短編
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原作版 綾部喜八郎×夢主
喜八郎の掘った蛸壺に故意的に落ち、空を見ながら忍たまと遭遇する日の○○の話。
◆後半に、不謹慎な発言(放送禁止用語に当たる言葉)が飛び交う場面がございます。予め御了承下さい。
・
「おやまぁ。珍しい方が、落ちていらっしゃいますね」
頭上から、間延びした声が聞こえた。
○○は、誰に声を掛けられたは分かる。六年生ともなれば、顔を見なくとも、気配と足音で下の学年の忍たま達であれば、脳内に浮かべた顔と実際の顔が一致する。
『四年い組、綾部喜八郎』
「こんにちは。穴の上からのご挨拶、失礼しまーす。六年ろ組の名無し ○○先輩」
喜八郎は、○○が蛸壺に嵌った事を申し訳なさそうにしている訳でもなく、いつもと変わらぬ無表情で愛用の[[rb:踏鋤 > ふみすき]]を手にしていた。
○○は、頬や深緑の忍装束には砂埃が付いていおり、蛸壺の底にて体育座りをしている。
「念の為にお聞きしますけど、[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]とかは、お持ちです?」
『何で?』
[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]は、忍びの六具の一つとされる道具だ。
縄の先端に付けられた[[rb:鉤 > かぎ]]を使い、壁や崖を登る事が可能となる。忍者を志す物であれば、必需品として備えておかなければならないのが常識とされる。
「名無し先輩は引っかからない事の方が多いので、お持ちではないかと思いまして」
『持ってる』
喜八郎は、○○を煽った訳では無い。
元来、この様な物言いをする事の方が多く、○○は気にする素振りもなく、怒りも見せはしない。
○○が[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]を取り出し、喜八郎にも見える様にと、天にかざす。
蛸壺から出るのかと思いきや、○○は体育座りの姿勢を崩す事なく、空を見上げる。
「それにしても、上がって来られないで、何をされているんですかー?」
『たまには、蛸壺の底からどんな景色が見えるのか気になったから。自力で上がれるから、おれの事は気にしなくていいぜ』
へぇ…、と、喜八郎は言葉を漏らすも、それ以上の詮索はしない。
喜八郎にとって、○○が蛸壺の底から景色を見ていようが、関係のない事だから。
「そうですか。じゃあ僕は、これにて失礼します」
○○は、喜八郎の後ろ姿を見届けてから、空を見上げた。
風の流れに従って、ゆっくりと雲が動いている。何の変哲もない景色だが、○○には時間が遅く流れている様に感じる。
◇
頭上から、別の人物の驚く声が聞こえた。
空を見上げていた○○は、その人物の顔を捉えており、誰なのかとすぐに理解した。
「その深緑の忍装束に、癖毛の見られない黒髪は……! 名無し先輩、どうされたのですか!?」
四年い組、平滝夜叉丸だ。この蛸壺を掘った喜八郎の同室相手でもある。
『滝夜叉丸か』
「あの名無し先輩が何故、喜八郎の掘った蛸壺の中にいらっしゃるのですか? もしや、私の同室の喜八郎が、先輩に[[rb:不躾 > ぶしつけ]]な事をしでかしてしまったのでは……! あぁしかし、先輩の事が気がかりで、心配してならない苦悩する私も美しい! 何と罪な忍たまなんだ!」
蛸壺の底に座っている自分を心配したかと思いきや、お決まりの自画自賛の時間が始まる。
○○は、口出しはしない。理由は、面倒だからだ。
「競合区域でも、実践に生かせる様にと修行を積んでいらしたのですね……! 流石は、知識と経験豊富な六年生の先輩! 私も、学園内だからといって、気を緩めていない名無し先輩の修行のご様子を見習わなくては……!!」
こいつ、一人で会話してて相変わらず凄いな。
そう思う○○だが、人の事を言えた立場では無い。
○○は悩み事が生じても、一人で会話して、一人で解決してしまう自己完結型の人間だ。
滝夜叉丸とは異なる形で、一人で会話をする人間であるのだが、○○は他人事の様に捉えている。
「しかし、御安心を! 教科実技共に学年トップの成績を誇る学園のスター、この平 滝夜叉丸が名無し先輩を——」
『いや、大丈夫』
ようやく○○の口が開いたかと思えば、その言葉に滝夜叉丸の口から、へっ?…、と珍しく間抜けな声が出た。
『空を見てたから、飽きたら蛸壺から出るよ』
「そ、そうでしたか……。ですが、あまりご無理をなさらない様に、お気をつけて下さい。それでは、私はここで失礼します」
滝夜叉丸は、○○にお辞儀をして、その場から去っていく。
自慢話や自画自賛する姿から、下級生には鬱陶しく思われているのだが、滝夜叉丸は上級生等の目上相手への礼儀は忘れていない。
◇
その後も○○は、変わらず蛸壺の底から、空を見上げていた。その中で、様々な忍たまと遭遇したのだ。
三年ろ組の神崎左門が、三年の忍たま長屋を目指して走っていた所。
蛸壺の底に居た○○は、学園の正門の方角へ走っているなと思うも、左門に声は掛けなかった。
一年は組の猪名寺乱太郎、摂津のきり丸、福富しんべヱが、蛸壺の底に体育座りをしていた自分を見下ろし、不思議そうにしていた所。
空を見ていると○○が伝えると、蛸壺から出た方がもっと見えるのではないかと疑問をぶつけられた。○○は、蛸壺からの景色も案外、楽しいと答えた。
一年ろ組の下坂部平太が、蛸壺の底に居た自分を見て、チビった所。日陰ぼっこをしているのかと、恐る恐る聞いた平太だが、○○は空を見ていたと答える。
平太には○○を引き上げるのも、蛸壺では陽に当たるから、日陰ぼっこにはならないと、どうする事も出来ない。平太は、自身が所属している用具委員会の委員長、六年は組の食満留三郎を呼びに向かう。
三年ろ組の富松作兵衛が、左門と同じ三年ろ組の次屋三之助を探していた所。二人が蛸壺に嵌ったのかと覗き込んだ作兵衛に、○○は、左門と三之助の居場所を聞かれた。
左門が正門の方角へ走ったと伝えた。三之助は会っていない為、分からないと答えると、作兵衛は二人を探す為に、再び足を進めていく。
方向音痴の二人を探す為に奔走する作兵衛を見るのは、○○にとって慣れた光景。
◇
「おい、○○。大丈夫か」
頭上から、留三郎の声が聞こえてきた。
平太が留三郎を呼びに向かった事など、○○には知らない。
「平太が泣きそうな顔をして、お前が蛸壺に嵌ったって、俺に言いに来て、覗いてみたら……」
『今日は、自分から蛸壺に落ちたんだよ』
「あの、喜八郎の作った蛸壺もすぐに気がついて、わざと踏んでも、俊敏な動きで落ちもしないお前がか……?」
平時から、喜八郎の蛸壺に掛かる事は少ない○○を知っている留三郎からしたら、理解できない行動だった。
『今日はそういう気分じゃなくて、落ちてみたかったんだ』
「よく分からんが、足を捻ったりして、上がってこれない訳ではないだろ」
蛸壺に嵌った○○は、怪我はしていない。
仮に怪我をしていたのなら、自力で登れるなら登り、医務室へ向かう。
どうしても自力で動くのが困難であれば、近くを通りかかる気配を感じ、[[rb:矜恃 > きょうじ]]は一旦捨てて、声を上げて助けを呼ぶだろう。
『大丈夫、自力で出れるから。留三郎に迷惑掛けたか?』
「俺は別に心配しちゃいないけどよ。平太もそうだったが、下級生が蛸壺に入ったまま、体育座りをするお前を不気味に思って、心配してたぞ。日が暮れる前には、上がってこい」
『おぉ』
返事を聞いた留三郎は、○○が自力で上がる事を信じており、その場を後にする。
自分が蛸壺の底に居たのを下級生に不思議にも、不気味にも思われたのを留三郎が見かねて、自分に声を掛けたのかと○○は思う。
仮に、留三郎の怒りの矛先が喜八郎に向けられたら、○○は『俺が綾部の首根っこ掴んで、お前の所に連れて来てやるから』とスラスラと言葉が出る様にと、準備はしていた。
◇
○○が蛸壺の底に嵌ってから、数時間が経過した。
青く澄み渡っていた空も、今では橙色に染色されており、夕刻が近いのだと○○は一人で思う。
「いけいけどんどーん!」
そんな時、○○の嵌っている蛸壺の向こうから、聞き覚えのある口癖が聞こえてきた。声は地上からではなく、地中からだ。
「どんどんどーーんっっ!!」
目の前で、大きな穴が出来上がる。
[[rb:土塊 > つちくれ]]が○○の顔や忍装束に掛かり、砂埃だけでなく、泥までもが付着してしまう。
「おっ、○○じゃないか」
声を掛けたのは、同じ六年ろ組の七松小平太だ。
両手には、二丁苦無を手にしており、趣味の塹壕掘りを行っていたのだと、姿をみただけで分かる。
「お前、こんな所で何してる」
『蛸壺の底から、空を見てた』
塹壕を掘っている最中、手応えのある感覚を掴めたかと思えば、学友で同室相手が蛸壺の底で体育座りをしていた光景には、小平太も特徴的な凛々しい眉を顰めた。
「喜八郎の落とし穴に嵌るとは、珍しい事もあるもんだ」
蛸壺の正体が、喜八郎が掘った物であると分かれば、小平太は朗らかな笑みを見せた。
だが、少ししてから小平太は、神妙な面持ちを見せる。○○は何事かと思う。
「狐に憑かれてる?」
『憑かれてない』
「気を違った?」
『違ってないけど、ここにどれ位居たら、違うのかは気になってはいた』
小平太の問いかけは、○○に対して失礼に値し、不謹慎とも言える。
蛸壺に嵌った○○の心にまで、穴が出来て空を見上げていたのかと何故か先行した小平太に、○○は涼しい顔で答える。問いかけの意味も勿論、理解している。
『けど、お前の掘った塹壕で、空が広く見える様になってしまった。つまらん』
「なははは! 狭くて広くても空が見れれば、それで良いだろ!」
つまらん…、と言った○○は小平太に向けて、眉を顰める。
小平太にとって、○○の行動は理不尽極まりない物の筈だが、小平太はどうでもいい。
『長屋に帰ろ』
○○は[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]を取り出すと、小平太を置いて、蛸壺から軽々と脱出を図った。
「名無し先輩、まだここに居らっしゃったんですね」
地上へと帰還した○○に、忍装束の至る所に○○以上に砂や泥が付着した喜八郎が、声を掛けた。変わらず、無表情だ。
『空を見てたけど、長屋に帰ろうと思って、今上がった所だ』
「そうでしたか」
喜八郎との会話を終わらせようとする○○だったが、蛸壺に嵌っていた時に交わした留三郎との会話を思い出す。
『綾部。もし、おれが留三郎に何か言われたら、お前の首根っこを掴んで、留三郎の所に連れて行くから』
「おやまぁ」
つらつらとそう述べた○○に、喜八郎が口癖に近い言葉を発したものの、驚いた様子は見られない。
二人の会話を聞いていた小平太には、何が何だか訳が分からない。
◆名無し ○○
喜八郎の蛸壺と、蛸壺の掘られていない土を判別出来るから、落ちる事はまず無い。
綾部と呼んだり、喜八郎と呼んだりと気分で変わる(他の忍たまに対しても同様)
蛸壺の底から眺めた空は、綺麗だった。
◆綾部 喜八郎
普段、自分の堀った蛸壺に嵌る事の無い○○が、蛸壺の底に居たけど、別にどうでもいい。
◆平 滝夜叉丸
自分の同室が掘った蛸壺に、自身の所属する委員会 委員長の同室相手が珍しく嵌っていて、驚いた。
◆神崎 左門、次屋 三之助、富松 作兵衛
作兵衛に縄で繋がれていたが、方向音痴の左門、三之助はいつの間にか、どこかへ走って行ってしまった。
◆乱きりしん
校庭で遊ぼうと考えていたら、蛸壺を発見して覗き込んだら、○○を発見。
蛸壺の中より外からの方が、空は綺麗だと思う派。
◆下坂部 平太
蛸壺を恐る恐る覗き込んだら、六年生の先輩が体育座りをしながら、涼しい顔で空を見上げていた光景に驚き、チビった。
◆食満 留三郎
平太から、○○が蛸壺に居ると怯えた様子で伝えられ、様子を見に来た。○○の行動の真意は理解出来ないものの、飽きたら蛸壺からは上がってくるだろうと信じていた。
◆七松 小平太
塹壕堀りをしていたら、蛸壺の底で体育座りをしている同室と遭遇。
○○に対して、狐に憑かれたのか・気を違ったのかと不謹慎な言葉を連発。最後の○○と喜八郎の会話は「?」としか思わない。
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原作版 綾部喜八郎×夢主
喜八郎の掘った蛸壺に故意的に落ち、空を見ながら忍たまと遭遇する日の○○の話。
◆後半に、不謹慎な発言(放送禁止用語に当たる言葉)が飛び交う場面がございます。予め御了承下さい。
・
「おやまぁ。珍しい方が、落ちていらっしゃいますね」
頭上から、間延びした声が聞こえた。
○○は、誰に声を掛けられたは分かる。六年生ともなれば、顔を見なくとも、気配と足音で下の学年の忍たま達であれば、脳内に浮かべた顔と実際の顔が一致する。
『四年い組、綾部喜八郎』
「こんにちは。穴の上からのご挨拶、失礼しまーす。六年ろ組の名無し ○○先輩」
喜八郎は、○○が蛸壺に嵌った事を申し訳なさそうにしている訳でもなく、いつもと変わらぬ無表情で愛用の[[rb:踏鋤 > ふみすき]]を手にしていた。
○○は、頬や深緑の忍装束には砂埃が付いていおり、蛸壺の底にて体育座りをしている。
「念の為にお聞きしますけど、[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]とかは、お持ちです?」
『何で?』
[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]は、忍びの六具の一つとされる道具だ。
縄の先端に付けられた[[rb:鉤 > かぎ]]を使い、壁や崖を登る事が可能となる。忍者を志す物であれば、必需品として備えておかなければならないのが常識とされる。
「名無し先輩は引っかからない事の方が多いので、お持ちではないかと思いまして」
『持ってる』
喜八郎は、○○を煽った訳では無い。
元来、この様な物言いをする事の方が多く、○○は気にする素振りもなく、怒りも見せはしない。
○○が[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]を取り出し、喜八郎にも見える様にと、天にかざす。
蛸壺から出るのかと思いきや、○○は体育座りの姿勢を崩す事なく、空を見上げる。
「それにしても、上がって来られないで、何をされているんですかー?」
『たまには、蛸壺の底からどんな景色が見えるのか気になったから。自力で上がれるから、おれの事は気にしなくていいぜ』
へぇ…、と、喜八郎は言葉を漏らすも、それ以上の詮索はしない。
喜八郎にとって、○○が蛸壺の底から景色を見ていようが、関係のない事だから。
「そうですか。じゃあ僕は、これにて失礼します」
○○は、喜八郎の後ろ姿を見届けてから、空を見上げた。
風の流れに従って、ゆっくりと雲が動いている。何の変哲もない景色だが、○○には時間が遅く流れている様に感じる。
◇
頭上から、別の人物の驚く声が聞こえた。
空を見上げていた○○は、その人物の顔を捉えており、誰なのかとすぐに理解した。
「その深緑の忍装束に、癖毛の見られない黒髪は……! 名無し先輩、どうされたのですか!?」
四年い組、平滝夜叉丸だ。この蛸壺を掘った喜八郎の同室相手でもある。
『滝夜叉丸か』
「あの名無し先輩が何故、喜八郎の掘った蛸壺の中にいらっしゃるのですか? もしや、私の同室の喜八郎が、先輩に[[rb:不躾 > ぶしつけ]]な事をしでかしてしまったのでは……! あぁしかし、先輩の事が気がかりで、心配してならない苦悩する私も美しい! 何と罪な忍たまなんだ!」
蛸壺の底に座っている自分を心配したかと思いきや、お決まりの自画自賛の時間が始まる。
○○は、口出しはしない。理由は、面倒だからだ。
「競合区域でも、実践に生かせる様にと修行を積んでいらしたのですね……! 流石は、知識と経験豊富な六年生の先輩! 私も、学園内だからといって、気を緩めていない名無し先輩の修行のご様子を見習わなくては……!!」
こいつ、一人で会話してて相変わらず凄いな。
そう思う○○だが、人の事を言えた立場では無い。
○○は悩み事が生じても、一人で会話して、一人で解決してしまう自己完結型の人間だ。
滝夜叉丸とは異なる形で、一人で会話をする人間であるのだが、○○は他人事の様に捉えている。
「しかし、御安心を! 教科実技共に学年トップの成績を誇る学園のスター、この平 滝夜叉丸が名無し先輩を——」
『いや、大丈夫』
ようやく○○の口が開いたかと思えば、その言葉に滝夜叉丸の口から、へっ?…、と珍しく間抜けな声が出た。
『空を見てたから、飽きたら蛸壺から出るよ』
「そ、そうでしたか……。ですが、あまりご無理をなさらない様に、お気をつけて下さい。それでは、私はここで失礼します」
滝夜叉丸は、○○にお辞儀をして、その場から去っていく。
自慢話や自画自賛する姿から、下級生には鬱陶しく思われているのだが、滝夜叉丸は上級生等の目上相手への礼儀は忘れていない。
◇
その後も○○は、変わらず蛸壺の底から、空を見上げていた。その中で、様々な忍たまと遭遇したのだ。
三年ろ組の神崎左門が、三年の忍たま長屋を目指して走っていた所。
蛸壺の底に居た○○は、学園の正門の方角へ走っているなと思うも、左門に声は掛けなかった。
一年は組の猪名寺乱太郎、摂津のきり丸、福富しんべヱが、蛸壺の底に体育座りをしていた自分を見下ろし、不思議そうにしていた所。
空を見ていると○○が伝えると、蛸壺から出た方がもっと見えるのではないかと疑問をぶつけられた。○○は、蛸壺からの景色も案外、楽しいと答えた。
一年ろ組の下坂部平太が、蛸壺の底に居た自分を見て、チビった所。日陰ぼっこをしているのかと、恐る恐る聞いた平太だが、○○は空を見ていたと答える。
平太には○○を引き上げるのも、蛸壺では陽に当たるから、日陰ぼっこにはならないと、どうする事も出来ない。平太は、自身が所属している用具委員会の委員長、六年は組の食満留三郎を呼びに向かう。
三年ろ組の富松作兵衛が、左門と同じ三年ろ組の次屋三之助を探していた所。二人が蛸壺に嵌ったのかと覗き込んだ作兵衛に、○○は、左門と三之助の居場所を聞かれた。
左門が正門の方角へ走ったと伝えた。三之助は会っていない為、分からないと答えると、作兵衛は二人を探す為に、再び足を進めていく。
方向音痴の二人を探す為に奔走する作兵衛を見るのは、○○にとって慣れた光景。
◇
「おい、○○。大丈夫か」
頭上から、留三郎の声が聞こえてきた。
平太が留三郎を呼びに向かった事など、○○には知らない。
「平太が泣きそうな顔をして、お前が蛸壺に嵌ったって、俺に言いに来て、覗いてみたら……」
『今日は、自分から蛸壺に落ちたんだよ』
「あの、喜八郎の作った蛸壺もすぐに気がついて、わざと踏んでも、俊敏な動きで落ちもしないお前がか……?」
平時から、喜八郎の蛸壺に掛かる事は少ない○○を知っている留三郎からしたら、理解できない行動だった。
『今日はそういう気分じゃなくて、落ちてみたかったんだ』
「よく分からんが、足を捻ったりして、上がってこれない訳ではないだろ」
蛸壺に嵌った○○は、怪我はしていない。
仮に怪我をしていたのなら、自力で登れるなら登り、医務室へ向かう。
どうしても自力で動くのが困難であれば、近くを通りかかる気配を感じ、[[rb:矜恃 > きょうじ]]は一旦捨てて、声を上げて助けを呼ぶだろう。
『大丈夫、自力で出れるから。留三郎に迷惑掛けたか?』
「俺は別に心配しちゃいないけどよ。平太もそうだったが、下級生が蛸壺に入ったまま、体育座りをするお前を不気味に思って、心配してたぞ。日が暮れる前には、上がってこい」
『おぉ』
返事を聞いた留三郎は、○○が自力で上がる事を信じており、その場を後にする。
自分が蛸壺の底に居たのを下級生に不思議にも、不気味にも思われたのを留三郎が見かねて、自分に声を掛けたのかと○○は思う。
仮に、留三郎の怒りの矛先が喜八郎に向けられたら、○○は『俺が綾部の首根っこ掴んで、お前の所に連れて来てやるから』とスラスラと言葉が出る様にと、準備はしていた。
◇
○○が蛸壺の底に嵌ってから、数時間が経過した。
青く澄み渡っていた空も、今では橙色に染色されており、夕刻が近いのだと○○は一人で思う。
「いけいけどんどーん!」
そんな時、○○の嵌っている蛸壺の向こうから、聞き覚えのある口癖が聞こえてきた。声は地上からではなく、地中からだ。
「どんどんどーーんっっ!!」
目の前で、大きな穴が出来上がる。
[[rb:土塊 > つちくれ]]が○○の顔や忍装束に掛かり、砂埃だけでなく、泥までもが付着してしまう。
「おっ、○○じゃないか」
声を掛けたのは、同じ六年ろ組の七松小平太だ。
両手には、二丁苦無を手にしており、趣味の塹壕掘りを行っていたのだと、姿をみただけで分かる。
「お前、こんな所で何してる」
『蛸壺の底から、空を見てた』
塹壕を掘っている最中、手応えのある感覚を掴めたかと思えば、学友で同室相手が蛸壺の底で体育座りをしていた光景には、小平太も特徴的な凛々しい眉を顰めた。
「喜八郎の落とし穴に嵌るとは、珍しい事もあるもんだ」
蛸壺の正体が、喜八郎が掘った物であると分かれば、小平太は朗らかな笑みを見せた。
だが、少ししてから小平太は、神妙な面持ちを見せる。○○は何事かと思う。
「狐に憑かれてる?」
『憑かれてない』
「気を違った?」
『違ってないけど、ここにどれ位居たら、違うのかは気になってはいた』
小平太の問いかけは、○○に対して失礼に値し、不謹慎とも言える。
蛸壺に嵌った○○の心にまで、穴が出来て空を見上げていたのかと何故か先行した小平太に、○○は涼しい顔で答える。問いかけの意味も勿論、理解している。
『けど、お前の掘った塹壕で、空が広く見える様になってしまった。つまらん』
「なははは! 狭くて広くても空が見れれば、それで良いだろ!」
つまらん…、と言った○○は小平太に向けて、眉を顰める。
小平太にとって、○○の行動は理不尽極まりない物の筈だが、小平太はどうでもいい。
『長屋に帰ろ』
○○は[[rb:鉤縄 > かぎなわ]]を取り出すと、小平太を置いて、蛸壺から軽々と脱出を図った。
「名無し先輩、まだここに居らっしゃったんですね」
地上へと帰還した○○に、忍装束の至る所に○○以上に砂や泥が付着した喜八郎が、声を掛けた。変わらず、無表情だ。
『空を見てたけど、長屋に帰ろうと思って、今上がった所だ』
「そうでしたか」
喜八郎との会話を終わらせようとする○○だったが、蛸壺に嵌っていた時に交わした留三郎との会話を思い出す。
『綾部。もし、おれが留三郎に何か言われたら、お前の首根っこを掴んで、留三郎の所に連れて行くから』
「おやまぁ」
つらつらとそう述べた○○に、喜八郎が口癖に近い言葉を発したものの、驚いた様子は見られない。
二人の会話を聞いていた小平太には、何が何だか訳が分からない。
◆名無し ○○
喜八郎の蛸壺と、蛸壺の掘られていない土を判別出来るから、落ちる事はまず無い。
綾部と呼んだり、喜八郎と呼んだりと気分で変わる(他の忍たまに対しても同様)
蛸壺の底から眺めた空は、綺麗だった。
◆綾部 喜八郎
普段、自分の堀った蛸壺に嵌る事の無い○○が、蛸壺の底に居たけど、別にどうでもいい。
◆平 滝夜叉丸
自分の同室が掘った蛸壺に、自身の所属する委員会 委員長の同室相手が珍しく嵌っていて、驚いた。
◆神崎 左門、次屋 三之助、富松 作兵衛
作兵衛に縄で繋がれていたが、方向音痴の左門、三之助はいつの間にか、どこかへ走って行ってしまった。
◆乱きりしん
校庭で遊ぼうと考えていたら、蛸壺を発見して覗き込んだら、○○を発見。
蛸壺の中より外からの方が、空は綺麗だと思う派。
◆下坂部 平太
蛸壺を恐る恐る覗き込んだら、六年生の先輩が体育座りをしながら、涼しい顔で空を見上げていた光景に驚き、チビった。
◆食満 留三郎
平太から、○○が蛸壺に居ると怯えた様子で伝えられ、様子を見に来た。○○の行動の真意は理解出来ないものの、飽きたら蛸壺からは上がってくるだろうと信じていた。
◆七松 小平太
塹壕堀りをしていたら、蛸壺の底で体育座りをしている同室と遭遇。
○○に対して、狐に憑かれたのか・気を違ったのかと不謹慎な言葉を連発。最後の○○と喜八郎の会話は「?」としか思わない。
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