短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
.
押都長烈×夢主
籠城戦後、ひょんな事から押都長烈と遭遇した○○が、仲が良いとは言い難い、奇妙な関係を築いていく話。
◆押都さんと絡ませたいという私欲から出来上がった短編の為、勢いまたは雰囲気夢小説として、読み進めるのを推奨。
◆後半部分に、原作62巻ネタ(消えた食材の謎の段など)あり
・
押都長烈は、木々の上を飛び、事務員の小松田の目を掻い潜り、学園内へと侵入した。
自身が所属するタソガレドキ忍軍の組頭、雑渡昆奈門に他国の戦の状況について伝令するべく、わざわざ学園に足を踏み入れた訳である。大方、雑渡は懇意にしている保健委員が集う医務室に滞在しているだろう。
下級生の忍たま、一部の上級生の忍たまは押都の気配に気づかない。正確に言えば、気づく事が出来ない程、気配を消すのが何枚も上手であり、欺いているのだ。
雑渡からは、特に最上級生に位置する六年生は好戦的な忍たまが多いと話は聞かされている。鉢合わせてしまった際に、勝負を仕掛けられて困ったものだと話していたが、その時の声色は平時と同じく、どことなく目元が緩んでいた。
その時、気配を察知したと同時に、バレーボールが勢いよく押都の元へ飛ばされていく。
押都が片腕のみで弾き返すと、バレーボールは学園内のどこかを目指して、落下していった。
(今のボール……私がこの場所へ来る事を予測していた様に、軌道を描いて飛んできた)
バレーボールの軌道が、偶然とは思えない程に押都の顔面目掛けて放たれた事に、押都は学園内に居た誰かが意図的に自分を狙い、当てたのだと確信がつく。
「トスをされたら〜! いけどんアタック!!」
校庭から、六年ろ組の七松小平太の声が聞こえるも、押都が気にすることではない。ボールが地面を叩きつけると共に、校庭から砂嵐が舞い、視界が遮られる。
しかし、押都は砂嵐が舞う直前にそれを見越し、雑面を付けていた事により、砂による視界の遮りを回避した。
「気配を悟られる様では、プロ忍者と名乗るのは些か難しいだろう」
砂嵐の向こうから感じ取った気配から、まだプロ忍者ではない、この学園に通う青さの残る忍たまであると分かった。
やがて視界がはっきりとして、砂嵐が収まった頃には、押都と距離を置いた位置に、六年ろ組の名無し○○が立っていた。
『貴方は、この間の籠城戦でお見かけした……』
「曲者とだけ、名乗っておこう」
"この間の籠城戦"とは、マツホド忍者の末裔で、現在は四年ろ組に属している浜守一郎が起こした別名、幽霊城騒動の事だ。ここでは、詳細を割愛させて頂く。
『クソタレガキの為津 酢瓶津 さん』
「タソガレドキ忍軍、押都長烈だ」
もはや、お約束のやり取りである。どういう意味かと問われれば、メタ的な意味だ。
押都も○○に故意に名前を間違われた事で、図らずとも自分自身の正体を告げてしまうのである。
『そして俺は、六年ろ組の名無し○○です』
○○は、あまりにもあっさりと所属する組と、自身の名を押都に告げた。
「忍者を志す者なら、自分の素性を敵の忍者に明かす等、あってはならない……、ここでは、そう教わらないのかな」
酷く冷静な声色を発した押都の言葉に、○○は怯む様子を全く見せず、何なら涼しい顔を保ってる。
『珍しい梟 をお見かけしたものですから、撃ち落とそうかと思いまして。それに、貴方の属する忍軍であれば、俺の名前以外にも、素性なども簡単に特定する事が可能でしょうから、あえて先手を打っておきました』
ここに生物委員会の面々が立ち会い、今の○○の発言を聞いただけなら、卒倒するだろう。擁護するならば、本物の梟 相手に○○はそのような事はしない。
そして、後半部分の発言から、押都にバレーボールを投げ込んだのも○○であると分かる。それをトスされたら、アタックする奇癖を持つ小平太が、校庭にボールを叩きつけたのだが、○○はそんな事など、日常茶飯事なのだ、どうでもいい。
何故、○○が押都にバレーボールを当てる事が出来たかと言えば、○○がどんな物でも自分の定めた位置に当てる事が可能な、百発百中の腕前の持ち主だからだ。それも今の○○にとって、単なる自己紹介にしか過ぎないと切り捨てる。
「生憎だが、きみの様な子とあいまみえて、仲良く茶を啜る様な時間は持て余してはいない」
失礼する……、最後にそう付け足し、押都は○○の前から姿を消す。噂に聞いていた六年生の一人であれば、好戦的で自分を追いかけに来るのかと面倒に思う押都だったが、背後から気配は感じられない。
○○が来ていない事が分かると、それ以上は特に気にする様子も見せず、雑渡が滞在する医務室へと向かうべく、学園内の天井裏に身を隠す。
・
別日、雑渡は部下である諸泉尊奈門が、忍術学園の教科担当教師の土井半助に果たし状を送り、土井が必要以上の迷惑を被っていないかと気にしてか、忍術学園へと出向いていた。
(まさか、またこの学園に足を運ぶ事によりなろうとは……)
押都は、雑渡への伝令を送るべく再び、忍術学園に足を運んでいた。わざわざ足を運ばなくても良いだろうと思うにも、急ぎの内容であった為に、早急に知らせなくてはならないのだ。
『タソガレドキ忍軍、押都長烈さん』
その時、下方から聞き覚えのある少年の声が聞こえた。それも、押都の名を呼んで。
『雑渡昆奈門さんなら土井先生との用事を終えられて大方、うちの学園の保健委員会の集う医務室に、いらっしゃるかと』
雑渡は、押都の所属するタソガレドキ忍軍の組頭だ。いくら現時点で、中立的関係を築いている忍術学園の生徒が、そんなあっさりと雑渡の居場所を吐いてしまう等、押都には理解が及ばない範疇であったのだ。
押都が、声の主である○○の元に現れると前回、対面した時とは違い、青色の忍装束を着た羽丹羽石人、紫色の忍装束を着た斉藤タカ丸の二人も傍に居た。
「名無しくん。きみ、いくら学園内とはいえ、ペラペラと組頭の居場所を漏洩させて、私達に対しての警戒心が無いのか」
『いえ、ありますよ』
○○は、園田村の一件から、タソガレドキ忍軍の総戦力に相手をするとなれば、忍術学園をも凌駕し、学園全体を崩壊に追い詰めるだろうと理解している。
だからこそ、無闇矢鱈に勝負を仕掛ける事もせず、安全圏内である学園内で、このように雑渡の居場所を嘘偽りなく、素直に吐き捨てるのだ。
「名無し火薬委員会 委員長。この方とは、お知り合いですか?」
羽丹羽は、押都とは初対面であった為に、○○に誰であるのかと押都本人の前で問いかける。
『一年は組関係でな』
○○は、幽霊城騒動のあった籠城戦の事について深く説明はしない。仮にタカ丸に同じ問いを○○に投げかけても、同様の答えを返す。
「これから食堂で、豆腐パーティーを行うんです。名無しくんのお知り合いの方で、もし良ければ、参加していきませんか?」
「豆腐パーティー……?」
タカ丸の言う豆腐パーティーとは、五年い組の久々知兵助主催の豆腐料理を堪能する会である。
ちなみに、この会を心から喜んでいるのは久々知だけだ。○○は地獄の豆腐生活を経て、豆腐パーティーを生き延びる術を得たのだが、あくまで委員間の親睦を深める手段としてしか見ていない。
押都は、○○が火薬委員会の委員長を務めている点にも気になったが、もう一点として、豆腐パーティー"等と、火薬と繋がりが見つけられない催しを不思議に思う。
『いや、いくら最強という呼び名を持つタソガレドキ忍軍の忍者の方でも、あいつの豆腐パーティーに参加させられない。これを契機に、戦でも仕掛けられたら溜まったものではないから』
冗談めいた言葉に聞こえるが、半分は本気である。だが、押都は参加して欲しいと言われようが、そもそも参加する気など、更々ない。
「急ぎの用があるもので、その豆腐パーティーとやらは欠席させて頂こう」
丁寧にそれだけ言い残し、押都は再び、学園内を駆け抜けていく。○○にはその姿は何とか捉えられたものの、羽丹羽とタカ丸には、一瞬の出来事であり、いつの間にか姿を消していたとしか認識されていない。
(……好奇心で声を掛けたのは些か、良くなかったかもしれないな。いや、そもそも学園に足を運ぶ雑渡昆奈門さんにも非があるだろ。うん、そうだ)
○○は一人で自己解決した。それも、自分よりも戦闘力等の面において、圧倒的上位に位置する雑渡に罪を擦り付けた形とはなっているものの。
・
○○はこの日、保健委員会 委員長を務める善法寺伊作から頼み事をされ、山中での薬草取りに励んでいた。
本来ならば、保健委員の面々を連れて、委員会活動と称し、または予算の振り込まれない為、薬草を補う為に行われている。だが、今回は下級生には些か危険な箇所での薬草取りとなってしまう為、完全な私用だ。
同室の食満留三郎に同行を願おうとしたが、近日、個人実習で実習担当教師との綿密な打ち合わせを行わなくてはならないと言われ、断念。
ちなみに○○が同行した理由は、たまたま伊作の目の前に○○が現れ、とりあえずという意志の元で誘ったというもので、明確な理由は無い。
『これ、伊作の不運?』
「ちょっと。その言い方は酷いと思うけど」
○○は、目の前に居るタソガレドキ忍軍の雑渡と押都を見て、伊作の不運が発動したのかと疑う。
伊作本人は根っからの不運体質で、留三郎が被害を被る回数は六年生の中では、一番と言って過言ではない。
「やぁ、伊作くん。それに○○くん」
組頭である雑渡は、懇意にしている保健委員会の委員長であり、恩人でもある伊作、その伊作と学友である○○に律儀に挨拶をした。
「こんにちは。雑渡さん」
『こんにちは。雑渡昆奈門さん。押都長烈さん』
○○は、雑渡との交流は比較的少ない。卒業後にタソガレドキ忍軍と仲良しだと噂され、敵だけでなく味方から背中に刃を刺される等、○○は御免だからだ。
どちらかと言えば、好戦的な六年い組の潮江文次郎と留三郎の方が、雑渡と勝負したいが為に絡みに行く事の方が多い。そんな二人の行き過ぎた行動と言えば、伊作の名を利用して、文次郎や留三郎が雑渡と勝負を仕掛ける日もある位には。
「休日に仲良く薬草取りとは随分、仲が良いみたいだね」
雑渡は、○○と伊作の仲の良さに触れるも、表情は無のままだ。これは雑渡の平時の表情である為、○○に対して憎しみがある等という訳では無い。
「そうだ、押都。若人 から助言を請いたいと話していたんだから、せっかくだし、この二人に聞いてみたらどう?」
隣で沈黙を貫いていた押都に、雑渡は○○と伊作の二人にある話題を提示させようと、故意的に声を掛けたのだ。
始めは言い淀んでいた押都であるが、組頭の雑渡からの視線に耐えかね、雑面越しに二人に話しかけようと口を開く。
「きみ達も、"レシピ"という言葉を知っているのか?」
『はい?』
突然、先程の会話から連想するには、あまりにも脈絡のない疑問を呈され、○○と伊作は押都相手に、怪訝そうな顔を向ける。
いきなり"レシピ"と言われても、"レシピ"は"レシピ"なのに……、そう思いつつ、○○は押都の問いかけに答えるべく、口を開く。
『"レシピ"と言えば、料理の手順書ですね』
素直にそう答えたと○○は対称的に、押都は言葉の意味を理解しても、雑面で顔は見えないもの、どことなく唸っている様にも思えた。
『押都さん。失礼な事を申し上げますが、"レシピ"という言葉を、ご存知ではないのですか?」
「……恥ずかしい限りだが、若者の言葉に疎い事をつい最近、自覚したもので」
「ご存知なかったのですね」
何故、レシピの意味をわざわざ年下の自分に聞いてきたのか考えた○○は、つい先日、学園内で開催された学年対抗の料理対決を思い出す。
「押都の部下から、レシピと言われた時に、押都はどうやら、若者達が普段から使用する言葉が分からない様子だったと聞かされてね」
そこには、ドクササコ忍者も参加しており、タソガレドキ忍軍からは黒鷲隊の小頭の押都を初め、三忍の椎良勘介、反屋壮太、五条弾も参加したのだ。
『いや、押都さん。ここは良い方向に考えてみては如何でしょう。新しい知見を得られたのだと』
○○は、若者言葉に疎い押都に否定的な言葉や揶揄う様子は一切見せず、前向きに捉えるべきだと涼しい顔をしながら、言いのけた。
『若者言葉どうこうより、兎の柄が入った前掛けを自ら着用していた積極的な姿勢を見せていた方が、若者らしいではないかと思いますが』
押都は、料理対決時に学園内で○○と遭遇していない筈が、半ば強引に着用を義務付けられた兎柄の前掛けを話題に出され、眉間に皺を寄せた。雑面で、○○には見えていないが。
『一年は組の良い子達が押都さんを初め、部下の方々が揃いの前掛けを着ていたとお話をしていたものでして。俺が最近、面白い事があったかと聞いたら、嬉々として話してくれましたよ』
「伏木蔵が楽しそうに話していたのは、それだったのか」
○○と伊作が、自分の前掛け姿の話題で楽しそうに、そして和やかに話を進めていたのを押都は黙って見つめていた。
「あの子達、忍者に向いていないんじゃないか?」
『下級生だから、多目に見ています。けれど、押都さん。蘇利古 の雑面の下で、笑っていらっしゃいますね』
最上級生の○○に、平然と自分の情報を垂れ流す一年生に対して、そのような言葉を言い放つ押都だったが、○○はどことなく、押都の声色から喜の感情が滲み出ていると感じる。
「何故、分かる」
『あぁ、本当に笑っていらっしゃったんですね』
まさか当たっているとは……、○○自身も内心、驚いていた。押都はその事を知っているのか知らないのか、それ以上は触れる事はなかった。
そして今後も、押都はひょんな所で○○と遭遇しては、以前よりは砕けた会話を繰り広げる事となり、伊作と雑渡とは似て非なる、奇妙な関係を密かに築いていくのである。
.
押都長烈×夢主
籠城戦後、ひょんな事から押都長烈と遭遇した○○が、仲が良いとは言い難い、奇妙な関係を築いていく話。
◆押都さんと絡ませたいという私欲から出来上がった短編の為、勢いまたは雰囲気夢小説として、読み進めるのを推奨。
◆後半部分に、原作62巻ネタ(消えた食材の謎の段など)あり
・
押都長烈は、木々の上を飛び、事務員の小松田の目を掻い潜り、学園内へと侵入した。
自身が所属するタソガレドキ忍軍の組頭、雑渡昆奈門に他国の戦の状況について伝令するべく、わざわざ学園に足を踏み入れた訳である。大方、雑渡は懇意にしている保健委員が集う医務室に滞在しているだろう。
下級生の忍たま、一部の上級生の忍たまは押都の気配に気づかない。正確に言えば、気づく事が出来ない程、気配を消すのが何枚も上手であり、欺いているのだ。
雑渡からは、特に最上級生に位置する六年生は好戦的な忍たまが多いと話は聞かされている。鉢合わせてしまった際に、勝負を仕掛けられて困ったものだと話していたが、その時の声色は平時と同じく、どことなく目元が緩んでいた。
その時、気配を察知したと同時に、バレーボールが勢いよく押都の元へ飛ばされていく。
押都が片腕のみで弾き返すと、バレーボールは学園内のどこかを目指して、落下していった。
(今のボール……私がこの場所へ来る事を予測していた様に、軌道を描いて飛んできた)
バレーボールの軌道が、偶然とは思えない程に押都の顔面目掛けて放たれた事に、押都は学園内に居た誰かが意図的に自分を狙い、当てたのだと確信がつく。
「トスをされたら〜! いけどんアタック!!」
校庭から、六年ろ組の七松小平太の声が聞こえるも、押都が気にすることではない。ボールが地面を叩きつけると共に、校庭から砂嵐が舞い、視界が遮られる。
しかし、押都は砂嵐が舞う直前にそれを見越し、雑面を付けていた事により、砂による視界の遮りを回避した。
「気配を悟られる様では、プロ忍者と名乗るのは些か難しいだろう」
砂嵐の向こうから感じ取った気配から、まだプロ忍者ではない、この学園に通う青さの残る忍たまであると分かった。
やがて視界がはっきりとして、砂嵐が収まった頃には、押都と距離を置いた位置に、六年ろ組の名無し○○が立っていた。
『貴方は、この間の籠城戦でお見かけした……』
「曲者とだけ、名乗っておこう」
"この間の籠城戦"とは、マツホド忍者の末裔で、現在は四年ろ組に属している浜守一郎が起こした別名、幽霊城騒動の事だ。ここでは、詳細を割愛させて頂く。
『クソタレガキの
「タソガレドキ忍軍、押都長烈だ」
もはや、お約束のやり取りである。どういう意味かと問われれば、メタ的な意味だ。
押都も○○に故意に名前を間違われた事で、図らずとも自分自身の正体を告げてしまうのである。
『そして俺は、六年ろ組の名無し○○です』
○○は、あまりにもあっさりと所属する組と、自身の名を押都に告げた。
「忍者を志す者なら、自分の素性を敵の忍者に明かす等、あってはならない……、ここでは、そう教わらないのかな」
酷く冷静な声色を発した押都の言葉に、○○は怯む様子を全く見せず、何なら涼しい顔を保ってる。
『珍しい
ここに生物委員会の面々が立ち会い、今の○○の発言を聞いただけなら、卒倒するだろう。擁護するならば、本物の
そして、後半部分の発言から、押都にバレーボールを投げ込んだのも○○であると分かる。それをトスされたら、アタックする奇癖を持つ小平太が、校庭にボールを叩きつけたのだが、○○はそんな事など、日常茶飯事なのだ、どうでもいい。
何故、○○が押都にバレーボールを当てる事が出来たかと言えば、○○がどんな物でも自分の定めた位置に当てる事が可能な、百発百中の腕前の持ち主だからだ。それも今の○○にとって、単なる自己紹介にしか過ぎないと切り捨てる。
「生憎だが、きみの様な子とあいまみえて、仲良く茶を啜る様な時間は持て余してはいない」
失礼する……、最後にそう付け足し、押都は○○の前から姿を消す。噂に聞いていた六年生の一人であれば、好戦的で自分を追いかけに来るのかと面倒に思う押都だったが、背後から気配は感じられない。
○○が来ていない事が分かると、それ以上は特に気にする様子も見せず、雑渡が滞在する医務室へと向かうべく、学園内の天井裏に身を隠す。
・
別日、雑渡は部下である諸泉尊奈門が、忍術学園の教科担当教師の土井半助に果たし状を送り、土井が必要以上の迷惑を被っていないかと気にしてか、忍術学園へと出向いていた。
(まさか、またこの学園に足を運ぶ事によりなろうとは……)
押都は、雑渡への伝令を送るべく再び、忍術学園に足を運んでいた。わざわざ足を運ばなくても良いだろうと思うにも、急ぎの内容であった為に、早急に知らせなくてはならないのだ。
『タソガレドキ忍軍、押都長烈さん』
その時、下方から聞き覚えのある少年の声が聞こえた。それも、押都の名を呼んで。
『雑渡昆奈門さんなら土井先生との用事を終えられて大方、うちの学園の保健委員会の集う医務室に、いらっしゃるかと』
雑渡は、押都の所属するタソガレドキ忍軍の組頭だ。いくら現時点で、中立的関係を築いている忍術学園の生徒が、そんなあっさりと雑渡の居場所を吐いてしまう等、押都には理解が及ばない範疇であったのだ。
押都が、声の主である○○の元に現れると前回、対面した時とは違い、青色の忍装束を着た羽丹羽石人、紫色の忍装束を着た斉藤タカ丸の二人も傍に居た。
「名無しくん。きみ、いくら学園内とはいえ、ペラペラと組頭の居場所を漏洩させて、私達に対しての警戒心が無いのか」
『いえ、ありますよ』
○○は、園田村の一件から、タソガレドキ忍軍の総戦力に相手をするとなれば、忍術学園をも凌駕し、学園全体を崩壊に追い詰めるだろうと理解している。
だからこそ、無闇矢鱈に勝負を仕掛ける事もせず、安全圏内である学園内で、このように雑渡の居場所を嘘偽りなく、素直に吐き捨てるのだ。
「名無し火薬委員会 委員長。この方とは、お知り合いですか?」
羽丹羽は、押都とは初対面であった為に、○○に誰であるのかと押都本人の前で問いかける。
『一年は組関係でな』
○○は、幽霊城騒動のあった籠城戦の事について深く説明はしない。仮にタカ丸に同じ問いを○○に投げかけても、同様の答えを返す。
「これから食堂で、豆腐パーティーを行うんです。名無しくんのお知り合いの方で、もし良ければ、参加していきませんか?」
「豆腐パーティー……?」
タカ丸の言う豆腐パーティーとは、五年い組の久々知兵助主催の豆腐料理を堪能する会である。
ちなみに、この会を心から喜んでいるのは久々知だけだ。○○は地獄の豆腐生活を経て、豆腐パーティーを生き延びる術を得たのだが、あくまで委員間の親睦を深める手段としてしか見ていない。
押都は、○○が火薬委員会の委員長を務めている点にも気になったが、もう一点として、豆腐パーティー"等と、火薬と繋がりが見つけられない催しを不思議に思う。
『いや、いくら最強という呼び名を持つタソガレドキ忍軍の忍者の方でも、あいつの豆腐パーティーに参加させられない。これを契機に、戦でも仕掛けられたら溜まったものではないから』
冗談めいた言葉に聞こえるが、半分は本気である。だが、押都は参加して欲しいと言われようが、そもそも参加する気など、更々ない。
「急ぎの用があるもので、その豆腐パーティーとやらは欠席させて頂こう」
丁寧にそれだけ言い残し、押都は再び、学園内を駆け抜けていく。○○にはその姿は何とか捉えられたものの、羽丹羽とタカ丸には、一瞬の出来事であり、いつの間にか姿を消していたとしか認識されていない。
(……好奇心で声を掛けたのは些か、良くなかったかもしれないな。いや、そもそも学園に足を運ぶ雑渡昆奈門さんにも非があるだろ。うん、そうだ)
○○は一人で自己解決した。それも、自分よりも戦闘力等の面において、圧倒的上位に位置する雑渡に罪を擦り付けた形とはなっているものの。
・
○○はこの日、保健委員会 委員長を務める善法寺伊作から頼み事をされ、山中での薬草取りに励んでいた。
本来ならば、保健委員の面々を連れて、委員会活動と称し、または予算の振り込まれない為、薬草を補う為に行われている。だが、今回は下級生には些か危険な箇所での薬草取りとなってしまう為、完全な私用だ。
同室の食満留三郎に同行を願おうとしたが、近日、個人実習で実習担当教師との綿密な打ち合わせを行わなくてはならないと言われ、断念。
ちなみに○○が同行した理由は、たまたま伊作の目の前に○○が現れ、とりあえずという意志の元で誘ったというもので、明確な理由は無い。
『これ、伊作の不運?』
「ちょっと。その言い方は酷いと思うけど」
○○は、目の前に居るタソガレドキ忍軍の雑渡と押都を見て、伊作の不運が発動したのかと疑う。
伊作本人は根っからの不運体質で、留三郎が被害を被る回数は六年生の中では、一番と言って過言ではない。
「やぁ、伊作くん。それに○○くん」
組頭である雑渡は、懇意にしている保健委員会の委員長であり、恩人でもある伊作、その伊作と学友である○○に律儀に挨拶をした。
「こんにちは。雑渡さん」
『こんにちは。雑渡昆奈門さん。押都長烈さん』
○○は、雑渡との交流は比較的少ない。卒業後にタソガレドキ忍軍と仲良しだと噂され、敵だけでなく味方から背中に刃を刺される等、○○は御免だからだ。
どちらかと言えば、好戦的な六年い組の潮江文次郎と留三郎の方が、雑渡と勝負したいが為に絡みに行く事の方が多い。そんな二人の行き過ぎた行動と言えば、伊作の名を利用して、文次郎や留三郎が雑渡と勝負を仕掛ける日もある位には。
「休日に仲良く薬草取りとは随分、仲が良いみたいだね」
雑渡は、○○と伊作の仲の良さに触れるも、表情は無のままだ。これは雑渡の平時の表情である為、○○に対して憎しみがある等という訳では無い。
「そうだ、押都。
隣で沈黙を貫いていた押都に、雑渡は○○と伊作の二人にある話題を提示させようと、故意的に声を掛けたのだ。
始めは言い淀んでいた押都であるが、組頭の雑渡からの視線に耐えかね、雑面越しに二人に話しかけようと口を開く。
「きみ達も、"レシピ"という言葉を知っているのか?」
『はい?』
突然、先程の会話から連想するには、あまりにも脈絡のない疑問を呈され、○○と伊作は押都相手に、怪訝そうな顔を向ける。
いきなり"レシピ"と言われても、"レシピ"は"レシピ"なのに……、そう思いつつ、○○は押都の問いかけに答えるべく、口を開く。
『"レシピ"と言えば、料理の手順書ですね』
素直にそう答えたと○○は対称的に、押都は言葉の意味を理解しても、雑面で顔は見えないもの、どことなく唸っている様にも思えた。
『押都さん。失礼な事を申し上げますが、"レシピ"という言葉を、ご存知ではないのですか?」
「……恥ずかしい限りだが、若者の言葉に疎い事をつい最近、自覚したもので」
「ご存知なかったのですね」
何故、レシピの意味をわざわざ年下の自分に聞いてきたのか考えた○○は、つい先日、学園内で開催された学年対抗の料理対決を思い出す。
「押都の部下から、レシピと言われた時に、押都はどうやら、若者達が普段から使用する言葉が分からない様子だったと聞かされてね」
そこには、ドクササコ忍者も参加しており、タソガレドキ忍軍からは黒鷲隊の小頭の押都を初め、三忍の椎良勘介、反屋壮太、五条弾も参加したのだ。
『いや、押都さん。ここは良い方向に考えてみては如何でしょう。新しい知見を得られたのだと』
○○は、若者言葉に疎い押都に否定的な言葉や揶揄う様子は一切見せず、前向きに捉えるべきだと涼しい顔をしながら、言いのけた。
『若者言葉どうこうより、兎の柄が入った前掛けを自ら着用していた積極的な姿勢を見せていた方が、若者らしいではないかと思いますが』
押都は、料理対決時に学園内で○○と遭遇していない筈が、半ば強引に着用を義務付けられた兎柄の前掛けを話題に出され、眉間に皺を寄せた。雑面で、○○には見えていないが。
『一年は組の良い子達が押都さんを初め、部下の方々が揃いの前掛けを着ていたとお話をしていたものでして。俺が最近、面白い事があったかと聞いたら、嬉々として話してくれましたよ』
「伏木蔵が楽しそうに話していたのは、それだったのか」
○○と伊作が、自分の前掛け姿の話題で楽しそうに、そして和やかに話を進めていたのを押都は黙って見つめていた。
「あの子達、忍者に向いていないんじゃないか?」
『下級生だから、多目に見ています。けれど、押都さん。
最上級生の○○に、平然と自分の情報を垂れ流す一年生に対して、そのような言葉を言い放つ押都だったが、○○はどことなく、押都の声色から喜の感情が滲み出ていると感じる。
「何故、分かる」
『あぁ、本当に笑っていらっしゃったんですね』
まさか当たっているとは……、○○自身も内心、驚いていた。押都はその事を知っているのか知らないのか、それ以上は触れる事はなかった。
そして今後も、押都はひょんな所で○○と遭遇しては、以前よりは砕けた会話を繰り広げる事となり、伊作と雑渡とは似て非なる、奇妙な関係を密かに築いていくのである。
.
