元JKの記憶喪失空っぽ夢主は、忍たま達に囲まれて生き延びたい
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自分の命日と思われた日から、いくつかの朝が過ぎた。布団が広げられた長屋の一角、わたしは上体を起こし、まだ冷えの残る床板の感触に足を乗せたまま、ぼんやりと壁に残る古い染みを見つめる。
(わたし、生きている……あの日、死ぬと言われたのに、どうして今も生きているんだろう?)
あの日、“すまあとほん”を介して伝えられたはずの命日。確かにそれが最後のはずだった。けど、今もこうして息をしている。布団の温もりを感じ、朝の冷気に肩をすくめ、目の前の光景を見ている。
(今のわたしに残されたのは、空っぽの"りゅっくさっく"だけ……)
あの“すまあとほん”は、あの夜、光の粒となって砕け、まるで最初から存在していなかったかのように消えてしまった。
机の上に置かれているのは、現代で高校に通っていた時に使用していた、"りゅっくさっく"。わたしが現代で生きていた証として、最後に残された物。
(でも不思議……前みたいな、空っぽな感覚は消えて…、今なら、何でも出来ちゃいそうな気もしてくる)
かつてのような、空っぽで虚ろな感覚はもうない。不思議と、胸の奥にはあたたかな何かが灯っていた。朝露に濡れた落ち葉のように、ひそやかで、確かにそこにある感覚。
(わたしはもう……、忍術学園に在籍する意味は無いのかもしれない)
土井先生は、忍術学園に戻ってきた、きり丸くんも乱太郎くんやしんベヱくんと一緒に居て、笑顔を見せている。自分が果たすべき事は、終わったのに。
(なのに、生きている……)
生きながらえてしまったこの現状に対して、何を糧にこの先も生き続けていけばいいのか、答えは出てこない。
同じく、机に置かれた銭袋を掴むと、じゃらんじゃらんと愉快な音が鳴り、同時に銭の重みも感じられた。
(来たばかりの時は一文無しだった銭も、アルバイトを頑張って、学園長先生に入学金を返済出来て……、今は、溢れんばかりの銭が包み込まれて……)
もしかしたら、忍術学園で学んだ事の本当の意味は、ここから始まるのかもしれない。
何かを守られる為でなく、自分の意志で選んで、歩く道を自ら作っていく事。
(この世界は、どこへ行こうが地獄……自分と同じ境遇な人は居ないと思うけど…、それに似た人達を助けられる場所作りでも、してみようかな……、そうだ……、)
神崎の海ーーー、波の音を聴きながら、もう一度、自分の生まれ直した意味を考えたい。
長屋の戸を開けると、秋の朝の匂いがした。澄んだ空気に、遠くの柿の木の葉が微かに揺れている。その風景の中に、わたしは立っていた。
「○○さーん」
背後から、聞き馴染みのある少年の声が聞こえた。振り向くと、水色の忍消息を身に纏うきり丸くんが、わたしの元へ駆け寄ってくる。
『きり丸くん』
「これ、どうしたんすか?」
きり丸くんの手には、小さな包み。忍術学園の領地内でも評判の、湯気の立つ饅頭がいくつか丁寧に詰められている。
『あぁ…、それ、六年生や五年生、一年は組の子達に先生方、わたしがこの間のドクタケ忍者隊との一件で、学園を留守にしちゃったでしょ? その迷惑料みたいなものかな』
表面上は警備の手薄を招いた謝罪として、自分から各学年の長屋を一つひとつ回って包みを配った、わたしからの迷惑料。
「やっぱり、○○さんって伊作先輩みたいな人っすねぇ」
『違うよ。わたし、善法寺くんみたいに優しくないもの』
口ではそう言いつつも、どこか優しく響く返し。すると、きり丸くんの視線は、わたしの背に注がれた。そこには、以前と変わらぬ“りゅっくさっく”。けれど今は、以前とは違う、確かな重みが宿っている気がした。
「どこか出掛けるんですか?」
『ちょっと、神崎の海を見に行ってくるね』
以前、きり丸には話した事のある小さな願い。風に散る柿の葉の向こう、陽だまりの匂いを帯びた記憶が、ふわりと蘇る。
その瞬間、彼はふいにわたしの袖を掴んだ。柔らかいが、意志のこもった手つき。ほんの少しだけ力を込めて、わたしを引き止める。
「ちゃんと……、帰って来ますよね……?」
その言葉には、曇天を映すような不安が滲んでいた。土井先生が忽然と姿を消したあの日……、目の前のわたしが、忽然と姿を晦ましてしまうのではないかと、きり丸くんの胸を静かに、けれど深く冷やしていた。
『うん』
曖昧な返答だったかもしれない。り丸くんは、しばらくわたしの顔を見つめていたが、やがて自分から手を離した。未練のように、惜しむように、そっと。
すると、少し離れた場所から、乱太郎くんとしんベヱくんが彼を呼ぶ声が聞こえてきた。風に紛れて届く、柔らかな声。
『じゃあ、行ってくるね』
わたしは、きり丸くんに背を向けて歩き出す。正門へと続く道中、色づいた紅葉がさらさらと地を這い、道の端にはすでに冷えた露が光っていた。遠くの山影は、淡く煙っている。秋の空はどこまでも澄んで高く、どこか切なさを帯びていた。
その途中、日向ぼっこをしているヘムヘムの姿が目に入った。小さな木陰に丸くなり、のんびりとした表情でまどろんでいる。
『ヘムヘム、』
木陰で、のんびりと過ごしていたヘムヘムに声を掛けると、わたしの顔を見て、鳴き声を上げた。
『少しの間、学園を留守にするからね』
そう伝えると、ヘムヘムは小さく首を傾げた。まるで、ほんの少し心配するように。神崎の海を見に行くとだけ告げて、わたしはその場を離れていく。
◇
瀬戸内海から京の都に至るまで、船舶の渡船場がいくつも設けられた神崎の港は、商いと人の往来で栄えていた。それだけでなく、遊女や白拍子が集い、鼓や琵琶の音が夜を彩る歓楽地としても、広く知られている。
だが、わたしがこの地に足を運んだ目的は、賑わいに身を投じることではない。宿場町や市井の喧騒を避け、真っ直ぐに浜辺へと向かう。
秋の海は、夏のそれとはまるで違う表情をしていた。海原はどこまでも穏やかで、しかしどこか寂しげ。灰色がかった空と、静かな波の呼吸。水面は鏡のように澄んでいながら、時おり風にさざめいて、その淡い光を砕いていた。
(秋だから、夏とは違って寒いよね……)
足元には、風に打たれて湿った砂。冷たい風が頬を撫で、袖口から体温をさらっていく。空を見上げれば、薄い雲が高く棚引き、渡り鳥が遠くの空を掠めていった。海鳴りはどこか遠慮がちで、打ち寄せる波の音すら、しんとした空気に溶け込んで。
(あと数回、この秋の色を見届ければ、冬が訪れる……、農閑期の前に、土井先生をドクタケ忍者隊から奪還出来て、本当に良かった)
もし、ドクタケ忍者隊の軍師が今も君臨していたら、ドクタケの兵力は増大し、戦による犠牲者も少数では済まされない。そして、軍師が自らの手で人を殺めてしまう未来も考えられたから。
(きり丸くんには、慰めの言葉なんて掛けたら嘘になるって言ったのに……、わたしは、"あの人"には、哀憐なのか分からない言葉を掛けてしまった……)
自分がされたら、きっと嫌な事だと思う筈なのに。けれどあの時、"あの人"はわたしと同じ空っぽな人間なんだと、勝手ながらに親近感を抱いてしまったのだろう。
「○○さんっ!」
その時、わたしの名を呼ぶ声が聞こえた。
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自分の命日と思われた日から、いくつかの朝が過ぎた。布団が広げられた長屋の一角、わたしは上体を起こし、まだ冷えの残る床板の感触に足を乗せたまま、ぼんやりと壁に残る古い染みを見つめる。
(わたし、生きている……あの日、死ぬと言われたのに、どうして今も生きているんだろう?)
あの日、“すまあとほん”を介して伝えられたはずの命日。確かにそれが最後のはずだった。けど、今もこうして息をしている。布団の温もりを感じ、朝の冷気に肩をすくめ、目の前の光景を見ている。
(今のわたしに残されたのは、空っぽの"りゅっくさっく"だけ……)
あの“すまあとほん”は、あの夜、光の粒となって砕け、まるで最初から存在していなかったかのように消えてしまった。
机の上に置かれているのは、現代で高校に通っていた時に使用していた、"りゅっくさっく"。わたしが現代で生きていた証として、最後に残された物。
(でも不思議……前みたいな、空っぽな感覚は消えて…、今なら、何でも出来ちゃいそうな気もしてくる)
かつてのような、空っぽで虚ろな感覚はもうない。不思議と、胸の奥にはあたたかな何かが灯っていた。朝露に濡れた落ち葉のように、ひそやかで、確かにそこにある感覚。
(わたしはもう……、忍術学園に在籍する意味は無いのかもしれない)
土井先生は、忍術学園に戻ってきた、きり丸くんも乱太郎くんやしんベヱくんと一緒に居て、笑顔を見せている。自分が果たすべき事は、終わったのに。
(なのに、生きている……)
生きながらえてしまったこの現状に対して、何を糧にこの先も生き続けていけばいいのか、答えは出てこない。
同じく、机に置かれた銭袋を掴むと、じゃらんじゃらんと愉快な音が鳴り、同時に銭の重みも感じられた。
(来たばかりの時は一文無しだった銭も、アルバイトを頑張って、学園長先生に入学金を返済出来て……、今は、溢れんばかりの銭が包み込まれて……)
もしかしたら、忍術学園で学んだ事の本当の意味は、ここから始まるのかもしれない。
何かを守られる為でなく、自分の意志で選んで、歩く道を自ら作っていく事。
(この世界は、どこへ行こうが地獄……自分と同じ境遇な人は居ないと思うけど…、それに似た人達を助けられる場所作りでも、してみようかな……、そうだ……、)
神崎の海ーーー、波の音を聴きながら、もう一度、自分の生まれ直した意味を考えたい。
長屋の戸を開けると、秋の朝の匂いがした。澄んだ空気に、遠くの柿の木の葉が微かに揺れている。その風景の中に、わたしは立っていた。
「○○さーん」
背後から、聞き馴染みのある少年の声が聞こえた。振り向くと、水色の忍消息を身に纏うきり丸くんが、わたしの元へ駆け寄ってくる。
『きり丸くん』
「これ、どうしたんすか?」
きり丸くんの手には、小さな包み。忍術学園の領地内でも評判の、湯気の立つ饅頭がいくつか丁寧に詰められている。
『あぁ…、それ、六年生や五年生、一年は組の子達に先生方、わたしがこの間のドクタケ忍者隊との一件で、学園を留守にしちゃったでしょ? その迷惑料みたいなものかな』
表面上は警備の手薄を招いた謝罪として、自分から各学年の長屋を一つひとつ回って包みを配った、わたしからの迷惑料。
「やっぱり、○○さんって伊作先輩みたいな人っすねぇ」
『違うよ。わたし、善法寺くんみたいに優しくないもの』
口ではそう言いつつも、どこか優しく響く返し。すると、きり丸くんの視線は、わたしの背に注がれた。そこには、以前と変わらぬ“りゅっくさっく”。けれど今は、以前とは違う、確かな重みが宿っている気がした。
「どこか出掛けるんですか?」
『ちょっと、神崎の海を見に行ってくるね』
以前、きり丸には話した事のある小さな願い。風に散る柿の葉の向こう、陽だまりの匂いを帯びた記憶が、ふわりと蘇る。
その瞬間、彼はふいにわたしの袖を掴んだ。柔らかいが、意志のこもった手つき。ほんの少しだけ力を込めて、わたしを引き止める。
「ちゃんと……、帰って来ますよね……?」
その言葉には、曇天を映すような不安が滲んでいた。土井先生が忽然と姿を消したあの日……、目の前のわたしが、忽然と姿を晦ましてしまうのではないかと、きり丸くんの胸を静かに、けれど深く冷やしていた。
『うん』
曖昧な返答だったかもしれない。り丸くんは、しばらくわたしの顔を見つめていたが、やがて自分から手を離した。未練のように、惜しむように、そっと。
すると、少し離れた場所から、乱太郎くんとしんベヱくんが彼を呼ぶ声が聞こえてきた。風に紛れて届く、柔らかな声。
『じゃあ、行ってくるね』
わたしは、きり丸くんに背を向けて歩き出す。正門へと続く道中、色づいた紅葉がさらさらと地を這い、道の端にはすでに冷えた露が光っていた。遠くの山影は、淡く煙っている。秋の空はどこまでも澄んで高く、どこか切なさを帯びていた。
その途中、日向ぼっこをしているヘムヘムの姿が目に入った。小さな木陰に丸くなり、のんびりとした表情でまどろんでいる。
『ヘムヘム、』
木陰で、のんびりと過ごしていたヘムヘムに声を掛けると、わたしの顔を見て、鳴き声を上げた。
『少しの間、学園を留守にするからね』
そう伝えると、ヘムヘムは小さく首を傾げた。まるで、ほんの少し心配するように。神崎の海を見に行くとだけ告げて、わたしはその場を離れていく。
◇
瀬戸内海から京の都に至るまで、船舶の渡船場がいくつも設けられた神崎の港は、商いと人の往来で栄えていた。それだけでなく、遊女や白拍子が集い、鼓や琵琶の音が夜を彩る歓楽地としても、広く知られている。
だが、わたしがこの地に足を運んだ目的は、賑わいに身を投じることではない。宿場町や市井の喧騒を避け、真っ直ぐに浜辺へと向かう。
秋の海は、夏のそれとはまるで違う表情をしていた。海原はどこまでも穏やかで、しかしどこか寂しげ。灰色がかった空と、静かな波の呼吸。水面は鏡のように澄んでいながら、時おり風にさざめいて、その淡い光を砕いていた。
(秋だから、夏とは違って寒いよね……)
足元には、風に打たれて湿った砂。冷たい風が頬を撫で、袖口から体温をさらっていく。空を見上げれば、薄い雲が高く棚引き、渡り鳥が遠くの空を掠めていった。海鳴りはどこか遠慮がちで、打ち寄せる波の音すら、しんとした空気に溶け込んで。
(あと数回、この秋の色を見届ければ、冬が訪れる……、農閑期の前に、土井先生をドクタケ忍者隊から奪還出来て、本当に良かった)
もし、ドクタケ忍者隊の軍師が今も君臨していたら、ドクタケの兵力は増大し、戦による犠牲者も少数では済まされない。そして、軍師が自らの手で人を殺めてしまう未来も考えられたから。
(きり丸くんには、慰めの言葉なんて掛けたら嘘になるって言ったのに……、わたしは、"あの人"には、哀憐なのか分からない言葉を掛けてしまった……)
自分がされたら、きっと嫌な事だと思う筈なのに。けれどあの時、"あの人"はわたしと同じ空っぽな人間なんだと、勝手ながらに親近感を抱いてしまったのだろう。
「○○さんっ!」
その時、わたしの名を呼ぶ声が聞こえた。
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