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初夏のフレーバー【いずはる】

「和泉さん、なんかいいにおいする……」
「!」

 春田創一の距離感がバグっていることは毎度心臓に悪い。すすっと自然にこちらに近づいてきてしまうのはクセだろうが、至近距離でにおいを確かめられるのに和泉幸はドキドキしてしまう。

「なんか、いちご……? ベリー系かなー、ちょっとおいしそう」
「……ああ、多分……さっき外回りから戻った時に汗を拭いたので、そのシートの香りかと」

 季節的に初夏。しかし気温は夏という日が多いので、汗拭き用に香り付きのボディワイプシートを持ち歩くようにしていた。
 今使っているのがベリーミックスの香りなので、その残り香が春田の鼻をくすぐったようだ。

「最近あっついっすもんねー。おれも持って歩いてますよ、桃のにおいのやつ」
「! 春田さんの甘いにおい、それなんですね……」

 一足早めに半袖シャツを着ている、春田の露出した肌からほんのり甘い香りがしていたのには朝から気付いていた。桃の香りなんて春田らしいと和泉は思う。

「いいにおいだから腹減ってる時に使うと余計腹減るんすよね。ミント系ならそうでもないけど」
「私は……好きですよ? 春田さんのにおい」

 春田はシャープなメントール系の香りよりも、優しい感じの甘い香りの方がいい。
 和泉にしてみれば何の他意もなく、春田がまとわせている香りが好みだと口にしただけなのだが……。
 顔を真っ赤にした春田が、耳の近くにくちびるを寄せてくる。

「……和泉さん、そういうの、オフィスで言わないで」

 色白な肌が染まってきているのを見るに、春田にはベッドでのあれこれを思い起こさせたようだ。
 もう何度となく囁いている言葉なのに恥ずかしいらしい。そういうところがまた可愛いと思わせてくれる。

「……好きなものは好きなんですから、仕方ないでしょう?」

 指先を頬に添えると熱が伝わる。「好き」と伝えてくれる愛しい熱――くちびるを尖らせた春田は「後で覚えといてくださいね」と捨て台詞めいた一言を吐いて離れていった。
 そんな横顔もまた可愛いなんて言ったら、今度こそ拗ねてしまうかも知れない。

 想像してみて、思わず和泉は笑ってしまった。
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