まずは『友達』から【いずはる】
Side:I【last night】
――玄関ドアを開けて、千鳥足どころか自立歩行もままならない春田を和泉はどうにか小上がりに座らせた。
車を走らせてわんだほうに着くと、春田はカウンターに伏して寝息を立てていた。時折「まき」と零しながら。
荒井ちずから改めて、春田と牧凌太の破局を聞き、頼れる人間が不在というところで託されてしまった。
春田を家まで送り届けるというミッションは完遂できたので、振り向かずに帰るつもりでいた。春田が独り身である今、一年前に抱いた想いを遂げられるチャンスではあったが、酔って意識も不明瞭な人間に対して無体は働けない。
歩行の補助にと抱きかかえていたのも不謹慎に感じていた。だから、これ以上触れるつもりはなかったのに……春田が仰向けのまま咳き込んで、吐き出してしまった。
このまま放置して帰れば、吐き出したものが喉に詰まって窒息、最悪に至ってしまう――考える前に身体が動いた。
繫華街近くの交番勤務をしていた時分に何度となく、酔っ払いの介抱をしていたのを身体はしっかり覚えている。
春田のケアと吐き出したものの後片付けをしたあと、着衣が汚れているのに和泉は気付いた。
今日は泊まりの仕事ではなかったので着替えなどは持ち合わせてなく、とりあえず拭きはしたがシミや匂いは取れない。
春田を寝室に運び、帰ったらすぐに洗濯をと思っていた。長居するつもりなんて本当になかった。春田といるだけで秘めている片想いが理性を揺さぶってきていて、抑えるのに必死だったから。
眠った春田の頬にひとすじ、涙のあと。吐いた時の生理的な涙か、それとも……指先でそのあとだけ拭い、ベッドから離れる間際。
「――やだっ……行っちゃ、やだあっ……!」
ワイシャツの袖を春田の手が掴んだ。きっと牧凌太と間違えて、無意識にやったこととは思った。
結婚披露パーティーでとても幸せそうに笑っていたのに、悲痛な声を上げるほどに愛した牧に春田は置いて行かれてしまった。
「ごめんっ……ごめんなさいっ……、おれ、ちゃんとするから、おいてかないで……!」
春田の頬に新しい涙が伝う。止めどなく流れ、届かない想いがくちびるから零れた。受け止められる相手はここにはいない。自分には、想いを受け止める資格すらない。
「……まきぃ、……おれ、まきがいないと……だめなやつだから……」
ここから去った牧凌太がどんな気持ちで春田への想いを捨てたのかわからない。そこにどんな事情があるにしても、責任を感じたにしても、春田が自分を痛めつけるような言葉を吐くまでの傷を負わせた事実は変わらない。
心から求めている相手にはなれないし、自分が残ることも正解とは限らない――でも、春田を一人で置いて帰れない。
「…………春田さん、今夜だけ……傍に居させてください」
和泉は汚れたワイシャツを脱ぎ捨てて、泣きじゃくる春田を抱きしめた。
そして、そのまま泣き疲れて眠りに落ちるまで、優しく背中をさすり、髪を撫でていた――。
――玄関ドアを開けて、千鳥足どころか自立歩行もままならない春田を和泉はどうにか小上がりに座らせた。
車を走らせてわんだほうに着くと、春田はカウンターに伏して寝息を立てていた。時折「まき」と零しながら。
荒井ちずから改めて、春田と牧凌太の破局を聞き、頼れる人間が不在というところで託されてしまった。
春田を家まで送り届けるというミッションは完遂できたので、振り向かずに帰るつもりでいた。春田が独り身である今、一年前に抱いた想いを遂げられるチャンスではあったが、酔って意識も不明瞭な人間に対して無体は働けない。
歩行の補助にと抱きかかえていたのも不謹慎に感じていた。だから、これ以上触れるつもりはなかったのに……春田が仰向けのまま咳き込んで、吐き出してしまった。
このまま放置して帰れば、吐き出したものが喉に詰まって窒息、最悪に至ってしまう――考える前に身体が動いた。
繫華街近くの交番勤務をしていた時分に何度となく、酔っ払いの介抱をしていたのを身体はしっかり覚えている。
春田のケアと吐き出したものの後片付けをしたあと、着衣が汚れているのに和泉は気付いた。
今日は泊まりの仕事ではなかったので着替えなどは持ち合わせてなく、とりあえず拭きはしたがシミや匂いは取れない。
春田を寝室に運び、帰ったらすぐに洗濯をと思っていた。長居するつもりなんて本当になかった。春田といるだけで秘めている片想いが理性を揺さぶってきていて、抑えるのに必死だったから。
眠った春田の頬にひとすじ、涙のあと。吐いた時の生理的な涙か、それとも……指先でそのあとだけ拭い、ベッドから離れる間際。
「――やだっ……行っちゃ、やだあっ……!」
ワイシャツの袖を春田の手が掴んだ。きっと牧凌太と間違えて、無意識にやったこととは思った。
結婚披露パーティーでとても幸せそうに笑っていたのに、悲痛な声を上げるほどに愛した牧に春田は置いて行かれてしまった。
「ごめんっ……ごめんなさいっ……、おれ、ちゃんとするから、おいてかないで……!」
春田の頬に新しい涙が伝う。止めどなく流れ、届かない想いがくちびるから零れた。受け止められる相手はここにはいない。自分には、想いを受け止める資格すらない。
「……まきぃ、……おれ、まきがいないと……だめなやつだから……」
ここから去った牧凌太がどんな気持ちで春田への想いを捨てたのかわからない。そこにどんな事情があるにしても、責任を感じたにしても、春田が自分を痛めつけるような言葉を吐くまでの傷を負わせた事実は変わらない。
心から求めている相手にはなれないし、自分が残ることも正解とは限らない――でも、春田を一人で置いて帰れない。
「…………春田さん、今夜だけ……傍に居させてください」
和泉は汚れたワイシャツを脱ぎ捨てて、泣きじゃくる春田を抱きしめた。
そして、そのまま泣き疲れて眠りに落ちるまで、優しく背中をさすり、髪を撫でていた――。