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まずは『友達』から【いずはる】

Side:I


「もしもし~? いじゅみさんでしゅかあ」
「…………春田、さん?」

 警備の仕事が無事終わって帰宅中、和泉幸の上着のポケットで電話が鳴った。ディスプレイを確認して応答すると、春田創一にしては幼い声が聞こえる。
「春田さん、和泉です……春田さん?」
「ままー、いじゅみさんでたぁ」
 幼い声は最初よりも遠くに聞こえる。その後ろでアコースティックギターの奇妙なメロディーが流れていて、数名の人の話し声も聞き取れる。
 それ以前に春田は自身の母のことを『母ちゃん』と呼んでいる……『まま』とは呼んだりしないが……。
「――もしもし、和泉さんですか? すみません、春田の幼なじみの荒井です」
 幼い声から代わったのは、よく通る女性の声だった。荒井ちず――春田から紹介されていた、幼なじみという年下の女性。
 ちずは呆れを隠さない感じで、電話の理由を教えてくれた。

「春田がべろべろになって寝ちゃったんですよ。でも、ウチも春田を泊めるスペースなくて、最初は春田のお母さんに電話してみたんですけど旅行中で……。で、春田が前に和泉さんと一緒に来てたって兄キに聞いて、春田のスマホから勝手に電話しちゃいました!」
「はあ……。でも、どうして私に? 春田さん、牧さんと住まわれてましたよね」
 天空不動産での短い勤務期間中に和泉は春田と出会って、いつしか恋をしていた。しかし春田には牧凌太というパートナーがいたので、片想いを抱えたまま退職し、現在は民間の警備会社で働いている。
 この一年、どちらから連絡するでもなく過ぎていったのに、どうして今になって。

「春田と牧くん、別れたの聞いてないですか? 去年の暮れに牧くんが家出て行っちゃったの」
 別れた原因こそはっきりわかっていないが、結局のところ合わなかったらしい。春田は春田なりに頑張っていたのに、牧が本社勤務で多忙を極め、すれ違いが続いたのが大きかったとの話。
「春田は牧くんの仕事のことわかって、家のことすごく頑張ってて……でも、それで逆に牧くんが責任感じすぎてダメになったみたいな」
「そうだったんですか」
 牧凌太は新婚旅行やら結婚式やら、やたら『結婚』という形式にこだわっていたように春田の話から感じていたが、形にこだわりすぎるあまりに潰れてしまったんだろうか。
 春田を見るに、牧のことが好きだから一緒にいられるなら何でもいいと大らかだったのに、人の縁とは奇妙なものだ。

「それで、頼めそうな人って言ったら和泉さんだって兄キが。春田、あんまり誰かをうちに連れてくることないから、和泉さんって春田の友達なのかなって」
「友達……」
 知り合い以上友達未満のような、そうでもないような。片想いだけ抱えて連絡も取り合う仲でもない。
 秘めていた過去も本音も春田にはほとんど話してしまっているから、ただの他人でもない。なんてあやふやな関係だろうかと内心自嘲してしまう。
「でも、家は知ってますよね? 春田が和泉さんはお隣さんだって」
(もうお隣さんじゃないんだけどな……)
 春田と牧の家の隣家が、一年前までは住み家だったのは本当――三ヶ月と短いながら。そこに今はスーパー家政夫さんが住んでいる。
 だったらせめて隣の家政夫さんに連絡すればいいのに。そのことを話すと「電波が届かない場所にいる」と返された。
 ユニコーンの称号を持つ人気ナンバーワン家政夫さんと思えば、そういう地域にも呼ばれるのだろう。
「和泉さんお願いしますー! わんだほうの場所、わかりますよね?」
「はい……でも、本当に私で良いんですか」
「良いんです! 本当にお願いします!」
 ちずの勢いに圧倒される形で、和泉は春田を迎えに行くことを承知してしまった。
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