した手からは、日に焼けた少しざらついた肌の感触が伝わり、幼かった頃の柔らかさは、もうそこにはない。
背中に回された手も、何年か前の小さなものでは無くなり、骨ばってゴツゴツとしている。
ここでも、小平太様の成長を感じさせられた。
「ねえや」
小平太様の声が、真横から聞こえる。
「ねえや、お慕い申しております」
その言葉を聞いたわたしは、小平太様を抱き締める力が弱まるのと対称的に、背中に回された両腕の力が強まる。
「弟、妹、一族の子達、母上、父上の居るこの家が大好きです。それに、ねえやが私に"おかえりなさい"、"いってらっしゃい"と言ってくれるのも大好きなのです」
酷く穏やかな声色で、小平太様はわたしにそう言った。
「ですが……、ねえやは、弟達から口付けをされているそうじゃないですか」
今度は、拗ねた子供の様にして、どこか怒りを含んでいる小平太様の声が聞こえ、感情がコロコロと変わる声色だと今の状況をどこか達観しているかの様に、わたしは思うのだ。
『ほ、褒美の様な物でございます』
「褒美? ねえやは、誰にでもそうやってするのですか」
『とんでもございません。弟妹様方は、まだ幼い故に口付けの意味を理解していらっしゃらないのです。小平太様と同じ歳となれば、その意味も理解なさる筈です』
「ねえや、話の論点を逸らさないで頂きたい」
ピシャリと言われた。わたしは、何も言えずじまいとなる。
「嫉妬など、お見苦しい感情を見せてしまいました……私らしくない」
普段から、細かい事を気にしないと豪語し、溌剌とした笑顔を向ける小平太様だが、今の小平太様は頬を紅潮させ、くりくりとした丸い目も伏せ気味である。
それでも、"私らしくない"と言うと、自身の両頬をペチペチと手のひらで叩き、喝を入れた。
「可愛い弟と妹が、ねえやに甘えるのは、通過儀礼の様な物であり、仕方のない事だ!」
変わらず大声を発した小平太様に、わたしはもう何も言わない。
◇
そして現在、小平太様が最上級生の六年生に進級した年。
母上様は、末弟様を出産され、今では小平太様を含め、計八人の子供達と大家族だ。
わたしは、雇用者に当たる七松夫妻をはじめ、弟妹様全員・一族の皆様の身の回りの世話、訪問客の接遇の一部を担当するまでとなり、その身分が保証されている。
そんなある日、母上様が病に伏し、別室に篭もりきりになる日が増え、安否が懸念されている。
「ねえや。兄上のご友人の方、どんな方でしょうか」
「優しい人でしょうか」
「怖い人が居たら、私がねえやをお守りします」
わたしの周りに集まる四弟様・五弟様・長妹様が、これから小平太様と共に訪問してくるという、顔の知らぬ御学友の方々を気にしている。
屋敷内を包む不安の漂う空気は、弟妹様達にも伝わっており、憂慮に堪えない。
『大丈夫ですよ。お兄様の御学友の方ならば、きっと気のいい方々の筈です』
四半刻(三十分後)、七松家の門を潜る四つの影が見えてから、小平太様の学友にあたる――、中在家長次様・食満留三郎様・善法寺伊作様が、母屋に姿を見せた。
初めは警戒心を見せていた弟妹様達も、小平太様のご友人だと証明されれば、心を開いて遊びに励んでいる。
善法寺様が作られたという薬を小平太様が、別室で寝込んでいる母上様の元へ届けに向かうべく、母屋を離れていく。
『母上様に代わりまして、ご挨拶させて下さい。学園では小平太様が、お世話になっております』
「あぁ、そんな畏まらずとも。小平太には、いつも世話になっていますよ」
「御家族を大事にしていらっしゃる姿が、後輩思いな所に繋がっているのが見て分かりました」
挨拶を交わしてから、食満様と善法寺様が順番に小平太様に関する話題を提供してくれた。
女中として働き三昧で、休日日数も限られている身として、学園に赴く機会が少ないわたしは、学園での小平太様の詳しい様子はよく知らない。
「……小平太はよく、貴女の事をお話になります」
『えっ?』
中在家様のボソボソとした声で、何かを言われたものの聞き取れず、思わず声を発してしまう。
「当たり前だ。綺麗なお方なのだから、ねえやの事となれば、話が止まらなくなる」
別室から戻ってきた小平太様は、中在家様の言葉が聞き取れた様で、そう返答した。
「お兄ちゃん達、ねえやを取っちゃ駄目だからね」
「僕達、ねえやの事が大好きなんだから」
「ねえやのお家、ここなの」
次弟様・三弟様・次妹様がわたしの前に現れると、小平太様の学友達に向けて、そのような事を言い出す。
「きみ達の大好きな人を、取ったりしないよ」
善法寺様は、次弟様、三弟様、次妹様と視線を合わせるべく、その場に屈むと、人当たりのいい笑みを浮かべたのだった。
その後、中在家様、食満様、善法寺様は七松家で一泊する事となり、夕餉の時間も共に過ごした。
入浴を終え、布団を敷いてからも、小平太様のご友人という興味は失われておらず、就寝するまで、弟妹様達は三人に夢中であったのだ。
「ねえや」
背後から、小平太様に声を掛けられた。
いつもの縁側で話がしたいとの事であり、事情を御学友の方々に伝えてから、わたしと小平太様は寝室を抜け出し、縁側に到着すると、定位置に座る。
夜の帳が降り、庭先の行灯が静かに灯っている。
虫の声が涼やかに響き、頬を撫でる夜風が昼の熱を追い払ってくれた。
『小平太様の御学友の方々、とても趣がありました』
「あの三人は、良い奴等です」
『わたしは、小平太様の通われている学園に赴いた事がありませんでしたから、小平太様が御学友の方々に恵まれているのだと知る事が出来て、嬉しい限りです』
それは、わたしが心から思っている言葉だ。
一方的に思っているだけで、不仲の関係であるのかもしれないが、日中の様子を見ていれば、悪い人達ではないのは何となくだが分かった。
「ねえやにそう言われて、あの三人も嬉しいに違いありません」
『そ、そうでしょうか』
「私が断言するのだから、当然です……、ねえや、今度の薮入りは、どうされるのですか?」
薮入りとは、女中等の奉公人の数少ない休日である。ちなみに、今度の薮入りは盆の日だ。
『変わらず、こちらでお過ごしになります』
遠方に暮らす家族と過ごせないのは、決して寂しくないという訳ではないが、こう何年も続いてしまえば少なからず、寂しさは少しだけ薄れてしまう。
わたしの言葉を聞いてから、小平太様は唸っている様子を見せる。やがて、何か思いついたのか、わたしと目を合わせた。
「……ねえやの薮入り、私と過ごして頂いても宜しいですか」
それは、本当の幸福か
そして迎えた、薮入りの日。
まだ薄く靄の残る庭先では、近辺に暮らす女中達が晴れやかな顔で支度を整え、実家に帰るべく次々に七松家の門を潜っていく。
門を出た先の道には、木々の葉の間から差す朝の木漏れ日がちらちらと揺れ、爽やかな初夏の香りが漂っていた。
そんな中、わたしは約束通り、休日の時間を小平太様と共に過ごす事を決めたのだ。
「ねえや!」
小平太様の、快活な声が聞こえてくる。
見慣れた常服を纏い、軽やかに走り寄って来るその姿は、どこまでも無邪気で、どこか頼もしい。
『小平太様、そんなに元気でいらっしゃいますと、お体に響いてしまいます』
「私の体力は、有り余っています。それはどれだけ山道を走ろうが、疲れなど感じさせない程に!」
年相応の笑顔を見せた小平太様だが、それはすぐに解けていく。
「でも、ねえやが一緒だと、有り余っている筈の体力が、いつもより消費される。私はそれが嬉しい。私は、ねえやと遊びたいのですから」
七松家の門を潜り、わたしと小平太様は町へと赴く。
道端では水撒きを終えたばかりの土の匂いが立ち上り町の通りは活気に溢れ、商いの声と、祭りの準備に浮き立つ子供たちの笑い声が、そこかしこから聞こえた。
芝居見物を嗜み、美味と女中の間で評判である団子屋を小平太様に勧めて、三色団子を味わう。
小間物屋で、櫛や簪等を眺めていると、小平太様がわたしが欲しいと狙っていた櫛を手に取り、店主に掛け合い、安い値段で購入してくれたのだ。
「私から、ねえやへの贈り物です」
『あ、ありがとうございます』
礼を述べてから、わたしは小平太様から櫛を受け取る。
その際に、小平太様の手がわたしの手を簡単に包み込んでしまうのではないかと錯覚してしまう。
「……ねえや」
声を掛けられ、わたしは顔を上げた。
小平太様の頬は赤く染まりながらも、わたしの手を取る。
『こ、小平太様』
「ここは、実家ではありません。誰も気にしない。私達がこの様な事をしても、指摘する者は誰も居ない。ねえや、私とも遊んで」
わたしが返事をする前に、強引に手を引かれてしまい、走らざるを得ない。
その間、小平太様は珍しく一言も発さず、耳が頬の様に赤く染まっていたのは、小平太様は知っているのだろうか。
『……小平太様、ここは』
町の賑わいを抜けて裏路地に入ると、しっとりとした静けさが辺りを包んでいた。
古い木戸の向こうにひっそりと佇む建物の前で足が止まり、小平太様に声を掛ける。
「……ねえや」
小平太様からの熱視線を浴びられるも、わたしは不思議と目を背けはしない。
引かれていた手も小平太様の方から指を絡ませ、"逃がさない"という思惑を感じ取れる。
「私だって、私欲を兼ね備えている」
◇
わたしと小平太様が入った建物は、出合い茶屋だ。
外見からは何ら変わりない定食屋であるが、実際は思人同士の逢引きの場でもある。
「ねえや、ねえやっ」
一室に案内されてから、布団の上でわたしは小平太様からの熱い抱擁を受けていた。
その姿は、幼い頃の小平太様に戻った様だと思えるも、わたしの体を包んでしまう大柄な体格や腕の太さから、もう幼い子供のものではない。
「ねえや、抱き締めてっ」
『はい、小平太様』
「そのっ、様呼びは止めて欲しいっ。小平太って、ちゃんと呼んでくれ」
『こ、小平太……さん』
妥協して、"さん"呼びをされた事を不服そうにする小平太様であったが、様よりはマシだと割り切ったのか、抱き締める力を強めていく。
「ここならっ、好きなだけ…ねえやを抱き締められる」
実家では弟妹様達の前で、小平太様はわたしに抱擁はしない。
甘えたがりの弟妹様達を優先して、自らの欲は見えない所で発散している。
「ねえや、私もねえやに口付けしたいっ」
『えっ?』
「可愛いのは変わらないが、弟達ばかり、ずるいっ。私も、私だって、ねえやに口付けしたいっ」
唇を尖らせて、そのような可愛らしい申し出をする小平太様に、不覚にも可愛さを感じてしまう。今の小平太様に伝えれば、お怒りになるだろう。
「ねえや……だめ?」
『……小平太さんの、好きな様に』
「本当に良いんだな? 私、ねえやに止められても、抑えきれなくなるかもしれないのに、それでも構わないのか?」
あくまで、わたしの意志を尊重してくれる様だ。
ここに連れてこられた経緯は強引ではあったものの、それでも、わたしの事を気にかけてくれている小平太様は、優しい人だ。言葉にする代わりに、静かに頷いて見せると、小平太様が唾を飲み込む。
両頬が朱色に染まりきった小平太様の顔が近づくと、右頬に口付けをされる。次に左頬も同じ様な口付けをしてから、小平太様の口から吐息が漏れた。
「ねえや、」
そう言われた直後、小平太様の唇で塞がれ、私自身が言葉を発する事は出来なくなる。
軽い口吸いを繰り返され、今度は唇をはむはむと噛まれ、唇の味を堪能される。
『んぅ…ッ』
思わず、口から喘ぎ声が漏れてしまう。
それには小平太様も驚いたのか、口吸いを中断して、わたしの顔を見た。
「その可愛い声、好きだ」
照れているわたしを他所に、小平太様はわたしの額、首元にも口付けが降り注ぐ。
「ねえや…、はぁ…っ……、苦しい…っ」
目を細め、何かに苦しんでいる様子を見せる小平太様。
その正体が、小平太様が着用している袴を押し上げる何かである事に、わたしは遅れて気がつく。
私、ねえやの厭らしい姿を何度も想像して、熱を吐き出してた。綺麗な筈のねえやが厭らしくて、ふしだらで、淫ら。でも、そんなねえやを想像してしまって私、何度も興奮して。
ねえや、私は昔からねえやをお慕い申しています。
昔から、忙しい時でも私の話し相手になってくれて、嬉しかった。
初めての双子の弟が産まれて、ねえやが父上と母上と同じ様に愛情を注いだから、弟達もねえやに懐いたんだ。
私はずっと、ねえやの姿を見ていたから。
後は、弟と妹が、ねえやが酷い事をされていると、ねえやの物と同伴で送られてきた文で教えてくれた。
子供はそういう気配に敏感だから、嫌でも感じ取ってしまったと思う。
ねえやに酷い事をした女中は、もうねえやに酷い事が出来ない様、父上と母上が手回しをしてくれた。
可愛い弟と妹が増えて、一族の子達の面倒も見てくれる様になったねえやは、私には眩しく見えた。
何て素敵な人なのだろう。何て輝いているのだろう。何て綺麗だろう。けれど、らしくない嫉妬心も抱いてしまったりも。
ねえやはきっと、盲目的になるのはよして下さいと言うに違いない。
違うんだ。私がそう思ってしまう程に、ねえやは魅力の溢れた方なんだ。
ねえや、これからも私に"おかえりなさい"、"いってらっしゃい"と、そう言って出迎えて、見送って欲しい。
それが叶うのなら、私はどれだけ嬉しい事か。
弟や妹達、一族の子達がどれだけ嬉しいのか。
◇
薮入りの日から、二月が経った頃。
秋の気配を感じさせる時期を迎えても、忍術学園で平時と変わりない生活を送っていた。
そんな中、私は実家から送られてきた文を小松田さんから受け取る。
ねえやと弟妹達の物が入っているだろうと呑気に思っていたが、ねえやの文が見当たらない。
その次に、湿気か水か、はたまた涙で濡れた跡か、くしゃくしゃになっていた弟妹達の文を手に取る。
"ねえや、居なくなっちゃった"
"ねえや、ずっとお家に帰ってこないの"
"誰も何も話してくれない。助けて、兄上"
"もうねえやに会えないの?"
"ねえやのお荷物、全部無くなってた"
"兄上の所に、ねえやは来てないの?"
―――――――――――――――――
◆名無し ○○
七松家に奉公に出ていた子女。ねえや。
薮入りの日から二月経った頃、七松家から姿を消した。長かった奉公期間が満了したのか、規則違反(色恋関係)の罰則を受けたのか、愛されすぎて辛くなったのか、それとも出合い茶屋で何かあったのか……。
◆七松 小平太
ねえやと出会ったのは、八歳の時。
身近に存在する歳の近い女子で、甘えられる相手だった。
ねえやに向ける感情には、歳を重ねる毎に恋慕も入り交じり、自身を慰めるべく、熱を吐き出す際にねえやを浮かべていた。
これからもずっと、七松家でねえやが出迎えて、見送ってくれると思っていた。
◆七松家の弟妹達
ねえやが大好き。
兄上とねえやが仲良しで、嬉しかった。ねえや、帰って来て。またいつもみたいに遊んで。
◇続編→信頼出来ない語り手の嗚咽(七松小平太 R18)
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アニメ版 七松小平太×女夢主
七松家へ奉公に出ていた○○が、七松家の子供達から好かれている話。
◆名前変換夢ですが、最初のみ名前が登場。
◆一人称(夢主)視点で進みます。
◆既存キャラの解釈違い(口調や性格)が出てくると思われますので予め、ご了承下さい。
◆七松家の内部、弟妹達の口調の捏造・七松弟×夢主(しょたおね)の要素あり
夢主の簡単な設定
・小平太より二歳年上。
・七松家へ、奉公に出向いている。
・
冬のある日の、小さな出会い
わたしは、七松家に仕えている女中。
嫁入り前の子女として、一通りの礼儀作法や教養を身につけるべく、当時十歳のわたしは、七松家へ奉公に出され。
『小平太様』
庭先に咲く白梅が、冬の名残を残しつつもほころび、冷たい風が一房を揺らす中、当時八歳の小平太様と対面した。
わたしより身長は低く、くりくりとした丸い澄んだ目は、確かにわたしを捉えて離さない。
可愛らしいとは裏腹に、親譲りの凛々しい眉が小平太様の意志の強さを示している。
「名は、何と申されるのですか」
『名無し ○○と申します。小平太様、父上様、母上様、弟妹様方がお暮らしになられる、屋敷内で働かせて頂く女中の一人でございます』
簡単に自己紹介を終えると、小平太様は目を煌々と輝かせて、わたしを見つめる。
放たれている輝きが、今にでも外へ漏れ出てしまうのではないかと思うものの、意識を小平太様へ戻す。
「では、これから私の世話をして下さるというのなら、遊び相手となってくれるのですね」
七松家に雇われている女中には、小平太様と年齢の近い者は、わたし位しか居なかった。他は年上の女性に当たる方々であり、子の遊び相手となれば、幼い小平太様も気を遣うのであろう。
だが、わたしはその小平太様の無垢な期待を壊す、予め用意された回答を口にする。
『小平太様のご要望にお答えしたいのは山々ですが、わたしは雇われたばかりでございます。炊事家事等のいろはを教わっている身でありますが故に、そのような身分ではございません』
その回答を聞いた小平太様は、凛々しい眉を下げて、あからさまに落ち込んでいる様子をわたしに見せつけてきた。
この様な言い方は無礼であるのは承知だが、小平太様の心境は今のわたしには、分かりかねないのだ。
◇
女中として雇われてから、一年が経過した。
七松家での日々は、楽もあれば苦もあるという言葉を丁寧に表す事の出来るものだと思い返せる。
朝はまだ薄暗い内から、炊事場では釜戸の火がぱちぱちと小さく鳴り、井戸端では、水を汲む音が絶えない。
昼間は障子を開け放つと、遠く山々の青さが見え、時折吹き抜ける風が干した布を揺らす。
炊事家事、礼儀作法等を一通りを身につけるに当たり、様々な人間と出会った。
気のいい女中や境遇に同情する女中も居れば、女将気取りの女中と、七松家の女中は千差万別だ。
"屋敷内を走る"、"指定された門限を破る"、"風呂場または手洗い場の清潔さを保つ"……この様な何百も存在する規則を破った日には、批言帳に事細かく記録されてしまう。
それでも、わたしは奉公先の七松家に尽くす・この時代を生き抜く為という、私利的な目的を遂行すべく毎日、朝早くに起き、夜遅くまで働いた。
「ねえやは、私と離れ離れになるのを寂しく思われないのですか」
小平太様は、わたしの事を"ねえや"と呼び、有難い事に慕ってくれている。
話の内容というと、"忍術学園"と呼ばれる山奥の学園に、行儀見習いとして入学する事が決まり、わたしが小平太様と離れ、寂しいという感情を抱くのか抱かないのかという些細な問題を提示された所だ。
『それは勿論、寂しいとお思いになります。長期休みまでの間、文でのやり取りで、小平太様の安寧が得られるのであれば……』
「します!」
その提案に、小平太様は勢いよく顔を近づけると、確かにそう言った。
すると、小平太様は先程の勢いはどこへ行ったのか、頬をほんのりと紅潮させ、わたしを見つめる。
「……ねえや、またいつものをして下さい」
『えぇ、失礼させて頂きます』
両手を少し広げると、小平太様はわたしの胸の中にすっぽりと収まり、自身の両腕をわたしの背中に回してきた。
小平太様の温もりが伝わり、それはわたしだけでなく、小平太様もわたしの温もりを感じている。
母上様が双子の次弟様・三弟様。その後に長妹様を出産し、育児に励む母上様を想う小平太様は、心配をかけたくないからと、年相応に甘える姿を見せない。
それもあってか、年齢の近いわたしに対しては、こうして抱擁を交わして、甘えてくるのだ。
「ねえやだけに、忍術学園の事をお教えします」
耳元で、小平太様はわたしにそう話し掛けてきた。
「忍術学園は、忍者になる為の学び舎です。ねえやに胸を張れる一流の忍者になれる様、いけいけどんどんに精進します!」
口癖である、"いけいけどんどん"を間近で聞いてしまった事により、ビクッと肩を震わせた。
小平太様はキョトンとした様子であり、自身の大声でわたしが驚いた事に自覚がないのだ。
『わたしも微力ながら、応援させて頂きます。小平太様の夢を』
「微力などでは、ありません。ねえやの応援は、私の力の源にもなります」
そう言い、小平太様は快活な笑みを見せた。
休憩時間が終わりに近づいていた事で、わたしは小平太様と別れ、持ち場へ移動する。手短に挨拶を交わしてから、手を振る小平太様に、わたしも手を振り返す。
◇
小平太様が忍術学園に通われる年齢となった年、母上様は双子の四弟様・五弟様を出産した。小平太様の弟妹様が一気に五人となり、屋敷の女中達は、てんてこ舞いだ。
赤子である四弟様・五弟様は、歴の長い女中が世話をすると共に、産後間もない母上様の体調確認等を行う。
そうなれば、若い女中であるわたしは、次弟様・三弟様・長妹様との関わりが必然的に増え、現在もこうして、次弟様・三弟様の世話を担当している。
「ご馳走様でした」
次弟様と三弟様は、双子だからか息ぴったりで食後の挨拶をした。膳に並べられた器に残飯等は無く、全て二人の胃の中に取り込まれ、消化されている最中だ。
「ねえや。僕、今日も残さず完食しました。ご褒美、宜しいですか?」
次弟様が、わたしの頬に視線を向けながら、そう問いかける。
これは初めてでなく、何度も行っているやり取りだ。
『……周りに、誰も人は居ませんね?』
「はい!」
「ずるい! 僕も、ねえやにしたい! 僕だって苦手な物、残さずにちゃんと食べた!」
眉間に皺を寄せ、三弟様は分かりやすく怒りを露わにする。間に入られた事で、次弟様も苛立った様子を見せ、一触即発になりかけた所で、わたしは自身の手のひらを出した。
『喧嘩は、いけません。もし、喧嘩をなさるのなら、褒美はお預けとさせて頂きます』
「それは、嫌です!」
またしても、双子故に息ぴったりに声が合わさった。
「僕、ねえやの右の頬」
「じゃあ、僕は左」
次弟様は右頬、三弟様は左頬を指してから、同時に口付けをした。
ちゅっっと、同時に可愛らしいリップ音が聞こえてすぐ、唇は離れていく。
この二人も小平太様同様、わたしに懐いている。苦手な事が出来た、苦手な物を食べた等……、何かしらの事を達成した時の褒美で、わたしの頬に口付けをするという習慣が出来上がった。
いくら七松家に仕える女中とはいえ、人目も憚らずに行う訳がない。
「ねえや」
すると今度は、庭に咲いていた山茶花を抱えていた長妹様が現れた。
「お庭に咲いていた山茶花のお花、採って貰ったんです。ねえやにも見て欲しくて、持ってきました」
『お気遣い、感謝します。とても綺麗に咲いていらっしゃいます。その山茶花のお花、母上様に献上したら、きっとお喜びになりますよ』
「えへへっ。お母様、元気になるかなぁ」
産後間もなく、母上様は体調の優れない日が増えており、長妹様は母上様の体調に気にかけていたから、きっと山茶花を献上するだろう。
『お兄様に文をお送りしますが、もし書いて欲しい事がございましたら遠慮なくお教え下さい』
お兄様とは、小平太様を指している。入学後、わたしは約束通り、小平太様と文通をしており、日はまちまちだが、忍術学園から七松家に文が届くのだ。
忍者の学校だから、機密情報は外部に漏らさない為にと、授業内容と具体的な物は知らない。代わりに、小平太様の同室相手の子の話、同級生の子の話が綴られ、どれも飽きる事無く、最後まで読み切っている。
「僕も元気ですって、書いて下さい!」
「お母様の体調がよろしくない事も、兄上に伝えた方が良いよね?」
「山茶花のお花を採ったよって」
次弟様・三弟様・長妹様から順番に告げられた内容を、わたしは小平太様宛の文に忘れる事無く、記載するのだった。
夏の陽射しに紛れた、淡い思い
小平太様が、四年生に進級して迎えた夏。
蝉時雨が絶え間なく降り注ぎ、屋敷の庭に植えられた青々とした葉が、時折吹く温い風にざわりと揺れる。
忍術学園の長期休暇となり、小平太様は実家に帰って来た。
運動系の委員会に属しているとの事で、筋肉量は下級生時代から増え、付近に暮らしている同年代の男子よりも健康的である。
第二次性徴を迎え、背丈もわたしを追い抜こうと、ぐんぐん伸びている。高い声色も今では声変わりによって、濁声の混ざった低音となり、小平太様も着実に大人へと近づいているのだと、こうして気づかされるのだ。
「ねえやと二人で話す時間も、こうして限られてしまうのですね」
次弟様・三弟様・長妹様・四弟様・五弟様・今年生まれた次妹様が母屋内の寝室で眠りについた事を確認してから、小平太様はわたしを母屋の縁側に誘い、話をする。
薄暮の空はすっかりと茜色から群青へとゆっくりと溶け、家々の影は静かに長く伸びていく。
『文は毎月、欠かさずお送りしています。文で会話をするのも案外、悪いものでも……』
「そうではありません! 弟や妹達は、ねえやと触れ合っている! ねえやと話が出来ている!」
『こ、小平太様。皆様、起きられてしまいますよ』
慌てて声を掛けると、小平太様は目を丸くさせ、自身の口元を手で塞ぐ。
そうしても、既に遅い。
御家族の方々が、目を覚まさない事を願うばかりだ。
小平太様の弟妹様達が、わたしに懐いて甘える様子を見せるのは、わたしにとって嬉しい事ではあるものの、女中からして見れば、"贔屓されて面白くない"と白い目で見られた事も珍しくはなかった。
小平太様が忍術学園で勉学に励まれている間、わたしは自分より若い女中や歳の離れた女中から、それとなく嫌がらせを受けた。
理由は勿論、七松家の弟妹様方から贔屓されていると。
間接的に関係があると言えど、負の感情を罪のない弟妹様達に向けはしないと、笑顔を取り繕った。
その間、わたしは女中からの嫌がらせに屈する事もなく、毎日を過ごした。
だがある日、天がわたしの味方についた。
嫌がらせを仕掛けてきた女中達は、外出の際に規則違反(二股、不倫等の色恋沙汰)を犯し、罰され、これまでわたしに行ってきた仕打ち全てを白日の元に晒された。
罰として一番重い"暇を出される"の刑を下され、今はもうここには居ない。
「それにしても、ねえやは変わらずお綺麗です」
突然、小平太様はまじまじと顔を見てくるなり、平然とした様子で言いのけた。
『小平太様。その御冗談、学園の御学友の方にもおっしゃっているのですね』
「こんな事、ねえやにしか言いません。それに学園の[[rb:女子 > おなご]]は皆、凶暴で恐ろしいのです」
何を思い出したのか、小平太様は眉を潜めて、顔を歪ませる。忍術学園に通う女子は、精神的に強い方々が揃っているのだろうか。
如何せん、学園内の機密情報を漏らさない為にと、わたし自身も小平太様から話を聞かない事もあってか、どのような女子の方が居るのかを把握していない。
「更には心までも綺麗だから、弟と妹は皆、ねえやに懐いて甘える。ねえやの全てが綺麗だ」
『……小平太様。私は清廉潔白の人間では、ございません。私欲も兼ね備えています』
必要以上にお褒めの言葉を受けた事から、わたしは小平太様から目を逸らす。心做しか、頬に熱が集まっている気がする。
「ねえや、いつものをして下さい」
いつものと言われ、何かと聞く程に鈍くはない。もう何年も行っているやり取りだ。
縁側を抜ける風は確かに涼しい筈なのに、小平太様の体温に包まれると、それも霞んでしまう。
彼の背中に回した手からは、日に焼けた少しざらついた肌の感触が伝わり、幼かった頃の柔らかさは、もうそこにはない。
背中に回された手も、何年か前の小さなものでは無くなり、骨ばってゴツゴツとしている。
ここでも、小平太様の成長を感じさせられた。
「ねえや」
小平太様の声が、真横から聞こえる。
「ねえや、お慕い申しております」
その言葉を聞いたわたしは、小平太様を抱き締める力が弱まるのと対称的に、背中に回された両腕の力が強まる。
「弟、妹、一族の子達、母上、父上の居るこの家が大好きです。それに、ねえやが私に"おかえりなさい"、"いってらっしゃい"と言ってくれるのも大好きなのです」
酷く穏やかな声色で、小平太様はわたしにそう言った。
「ですが……、ねえやは、弟達から口付けをされているそうじゃないですか」
今度は、拗ねた子供の様にして、どこか怒りを含んでいる小平太様の声が聞こえ、感情がコロコロと変わる声色だと今の状況をどこか達観しているかの様に、わたしは思うのだ。
『ほ、褒美の様な物でございます』
「褒美? ねえやは、誰にでもそうやってするのですか」
『とんでもございません。弟妹様方は、まだ幼い故に口付けの意味を理解していらっしゃらないのです。小平太様と同じ歳となれば、その意味も理解なさる筈です』
「ねえや、話の論点を逸らさないで頂きたい」
ピシャリと言われた。わたしは、何も言えずじまいとなる。
「嫉妬など、お見苦しい感情を見せてしまいました……私らしくない」
普段から、細かい事を気にしないと豪語し、溌剌とした笑顔を向ける小平太様だが、今の小平太様は頬を紅潮させ、くりくりとした丸い目も伏せ気味である。
それでも、"私らしくない"と言うと、自身の両頬をペチペチと手のひらで叩き、喝を入れた。
「可愛い弟と妹が、ねえやに甘えるのは、通過儀礼の様な物であり、仕方のない事だ!」
変わらず大声を発した小平太様に、わたしはもう何も言わない。
◇
そして現在、小平太様が最上級生の六年生に進級した年。
母上様は、末弟様を出産され、今では小平太様を含め、計八人の子供達と大家族だ。
わたしは、雇用者に当たる七松夫妻をはじめ、弟妹様全員・一族の皆様の身の回りの世話、訪問客の接遇の一部を担当するまでとなり、その身分が保証されている。
そんなある日、母上様が病に伏し、別室に篭もりきりになる日が増え、安否が懸念されている。
「ねえや。兄上のご友人の方、どんな方でしょうか」
「優しい人でしょうか」
「怖い人が居たら、私がねえやをお守りします」
わたしの周りに集まる四弟様・五弟様・長妹様が、これから小平太様と共に訪問してくるという、顔の知らぬ御学友の方々を気にしている。
屋敷内を包む不安の漂う空気は、弟妹様達にも伝わっており、憂慮に堪えない。
『大丈夫ですよ。お兄様の御学友の方ならば、きっと気のいい方々の筈です』
四半刻(三十分後)、七松家の門を潜る四つの影が見えてから、小平太様の学友にあたる――、中在家長次様・食満留三郎様・善法寺伊作様が、母屋に姿を見せた。
初めは警戒心を見せていた弟妹様達も、小平太様のご友人だと証明されれば、心を開いて遊びに励んでいる。
善法寺様が作られたという薬を小平太様が、別室で寝込んでいる母上様の元へ届けに向かうべく、母屋を離れていく。
『母上様に代わりまして、ご挨拶させて下さい。学園では小平太様が、お世話になっております』
「あぁ、そんな畏まらずとも。小平太には、いつも世話になっていますよ」
「御家族を大事にしていらっしゃる姿が、後輩思いな所に繋がっているのが見て分かりました」
挨拶を交わしてから、食満様と善法寺様が順番に小平太様に関する話題を提供してくれた。
女中として働き三昧で、休日日数も限られている身として、学園に赴く機会が少ないわたしは、学園での小平太様の詳しい様子はよく知らない。
「……小平太はよく、貴女の事をお話になります」
『えっ?』
中在家様のボソボソとした声で、何かを言われたものの聞き取れず、思わず声を発してしまう。
「当たり前だ。綺麗なお方なのだから、ねえやの事となれば、話が止まらなくなる」
別室から戻ってきた小平太様は、中在家様の言葉が聞き取れた様で、そう返答した。
「お兄ちゃん達、ねえやを取っちゃ駄目だからね」
「僕達、ねえやの事が大好きなんだから」
「ねえやのお家、ここなの」
次弟様・三弟様・次妹様がわたしの前に現れると、小平太様の学友達に向けて、そのような事を言い出す。
「きみ達の大好きな人を、取ったりしないよ」
善法寺様は、次弟様、三弟様、次妹様と視線を合わせるべく、その場に屈むと、人当たりのいい笑みを浮かべたのだった。
その後、中在家様、食満様、善法寺様は七松家で一泊する事となり、夕餉の時間も共に過ごした。
入浴を終え、布団を敷いてからも、小平太様のご友人という興味は失われておらず、就寝するまで、弟妹様達は三人に夢中であったのだ。
「ねえや」
背後から、小平太様に声を掛けられた。
いつもの縁側で話がしたいとの事であり、事情を御学友の方々に伝えてから、わたしと小平太様は寝室を抜け出し、縁側に到着すると、定位置に座る。
夜の帳が降り、庭先の行灯が静かに灯っている。
虫の声が涼やかに響き、頬を撫でる夜風が昼の熱を追い払ってくれた。
『小平太様の御学友の方々、とても趣がありました』
「あの三人は、良い奴等です」
『わたしは、小平太様の通われている学園に赴いた事がありませんでしたから、小平太様が御学友の方々に恵まれているのだと知る事が出来て、嬉しい限りです』
それは、わたしが心から思っている言葉だ。
一方的に思っているだけで、不仲の関係であるのかもしれないが、日中の様子を見ていれば、悪い人達ではないのは何となくだが分かった。
「ねえやにそう言われて、あの三人も嬉しいに違いありません」
『そ、そうでしょうか』
「私が断言するのだから、当然です……、ねえや、今度の薮入りは、どうされるのですか?」
薮入りとは、女中等の奉公人の数少ない休日である。ちなみに、今度の薮入りは盆の日だ。
『変わらず、こちらでお過ごしになります』
遠方に暮らす家族と過ごせないのは、決して寂しくないという訳ではないが、こう何年も続いてしまえば少なからず、寂しさは少しだけ薄れてしまう。
わたしの言葉を聞いてから、小平太様は唸っている様子を見せる。やがて、何か思いついたのか、わたしと目を合わせた。
「……ねえやの薮入り、私と過ごして頂いても宜しいですか」
それは、本当の幸福か
そして迎えた、薮入りの日。
まだ薄く靄の残る庭先では、近辺に暮らす女中達が晴れやかな顔で支度を整え、実家に帰るべく次々に七松家の門を潜っていく。
門を出た先の道には、木々の葉の間から差す朝の木漏れ日がちらちらと揺れ、爽やかな初夏の香りが漂っていた。
そんな中、わたしは約束通り、休日の時間を小平太様と共に過ごす事を決めたのだ。
「ねえや!」
小平太様の、快活な声が聞こえてくる。
見慣れた常服を纏い、軽やかに走り寄って来るその姿は、どこまでも無邪気で、どこか頼もしい。
『小平太様、そんなに元気でいらっしゃいますと、お体に響いてしまいます』
「私の体力は、有り余っています。それはどれだけ山道を走ろうが、疲れなど感じさせない程に!」
年相応の笑顔を見せた小平太様だが、それはすぐに解けていく。
「でも、ねえやが一緒だと、有り余っている筈の体力が、いつもより消費される。私はそれが嬉しい。私は、ねえやと遊びたいのですから」
七松家の門を潜り、わたしと小平太様は町へと赴く。
道端では水撒きを終えたばかりの土の匂いが立ち上り町の通りは活気に溢れ、商いの声と、祭りの準備に浮き立つ子供たちの笑い声が、そこかしこから聞こえた。
芝居見物を嗜み、美味と女中の間で評判である団子屋を小平太様に勧めて、三色団子を味わう。
小間物屋で、櫛や簪等を眺めていると、小平太様がわたしが欲しいと狙っていた櫛を手に取り、店主に掛け合い、安い値段で購入してくれたのだ。
「私から、ねえやへの贈り物です」
『あ、ありがとうございます』
礼を述べてから、わたしは小平太様から櫛を受け取る。
その際に、小平太様の手がわたしの手を簡単に包み込んでしまうのではないかと錯覚してしまう。
「……ねえや」
声を掛けられ、わたしは顔を上げた。
小平太様の頬は赤く染まりながらも、わたしの手を取る。
『こ、小平太様』
「ここは、実家ではありません。誰も気にしない。私達がこの様な事をしても、指摘する者は誰も居ない。ねえや、私とも遊んで」
わたしが返事をする前に、強引に手を引かれてしまい、走らざるを得ない。
その間、小平太様は珍しく一言も発さず、耳が頬の様に赤く染まっていたのは、小平太様は知っているのだろうか。
『……小平太様、ここは』
町の賑わいを抜けて裏路地に入ると、しっとりとした静けさが辺りを包んでいた。
古い木戸の向こうにひっそりと佇む建物の前で足が止まり、小平太様に声を掛ける。
「……ねえや」
小平太様からの熱視線を浴びられるも、わたしは不思議と目を背けはしない。
引かれていた手も小平太様の方から指を絡ませ、"逃がさない"という思惑を感じ取れる。
「私だって、私欲を兼ね備えている」
◇
わたしと小平太様が入った建物は、出合い茶屋だ。
外見からは何ら変わりない定食屋であるが、実際は思人同士の逢引きの場でもある。
「ねえや、ねえやっ」
一室に案内されてから、布団の上でわたしは小平太様からの熱い抱擁を受けていた。
その姿は、幼い頃の小平太様に戻った様だと思えるも、わたしの体を包んでしまう大柄な体格や腕の太さから、もう幼い子供のものではない。
「ねえや、抱き締めてっ」
『はい、小平太様』
「そのっ、様呼びは止めて欲しいっ。小平太って、ちゃんと呼んでくれ」
『こ、小平太……さん』
妥協して、"さん"呼びをされた事を不服そうにする小平太様であったが、様よりはマシだと割り切ったのか、抱き締める力を強めていく。
「ここならっ、好きなだけ…ねえやを抱き締められる」
実家では弟妹様達の前で、小平太様はわたしに抱擁はしない。
甘えたがりの弟妹様達を優先して、自らの欲は見えない所で発散している。
「ねえや、私もねえやに口付けしたいっ」
『えっ?』
「可愛いのは変わらないが、弟達ばかり、ずるいっ。私も、私だって、ねえやに口付けしたいっ」
唇を尖らせて、そのような可愛らしい申し出をする小平太様に、不覚にも可愛さを感じてしまう。今の小平太様に伝えれば、お怒りになるだろう。
「ねえや……だめ?」
『……小平太さんの、好きな様に』
「本当に良いんだな? 私、ねえやに止められても、抑えきれなくなるかもしれないのに、それでも構わないのか?」
あくまで、わたしの意志を尊重してくれる様だ。
ここに連れてこられた経緯は強引ではあったものの、それでも、わたしの事を気にかけてくれている小平太様は、優しい人だ。言葉にする代わりに、静かに頷いて見せると、小平太様が唾を飲み込む。
両頬が朱色に染まりきった小平太様の顔が近づくと、右頬に口付けをされる。次に左頬も同じ様な口付けをしてから、小平太様の口から吐息が漏れた。
「ねえや、」
そう言われた直後、小平太様の唇で塞がれ、私自身が言葉を発する事は出来なくなる。
軽い口吸いを繰り返され、今度は唇をはむはむと噛まれ、唇の味を堪能される。
『んぅ…ッ』
思わず、口から喘ぎ声が漏れてしまう。
それには小平太様も驚いたのか、口吸いを中断して、わたしの顔を見た。
「その可愛い声、好きだ」
照れているわたしを他所に、小平太様はわたしの額、首元にも口付けが降り注ぐ。
「ねえや…、はぁ…っ……、苦しい…っ」
目を細め、何かに苦しんでいる様子を見せる小平太様。
その正体が、小平太様が着用している袴を押し上げる何かである事に、わたしは遅れて気がつく。
私、ねえやの厭らしい姿を何度も想像して、熱を吐き出してた。綺麗な筈のねえやが厭らしくて、ふしだらで、淫ら。でも、そんなねえやを想像してしまって私、何度も興奮して。
ねえや、私は昔からねえやをお慕い申しています。
昔から、忙しい時でも私の話し相手になってくれて、嬉しかった。
初めての双子の弟が産まれて、ねえやが父上と母上と同じ様に愛情を注いだから、弟達もねえやに懐いたんだ。
私はずっと、ねえやの姿を見ていたから。
後は、弟と妹が、ねえやが酷い事をされていると、ねえやの物と同伴で送られてきた文で教えてくれた。
子供はそういう気配に敏感だから、嫌でも感じ取ってしまったと思う。
ねえやに酷い事をした女中は、もうねえやに酷い事が出来ない様、父上と母上が手回しをしてくれた。
可愛い弟と妹が増えて、一族の子達の面倒も見てくれる様になったねえやは、私には眩しく見えた。
何て素敵な人なのだろう。何て輝いているのだろう。何て綺麗だろう。けれど、らしくない嫉妬心も抱いてしまったりも。
ねえやはきっと、盲目的になるのはよして下さいと言うに違いない。
違うんだ。私がそう思ってしまう程に、ねえやは魅力の溢れた方なんだ。
ねえや、これからも私に"おかえりなさい"、"いってらっしゃい"と、そう言って出迎えて、見送って欲しい。
それが叶うのなら、私はどれだけ嬉しい事か。
弟や妹達、一族の子達がどれだけ嬉しいのか。
◇
薮入りの日から、二月が経った頃。
秋の気配を感じさせる時期を迎えても、忍術学園で平時と変わりない生活を送っていた。
そんな中、私は実家から送られてきた文を小松田さんから受け取る。
ねえやと弟妹達の物が入っているだろうと呑気に思っていたが、ねえやの文が見当たらない。
その次に、湿気か水か、はたまた涙で濡れた跡か、くしゃくしゃになっていた弟妹達の文を手に取る。
"ねえや、居なくなっちゃった"
"ねえや、ずっとお家に帰ってこないの"
"誰も何も話してくれない。助けて、兄上"
"もうねえやに会えないの?"
"ねえやのお荷物、全部無くなってた"
"兄上の所に、ねえやは来てないの?"
―――――――――――――――――
◆名無し ○○
七松家に奉公に出ていた子女。ねえや。
薮入りの日から二月経った頃、七松家から姿を消した。長かった奉公期間が満了したのか、規則違反(色恋関係)の罰則を受けたのか、愛されすぎて辛くなったのか、それとも出合い茶屋で何かあったのか……。
◆七松 小平太
ねえやと出会ったのは、八歳の時。
身近に存在する歳の近い女子で、甘えられる相手だった。
ねえやに向ける感情には、歳を重ねる毎に恋慕も入り交じり、自身を慰めるべく、熱を吐き出す際にねえやを浮かべていた。
これからもずっと、七松家でねえやが出迎えて、見送ってくれると思っていた。
◆七松家の弟妹達
ねえやが大好き。
兄上とねえやが仲良しで、嬉しかった。ねえや、帰って来て。またいつもみたいに遊んで。
◇続編→信頼出来ない語り手の嗚咽(七松小平太 R18)
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