元JKの記憶喪失空っぽ夢主は、忍たま達に囲まれて生き延びたい
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『きり丸くん……、……ど、土井先生!?』
浜辺に佇むわたしの視界に、見慣れた二人の姿が映る。海風を受けて揺れる裾の先、夕日を背にして現れたのは、きり丸くんと土井先生だった。
『えっ? えぇっ??』
きり丸くんは、土井先生と一緒に来たおかげで、この地まで来れたのだろう。けれど、何で土井先生までもが、わざわざ貴重な休日を割いてまで、わたしの元に?
『土井先生、一年は組のテストの採点は、大丈夫なんですか……?』
海風に髪をなびかせながら、わたしが問いかける。
「いやぁ、本当はそっちも取り掛かった方が良いんだけどね……」
「土井先生! 今はそんな事、言ってる場合じゃないっすよ!」
きり丸くんの容赦ない追い打ちに、土井先生が神経性胃腸炎に襲われると、呑気にそんなことを考えてしまう。そんな時にふと、潮の香りに紛れて別のものを微かに感じた。
(……、気配が三つ?)
きり丸くんでも、土井先生でもない。だが確かに、忍術学園で馴染みのある誰かの存在が、視界の外に漂っている。
「○○さん。貴女が感じ取った気配は、六年生の潮江文次郎、中在家長次、七松小平太のものだよ」
わたしの小さな反応を読み取ってか、土井先生があっさりと告げられた。
『ど、どうして……その三人が?』
「月夜さん。神崎の海に行ってみたいって、話してくれたじゃないですか? ○○さんが出発してから、潮江先輩、中在家先輩、七松先輩に声を掛けられて……」
何でも、ドクタケ忍者隊の一件を経て、心あらずの様子であったわたしを不審に思い、六年生の子達が水面下の元、わたしの動向を探っていたとの事。
「それで、話をしたら……、神崎の海って、前にぼくと先輩方が、海上パトロールのアルバイトをした所じゃないかって…まぁ、怒られはしたんすけど、教えて貰ったんです」
"怒られた"と、六年生の三人からすれば、余計な一言だと思われる発言が含まれていた。しかし、まさかきり丸くんの過去のアルバイト先が、この神崎の海だったなんて。
『きり丸くんと、六年生の三人が来るなら分かるけど……、どうして、土井先生もご一緒に?』
「ぼくの足じゃ、神崎の海なんて一日がかりでも、無理に決まってるじゃないっすか! だから、土井先生に頼み込んで、一緒に来てもらったんです!」
秋の光が海面に滲み、穏やかな波のリズムが寄せては返す。潮風のなかに混ざる会話と気配。それは、いつの間にか遠ざかっていた日常の匂いだった。
「どうしても、○○さんを追いかけて欲しいと言ってきたのもあるけれど……、私も○○さんの様子が、いつも違うと思っていたからね。きり丸に連れて来られたんじゃなく、私の意思でここに足を運んだんだから」
土井先生の声は、秋の潮風に乗って、やわらかく届く。その響きには、確かな意志があった。
ドクタケ忍者隊の一件から、土井先生ときり丸くんの二人が、共に道を歩める光景を取り戻せたと……、二人の姿に絆されたのか、わたしは口を開けて、ぽつぽつと言葉を零していく。
『わたし、もう忍術学園に居なくても良いんじゃないかと、思っていたんです』
言葉にした途端、胸の奥に沈んでいた何かが、波間に浮かぶように揺れ始める。すぐそばで、きり丸くんがそっと息を飲んだ気配があった。
『ドクタケ忍者隊から、土井先生が忍術学園に帰って来れて、きり丸くんがもう悲しまない様に、笑顔を取り戻せたらって……』
海風が、少し強くなった。砂浜の上を、小さな貝殻が転がる音がした。
『本当はあの日、わたしの命日だったんです』
信じて貰えないとは、思いますが……、台詞に似合わぬ、はにかんだ笑みを浮かべる。少し困った様な、諦めが含まれているのかも。
『でも、命日を迎えてもわたし……生きていました。どうして生きてたのか今でも分からなくて……』
淡々と話しているつもりだった。でも、言葉のひとつひとつが、自分の心を震わせていく。
『けれど、空っぽな心は無くなっていて、不思議なんです。これからどうしようかって思った時に、神崎の海を見ようと思って………』
それがまさか、六年生の子達に水面下で動向を探られ、わたしを心配して追いかけてきたきり丸くんと、巻き込まれたかと思えば、自らの意思で足を運んだという土井先生。自分の起こした行動で、ここまでの新事実が明かされるとは。
話し終えてから、もう一度ふたりの顔を見る。こんな風に、わたしを心配してくれる人が、まだいてくれたんだ。
「それは…、もしかすると、運命に抗えたんじゃないかな?」
海風よりも静かに、けれど深く届く声で、土井先生が言った。
『運命に抗った……?』
「そう。運命は、自然の理に従って流れるけど……人の想いが、それをほんの少しだけ捻じ曲げる事がね、あるんだよ」
淡い陽が雲間からこぼれ、海面に金の帯を落とす。さざ波に、細やかな光がきらめいた。
「○○さんが、私やきり丸を助けたかったという思いが………、現実離れしているとは思うけれど、そんな風に考えても良いんじゃないかな」
海を背にして語る土井先生の言葉は、まるで赦しの様だった。
この世界に来た時から、片時も手放さずにいた“すまあとほん”。それを自らの手で壊し、過去と未来を繋ぐ術を断ったーー。
(その選択が、わたしを留まらせたのかもしれない)
本来の時代に健在している両親に、友達にも別れを告げる事すら出来ず、戦や災害、飢饉の耐えない地獄のような時代を、選んだという訳だ。
『わたし…まだここに居て、いいんですね』
風が、頬を撫でる。どこかこそばゆく、でも確かに優しい空気が包み込んでいた。
昔、学園長先生とヘムヘムに助けられた時に言い放った言葉と、酷似しているなと思う。
「少なくとも、忍術学園の生徒達は皆、○○さんには、まだ居てもらわないと困ると思うけどなぁ」
そう言って、土井先生は浜辺付近に聳える大樹を横目で捉えた。すると、頭頂部に位置する茂みが、不自然に揺れ出す。
「長次! いきなり泣き出して、どうした!」
「おいっ、小平太! 声が大きい!」
「文次郎だって、私の事を言える声の大きさじゃないぞ!」
三人の声が聞こえてくると、きり丸くんは「へっ?」と素っ頓狂な声を上げる。土井先生は、くすっと笑いながら、「まだまだだなぁ」と柔らかく呟いた。
ほんの少しだけ、風が止んだ気がした。耳に届くのは、穏やかな波の音。
(この世界がわたしをーーー、ここに居てもいいんだと、祝福してくれているみたい)
終
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『きり丸くん……、……ど、土井先生!?』
浜辺に佇むわたしの視界に、見慣れた二人の姿が映る。海風を受けて揺れる裾の先、夕日を背にして現れたのは、きり丸くんと土井先生だった。
『えっ? えぇっ??』
きり丸くんは、土井先生と一緒に来たおかげで、この地まで来れたのだろう。けれど、何で土井先生までもが、わざわざ貴重な休日を割いてまで、わたしの元に?
『土井先生、一年は組のテストの採点は、大丈夫なんですか……?』
海風に髪をなびかせながら、わたしが問いかける。
「いやぁ、本当はそっちも取り掛かった方が良いんだけどね……」
「土井先生! 今はそんな事、言ってる場合じゃないっすよ!」
きり丸くんの容赦ない追い打ちに、土井先生が神経性胃腸炎に襲われると、呑気にそんなことを考えてしまう。そんな時にふと、潮の香りに紛れて別のものを微かに感じた。
(……、気配が三つ?)
きり丸くんでも、土井先生でもない。だが確かに、忍術学園で馴染みのある誰かの存在が、視界の外に漂っている。
「○○さん。貴女が感じ取った気配は、六年生の潮江文次郎、中在家長次、七松小平太のものだよ」
わたしの小さな反応を読み取ってか、土井先生があっさりと告げられた。
『ど、どうして……その三人が?』
「月夜さん。神崎の海に行ってみたいって、話してくれたじゃないですか? ○○さんが出発してから、潮江先輩、中在家先輩、七松先輩に声を掛けられて……」
何でも、ドクタケ忍者隊の一件を経て、心あらずの様子であったわたしを不審に思い、六年生の子達が水面下の元、わたしの動向を探っていたとの事。
「それで、話をしたら……、神崎の海って、前にぼくと先輩方が、海上パトロールのアルバイトをした所じゃないかって…まぁ、怒られはしたんすけど、教えて貰ったんです」
"怒られた"と、六年生の三人からすれば、余計な一言だと思われる発言が含まれていた。しかし、まさかきり丸くんの過去のアルバイト先が、この神崎の海だったなんて。
『きり丸くんと、六年生の三人が来るなら分かるけど……、どうして、土井先生もご一緒に?』
「ぼくの足じゃ、神崎の海なんて一日がかりでも、無理に決まってるじゃないっすか! だから、土井先生に頼み込んで、一緒に来てもらったんです!」
秋の光が海面に滲み、穏やかな波のリズムが寄せては返す。潮風のなかに混ざる会話と気配。それは、いつの間にか遠ざかっていた日常の匂いだった。
「どうしても、○○さんを追いかけて欲しいと言ってきたのもあるけれど……、私も○○さんの様子が、いつも違うと思っていたからね。きり丸に連れて来られたんじゃなく、私の意思でここに足を運んだんだから」
土井先生の声は、秋の潮風に乗って、やわらかく届く。その響きには、確かな意志があった。
ドクタケ忍者隊の一件から、土井先生ときり丸くんの二人が、共に道を歩める光景を取り戻せたと……、二人の姿に絆されたのか、わたしは口を開けて、ぽつぽつと言葉を零していく。
『わたし、もう忍術学園に居なくても良いんじゃないかと、思っていたんです』
言葉にした途端、胸の奥に沈んでいた何かが、波間に浮かぶように揺れ始める。すぐそばで、きり丸くんがそっと息を飲んだ気配があった。
『ドクタケ忍者隊から、土井先生が忍術学園に帰って来れて、きり丸くんがもう悲しまない様に、笑顔を取り戻せたらって……』
海風が、少し強くなった。砂浜の上を、小さな貝殻が転がる音がした。
『本当はあの日、わたしの命日だったんです』
信じて貰えないとは、思いますが……、台詞に似合わぬ、はにかんだ笑みを浮かべる。少し困った様な、諦めが含まれているのかも。
『でも、命日を迎えてもわたし……生きていました。どうして生きてたのか今でも分からなくて……』
淡々と話しているつもりだった。でも、言葉のひとつひとつが、自分の心を震わせていく。
『けれど、空っぽな心は無くなっていて、不思議なんです。これからどうしようかって思った時に、神崎の海を見ようと思って………』
それがまさか、六年生の子達に水面下で動向を探られ、わたしを心配して追いかけてきたきり丸くんと、巻き込まれたかと思えば、自らの意思で足を運んだという土井先生。自分の起こした行動で、ここまでの新事実が明かされるとは。
話し終えてから、もう一度ふたりの顔を見る。こんな風に、わたしを心配してくれる人が、まだいてくれたんだ。
「それは…、もしかすると、運命に抗えたんじゃないかな?」
海風よりも静かに、けれど深く届く声で、土井先生が言った。
『運命に抗った……?』
「そう。運命は、自然の理に従って流れるけど……人の想いが、それをほんの少しだけ捻じ曲げる事がね、あるんだよ」
淡い陽が雲間からこぼれ、海面に金の帯を落とす。さざ波に、細やかな光がきらめいた。
「○○さんが、私やきり丸を助けたかったという思いが………、現実離れしているとは思うけれど、そんな風に考えても良いんじゃないかな」
海を背にして語る土井先生の言葉は、まるで赦しの様だった。
この世界に来た時から、片時も手放さずにいた“すまあとほん”。それを自らの手で壊し、過去と未来を繋ぐ術を断ったーー。
(その選択が、わたしを留まらせたのかもしれない)
本来の時代に健在している両親に、友達にも別れを告げる事すら出来ず、戦や災害、飢饉の耐えない地獄のような時代を、選んだという訳だ。
『わたし…まだここに居て、いいんですね』
風が、頬を撫でる。どこかこそばゆく、でも確かに優しい空気が包み込んでいた。
昔、学園長先生とヘムヘムに助けられた時に言い放った言葉と、酷似しているなと思う。
「少なくとも、忍術学園の生徒達は皆、○○さんには、まだ居てもらわないと困ると思うけどなぁ」
そう言って、土井先生は浜辺付近に聳える大樹を横目で捉えた。すると、頭頂部に位置する茂みが、不自然に揺れ出す。
「長次! いきなり泣き出して、どうした!」
「おいっ、小平太! 声が大きい!」
「文次郎だって、私の事を言える声の大きさじゃないぞ!」
三人の声が聞こえてくると、きり丸くんは「へっ?」と素っ頓狂な声を上げる。土井先生は、くすっと笑いながら、「まだまだだなぁ」と柔らかく呟いた。
ほんの少しだけ、風が止んだ気がした。耳に届くのは、穏やかな波の音。
(この世界がわたしをーーー、ここに居てもいいんだと、祝福してくれているみたい)
終
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