短編
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アニメ版 摂津のきり丸×夢主
売り子のアルバイトの助太刀で、きり丸と共に町娘に扮する〇〇の話。
◆夢主の女装描写あり
・
六年ろ組の名無し○○は、前方から水色の忍装束を着ている少年がこちらへ歩いていたのに気がつく。
少年は、一年は組の摂津のきり丸だ。同じ組の猪名寺乱太郎、福富しんべヱと仲良しで、学園では有名なお騒がせ三人組の一人でもある。
腕組みをし、顔を俯かせて、唸りながら歩いていたきり丸は、○○が衝突しかけている事に気づいていない。気配を察知するよりも、別の事に意識が向けられているせいだ。
『きり丸、危ないよ』
二人の体が衝突する直前、○○はきり丸の両肩に手を当て、力を込めた。突然、肩に力を込められたきり丸は驚き、顔を上げて○○を見た。
「名無し先輩! 僕の肩を掴んで、どうしたんすか?」
『それは、こっちの科白 だ。考え事をして歩いていたら、誰かとぶつかって怪我するぞ』
以前、きり丸はアルバイトの人手不足の考え事をしていた際に、○○と同じ組の七松小平太と衝突した事があった。
その後、紆余曲折を経て、子守りのアルバイトを引き受けてくれたが、ここでは詳細は割愛する。
「すみません。つい、うっかりしていて……」
『怪我が無かったから、まぁいいや。それより、どうした? 上の空というか、何か考え事をしているというか』
○○は、きり丸の様子が平時と異なる事を率直に触れた。すると、きり丸は両目をうるうるとさせ、煌めかせると、○○の手を握る。
「名無し先輩! 可愛い下級生からのお願い、聞いてくれませんか!?」
『えぇ?』
突然、そのような申し出をされた○○は、口では驚いている言葉を発したものの、表情は変わらず涼し気だ。
「名無し先輩にしか頼めない事なんです……!!」
『俺にしか頼めない事……?』
"喜車の術"を仕掛けているのかと勘繰る○○であったが、きり丸の言葉は本心であり、心から訴えている事が見て取れた。
下級生が困っていれば、手を差し伸べるのが忍術学園の上級生……ましてや、最上級生に位置する○○が手本として見せるべき行動だろう。
・
時は経過し、休日。
きり丸から頼み事を依頼された○○は、きり丸と土井の同居先である長屋を訪れていた。
『きり丸、これが今回の頼み事か?』
○○が指したのは、スカシユリ、ヒメユリ、鱗茎 が詰め込まれた籠である。
「はい。収穫したばかりみたいで、全部売り切れば、報酬で駄賃が貰えるんすよ〜」
金銭の話題になった途端、きり丸の目は小銭の模様が浮かび上がり、○○を置いて笑い出す。
○○もその様子には慣れきっていた為、困惑する事もなく、涼しい顔をしている。
『そうだ。売り子をするって聞いてたから、ちゃんと持ってきたぞ』
○○が取り出したのは、町娘に扮する際に使用する小袖、肌襦袢 、桂包 、化粧道具一式と、変装で使用される小物達である。
『売り子の間の俺ときり丸は、どんな"設定"で居た方が、あれを捌きやすい?』
「僕が妹で、名無し先輩がお姉さんの姉妹で、売り子をした方がウケは良さそうっすよね」
きり丸は、あまりにも順調に話が進み、妙な感じを覚える。
普段は文次郎、長次、小平太の三人のお節介から、アルバイトを手伝ってもらう機会があるきり丸だが、如何せん個性の強い三人に振り回される記憶の方が多い。
○○が平時と変わらぬ態度で、売り子用の為に小物を用意し、自分達の役割の話題を提示し、緊張を解してくれるのは、新鮮であった。
『きり丸が、俺に売り子のアルバイトの助太刀を頼んだのも、かくかくしかじかな事情があった訳だしな』
きり丸が、売り子のアルバイトの助太刀を○○に頼んだ理由には、消去法が関係していた。
文次郎、小平太、留三郎は、補習授業の際に見た女装の完成度を知っているが故、真っ先に候補から外した。
仙蔵は、六年生の中では女装の完成度は高いものの、その美麗さが却って、客の目を引くにしても、高嶺の花と近寄るのを恐れられるのではないかと。
長次は、図書委員会 委員長として、自分を気にかけてくれる優しい先輩ではあるが、売り子として必須の笑顔が不気味。良心が痛むが、今回は見送る事とした。
伊作は、持ち前の不運が発動して、アルバイトに支障が出てしまう恐れがある。
そんな中、○○の女装は仙蔵程ではないものの比較的、目を向けられる。悩みが生じてもすぐ自己解決する、自己完結型の素直な性格だが、アルバイトに支障が出そうにはないと踏み、消去法で○○を選び、きり丸は依頼したのだ。
着替えを終えた○○ときり丸は、籠に詰め込まれた売り物を捌くべく、長屋を出て、町へと赴くのだ。
道中で、きり丸から人通りのある中で、この場所なら人目に付きやすい、ここはあまり寄り付かない等と、○○に助言する事が何度かあった。天才アルバイターとしての一面を間近で見た○○は、感心しつつも、それがきり丸にとっての当たり前でもあると、考えを切り替えた。
「お姉ちゃん。この辺で、お花を売りましょ」
『そうね。きりちゃん』
○○は、◇◇。きり丸は、きり子と女装時の呼び名を使用する。
売り子をする前から、この様な小芝居を打つのは、男言葉で話していた筈が突然、女言葉に切り替わった所を目撃されない為である。
「お花は、いかがですかー?」
『綺麗なお花達がほらっ、こーんなにありますよー』
○○ときり丸は、裏声を使って、スカシユリ、ヒメユリ、鱗茎を売り始めていく。
外見だけなら、可憐な少女二人が通りの中央で、商売をしている様は町人の視線を釘付けにする。
「一つ、貰っていいかな?」
「は〜い! 毎度、ありがとうございま〜す!」
『ありがとうございますっ』
一人の若者が、ヒメユリを手に持つきり丸に声を掛けた。きり丸の無垢な笑顔、○○の淑やかさを感じさせる笑みを受け、若者は頬を赤く染める。すっかり、二人は女子 であると信じ込ませていた。
「お姉ちゃん、お花頂戴っ」
○○の足元から、十にも満たない女子 が、○○の持つスカシユリを指しながら、声を掛けた。
『ふふっ。お姉さんに声を掛けてくれて、ありがとう。お母様は、どこかにいらっしゃるの?』
女子 と同じ目線になる様にと、○○はその場で屈む。女子 が指をさした先には、慌てた様子で○○の元へ駆け込む母親の姿が見えた。
「すみませんっ。うちの子が、いきなり声を掛けたみたいで……」
『いえ、お気になさらないで下さい。このスカシユリをお母様の為の贈り物に、したかったのかしら?』
○○が問いかけると、女子 は○○が男性だと疑う様子を微塵も見せず、「うんっ」と返事をして、大きく頷いた。
「こーんなに綺麗なお花を見たら、贈り物したくなっちゃうわよね。ねぇ見て。お姉ちゃんにお花を付けると、こんなに似合うの」
きり丸は、手にしていたヒメユリを○○の桂包に当て、女子に見せた。そのままの状態で使用するのは難しいが、花を差せば可愛さが引き立つという意味で、そのような行動を見せたのだ。
『きりちゃんだって、ほらっ』
その意図を汲み取った○○は、女子に見せる形で、同じ様にスカシユリをきり丸の桂包に当てる。誰から見ても、仲睦まじい姉妹の姿そのものである。
「もし、よければ……二つ、頂けるかしら?」
「は〜い! ありがとうございま〜す!」
『ありがとうございますっ』
女子 と母親は、○○ときり丸から、スカシユリとヒメユリをそれぞれ受け取り、銭を置いていく。
その後も、スカシユリが欲しい、ヒメユリが欲しいと言う町人が現れ、○○ときり丸はそれらを捌いていく。鱗茎 はまだ残ったままであるが、溜め込まれていく銭が視界に入ると、きり丸は目を爛々 とさせる。
○○がスカシユリを手に取ろうとした際、視線を感じ取る。小袖に忍ばせていた"とある物"を活用する時が来たと、○○は心の中で悪い笑みを浮かべた。
『こんにちは〜。きみ達、ここで花を売ってるの?』
『あら、こんにちは。お顔の素敵なお兄さん』
○○ときり丸の前に、中年の男性が現れた。
どことなく、二人の頭から爪先までを品定めする様な厭らしい目つきが、きり丸の中で警戒心を強めた。
(早速、来たな)
迷惑客を上手い事、追っ払おうと考えていたが、○○と視線が会うと、"ここは俺に任せろ"と何となくであるが、きり丸に伝わる。
『お花を買いに来て、いらして下さったんですか?』
「花は勿論だけど、きみ達って姉妹? 結構、可愛い顔立ちしているから、もし良ければ___、」
『私達姉妹のお花、どうですか?』
男性の話の腰を折り、○○はスカシユリを差し出してから、息を吹きかける。
突然の事に驚きつつ、会話を続けようとした男性が口を開いた時だった。
「う、うわっ!!」
(へっ? うわっ……?)
いきなり声を上げられ、きり丸は売り子の最中でも、思わず目を丸くさせる。
「目、目がっ! 痛いぃ!」
先程までの軽薄な態度と一転し、男性は両目に襲いかかる痛みに耐えられず、両手で目を抑え、そのように訴える。
『きっと、スカシユリの花粉が目に入ったのかもしれませんわ。この近くに診療所がありますから、そちらで一度、診てもらう事をお勧め致します』
「ひぃ〜〜っ! 早く医者に診て貰わないと、目が痛くて痛くて堪ら〜ん!!」
変わらず、淑やかな笑みを浮かべる○○からの助言を状況が状況だからと、素直に受け取り、男性は診療所へと走り出して行く。唐辛子の粉だ。
「名無し先輩、あの人に何したんすか?」
きり丸は、町人に聞こえない様にと平時の口調に戻り、小声で声を掛けた。
『ちょっとした小細工よ。それにあの人、ちょっと危険な香りのする、素敵なお兄さんだったから』
先程、男性の視線に気がついた○○は、自分達の元へ向かってくると分かれば、懐から唐辛子の粉末を取り出したのだ。
自分ときり丸を品定めする様に、体を舐め回す様に見ていた隙に、スカシユリの中に唐辛子の粉末を混ぜ、それを差し出したのである。
ちなみに、先程の男性は江口君堂 (現在の大阪 東淀川区)で経営している遊郭の経営者。町中で商売をしていた○○ときり丸に目をつけ、言葉巧みに遊郭に引き込もうと目論んでいたが、呆気なく終わりを告げた。
男性の安否など気にも溜めず、○○は残された鱗茎 を捌くべく、目の前を通り過ぎようとする町娘達に声を掛ける。
『そこを歩いている、素敵なお姉様方。少し寄っていらっしゃらない?』
○○に声を掛けられ、町娘達は何事かと思うも、振り向いた。そのタイミングで、○○は籠から鱗茎 を取り出す。
『収穫したてのユリの蒜 ……今ならまだ、これだけありますから、何個でもお買い得ですよ』
鱗茎 または蒜 を見せた瞬間、町娘達の目が一斉に輝きを放つ。またしても、きり丸は何事かと思う。
「まぁ! こんな所で蒜 が売っているだなんて! 銭は払うから、頂けるかしら?」
『はぁい、ありがとうございます』
籠の中に残っていた鱗茎 は、次々と購入されていく。重みが無くなり、残りあと僅かという状態だ。
「妹ちゃんの分も込めて、奮発して買わせて貰うわね」
「は〜い! 毎度、ありがとうございま〜す!」
○○の隣で、売り子をしていたきり丸を妹だと信じ込み、鱗茎 を更に一個分、購入すると伝える。それを聞いたきり丸は、平時の営業スマイルを見せた。
町娘達が遠方まで向かった所を見計らい、きり丸は再び、○○に声を掛ける。
「お姉ちゃん、蒜 って何の事? 昼間の昼 ?」
『もうっ、きりちゃんってば。その昼 じゃないの。鱗茎 ……またの名は、蒜 。汁物の具材にも使えるの』
「へぇー……」
きり丸は、先程の遊郭の経営者である男性に奇襲を仕掛けたり、ユリの花の知識が豊富な○○を見上げた。さすが忍術学園の最上級生だなぁ……、きり丸は、心の中でそう思った。
・
あれから、○○ときり丸は売り物用のスカシユリ、ヒメユリ、鱗茎 を全て売り捌いた。
依頼主の元へ赴き、空になった籠を引き換えに今回分の駄賃を頂く。
『ユリと言ったら、らっきょうだ。大木先生を思い出すなぁ』
忍術学園の岐路を歩く中、○○はスカシユリとヒメユリを見て、忍術学園の元教師である大木雅之助を思い出す。教師を辞めた現在は杭瀬村にて、らっきょうとネギの栽培を行っている。
「名無し先輩って、ユリの花に詳しいんですね。色々知っていらっしゃったから、あっという間に捌けましたもん」
『んっ。とは言っても全部、他の忍たまからの受け売りなんだけどね』
きり丸の言葉に○○は、はにかんだ笑顔を見せてから、素直にそう言った。
『俺も初めは知らない事ばかりで、図書室で本を借りたり、六年生の奴等が気まぐれで、教えてくれたり……』
無知であった自分に、知識を与えてくれた学友達の姿が脳裏に浮かぶと、○○は小さく笑う。
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アニメ版 摂津のきり丸×夢主
売り子のアルバイトの助太刀で、きり丸と共に町娘に扮する〇〇の話。
◆夢主の女装描写あり
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六年ろ組の名無し○○は、前方から水色の忍装束を着ている少年がこちらへ歩いていたのに気がつく。
少年は、一年は組の摂津のきり丸だ。同じ組の猪名寺乱太郎、福富しんべヱと仲良しで、学園では有名なお騒がせ三人組の一人でもある。
腕組みをし、顔を俯かせて、唸りながら歩いていたきり丸は、○○が衝突しかけている事に気づいていない。気配を察知するよりも、別の事に意識が向けられているせいだ。
『きり丸、危ないよ』
二人の体が衝突する直前、○○はきり丸の両肩に手を当て、力を込めた。突然、肩に力を込められたきり丸は驚き、顔を上げて○○を見た。
「名無し先輩! 僕の肩を掴んで、どうしたんすか?」
『それは、こっちの
以前、きり丸はアルバイトの人手不足の考え事をしていた際に、○○と同じ組の七松小平太と衝突した事があった。
その後、紆余曲折を経て、子守りのアルバイトを引き受けてくれたが、ここでは詳細は割愛する。
「すみません。つい、うっかりしていて……」
『怪我が無かったから、まぁいいや。それより、どうした? 上の空というか、何か考え事をしているというか』
○○は、きり丸の様子が平時と異なる事を率直に触れた。すると、きり丸は両目をうるうるとさせ、煌めかせると、○○の手を握る。
「名無し先輩! 可愛い下級生からのお願い、聞いてくれませんか!?」
『えぇ?』
突然、そのような申し出をされた○○は、口では驚いている言葉を発したものの、表情は変わらず涼し気だ。
「名無し先輩にしか頼めない事なんです……!!」
『俺にしか頼めない事……?』
"喜車の術"を仕掛けているのかと勘繰る○○であったが、きり丸の言葉は本心であり、心から訴えている事が見て取れた。
下級生が困っていれば、手を差し伸べるのが忍術学園の上級生……ましてや、最上級生に位置する○○が手本として見せるべき行動だろう。
・
時は経過し、休日。
きり丸から頼み事を依頼された○○は、きり丸と土井の同居先である長屋を訪れていた。
『きり丸、これが今回の頼み事か?』
○○が指したのは、スカシユリ、ヒメユリ、
「はい。収穫したばかりみたいで、全部売り切れば、報酬で駄賃が貰えるんすよ〜」
金銭の話題になった途端、きり丸の目は小銭の模様が浮かび上がり、○○を置いて笑い出す。
○○もその様子には慣れきっていた為、困惑する事もなく、涼しい顔をしている。
『そうだ。売り子をするって聞いてたから、ちゃんと持ってきたぞ』
○○が取り出したのは、町娘に扮する際に使用する小袖、
『売り子の間の俺ときり丸は、どんな"設定"で居た方が、あれを捌きやすい?』
「僕が妹で、名無し先輩がお姉さんの姉妹で、売り子をした方がウケは良さそうっすよね」
きり丸は、あまりにも順調に話が進み、妙な感じを覚える。
普段は文次郎、長次、小平太の三人のお節介から、アルバイトを手伝ってもらう機会があるきり丸だが、如何せん個性の強い三人に振り回される記憶の方が多い。
○○が平時と変わらぬ態度で、売り子用の為に小物を用意し、自分達の役割の話題を提示し、緊張を解してくれるのは、新鮮であった。
『きり丸が、俺に売り子のアルバイトの助太刀を頼んだのも、かくかくしかじかな事情があった訳だしな』
きり丸が、売り子のアルバイトの助太刀を○○に頼んだ理由には、消去法が関係していた。
文次郎、小平太、留三郎は、補習授業の際に見た女装の完成度を知っているが故、真っ先に候補から外した。
仙蔵は、六年生の中では女装の完成度は高いものの、その美麗さが却って、客の目を引くにしても、高嶺の花と近寄るのを恐れられるのではないかと。
長次は、図書委員会 委員長として、自分を気にかけてくれる優しい先輩ではあるが、売り子として必須の笑顔が不気味。良心が痛むが、今回は見送る事とした。
伊作は、持ち前の不運が発動して、アルバイトに支障が出てしまう恐れがある。
そんな中、○○の女装は仙蔵程ではないものの比較的、目を向けられる。悩みが生じてもすぐ自己解決する、自己完結型の素直な性格だが、アルバイトに支障が出そうにはないと踏み、消去法で○○を選び、きり丸は依頼したのだ。
着替えを終えた○○ときり丸は、籠に詰め込まれた売り物を捌くべく、長屋を出て、町へと赴くのだ。
道中で、きり丸から人通りのある中で、この場所なら人目に付きやすい、ここはあまり寄り付かない等と、○○に助言する事が何度かあった。天才アルバイターとしての一面を間近で見た○○は、感心しつつも、それがきり丸にとっての当たり前でもあると、考えを切り替えた。
「お姉ちゃん。この辺で、お花を売りましょ」
『そうね。きりちゃん』
○○は、◇◇。きり丸は、きり子と女装時の呼び名を使用する。
売り子をする前から、この様な小芝居を打つのは、男言葉で話していた筈が突然、女言葉に切り替わった所を目撃されない為である。
「お花は、いかがですかー?」
『綺麗なお花達がほらっ、こーんなにありますよー』
○○ときり丸は、裏声を使って、スカシユリ、ヒメユリ、鱗茎を売り始めていく。
外見だけなら、可憐な少女二人が通りの中央で、商売をしている様は町人の視線を釘付けにする。
「一つ、貰っていいかな?」
「は〜い! 毎度、ありがとうございま〜す!」
『ありがとうございますっ』
一人の若者が、ヒメユリを手に持つきり丸に声を掛けた。きり丸の無垢な笑顔、○○の淑やかさを感じさせる笑みを受け、若者は頬を赤く染める。すっかり、二人は
「お姉ちゃん、お花頂戴っ」
○○の足元から、十にも満たない
『ふふっ。お姉さんに声を掛けてくれて、ありがとう。お母様は、どこかにいらっしゃるの?』
「すみませんっ。うちの子が、いきなり声を掛けたみたいで……」
『いえ、お気になさらないで下さい。このスカシユリをお母様の為の贈り物に、したかったのかしら?』
○○が問いかけると、
「こーんなに綺麗なお花を見たら、贈り物したくなっちゃうわよね。ねぇ見て。お姉ちゃんにお花を付けると、こんなに似合うの」
きり丸は、手にしていたヒメユリを○○の桂包に当て、女子に見せた。そのままの状態で使用するのは難しいが、花を差せば可愛さが引き立つという意味で、そのような行動を見せたのだ。
『きりちゃんだって、ほらっ』
その意図を汲み取った○○は、女子に見せる形で、同じ様にスカシユリをきり丸の桂包に当てる。誰から見ても、仲睦まじい姉妹の姿そのものである。
「もし、よければ……二つ、頂けるかしら?」
「は〜い! ありがとうございま〜す!」
『ありがとうございますっ』
その後も、スカシユリが欲しい、ヒメユリが欲しいと言う町人が現れ、○○ときり丸はそれらを捌いていく。
○○がスカシユリを手に取ろうとした際、視線を感じ取る。小袖に忍ばせていた"とある物"を活用する時が来たと、○○は心の中で悪い笑みを浮かべた。
『こんにちは〜。きみ達、ここで花を売ってるの?』
『あら、こんにちは。お顔の素敵なお兄さん』
○○ときり丸の前に、中年の男性が現れた。
どことなく、二人の頭から爪先までを品定めする様な厭らしい目つきが、きり丸の中で警戒心を強めた。
(早速、来たな)
迷惑客を上手い事、追っ払おうと考えていたが、○○と視線が会うと、"ここは俺に任せろ"と何となくであるが、きり丸に伝わる。
『お花を買いに来て、いらして下さったんですか?』
「花は勿論だけど、きみ達って姉妹? 結構、可愛い顔立ちしているから、もし良ければ___、」
『私達姉妹のお花、どうですか?』
男性の話の腰を折り、○○はスカシユリを差し出してから、息を吹きかける。
突然の事に驚きつつ、会話を続けようとした男性が口を開いた時だった。
「う、うわっ!!」
(へっ? うわっ……?)
いきなり声を上げられ、きり丸は売り子の最中でも、思わず目を丸くさせる。
「目、目がっ! 痛いぃ!」
先程までの軽薄な態度と一転し、男性は両目に襲いかかる痛みに耐えられず、両手で目を抑え、そのように訴える。
『きっと、スカシユリの花粉が目に入ったのかもしれませんわ。この近くに診療所がありますから、そちらで一度、診てもらう事をお勧め致します』
「ひぃ〜〜っ! 早く医者に診て貰わないと、目が痛くて痛くて堪ら〜ん!!」
変わらず、淑やかな笑みを浮かべる○○からの助言を状況が状況だからと、素直に受け取り、男性は診療所へと走り出して行く。唐辛子の粉だ。
「名無し先輩、あの人に何したんすか?」
きり丸は、町人に聞こえない様にと平時の口調に戻り、小声で声を掛けた。
『ちょっとした小細工よ。それにあの人、ちょっと危険な香りのする、素敵なお兄さんだったから』
先程、男性の視線に気がついた○○は、自分達の元へ向かってくると分かれば、懐から唐辛子の粉末を取り出したのだ。
自分ときり丸を品定めする様に、体を舐め回す様に見ていた隙に、スカシユリの中に唐辛子の粉末を混ぜ、それを差し出したのである。
ちなみに、先程の男性は
男性の安否など気にも溜めず、○○は残された
『そこを歩いている、素敵なお姉様方。少し寄っていらっしゃらない?』
○○に声を掛けられ、町娘達は何事かと思うも、振り向いた。そのタイミングで、○○は籠から
『収穫したてのユリの
「まぁ! こんな所で
『はぁい、ありがとうございます』
籠の中に残っていた
「妹ちゃんの分も込めて、奮発して買わせて貰うわね」
「は〜い! 毎度、ありがとうございま〜す!」
○○の隣で、売り子をしていたきり丸を妹だと信じ込み、
町娘達が遠方まで向かった所を見計らい、きり丸は再び、○○に声を掛ける。
「お姉ちゃん、
『もうっ、きりちゃんってば。その
「へぇー……」
きり丸は、先程の遊郭の経営者である男性に奇襲を仕掛けたり、ユリの花の知識が豊富な○○を見上げた。さすが忍術学園の最上級生だなぁ……、きり丸は、心の中でそう思った。
・
あれから、○○ときり丸は売り物用のスカシユリ、ヒメユリ、
依頼主の元へ赴き、空になった籠を引き換えに今回分の駄賃を頂く。
『ユリと言ったら、らっきょうだ。大木先生を思い出すなぁ』
忍術学園の岐路を歩く中、○○はスカシユリとヒメユリを見て、忍術学園の元教師である大木雅之助を思い出す。教師を辞めた現在は杭瀬村にて、らっきょうとネギの栽培を行っている。
「名無し先輩って、ユリの花に詳しいんですね。色々知っていらっしゃったから、あっという間に捌けましたもん」
『んっ。とは言っても全部、他の忍たまからの受け売りなんだけどね』
きり丸の言葉に○○は、はにかんだ笑顔を見せてから、素直にそう言った。
『俺も初めは知らない事ばかりで、図書室で本を借りたり、六年生の奴等が気まぐれで、教えてくれたり……』
無知であった自分に、知識を与えてくれた学友達の姿が脳裏に浮かぶと、○○は小さく笑う。
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