短編
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◆ペパマリRPG本編後の🌸とチビヨッシーの話。
◆ペパマリRPG/恋愛(片思い)/
◆本短編の🌸
・マリオ兄弟と知り合い(マリオを「君」呼び)。
・キノコ王国出身。現在は、仕事の関係でウーロン街に住んでいる。
・防御・カウンター系の技が得意。
・
チビヨッシーとゴールド・ホークの試合は、更なる熱狂を生み出していた。観客席からは、どちらも応援する声が上がっており、リング上に皆の視線が集められている_____、
「オレ様と互角の勝負を繰り広げるとは……少しはやる様だな」
「へへっ。チャンピオンから直々に、そう言って貰えると何だか嬉しいな。けど、勝つのはオレだよ」
ゴールド・ホークとチビヨッシーの体には、真新しいかすり傷がいくつも付けられていた。自信満々の様子で、チャンピオンの座を奪い取ろうとするチビヨッシーを見て、ゴールド・ホークの闘志も燃え上がっていく。
「その余裕と生意気さ……、この試合で、粉々に砕いてやろう!」
そう言い放ったゴールド・ホークは羽を広げて、勢いよくジャンプをして天井に張り付いていく。
「天井に逃げたって、オレには通用しないぜ!」
ゴールド・ホークの戦法は以前、マリオとゴールド・ホークとの試合で知っていたチビヨッシーは、長い舌を出していくと___、ゴールド・ホークの足首に巻きついていく。
「ぐうっ……厄介な舌ベラだな……っ」
「このまま、呑み込んで攻撃してやるよ!」
チビヨッシーは、ゴールド・ホークに"のみこみ"攻撃を仕掛けようと、自らの口内に引き寄せていこうと力を込めたが____、ゴールド・ホークは不敵な笑みを見せ、やられっぱなしではなかった。
「なら………、お前のその"のみこみ"攻撃、利用させて貰おうか!」
すると、突然____、チビヨッシーの舌に力が入らなくなる。チビヨッシー本人は負けじとゴールド・ホークを自分の方へと引き寄せようとするも、全く動く気配を見せない。
「何だ……!? 舌が動かねぇ……!」
何故ならば、ゴールド・ホークが足に力を入れて、チビヨッシーの舌の動きを力ずくで止めていたからである。
マリオとの試合後、トレーニングを重ねてパワーアップしたゴールド・ホークは人知れず、更なる力を得ていたのだ。
「うおおおぉぉっ!」
ゴールド・ホークが舌の巻かれた足を上へと上げていくと____、小柄なチビヨッシーの体が浮き始めていく。
「うわああぁ! 体が宙に浮いてるぅ!」
チビヨッシーが声を上げようが、ゴールド・ホークは手を抜く事はない。かかと落としの要領で、天井に向けて上げていた足を振り下ろしていく。
宙に浮いていたチビヨッシーの体にGが掛かると___、勢いよくリング上に叩きつけられた。
「ぐああぁっ!」
腹部にダメージを受けた事で、チビヨッシーの舌の力が弱まる。足首に巻きついていた舌がフラフラとしながら口内に戻っていく様を見てから、ゴールド・ホークはチビヨッシーの元へと飛び降り、容赦なくフライングプレスを仕掛けていく。
「ゔあ゙あぁぁっっ!!」
チビヨッシーの悲鳴が会場内に響き渡り、自分よりも何倍もの身長を誇る相手に痛め付けられ____、🌸は口を開けて、チビヨッシーの安否を心配する。
(ゴールド・ホーク選手のフライングプレスなんて受けたら……いくら、ちび君でも……!)
闘技場の華々しい表の顔と、ドロドロとした裏の顔を理解していた🌸であった。しかし、今はチビヨッシーが痛め付けられ、その事が頭から抜けており、心配する事しか考えられなかったのである。
「どうした、もうくたばるか?」
「ゔぅ゙っ……! 体全体が痛ぇ……っ!」
「安心しろ。死なない程度には、オレ様も加減している」
歴の長いゴールド・ホークは、いかに観客や自分のファンを楽しませるかを理解していた。かつては卑劣な手段を使用し、悪事に手を染めていた事もあるが、相手選手が仮死状態に陥るまでに至らせた事は一度もない。
「ぐぞっ゙……っ゙、こんな所で……倒れちゃダメなんだ………」
うつ伏せになっていたチビヨッシーは、フラフラとしながら膝を付いた状態に起き上がる。自分を見下ろしているゴールド・ホークを睨みつけ、次の攻撃を考えていた。
(ヒップドロップは、準備までに隙が出来て避けられる……のみこみも、舌を掴まれたら引っ張られて、叩きつけられる………、タマゴを投げても、軌道を読まれてあっさり避けられる………、………くそっ、さすがチャンピオンだな。オレの攻撃、全部お見通しって訳かよ)
これまでの試合運びは、観客達から見れば互角の勝負であった。しかし実際は、チビヨッシーが優勢な時はありつつも、ゴールド・ホークが一枚上手であるのは、チビヨッシーは嫌でも理解していた。
もう打つ手はないのか_____、そう思った時だった。
『頑張れ! グレート・ゴンザレス・ジュニア!』
観客席から、声が聞こえた。普通なら、他の観客の声に掻き消される筈が___、チビヨッシーの耳に、はっきりと届いていたのである。
(そうだ……、オレは、🌸に告白の返事を聞くんだ……勝って、チャンピオンベルトを持って帰るんだ………、返事が良くても悪くても……、………オレは……! オレは………!!)
🌸の言葉で、自分を奮い立たせるチビヨッシーは____、密かに練習していた"とある技"の存在を思い出した。
声を上げながら、立ち上がったチビヨッシーの姿を見て、観客席からワアアァァ……、と、歓声が上がった。
「チャンピオン! アンタに……オレのとっておきの最強技を見せてやるよ!」
ゴールド・ホークに向けて指を指したチビヨッシーは、自ら口元に指を近づけていくと、口笛を吹いていく。
「あつまれ、ヨッシー達!」
その言葉がリング上に響くと____、チビヨッシーの背後に、時空間の穴が出来上がる。穴の向こうから、ダダダッ……、と、何かが走ってくる音が聞こえると、みどりヨッシーの大群が現れた。
「わーい!」
「ボク達の出番だー!」
闘技場の雰囲気に似合わぬ、無邪気な笑顔を浮かべながら、みどりヨッシー達はゴールド・ホークの元へ走り出していく。
「な、何だ!?」
チビヨッシーの新必殺技を披露され、みどりヨッシーが現れた事に驚きを隠せないゴールド・ホークだったが、みどりヨッシー達はお構い無しにゴールド・ホークに突進していく。
「ちび、頑張ってねー!」
「告白の返事、ボク達にも聞かせてねー!」
最後に、数匹のみどりヨッシー達から激励の言葉が送られると、みどりヨッシーの大群はどこかへと消えていく。
「後は、オレの"のみこみ"で……、アンタを呑み込んでやる……!」
みどりヨッシーの大群から攻撃を受け、ゴールド・ホークは膝を着いた状態になり、隙が出来ていた。
チビヨッシーが"のみこみ"攻撃のリベンジをしようと、長い舌をゴールド・ホークに向けて、伸ばしていた時だった_____、
(あれ……っ?! 何か目の前が、ぐにゃぐにゃして……!)
目の前で膝を着いているゴールド・ホークが二重に、三重へと分身したとチビヨッシーには見えていた。次第にチカチカと視界が眩んでいくと____、チビヨッシーの体は、前から倒れていく。
・
「グレート・ゴンザレス・ジュニア選手……、随分と無理をしていたんです」
医務室で、医師のキノピオと向き合った🌸は、スヤスヤと寝息を立てているチビヨッシーを見てから、下唇をかんだ。
「ここ最近、毎日の様にチャレンジマッチに挑んでいた様で……それも他の選手達の倍以上のスピードで順位も上がっていましたから。いくら子供で、元気が有り余っていても……体がついていけるとは限りませんからね」
本日のタイトルマッチは____、チビヨッシーの気絶とゴールド・ホークの満身創痍により、引き分けという結果で幕を下ろした。
試合後にチビヨッシーは応急班によって、医務室へと運ばれた。観客席からその光景を見て、青ざめた🌸は会場を後にして、必死の形相で医務室へと向かったのである。
『先生、ごめんなさい……わたしのせいなんです。ちび君をここまで無理させたのは、わたしの責任です』
現チャンピオンのゴールド・ホークとの防衛戦に挑めるまで、告白の返事はしないと伝えた話であったが、自らの言葉でチビヨッシーを苦しませる結末となった。申し訳なさでいっぱいになり、医師に向けて深々と頭を下げた。
「🌸さん……、さっきの試合、私もモニター越しに観戦していましたよ。子供ながらに、素晴らしい愛の告白をされていましたね」
先程の公開告白について触れられた事は、今の🌸にとって予想外であった。それには思わず、伏せていた顔を勢いよく上げて、医師の顔を見た。
「この子は、医務室に来て怪我の処置を受ける度に、何度も私に話をしてくれたんですよ。"ゴンザレスの様なチャンピオンにもなりたいけど、好きな人を振り向かせたい"、"フラレようが、絶対に告白の返事を貰うんだ"……と、リング上では絶対に見る事のない、照れた表情を浮かべながら」
チビヨッシーの話をしていた医師の目は、とても穏やかで孫を見守るような…、と、🌸は感じ取った。
「まずは、この子をしっかり休ませて……保護者の貴方が傍にいてあげて下さい。エントランスは人で溢れ返っていますし……裏口からこっそりと帰って頂ければ、誰にも見つかりませんから」
ガードマンの警備を受けながら、インタビュアーの質問に応じていたゴールド・ホークの姿を見てから、🌸は眠っているチビヨッシーを連れて、裏口から闘技場を出ていく。
チビヨッシーから公開告白を受けた🌸であったが、顔を知っているのはキノシコワ、ゴールド・ホークを初めとした一部・二部リーグの選手達、ミスター・チンミだけであり、一般客に絡まれる事もなく、自宅に到着した。
(ちび君、ごめんね……わたしが防衛戦まで行けたら、返事するなんて言ったから……、無理してまで、チャレンジマッチに挑んで……ゴールド・ホーク選手との試合で、あんな事に………本当にごめんね……っ)
枕元に頭を乗せ、チビヨッシーの体に布団を掛けていくと、🌸は自責の念に駆られていた。絆創膏が貼られたチビヨッシーの頬に触れると___、チビヨッシーの隣で横になった🌸の目から、涙が零れていく。
(こんな思いして泣きたいのは、ちび君の方なのに……見たくないって言ってた泣き虫でごめんね。でも、わたし……ちび君の事が心配だったんだよ。リングの上で戦ってるちび君が、凄くカッコよく見えて……、だから、傷が増えて悲鳴を上げる度に、胸がチクチク傷んで………いっその事、ちび君がわたしの事を嫌いになってくれたら…………)
心の中に閉まっていた思いが一気に溢れてくると、チビヨッシーを優しく抱き締めた🌸の涙腺が決壊し、ボロボロと大粒の涙が枕元を濡らしていく。
・
翌朝____、目を覚ましたチビヨッシーは、自分を抱き締めて眠る🌸の顔が真横にあった事に驚き、一気に目が覚めていく。
(オレ、あの試合からどうなって……結果がどうなったのかも全く知らないし、それに……、…………?)
ふと、枕に小さな染みが出来ていたのをチビヨッシーが発見した。既に時間が経って薄くなっていたものの、チビヨッシーは染みの正体が何かをすぐに暴いた。
(🌸………なんで、また泣いてんだよ……、………そっか、オレがフラフラになって、倒れたから………)
チビヨッシーが、🌸の顔に手を伸ばそうとした時_____、🌸は呻き声を上げてから、ゆっくりと目を開けていく。
『あっ……ちび君……、………』
「ごめんな、🌸。オレが倒れたせいで_____、」
起きたばかりの🌸は、チビヨッシーから「ごめんな」と言われた事で、その先の言葉が耳に入らなくなり、心臓がドクンッ…、と、大きく音を立てた。
『あっ……、い、いいの。わたしが防衛戦に行けたら、返事するなんてバカみたいな事を言って、ちび君に無理させたから……、わたしの事は、許さなくていいから。キノシコワさんに、下宿先に行きたいって言ってくれていいから。もう、わたしの前に現れなくてもいいか____、』
🌸がそこまで言いかけた時____、チビヨッシーの顔が近づくと、唇を塞がれた。
ちゅ…ちゅぅ…、と、不慣れながらも必死に🌸の唇に触れようとするチビヨッシーの両頬には、濃い赤みが出来上がっていた。ぷはっ…、と、唇が離れていくと、赤面しているチビヨッシーが🌸の顔を見た。
「オレの気持ち、無視すんなよ。許すとか許さないとか、そんなの思ってなんかない。🌸の前から居なくなりたいとか、オレはそんなの微塵も思ってなんかない。それに……まだ告白の返事、聞けてねぇ」
チビヨッシーはジト目になると、勝手に話を悪い方向へと進める🌸への小さな怒りを向けて、頬を膨らませていく。
『な……、なんでまだ……わたしの事………』
「世界で一番愛してる女……試合前にアピールしたの、忘れてる訳ないよな? ちょっと前にオレのファンって言ってくれたねーちゃんとかに、"好きだ"って告白されたけど、全部断った。だって、オレの傍にずっと居たんだから」
オレが好きだ、愛してるって自信を持って言える女がさ_____、と、そう言ってから、チビヨッシーは笑顔を見せた。
『……、……わたしで良いの?』
「🌸が良いんだよ。🌸にしか、こんなにドキドキしたり、ほっぺが赤くなったりしないんだからさ」
『………、………泣き虫でもいいの?』
「🌸の泣き虫は直らないだろ? それでも良いぜ。🌸を泣かせる奴なんか居たら、オレが丸呑みして懲らしめてやるよ」
『……、………昨日のちび君、とってもカッコよかったよ。わたし、あんまりちび君の試合は観れてなかったから、やっぱり観に行って良かった』
「な、何だよ急に?」
涙が収まると、微笑みを浮かべていた🌸に褒められると、チビヨッシーは赤面しながらも、分かりやすく驚いた表情を見せた。
『わたしの事、好き……?』
「何度も言わせるなよ。オレは🌸の事、好きだよ。好きが止まらなくて、胸が苦しくなるぐらいに」
『……ふふっ、ちび君にいっぱい好きって言って貰えて、幸せでいっぱい』
「……っ! そ、そういう笑ってる顔も……好き」
『そっか………、ねぇ、わたしも告白の返事してもいい?』
ビクッと体全体を震わせたチビヨッシーを他所に_____、🌸は、チビヨッシーの頬にソッと口付けをした。
自分の頬に🌸がキスをしたという事実に、時間を経ってからチビヨッシーは理解し、顔全体が茜色に染まっていく。
『わたし……、好きだなって思う人にしか、こういうのはしないからね?』
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◆ペパマリRPG本編後の🌸とチビヨッシーの話。
◆ペパマリRPG/恋愛(片思い)/
◆本短編の🌸
・マリオ兄弟と知り合い(マリオを「君」呼び)。
・キノコ王国出身。現在は、仕事の関係でウーロン街に住んでいる。
・防御・カウンター系の技が得意。
・
チビヨッシーとゴールド・ホークの試合は、更なる熱狂を生み出していた。観客席からは、どちらも応援する声が上がっており、リング上に皆の視線が集められている_____、
「オレ様と互角の勝負を繰り広げるとは……少しはやる様だな」
「へへっ。チャンピオンから直々に、そう言って貰えると何だか嬉しいな。けど、勝つのはオレだよ」
ゴールド・ホークとチビヨッシーの体には、真新しいかすり傷がいくつも付けられていた。自信満々の様子で、チャンピオンの座を奪い取ろうとするチビヨッシーを見て、ゴールド・ホークの闘志も燃え上がっていく。
「その余裕と生意気さ……、この試合で、粉々に砕いてやろう!」
そう言い放ったゴールド・ホークは羽を広げて、勢いよくジャンプをして天井に張り付いていく。
「天井に逃げたって、オレには通用しないぜ!」
ゴールド・ホークの戦法は以前、マリオとゴールド・ホークとの試合で知っていたチビヨッシーは、長い舌を出していくと___、ゴールド・ホークの足首に巻きついていく。
「ぐうっ……厄介な舌ベラだな……っ」
「このまま、呑み込んで攻撃してやるよ!」
チビヨッシーは、ゴールド・ホークに"のみこみ"攻撃を仕掛けようと、自らの口内に引き寄せていこうと力を込めたが____、ゴールド・ホークは不敵な笑みを見せ、やられっぱなしではなかった。
「なら………、お前のその"のみこみ"攻撃、利用させて貰おうか!」
すると、突然____、チビヨッシーの舌に力が入らなくなる。チビヨッシー本人は負けじとゴールド・ホークを自分の方へと引き寄せようとするも、全く動く気配を見せない。
「何だ……!? 舌が動かねぇ……!」
何故ならば、ゴールド・ホークが足に力を入れて、チビヨッシーの舌の動きを力ずくで止めていたからである。
マリオとの試合後、トレーニングを重ねてパワーアップしたゴールド・ホークは人知れず、更なる力を得ていたのだ。
「うおおおぉぉっ!」
ゴールド・ホークが舌の巻かれた足を上へと上げていくと____、小柄なチビヨッシーの体が浮き始めていく。
「うわああぁ! 体が宙に浮いてるぅ!」
チビヨッシーが声を上げようが、ゴールド・ホークは手を抜く事はない。かかと落としの要領で、天井に向けて上げていた足を振り下ろしていく。
宙に浮いていたチビヨッシーの体にGが掛かると___、勢いよくリング上に叩きつけられた。
「ぐああぁっ!」
腹部にダメージを受けた事で、チビヨッシーの舌の力が弱まる。足首に巻きついていた舌がフラフラとしながら口内に戻っていく様を見てから、ゴールド・ホークはチビヨッシーの元へと飛び降り、容赦なくフライングプレスを仕掛けていく。
「ゔあ゙あぁぁっっ!!」
チビヨッシーの悲鳴が会場内に響き渡り、自分よりも何倍もの身長を誇る相手に痛め付けられ____、🌸は口を開けて、チビヨッシーの安否を心配する。
(ゴールド・ホーク選手のフライングプレスなんて受けたら……いくら、ちび君でも……!)
闘技場の華々しい表の顔と、ドロドロとした裏の顔を理解していた🌸であった。しかし、今はチビヨッシーが痛め付けられ、その事が頭から抜けており、心配する事しか考えられなかったのである。
「どうした、もうくたばるか?」
「ゔぅ゙っ……! 体全体が痛ぇ……っ!」
「安心しろ。死なない程度には、オレ様も加減している」
歴の長いゴールド・ホークは、いかに観客や自分のファンを楽しませるかを理解していた。かつては卑劣な手段を使用し、悪事に手を染めていた事もあるが、相手選手が仮死状態に陥るまでに至らせた事は一度もない。
「ぐぞっ゙……っ゙、こんな所で……倒れちゃダメなんだ………」
うつ伏せになっていたチビヨッシーは、フラフラとしながら膝を付いた状態に起き上がる。自分を見下ろしているゴールド・ホークを睨みつけ、次の攻撃を考えていた。
(ヒップドロップは、準備までに隙が出来て避けられる……のみこみも、舌を掴まれたら引っ張られて、叩きつけられる………、タマゴを投げても、軌道を読まれてあっさり避けられる………、………くそっ、さすがチャンピオンだな。オレの攻撃、全部お見通しって訳かよ)
これまでの試合運びは、観客達から見れば互角の勝負であった。しかし実際は、チビヨッシーが優勢な時はありつつも、ゴールド・ホークが一枚上手であるのは、チビヨッシーは嫌でも理解していた。
もう打つ手はないのか_____、そう思った時だった。
『頑張れ! グレート・ゴンザレス・ジュニア!』
観客席から、声が聞こえた。普通なら、他の観客の声に掻き消される筈が___、チビヨッシーの耳に、はっきりと届いていたのである。
(そうだ……、オレは、🌸に告白の返事を聞くんだ……勝って、チャンピオンベルトを持って帰るんだ………、返事が良くても悪くても……、………オレは……! オレは………!!)
🌸の言葉で、自分を奮い立たせるチビヨッシーは____、密かに練習していた"とある技"の存在を思い出した。
声を上げながら、立ち上がったチビヨッシーの姿を見て、観客席からワアアァァ……、と、歓声が上がった。
「チャンピオン! アンタに……オレのとっておきの最強技を見せてやるよ!」
ゴールド・ホークに向けて指を指したチビヨッシーは、自ら口元に指を近づけていくと、口笛を吹いていく。
「あつまれ、ヨッシー達!」
その言葉がリング上に響くと____、チビヨッシーの背後に、時空間の穴が出来上がる。穴の向こうから、ダダダッ……、と、何かが走ってくる音が聞こえると、みどりヨッシーの大群が現れた。
「わーい!」
「ボク達の出番だー!」
闘技場の雰囲気に似合わぬ、無邪気な笑顔を浮かべながら、みどりヨッシー達はゴールド・ホークの元へ走り出していく。
「な、何だ!?」
チビヨッシーの新必殺技を披露され、みどりヨッシーが現れた事に驚きを隠せないゴールド・ホークだったが、みどりヨッシー達はお構い無しにゴールド・ホークに突進していく。
「ちび、頑張ってねー!」
「告白の返事、ボク達にも聞かせてねー!」
最後に、数匹のみどりヨッシー達から激励の言葉が送られると、みどりヨッシーの大群はどこかへと消えていく。
「後は、オレの"のみこみ"で……、アンタを呑み込んでやる……!」
みどりヨッシーの大群から攻撃を受け、ゴールド・ホークは膝を着いた状態になり、隙が出来ていた。
チビヨッシーが"のみこみ"攻撃のリベンジをしようと、長い舌をゴールド・ホークに向けて、伸ばしていた時だった_____、
(あれ……っ?! 何か目の前が、ぐにゃぐにゃして……!)
目の前で膝を着いているゴールド・ホークが二重に、三重へと分身したとチビヨッシーには見えていた。次第にチカチカと視界が眩んでいくと____、チビヨッシーの体は、前から倒れていく。
・
「グレート・ゴンザレス・ジュニア選手……、随分と無理をしていたんです」
医務室で、医師のキノピオと向き合った🌸は、スヤスヤと寝息を立てているチビヨッシーを見てから、下唇をかんだ。
「ここ最近、毎日の様にチャレンジマッチに挑んでいた様で……それも他の選手達の倍以上のスピードで順位も上がっていましたから。いくら子供で、元気が有り余っていても……体がついていけるとは限りませんからね」
本日のタイトルマッチは____、チビヨッシーの気絶とゴールド・ホークの満身創痍により、引き分けという結果で幕を下ろした。
試合後にチビヨッシーは応急班によって、医務室へと運ばれた。観客席からその光景を見て、青ざめた🌸は会場を後にして、必死の形相で医務室へと向かったのである。
『先生、ごめんなさい……わたしのせいなんです。ちび君をここまで無理させたのは、わたしの責任です』
現チャンピオンのゴールド・ホークとの防衛戦に挑めるまで、告白の返事はしないと伝えた話であったが、自らの言葉でチビヨッシーを苦しませる結末となった。申し訳なさでいっぱいになり、医師に向けて深々と頭を下げた。
「🌸さん……、さっきの試合、私もモニター越しに観戦していましたよ。子供ながらに、素晴らしい愛の告白をされていましたね」
先程の公開告白について触れられた事は、今の🌸にとって予想外であった。それには思わず、伏せていた顔を勢いよく上げて、医師の顔を見た。
「この子は、医務室に来て怪我の処置を受ける度に、何度も私に話をしてくれたんですよ。"ゴンザレスの様なチャンピオンにもなりたいけど、好きな人を振り向かせたい"、"フラレようが、絶対に告白の返事を貰うんだ"……と、リング上では絶対に見る事のない、照れた表情を浮かべながら」
チビヨッシーの話をしていた医師の目は、とても穏やかで孫を見守るような…、と、🌸は感じ取った。
「まずは、この子をしっかり休ませて……保護者の貴方が傍にいてあげて下さい。エントランスは人で溢れ返っていますし……裏口からこっそりと帰って頂ければ、誰にも見つかりませんから」
ガードマンの警備を受けながら、インタビュアーの質問に応じていたゴールド・ホークの姿を見てから、🌸は眠っているチビヨッシーを連れて、裏口から闘技場を出ていく。
チビヨッシーから公開告白を受けた🌸であったが、顔を知っているのはキノシコワ、ゴールド・ホークを初めとした一部・二部リーグの選手達、ミスター・チンミだけであり、一般客に絡まれる事もなく、自宅に到着した。
(ちび君、ごめんね……わたしが防衛戦まで行けたら、返事するなんて言ったから……、無理してまで、チャレンジマッチに挑んで……ゴールド・ホーク選手との試合で、あんな事に………本当にごめんね……っ)
枕元に頭を乗せ、チビヨッシーの体に布団を掛けていくと、🌸は自責の念に駆られていた。絆創膏が貼られたチビヨッシーの頬に触れると___、チビヨッシーの隣で横になった🌸の目から、涙が零れていく。
(こんな思いして泣きたいのは、ちび君の方なのに……見たくないって言ってた泣き虫でごめんね。でも、わたし……ちび君の事が心配だったんだよ。リングの上で戦ってるちび君が、凄くカッコよく見えて……、だから、傷が増えて悲鳴を上げる度に、胸がチクチク傷んで………いっその事、ちび君がわたしの事を嫌いになってくれたら…………)
心の中に閉まっていた思いが一気に溢れてくると、チビヨッシーを優しく抱き締めた🌸の涙腺が決壊し、ボロボロと大粒の涙が枕元を濡らしていく。
・
翌朝____、目を覚ましたチビヨッシーは、自分を抱き締めて眠る🌸の顔が真横にあった事に驚き、一気に目が覚めていく。
(オレ、あの試合からどうなって……結果がどうなったのかも全く知らないし、それに……、…………?)
ふと、枕に小さな染みが出来ていたのをチビヨッシーが発見した。既に時間が経って薄くなっていたものの、チビヨッシーは染みの正体が何かをすぐに暴いた。
(🌸………なんで、また泣いてんだよ……、………そっか、オレがフラフラになって、倒れたから………)
チビヨッシーが、🌸の顔に手を伸ばそうとした時_____、🌸は呻き声を上げてから、ゆっくりと目を開けていく。
『あっ……ちび君……、………』
「ごめんな、🌸。オレが倒れたせいで_____、」
起きたばかりの🌸は、チビヨッシーから「ごめんな」と言われた事で、その先の言葉が耳に入らなくなり、心臓がドクンッ…、と、大きく音を立てた。
『あっ……、い、いいの。わたしが防衛戦に行けたら、返事するなんてバカみたいな事を言って、ちび君に無理させたから……、わたしの事は、許さなくていいから。キノシコワさんに、下宿先に行きたいって言ってくれていいから。もう、わたしの前に現れなくてもいいか____、』
🌸がそこまで言いかけた時____、チビヨッシーの顔が近づくと、唇を塞がれた。
ちゅ…ちゅぅ…、と、不慣れながらも必死に🌸の唇に触れようとするチビヨッシーの両頬には、濃い赤みが出来上がっていた。ぷはっ…、と、唇が離れていくと、赤面しているチビヨッシーが🌸の顔を見た。
「オレの気持ち、無視すんなよ。許すとか許さないとか、そんなの思ってなんかない。🌸の前から居なくなりたいとか、オレはそんなの微塵も思ってなんかない。それに……まだ告白の返事、聞けてねぇ」
チビヨッシーはジト目になると、勝手に話を悪い方向へと進める🌸への小さな怒りを向けて、頬を膨らませていく。
『な……、なんでまだ……わたしの事………』
「世界で一番愛してる女……試合前にアピールしたの、忘れてる訳ないよな? ちょっと前にオレのファンって言ってくれたねーちゃんとかに、"好きだ"って告白されたけど、全部断った。だって、オレの傍にずっと居たんだから」
オレが好きだ、愛してるって自信を持って言える女がさ_____、と、そう言ってから、チビヨッシーは笑顔を見せた。
『……、……わたしで良いの?』
「🌸が良いんだよ。🌸にしか、こんなにドキドキしたり、ほっぺが赤くなったりしないんだからさ」
『………、………泣き虫でもいいの?』
「🌸の泣き虫は直らないだろ? それでも良いぜ。🌸を泣かせる奴なんか居たら、オレが丸呑みして懲らしめてやるよ」
『……、………昨日のちび君、とってもカッコよかったよ。わたし、あんまりちび君の試合は観れてなかったから、やっぱり観に行って良かった』
「な、何だよ急に?」
涙が収まると、微笑みを浮かべていた🌸に褒められると、チビヨッシーは赤面しながらも、分かりやすく驚いた表情を見せた。
『わたしの事、好き……?』
「何度も言わせるなよ。オレは🌸の事、好きだよ。好きが止まらなくて、胸が苦しくなるぐらいに」
『……ふふっ、ちび君にいっぱい好きって言って貰えて、幸せでいっぱい』
「……っ! そ、そういう笑ってる顔も……好き」
『そっか………、ねぇ、わたしも告白の返事してもいい?』
ビクッと体全体を震わせたチビヨッシーを他所に_____、🌸は、チビヨッシーの頬にソッと口付けをした。
自分の頬に🌸がキスをしたという事実に、時間を経ってからチビヨッシーは理解し、顔全体が茜色に染まっていく。
『わたし……、好きだなって思う人にしか、こういうのはしないからね?』
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