チョコミント味【いずはる】
甘いものが大好きだった恋人は、気温が上がってくるとアイスのショーケースを吟味して吟味して――これだという一品を選んで満足そうな顔をしていた。
蒸し暑い日和には氷菓だったり、涼やかな色みのものがほとんどで……。
コンビニエンスストアの冷凍オープンケースに、ミントグリーンのパッケージがいくつか並んでいるのが和泉の目についた。
チョコミント味――その味わいには賛否両論あるも、口のなかがさっぱりして、ミントのもたらす清涼感が特に蒸し暑い日には心地好くて。
秋斗が食べていたのを横から一口、二口と拝借することも少なくなかった。
六月、梅雨の中休み。蒸し暑い午後の外回り。持参していたペットボトルの水だけでは体内から熱が上手く出て行かないので、コンビニエンスストアで涼を取りつつ冷凍オープンケースの中も見ていたのだが。
(……春田さんはチョコミント、平気なんだろうか)
アイスやスイーツの並ぶオープンケースがある店内の端の方、その反対側。ペットボトルや缶のドリンクが冷やされている冷蔵ケースの前で、一緒に外回りをしている春田もどの飲み物にするか悩んでいるようだった。
見ている分には麦茶かスポーツドリンクか炭酸系で迷っている。さっぱりした飲み口で暑さをどうにかしたいのがわかりやすい――多分、この蒸し暑さの下にいる人間の大半が思っていることだろう。
和泉はオープンケースの中から、同じパッケージのアイスをふたつ手に取った。秋斗もよく買っていた、チョコミント味のかき氷バーだ。
会計を済ませて、まだドリンクのケースの前で悩んでいる春田の背後へと近づいた。
「春田さん、よかったらアイス食べませんか」
会計済みのテープが貼られたひとつを春田の頬に当てると、春田は勢いよく振り向いた。
「あっ、和泉さっ……チョコミント?」
「はい」
手渡したアイスのパッケージに春田はじっと見入る。もしかして、あまり好きではないのかもしれない。
チョコミント味が苦手な人は「歯みがき粉の味」と評したりする。味が苦手ではなかった秋斗も「歯みがき粉感すげえ」と言っていたアイスもあったような……。
「えー、このアイスってチョコミント味あったんだ……。おれ、いっつもソーダ味ばっか食ってるから目につかなかったな」
パッケージの色こそ違うが、おなじみのキャラクターのイラストが入っている。有名なのは通年出ているソーダ味。このミントグリーンではなく、青い袋だ。たまに季節のフルーツ味や、これをどうやってアイスにしたのかと謎しかない味のものも……秋斗が謎めいた味のアイスを食べて微妙な顔をしていたのが思い出された。
「チョコミント、口のなかがさっぱりしていいですよ。チョコも入っているので甘みもあります」
「そーなんすね……。じゃ、いただきます!」
春田はペットボトルの麦茶を二本買って、一本をアイス代と言って差し出してきた。
涼しい店内からまた蒸し暑い外へ。軒先を借り、冷え冷えのミントグリーン色にかぶりつく。
ミント味のシャーベットの内側にチョコミント味のかき氷が潜んでいる。昼間の生ぬるい空気も、かき氷のシャリシャリした噛み応えとミントの風味がさわやかな空気に換えて、鼻と口を抜けていく。
「和泉さん、チョコミントもうまいっすね!」
ちょっと歯みがき粉っぽいけど。そう言いつつも、春田はアイスを食べるのを途中で止めなかった。
そのくちびるに溶けたアイスがまとわりつく様にドキドキしながら、和泉も溶けそうになっている最後のひとくち分を食べきった。
これで少しくらいは体内を回る熱も冷めるだろうか。まだ本番も来ていない長い夏、アイスの出番はそこそこ増えそうな気がする。はあっ、と吐き出す息にも涼やかさとさわやかさが含まれた。
「ね、和泉さん」
横にいる春田が、ワイシャツのまくった袖を引っ張ってきた。
「今キスしたら、ミントの味するかな」
「っ……!」
袖を引く仕種のあざとさに、いろいろ上乗せしてくれるな。せっかく下がった体温が一気に上がってしまう。
「そっ、そういうのは、仕事の後で……」
ごにょごにょぼかしながら、カッと熱くなった耳たぶを触る指先は少しだけ冷たい。その無邪気で甘い目つきを止めてくれ。血が沸騰するから!
ざわつく心臓に触れてくるプライベートなまなざし。チョコミント味につやめくくちびるの味を想像するだけで理性がダメになりそうだ。
「……和泉さん、かーわいい。じゃ、また帰りにアイス買お?」
思わせぶりでいて、ストレート。それって確実に夜のお誘いではないか。キスだけでは終われないだろう。
汗の引いた手の甲と、春田の手の甲とがぶつかる。口をゆすぐべく、和泉は春田からもらった麦茶を飲んだ。
この長い夏に汗を交じり合わせる機会も少なくはないはず。キャップを閉めないままの麦茶のボトルを、春田が横からさらっていくように。
「……春田さんの分、ありますよね」
「元はおれが出したんで。アイスごちそうさまでした」
返されたボトルの飲み口から、ほんのりミントが香った。
蒸し暑い日和には氷菓だったり、涼やかな色みのものがほとんどで……。
コンビニエンスストアの冷凍オープンケースに、ミントグリーンのパッケージがいくつか並んでいるのが和泉の目についた。
チョコミント味――その味わいには賛否両論あるも、口のなかがさっぱりして、ミントのもたらす清涼感が特に蒸し暑い日には心地好くて。
秋斗が食べていたのを横から一口、二口と拝借することも少なくなかった。
六月、梅雨の中休み。蒸し暑い午後の外回り。持参していたペットボトルの水だけでは体内から熱が上手く出て行かないので、コンビニエンスストアで涼を取りつつ冷凍オープンケースの中も見ていたのだが。
(……春田さんはチョコミント、平気なんだろうか)
アイスやスイーツの並ぶオープンケースがある店内の端の方、その反対側。ペットボトルや缶のドリンクが冷やされている冷蔵ケースの前で、一緒に外回りをしている春田もどの飲み物にするか悩んでいるようだった。
見ている分には麦茶かスポーツドリンクか炭酸系で迷っている。さっぱりした飲み口で暑さをどうにかしたいのがわかりやすい――多分、この蒸し暑さの下にいる人間の大半が思っていることだろう。
和泉はオープンケースの中から、同じパッケージのアイスをふたつ手に取った。秋斗もよく買っていた、チョコミント味のかき氷バーだ。
会計を済ませて、まだドリンクのケースの前で悩んでいる春田の背後へと近づいた。
「春田さん、よかったらアイス食べませんか」
会計済みのテープが貼られたひとつを春田の頬に当てると、春田は勢いよく振り向いた。
「あっ、和泉さっ……チョコミント?」
「はい」
手渡したアイスのパッケージに春田はじっと見入る。もしかして、あまり好きではないのかもしれない。
チョコミント味が苦手な人は「歯みがき粉の味」と評したりする。味が苦手ではなかった秋斗も「歯みがき粉感すげえ」と言っていたアイスもあったような……。
「えー、このアイスってチョコミント味あったんだ……。おれ、いっつもソーダ味ばっか食ってるから目につかなかったな」
パッケージの色こそ違うが、おなじみのキャラクターのイラストが入っている。有名なのは通年出ているソーダ味。このミントグリーンではなく、青い袋だ。たまに季節のフルーツ味や、これをどうやってアイスにしたのかと謎しかない味のものも……秋斗が謎めいた味のアイスを食べて微妙な顔をしていたのが思い出された。
「チョコミント、口のなかがさっぱりしていいですよ。チョコも入っているので甘みもあります」
「そーなんすね……。じゃ、いただきます!」
春田はペットボトルの麦茶を二本買って、一本をアイス代と言って差し出してきた。
涼しい店内からまた蒸し暑い外へ。軒先を借り、冷え冷えのミントグリーン色にかぶりつく。
ミント味のシャーベットの内側にチョコミント味のかき氷が潜んでいる。昼間の生ぬるい空気も、かき氷のシャリシャリした噛み応えとミントの風味がさわやかな空気に換えて、鼻と口を抜けていく。
「和泉さん、チョコミントもうまいっすね!」
ちょっと歯みがき粉っぽいけど。そう言いつつも、春田はアイスを食べるのを途中で止めなかった。
そのくちびるに溶けたアイスがまとわりつく様にドキドキしながら、和泉も溶けそうになっている最後のひとくち分を食べきった。
これで少しくらいは体内を回る熱も冷めるだろうか。まだ本番も来ていない長い夏、アイスの出番はそこそこ増えそうな気がする。はあっ、と吐き出す息にも涼やかさとさわやかさが含まれた。
「ね、和泉さん」
横にいる春田が、ワイシャツのまくった袖を引っ張ってきた。
「今キスしたら、ミントの味するかな」
「っ……!」
袖を引く仕種のあざとさに、いろいろ上乗せしてくれるな。せっかく下がった体温が一気に上がってしまう。
「そっ、そういうのは、仕事の後で……」
ごにょごにょぼかしながら、カッと熱くなった耳たぶを触る指先は少しだけ冷たい。その無邪気で甘い目つきを止めてくれ。血が沸騰するから!
ざわつく心臓に触れてくるプライベートなまなざし。チョコミント味につやめくくちびるの味を想像するだけで理性がダメになりそうだ。
「……和泉さん、かーわいい。じゃ、また帰りにアイス買お?」
思わせぶりでいて、ストレート。それって確実に夜のお誘いではないか。キスだけでは終われないだろう。
汗の引いた手の甲と、春田の手の甲とがぶつかる。口をゆすぐべく、和泉は春田からもらった麦茶を飲んだ。
この長い夏に汗を交じり合わせる機会も少なくはないはず。キャップを閉めないままの麦茶のボトルを、春田が横からさらっていくように。
「……春田さんの分、ありますよね」
「元はおれが出したんで。アイスごちそうさまでした」
返されたボトルの飲み口から、ほんのりミントが香った。
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