短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
.
◆名前変換夢の為、名前入力を推奨。
◆三人称(神の目線)視点で進みます。
◆既存キャラの解釈違い(口調や性格)が出てくると思われますので予め、ご了承下さい。
◆タソガレドキ・黒鷲隊内部、タソガレ三忍の口調(参考元:原作漫画)の捏造あり。
夢主の簡単な設定
・忍術学園の六年生と同い年(十五歳)。
・将来は、黒鷲隊へ入隊予定。
・良くも悪くも排他的な性格。懐いた者には、心を開く。それ以外の人間には、普通に接しているものの、肩書き等で相手の名を呼ぶ。
・一般常識が欠けている節があり、浮世絵離れしている。
・寝る・甘味物(最近は南蛮菓子)を食べる事が好き。
・
その日は、雲ひとつない晴天で、風も穏やかで肌に心地よい。お出かけ日和とも言うべき快晴の空の下、忍術学園の敷地内である裏山の山中には、草いきれと土の匂いに包まれた一角があった。
陽を浴びて、瑞々しく伸びるスベリヒユの群れに腰を下ろし、作業の合間に息をつく四人の若者の姿が見えてくる。
「いやぁ、今日も大量に取れたなぁ」
「はいっ。これだけ薬草もあれば、保健委員としての仕事にも、やる気が出てきます」
根ごと引き抜いたスベリヒユを持参した布の上へと並べ、保健委員会 委員長の善法寺伊作、同じく保健委員の猪名寺乱太郎が笑みを浮かべた。
『スベリヒユの薬は、飲んでも良いし、怪我をした所に塗っても良いんだよね』
「そうそう。○○は、薬草の知識にも精通してるんだね」
『でも、善法寺くん程の知識量は無いかも』
「ちょっと待てぇ!」
突如として張りのある声が響けば、和やかだった空気が一瞬にして切り裂かれてしまう。三人が反射的に振り返れば、そこには険しい表情を浮かべる、六年は組の食満留三郎が立っていた。額には汗が光り、拳を握りしめる姿は、まるで場違いなものを見つけたと告発するかのよう。
「どうしたんだい? 留三郎」
「どうされたんですか? 食満先輩」
『何かあった?』
留三郎の喧噪に対して、三人は首を傾げながらも問いかけると、留三郎の眉間に、更に皺が深められていく。
「何かあった?…、じゃない! しかもそれを、当の本人が言うなんて事が、そもそもおかしいだろ!」
『えっ?』
怒声を発し、平時よりも迫力のある留三郎を前にしても、○○はきょとんとした顔を浮かべ、目を丸くする。その肝の据わり方は、留三郎からして見れば、挑発的にさえ見えてしまう。
「何でタソガレドキの曲者が、伊作と乱太郎の薬草取りの手伝いをしてるんだ!」
忍術学園とタソガレドキは現在、中立的関係を築いている。大元を辿れば、園田村での一件を機に、かつて凄腕忍者と謳われた大川平次渦正が学園長を務める忍術学園を敵に回してはならないと合理的判断を下したのだ。
戦を仕掛ける事もなければ、タソガレドキ忍軍は、保健委員会を懇意にしており、見方を変えれば好意的に接している場面が見られるのだ。
『何でと言われても、前から保健委員会さんの手伝いをしている訳だから』
しかし、全員が好意的に接する訳ではなく、好戦的な忍たまは、最強と名を轟かせるタソガレドキに嫌悪感を抱く者や、勝負を吹っかける者と十人十色な反応を見せてくれる。
「食満先輩。○○さんは私達、保健委員会の為にこうして、時間を割いて薬草取りを手伝って下さるんです」
「そうだよ、留三郎。それに○○が一緒に来てくれると、ほんの少しだけ不運な目に遭う回数が減っているから、それにも助かっているんだ」
いつ脅威の相手ともなり得ぬ相手を庇う乱太郎と伊作の発言を聞き、留三郎は最近起きている、"ある出来事"について触れた。
「確かに、保健委員会が不運な目に遭わず、採れたてで新鮮な状態の薬草を運んで来ている様子をよく見かけるが……」
腕を組み、右手を口元に当てながら思考に沈み込む留三郎だが、勢いよく顔を上げると、○○の元へと、ずいっと顔を近づけていく。
「おい、曲者!」
『今度は何? 用具委員長さん』
ころころと表情が変われば、自分が標的とそれるこの状況にも、○○は少しだけ顔を顰めて、講義の一つでもしてやろうかと考えた時だった。
「お前、"保健委員は不運に見舞われる"というお約束を知らないのか!?」
『お約束…?』
忍術学園に在籍する忍たま・くのたまならば、保健委員会に所属する委員の共通点が何かと聞かれたら、即座に答えられるもの……それは、所属する委員全員が不運体質である事。
『あぁ。だから、この間のピクニックで、有り得ない量の雨に苛まれたんだね』
常人ならば、自分の運勢の善し悪しを気にする必要はないが、保健委員は天に見放されたのかと疑う程に、運が悪い。忍たまとの交流がまだ比較的、浅い一面のある○○は、不運体質について詳しく知らなかったのだ。
『じゃあお約束なら、保健委員会さんの不運を打ち消してしまうなんて真似は、しない方が用具委員長さんも良いんだよね』
「はっ?」
突拍子もない言葉に、留三郎は眉をぴくりと跳ね上げ、素っ頓狂な声を漏らす。
○○は、保健委員会の面々の抱える不運を帳消しに出来る豪運を持っている訳ではない。だが、"お約束を守る為なら、不幸は歓迎すべきだ"と言わんばかりの言葉は、留三郎の常識の枠から大きく外れていた。理解不能という言葉でも形容しがたい提案を、至って真顔で差し出してきたのだから。
(この○○という曲者、あの雑渡昆奈門が率いるタソガレドキの忍者の一人だとは聞いているが……思考が全く読み取れない……っ!)
留三郎が、○○と対面したのは忍術学園で開催された文化祭での事。同室の伊作と共に行動していたのを遠目で目撃しただけで、会話を交わした訳ではないが、忍装束の色からタソガレドキの物だと判別出来れば、雑渡と同じ曲者だと彼の中では分類されたのだ。
(聞けば俺達、六年生と同い年だと言うが……なんというか、妙に世間知らずというか、浮世絵離れしていて……本当に、俺と同い年なのかと疑う時はある………いや、もしかすると、それも敵を欺く為の顔作りかもしれない……っ)
四年ろ組の浜守一郎が忍術学園への入学を決めたきっかけとなった籠城戦にて、雑渡と押都と共に行動する○○と遭遇。戦闘向きの忍びでないと自身で評し、得意武器の鉄双節棍による一撃をことごとく回避される度に、武器を振るう手が、虚空に吸い込まれていくような徒労感を覚えた。
(用具委員長さん。さっきから、ころころと顔を変えて、何を考えてるんだ?)
ちなみに、○○の世間知らずな一面は、これまでタソガレドキという、閉鎖的な社会の象徴である隠れ里で育った事が原因の一つ。
隠れ里では通じていた価値観も、忍術学園の忍たま達と関われば、たちまち○○は幼子のような無垢さ、一般常識が欠けた無知として露呈されてしまう。そんな事を留三郎が知っている筈もなく、○○の素顔が自分を欺こうとしている別の顔だと勘違いを起こす。
◇
採取したスベリヒユを背負籠へと詰め終え、四人は裏山の山道を下り始めた。夏草を踏みしだく足音と、背籠の中で揺れる薬草の葉擦れが小さく重なり、静かな山道に生命の気配を添えていく。
『忍術学園の正門近くに着いたら、おれは籠を置いて帰るから』
その声は澄んでいたが、一定の線引きが存在しているのは確か。薬草採取の手伝いはしても、忍術学園の医務室に訪れ、薬草の確認作業まではするつもりはないと。
「今日は、助かったよ」
「タソガレドキの皆さんもお忙しい筈なのに、私達のお手伝いまでして下さって、○○さんはお優しい方ですね」
多忙な時は、こうして採取の手伝いに赴けない事を伊作と乱太郎をはじめ、保健委員の面々は理解している。だからこそ、時間を割いてまで、薬草の採取に力を貸して、保健委員会に陰ながら貢献する○○に感謝の言葉を述べていく。
『用具委員長さんは、用具委員長なのに、保健委員会にも入っているの?』
○○は、保健委員会では姿を見かけた事の無い留三郎に視線を向け、唐突に疑問をぶつけた。
「それは、食満先輩が裏の保健委員長だからです!」
厄介な質問だと思い、眉間に皺を寄せた留三郎だが、本人が答えるよりも先に、はきはきとした口調で、乱太郎が元気よく返答する。
『裏の保健委員長…?』
「はいっ。六年間、伊作先輩と同室の食満先輩は、今日みたいに薬草取りに出掛けた時、私や伊作先輩が不運な目に遭うと、必ず食満先輩が手を差し伸べて、助けて下さるんです。なんたって、食満先輩と伊作先輩は同室ですからね」
忍術学園では、寝床を共にする忍たま同士を同室と呼ぶ。伊作と留三郎を思い浮かべた時、その呼び名が自然に結びつく者は、少なくないだろう。
だが、○○にとって同室という概念は、まだ曖昧なものだった。首を傾げつつも、ふぅんと相槌を打ちつつ、彼の脳裏には、黒鷲隊の三人ーーー、五条弾、椎良勘介、反屋壮太の姿が過った。
(同室さんって、弾さん、勘介さん、壮太さんみたいな、お兄さんみたいに慕う人の事でもあるのかな?)
○○を弟のように可愛がっている三人は最近は、忍術学園の忍たま達(○○と年齢の近い子)との関わりが増えて嬉しい半面、弟が見知らぬ場所へ巣立つ寂しさも芽生えている。しかし、○○もまた、三人を慕っている為にそのような拗らせたすれ違いは起こしておらず、今も仲良く鍛錬に励んだりと、関係は良好。
『用具委員長さんは、善法寺くんのお兄さんなんだね』
「お、おに……っ?!」
かつて、守一郎に"お兄ちゃん"と呼ばれた事のある留三郎は、その時ほどではないものの、驚きと困惑を隠せない。
何故ならば、留三郎は三人兄弟の三男であり、食満家では、兄という立場ではないからだ。曲者である筈の○○から、"お兄さん"と話されれば、同室の意味を履き違えていると反論する事が出来ず、言葉が詰まる。
『あっ、そういえば……保健委員会さんの引き起こす不運って、あんな奴?』
自身の発言で、留三郎の言葉が詰まっている等、知る筈もない○○は、山頂から聞こえてくる轟音に気がつけば、そちらに意識が向けられていた。
「あんな奴って?」
『ほら。さっきまで、おれ達が歩いていた坂道の頂から、岩が転がって来てる』
淡々とした口調で、坂道の頂から岩石の影が、ちらりと見えると言い放てば、乱太郎と伊作の顔が青ざめていく。自分達が引き起こした不運であると分かれば、「不運だ!」と悲痛な叫びが、裏山にて木霊する。
「あぁ!」
「わぁ〜!」
地を震わせ、坂道を転がり落ちる岩から逃げ出そうと、踵をくるりと動かした瞬間、伊作と乱太郎は、何も変哲も無い山道で足を滑らせてしまう。山道の上空で、瑞々しいスベリヒユが光を反射しながら舞い散る様は、刹那だけ美しい光景に見えたが、二人にとっては、ただの絶望の予兆でしかない。
「伊作! 乱太郎!」
地面へと顔面が直撃すると察知した留三郎が、二人の元へ向かおうとするよりも先に、疾風のように、○○が俊敏な動きを披露した。
(は、速い……っ!)
留三郎の目に映ったのは、地を蹴った瞬間、羽根のように軽やかに飛び込む○○の姿。屈んで両腕を大きく広げ、滑り落ちる二人の腹部をしっかりと抱き込む。
二人分の体重が一気に○○の腕にのしかかるが、その細身からは想像も出来ぬほどの力強さで受け止めた。次の瞬間、地面を蹴り上げ、岩を軽々と飛び越えていく。
『あれ?』
しかし、二人の背中に背負われた筈の背負籠が見当たらないと分かると、○○は小首を傾げて、空を見上げた。青空を背景に、紐が切れた籠と瑞々しいスベリヒユが未だ宙を舞い、ゆっくりと重力に引き寄せられていた。
「わああぁぁ〜〜っ!!」
伊作と乱太郎の悲痛な叫びを背に、○○は背負籠とスベリヒユの回収に向かおうと踵を返す。だが、次の瞬間、その動きはぴたりと止まった。
「うおおぉぉーーっ! 勝負だあぁーーっ!!」
平時から発する口癖だと、かつて二年い組の川西左近から聞いたものが、背負籠とスベリヒユの回収に向かう留三郎の口から発せられた。
二人分の籠を難なく受け止めれば、留三郎は宙を舞い、地面へと振り落ちるスベリヒユの回収を開始する。豪快かつ、スベリヒユを傷つけないようなと繊細かつ高度な技術が求められる。額を伝った汗が顎先から滴り落ちる頃には、緑の葉が全て籠の中に収まっていた。
「すまない、留三郎!」
「ありがとうございます! 食満先輩!」
岩を回避して、その場に座り込む留三郎の元へ、伊作と乱太郎が駆け寄る。
「気にするな…、同室じゃないか……」
岩をかわし、その場に腰を落とした留三郎へ、伊作と乱太郎が駆け寄る。肩で息をしながらも、彼は片手で籠を抱きしめるように守り、荒い呼吸の合間に低く呟く。
(……、…………)
伊作と乱太郎の跡をついて、留三郎の元へ向かった○○は、じぃっと留三郎を見つめる。彼の脳裏には、先程の乱太郎の発言が繰り返し、木霊している最中。
"私や伊作先輩が不運な目に遭うと、必ず食満先輩が手を差し伸べて、助けて下さるんです。なんたって、食満先輩と伊作先輩は同室ですからね"
○○の視線に気がついた留三郎は、伊作と乱太郎の影に隠れている○○の顔を見ようと、立ち上がろうとした時だった。
『本当に、お兄さんみたいだね。食満くん』
不意打ちのように放たれた言葉に、留三郎の動きが止まる。平時から発する"用具委員長さん"、"善法寺くんの同室さん"ではなく、自身の苗字を、はっきりと呼ばれた事に気がつけば、目を丸くさせる。
「お、お前…いま……、」
「○○が、留三郎の事を名前で呼んだ…!」
「普段から、用具委員長という肩書きでしか呼ばれない○○さんが、食満先輩の名前を…!」
伊作と乱太郎が大きな目を見開き、声を揃えて驚きをあらわにする。
○○は、心を許した相手にしか基本的に名前を呼ばないーーー、その性質を知っている二人にとって、留三郎の名を呼ぶのは驚愕に値する出来事。
「……、…ど、……同室は……」
すると、留三郎は自身を"お兄さん"と呼ぶ○○を睨みつけながらも、頬は紅潮しており、気恥しさを隠せていない。
「同室ってのはなぁ、苦楽を共にした仲間って意味だぁ! お兄さんという意味じゃない事をよく覚えておけぇ!!」
名前で呼ばれて驚くより、同室の意味を履き違えている○○を叱責する留三郎。そんな姿を見て、伊作と乱太郎は、「ありゃ」と間抜けな声を上げれば、バランスを崩して、盛大にその場に転げていく。
◇
午後の授業を終えた忍術学園は、解き放たれた鳥のように、忍たま達の声が響き渡る。笑い声、駆ける足音の喧噪が、放課後の始まりを告げて、夏空へとゆるやかに溶けていく。
「食満用具委員会 委員長ー!」
委員会活動を赴こうと、校庭を歩く留三郎の元へ、三年ろ組の冨松作兵衛が現れるも、息も絶え絶えで、何かに怯えている様子なのは誰が見ても明白だ。
「作兵衛! そんなに怯えて、用具委員会に何かあったのか!?」
「そ、それが……"食満先輩の友達"だと話す、タソガレドキの忍者の方が……」
「はっ?」
留三郎の友達だと自称する、タソガレドキの忍者……外見の特徴は伝えられていないものの、その情報だけで、誰なのかを留三郎は瞬時に理解出来た。何故ならば、同室の意味を"お兄さん"と履き違え、自身を名前で呼び出した、同い年の青年とつい最近、交流があったからだ。作兵衛の案内を受けて、辿り着いた先は、用具室の入口前。そこに集う、一年生の忍たま三人と、四年生の守一郎と関わる○○の姿が見えれば、留三郎は更に足を速めていく。
「なめくじは?」
『好きじゃない』
「安藤先生のギャグは?」
『知らない』
「ひ、ひかげぼっこは……」
『それって何?』
一年は組の山村喜三太、福富しんべヱ、一年ろ組の下坂部平太の矢継ぎ早に投げかけられる質問に、○○は澄んだ声で愛嬌を見せつつも、簡素な答えを述べていく。
「タソガレドキのお兄さん、食満先輩とお知り合いだったんですか?」
『うん。つい最近、食満くんと友達になった』
「うちの用具委員会の後輩達に、なに吹き込んでやがる!」
守一郎と会話を交わす○○だったが、留三郎の叱責が飛んでくれば、視線と意識が留三郎に向けられた。
『やっほ、食満くん』
「どこに、"やっほ"なんて声を掛けてくる曲者が居るんだよ!」
『ここに居るけど』
まだ無垢な存在である一年生を懐柔し、更には籠城戦にて、浅いながらも付き合いのあるという共通点から、人心掌握術を見せる○○に、相手はタソガレドキの忍びの一人(または、曲者)であり、懐にしまう鉄双節棍にいつでも手が伸ばせるようにと、警戒心を緩めない。
「事務員の小松田さんの目を掻い潜って、ここに現れたのか!?」
『いや、事務員さんの入門票って紙に、自分の名前を書いて、ちゃんと入り口から入って来たよ』
正当法で、忍術学園に足を踏み入れた事実を告げられると、留三郎は体の軸がぶれて、その場に倒れ込む。
タソガレドキ忍軍に属する雑渡をはじめ、彼等は事務員の小松田秀作の目を掻い潜り、何度もこの忍術学園に足を運ぶ。○○も同様の方法を取っていると踏んだ留三郎だったが、至極当たり前の方法を取っていたと分かれば、更に調子を狂わされる。
『今日は、食満くんが委員長をしている用具委員会さんの所に来たんだ』
「おい、ちょっと待て。"今日も"って事は……」
○○が何気なく言い放った言葉から、明日さその明後日のどこかで、また用具委員会や保健委員会に顔を見せるつもりなのかと、留三郎が思った矢先、○○は忍たまの気配を感じ取った。
「なぁに用具室の真ん前で、騒いでやがる。六年は組の食満留三郎」
その声を聞き、留三郎の中の血が滾っていく。一年時から犬猿の仲と知られている相手であるのだから、顔を見ずとも、声のみで正体が分かる。
「六年い組、潮江文次郎! お前こそ、用具室にやって来て、何の用だ!」
「用具を借りに来た。見て分からないのか」
「借りるんだったら、まず俺を倒してからだ! 勝負だぁ!」
「何だとぉ! 何故、委員長であるお前の許可を得ないと、用具を借りられんのだ!? こうなったら、ギンギンに相手してやる!」
本来ならば、タソガレドキ忍軍の曲者である○○に意識が向けられる筈が、文次郎は同じく犬猿の仲である留三郎との決闘に意識が向けられ、○○と用具委員会の面々は蚊帳の外。
(そういえば、あの人って……)
文次郎と留三郎が、互いの得意武器を取り出し、攻防戦を繰り広げている中、○○は文次郎の顔を見つめる。
彼が所属する会計委員会の肩書きではなく、留三郎が彼を渾名で呼んでいた呼称があった筈だとーーー、それを思い出せば、○○は恐れの感情を一切も見せず、口を開く。
『あっ、ばか文次さん』
.
◆名前変換夢の為、名前入力を推奨。
◆三人称(神の目線)視点で進みます。
◆既存キャラの解釈違い(口調や性格)が出てくると思われますので予め、ご了承下さい。
◆タソガレドキ・黒鷲隊内部、タソガレ三忍の口調(参考元:原作漫画)の捏造あり。
夢主の簡単な設定
・忍術学園の六年生と同い年(十五歳)。
・将来は、黒鷲隊へ入隊予定。
・良くも悪くも排他的な性格。懐いた者には、心を開く。それ以外の人間には、普通に接しているものの、肩書き等で相手の名を呼ぶ。
・一般常識が欠けている節があり、浮世絵離れしている。
・寝る・甘味物(最近は南蛮菓子)を食べる事が好き。
・
その日は、雲ひとつない晴天で、風も穏やかで肌に心地よい。お出かけ日和とも言うべき快晴の空の下、忍術学園の敷地内である裏山の山中には、草いきれと土の匂いに包まれた一角があった。
陽を浴びて、瑞々しく伸びるスベリヒユの群れに腰を下ろし、作業の合間に息をつく四人の若者の姿が見えてくる。
「いやぁ、今日も大量に取れたなぁ」
「はいっ。これだけ薬草もあれば、保健委員としての仕事にも、やる気が出てきます」
根ごと引き抜いたスベリヒユを持参した布の上へと並べ、保健委員会 委員長の善法寺伊作、同じく保健委員の猪名寺乱太郎が笑みを浮かべた。
『スベリヒユの薬は、飲んでも良いし、怪我をした所に塗っても良いんだよね』
「そうそう。○○は、薬草の知識にも精通してるんだね」
『でも、善法寺くん程の知識量は無いかも』
「ちょっと待てぇ!」
突如として張りのある声が響けば、和やかだった空気が一瞬にして切り裂かれてしまう。三人が反射的に振り返れば、そこには険しい表情を浮かべる、六年は組の食満留三郎が立っていた。額には汗が光り、拳を握りしめる姿は、まるで場違いなものを見つけたと告発するかのよう。
「どうしたんだい? 留三郎」
「どうされたんですか? 食満先輩」
『何かあった?』
留三郎の喧噪に対して、三人は首を傾げながらも問いかけると、留三郎の眉間に、更に皺が深められていく。
「何かあった?…、じゃない! しかもそれを、当の本人が言うなんて事が、そもそもおかしいだろ!」
『えっ?』
怒声を発し、平時よりも迫力のある留三郎を前にしても、○○はきょとんとした顔を浮かべ、目を丸くする。その肝の据わり方は、留三郎からして見れば、挑発的にさえ見えてしまう。
「何でタソガレドキの曲者が、伊作と乱太郎の薬草取りの手伝いをしてるんだ!」
忍術学園とタソガレドキは現在、中立的関係を築いている。大元を辿れば、園田村での一件を機に、かつて凄腕忍者と謳われた大川平次渦正が学園長を務める忍術学園を敵に回してはならないと合理的判断を下したのだ。
戦を仕掛ける事もなければ、タソガレドキ忍軍は、保健委員会を懇意にしており、見方を変えれば好意的に接している場面が見られるのだ。
『何でと言われても、前から保健委員会さんの手伝いをしている訳だから』
しかし、全員が好意的に接する訳ではなく、好戦的な忍たまは、最強と名を轟かせるタソガレドキに嫌悪感を抱く者や、勝負を吹っかける者と十人十色な反応を見せてくれる。
「食満先輩。○○さんは私達、保健委員会の為にこうして、時間を割いて薬草取りを手伝って下さるんです」
「そうだよ、留三郎。それに○○が一緒に来てくれると、ほんの少しだけ不運な目に遭う回数が減っているから、それにも助かっているんだ」
いつ脅威の相手ともなり得ぬ相手を庇う乱太郎と伊作の発言を聞き、留三郎は最近起きている、"ある出来事"について触れた。
「確かに、保健委員会が不運な目に遭わず、採れたてで新鮮な状態の薬草を運んで来ている様子をよく見かけるが……」
腕を組み、右手を口元に当てながら思考に沈み込む留三郎だが、勢いよく顔を上げると、○○の元へと、ずいっと顔を近づけていく。
「おい、曲者!」
『今度は何? 用具委員長さん』
ころころと表情が変われば、自分が標的とそれるこの状況にも、○○は少しだけ顔を顰めて、講義の一つでもしてやろうかと考えた時だった。
「お前、"保健委員は不運に見舞われる"というお約束を知らないのか!?」
『お約束…?』
忍術学園に在籍する忍たま・くのたまならば、保健委員会に所属する委員の共通点が何かと聞かれたら、即座に答えられるもの……それは、所属する委員全員が不運体質である事。
『あぁ。だから、この間のピクニックで、有り得ない量の雨に苛まれたんだね』
常人ならば、自分の運勢の善し悪しを気にする必要はないが、保健委員は天に見放されたのかと疑う程に、運が悪い。忍たまとの交流がまだ比較的、浅い一面のある○○は、不運体質について詳しく知らなかったのだ。
『じゃあお約束なら、保健委員会さんの不運を打ち消してしまうなんて真似は、しない方が用具委員長さんも良いんだよね』
「はっ?」
突拍子もない言葉に、留三郎は眉をぴくりと跳ね上げ、素っ頓狂な声を漏らす。
○○は、保健委員会の面々の抱える不運を帳消しに出来る豪運を持っている訳ではない。だが、"お約束を守る為なら、不幸は歓迎すべきだ"と言わんばかりの言葉は、留三郎の常識の枠から大きく外れていた。理解不能という言葉でも形容しがたい提案を、至って真顔で差し出してきたのだから。
(この○○という曲者、あの雑渡昆奈門が率いるタソガレドキの忍者の一人だとは聞いているが……思考が全く読み取れない……っ!)
留三郎が、○○と対面したのは忍術学園で開催された文化祭での事。同室の伊作と共に行動していたのを遠目で目撃しただけで、会話を交わした訳ではないが、忍装束の色からタソガレドキの物だと判別出来れば、雑渡と同じ曲者だと彼の中では分類されたのだ。
(聞けば俺達、六年生と同い年だと言うが……なんというか、妙に世間知らずというか、浮世絵離れしていて……本当に、俺と同い年なのかと疑う時はある………いや、もしかすると、それも敵を欺く為の顔作りかもしれない……っ)
四年ろ組の浜守一郎が忍術学園への入学を決めたきっかけとなった籠城戦にて、雑渡と押都と共に行動する○○と遭遇。戦闘向きの忍びでないと自身で評し、得意武器の鉄双節棍による一撃をことごとく回避される度に、武器を振るう手が、虚空に吸い込まれていくような徒労感を覚えた。
(用具委員長さん。さっきから、ころころと顔を変えて、何を考えてるんだ?)
ちなみに、○○の世間知らずな一面は、これまでタソガレドキという、閉鎖的な社会の象徴である隠れ里で育った事が原因の一つ。
隠れ里では通じていた価値観も、忍術学園の忍たま達と関われば、たちまち○○は幼子のような無垢さ、一般常識が欠けた無知として露呈されてしまう。そんな事を留三郎が知っている筈もなく、○○の素顔が自分を欺こうとしている別の顔だと勘違いを起こす。
◇
採取したスベリヒユを背負籠へと詰め終え、四人は裏山の山道を下り始めた。夏草を踏みしだく足音と、背籠の中で揺れる薬草の葉擦れが小さく重なり、静かな山道に生命の気配を添えていく。
『忍術学園の正門近くに着いたら、おれは籠を置いて帰るから』
その声は澄んでいたが、一定の線引きが存在しているのは確か。薬草採取の手伝いはしても、忍術学園の医務室に訪れ、薬草の確認作業まではするつもりはないと。
「今日は、助かったよ」
「タソガレドキの皆さんもお忙しい筈なのに、私達のお手伝いまでして下さって、○○さんはお優しい方ですね」
多忙な時は、こうして採取の手伝いに赴けない事を伊作と乱太郎をはじめ、保健委員の面々は理解している。だからこそ、時間を割いてまで、薬草の採取に力を貸して、保健委員会に陰ながら貢献する○○に感謝の言葉を述べていく。
『用具委員長さんは、用具委員長なのに、保健委員会にも入っているの?』
○○は、保健委員会では姿を見かけた事の無い留三郎に視線を向け、唐突に疑問をぶつけた。
「それは、食満先輩が裏の保健委員長だからです!」
厄介な質問だと思い、眉間に皺を寄せた留三郎だが、本人が答えるよりも先に、はきはきとした口調で、乱太郎が元気よく返答する。
『裏の保健委員長…?』
「はいっ。六年間、伊作先輩と同室の食満先輩は、今日みたいに薬草取りに出掛けた時、私や伊作先輩が不運な目に遭うと、必ず食満先輩が手を差し伸べて、助けて下さるんです。なんたって、食満先輩と伊作先輩は同室ですからね」
忍術学園では、寝床を共にする忍たま同士を同室と呼ぶ。伊作と留三郎を思い浮かべた時、その呼び名が自然に結びつく者は、少なくないだろう。
だが、○○にとって同室という概念は、まだ曖昧なものだった。首を傾げつつも、ふぅんと相槌を打ちつつ、彼の脳裏には、黒鷲隊の三人ーーー、五条弾、椎良勘介、反屋壮太の姿が過った。
(同室さんって、弾さん、勘介さん、壮太さんみたいな、お兄さんみたいに慕う人の事でもあるのかな?)
○○を弟のように可愛がっている三人は最近は、忍術学園の忍たま達(○○と年齢の近い子)との関わりが増えて嬉しい半面、弟が見知らぬ場所へ巣立つ寂しさも芽生えている。しかし、○○もまた、三人を慕っている為にそのような拗らせたすれ違いは起こしておらず、今も仲良く鍛錬に励んだりと、関係は良好。
『用具委員長さんは、善法寺くんのお兄さんなんだね』
「お、おに……っ?!」
かつて、守一郎に"お兄ちゃん"と呼ばれた事のある留三郎は、その時ほどではないものの、驚きと困惑を隠せない。
何故ならば、留三郎は三人兄弟の三男であり、食満家では、兄という立場ではないからだ。曲者である筈の○○から、"お兄さん"と話されれば、同室の意味を履き違えていると反論する事が出来ず、言葉が詰まる。
『あっ、そういえば……保健委員会さんの引き起こす不運って、あんな奴?』
自身の発言で、留三郎の言葉が詰まっている等、知る筈もない○○は、山頂から聞こえてくる轟音に気がつけば、そちらに意識が向けられていた。
「あんな奴って?」
『ほら。さっきまで、おれ達が歩いていた坂道の頂から、岩が転がって来てる』
淡々とした口調で、坂道の頂から岩石の影が、ちらりと見えると言い放てば、乱太郎と伊作の顔が青ざめていく。自分達が引き起こした不運であると分かれば、「不運だ!」と悲痛な叫びが、裏山にて木霊する。
「あぁ!」
「わぁ〜!」
地を震わせ、坂道を転がり落ちる岩から逃げ出そうと、踵をくるりと動かした瞬間、伊作と乱太郎は、何も変哲も無い山道で足を滑らせてしまう。山道の上空で、瑞々しいスベリヒユが光を反射しながら舞い散る様は、刹那だけ美しい光景に見えたが、二人にとっては、ただの絶望の予兆でしかない。
「伊作! 乱太郎!」
地面へと顔面が直撃すると察知した留三郎が、二人の元へ向かおうとするよりも先に、疾風のように、○○が俊敏な動きを披露した。
(は、速い……っ!)
留三郎の目に映ったのは、地を蹴った瞬間、羽根のように軽やかに飛び込む○○の姿。屈んで両腕を大きく広げ、滑り落ちる二人の腹部をしっかりと抱き込む。
二人分の体重が一気に○○の腕にのしかかるが、その細身からは想像も出来ぬほどの力強さで受け止めた。次の瞬間、地面を蹴り上げ、岩を軽々と飛び越えていく。
『あれ?』
しかし、二人の背中に背負われた筈の背負籠が見当たらないと分かると、○○は小首を傾げて、空を見上げた。青空を背景に、紐が切れた籠と瑞々しいスベリヒユが未だ宙を舞い、ゆっくりと重力に引き寄せられていた。
「わああぁぁ〜〜っ!!」
伊作と乱太郎の悲痛な叫びを背に、○○は背負籠とスベリヒユの回収に向かおうと踵を返す。だが、次の瞬間、その動きはぴたりと止まった。
「うおおぉぉーーっ! 勝負だあぁーーっ!!」
平時から発する口癖だと、かつて二年い組の川西左近から聞いたものが、背負籠とスベリヒユの回収に向かう留三郎の口から発せられた。
二人分の籠を難なく受け止めれば、留三郎は宙を舞い、地面へと振り落ちるスベリヒユの回収を開始する。豪快かつ、スベリヒユを傷つけないようなと繊細かつ高度な技術が求められる。額を伝った汗が顎先から滴り落ちる頃には、緑の葉が全て籠の中に収まっていた。
「すまない、留三郎!」
「ありがとうございます! 食満先輩!」
岩を回避して、その場に座り込む留三郎の元へ、伊作と乱太郎が駆け寄る。
「気にするな…、同室じゃないか……」
岩をかわし、その場に腰を落とした留三郎へ、伊作と乱太郎が駆け寄る。肩で息をしながらも、彼は片手で籠を抱きしめるように守り、荒い呼吸の合間に低く呟く。
(……、…………)
伊作と乱太郎の跡をついて、留三郎の元へ向かった○○は、じぃっと留三郎を見つめる。彼の脳裏には、先程の乱太郎の発言が繰り返し、木霊している最中。
"私や伊作先輩が不運な目に遭うと、必ず食満先輩が手を差し伸べて、助けて下さるんです。なんたって、食満先輩と伊作先輩は同室ですからね"
○○の視線に気がついた留三郎は、伊作と乱太郎の影に隠れている○○の顔を見ようと、立ち上がろうとした時だった。
『本当に、お兄さんみたいだね。食満くん』
不意打ちのように放たれた言葉に、留三郎の動きが止まる。平時から発する"用具委員長さん"、"善法寺くんの同室さん"ではなく、自身の苗字を、はっきりと呼ばれた事に気がつけば、目を丸くさせる。
「お、お前…いま……、」
「○○が、留三郎の事を名前で呼んだ…!」
「普段から、用具委員長という肩書きでしか呼ばれない○○さんが、食満先輩の名前を…!」
伊作と乱太郎が大きな目を見開き、声を揃えて驚きをあらわにする。
○○は、心を許した相手にしか基本的に名前を呼ばないーーー、その性質を知っている二人にとって、留三郎の名を呼ぶのは驚愕に値する出来事。
「……、…ど、……同室は……」
すると、留三郎は自身を"お兄さん"と呼ぶ○○を睨みつけながらも、頬は紅潮しており、気恥しさを隠せていない。
「同室ってのはなぁ、苦楽を共にした仲間って意味だぁ! お兄さんという意味じゃない事をよく覚えておけぇ!!」
名前で呼ばれて驚くより、同室の意味を履き違えている○○を叱責する留三郎。そんな姿を見て、伊作と乱太郎は、「ありゃ」と間抜けな声を上げれば、バランスを崩して、盛大にその場に転げていく。
◇
午後の授業を終えた忍術学園は、解き放たれた鳥のように、忍たま達の声が響き渡る。笑い声、駆ける足音の喧噪が、放課後の始まりを告げて、夏空へとゆるやかに溶けていく。
「食満用具委員会 委員長ー!」
委員会活動を赴こうと、校庭を歩く留三郎の元へ、三年ろ組の冨松作兵衛が現れるも、息も絶え絶えで、何かに怯えている様子なのは誰が見ても明白だ。
「作兵衛! そんなに怯えて、用具委員会に何かあったのか!?」
「そ、それが……"食満先輩の友達"だと話す、タソガレドキの忍者の方が……」
「はっ?」
留三郎の友達だと自称する、タソガレドキの忍者……外見の特徴は伝えられていないものの、その情報だけで、誰なのかを留三郎は瞬時に理解出来た。何故ならば、同室の意味を"お兄さん"と履き違え、自身を名前で呼び出した、同い年の青年とつい最近、交流があったからだ。作兵衛の案内を受けて、辿り着いた先は、用具室の入口前。そこに集う、一年生の忍たま三人と、四年生の守一郎と関わる○○の姿が見えれば、留三郎は更に足を速めていく。
「なめくじは?」
『好きじゃない』
「安藤先生のギャグは?」
『知らない』
「ひ、ひかげぼっこは……」
『それって何?』
一年は組の山村喜三太、福富しんべヱ、一年ろ組の下坂部平太の矢継ぎ早に投げかけられる質問に、○○は澄んだ声で愛嬌を見せつつも、簡素な答えを述べていく。
「タソガレドキのお兄さん、食満先輩とお知り合いだったんですか?」
『うん。つい最近、食満くんと友達になった』
「うちの用具委員会の後輩達に、なに吹き込んでやがる!」
守一郎と会話を交わす○○だったが、留三郎の叱責が飛んでくれば、視線と意識が留三郎に向けられた。
『やっほ、食満くん』
「どこに、"やっほ"なんて声を掛けてくる曲者が居るんだよ!」
『ここに居るけど』
まだ無垢な存在である一年生を懐柔し、更には籠城戦にて、浅いながらも付き合いのあるという共通点から、人心掌握術を見せる○○に、相手はタソガレドキの忍びの一人(または、曲者)であり、懐にしまう鉄双節棍にいつでも手が伸ばせるようにと、警戒心を緩めない。
「事務員の小松田さんの目を掻い潜って、ここに現れたのか!?」
『いや、事務員さんの入門票って紙に、自分の名前を書いて、ちゃんと入り口から入って来たよ』
正当法で、忍術学園に足を踏み入れた事実を告げられると、留三郎は体の軸がぶれて、その場に倒れ込む。
タソガレドキ忍軍に属する雑渡をはじめ、彼等は事務員の小松田秀作の目を掻い潜り、何度もこの忍術学園に足を運ぶ。○○も同様の方法を取っていると踏んだ留三郎だったが、至極当たり前の方法を取っていたと分かれば、更に調子を狂わされる。
『今日は、食満くんが委員長をしている用具委員会さんの所に来たんだ』
「おい、ちょっと待て。"今日も"って事は……」
○○が何気なく言い放った言葉から、明日さその明後日のどこかで、また用具委員会や保健委員会に顔を見せるつもりなのかと、留三郎が思った矢先、○○は忍たまの気配を感じ取った。
「なぁに用具室の真ん前で、騒いでやがる。六年は組の食満留三郎」
その声を聞き、留三郎の中の血が滾っていく。一年時から犬猿の仲と知られている相手であるのだから、顔を見ずとも、声のみで正体が分かる。
「六年い組、潮江文次郎! お前こそ、用具室にやって来て、何の用だ!」
「用具を借りに来た。見て分からないのか」
「借りるんだったら、まず俺を倒してからだ! 勝負だぁ!」
「何だとぉ! 何故、委員長であるお前の許可を得ないと、用具を借りられんのだ!? こうなったら、ギンギンに相手してやる!」
本来ならば、タソガレドキ忍軍の曲者である○○に意識が向けられる筈が、文次郎は同じく犬猿の仲である留三郎との決闘に意識が向けられ、○○と用具委員会の面々は蚊帳の外。
(そういえば、あの人って……)
文次郎と留三郎が、互いの得意武器を取り出し、攻防戦を繰り広げている中、○○は文次郎の顔を見つめる。
彼が所属する会計委員会の肩書きではなく、留三郎が彼を渾名で呼んでいた呼称があった筈だとーーー、それを思い出せば、○○は恐れの感情を一切も見せず、口を開く。
『あっ、ばか文次さん』
.
