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幻太郎がいなくなっちゃった話【帝幻】




夜は、比較的ぐっすり眠れた。
だけれど、明け方に件の帝統の夢を見てしまい、飛び起きる。
汗びっしょりで、息も上がっているし、なにより気付きたくはないがどこかしらがギンギンになっていた。
出る前に起きてよかった。
鎮まれ、鎮まれと願いながら大きく深呼吸する。
どうしたらこの苦痛から解放されるか、なんて考えても答えなんて出なくて、ただひたすら時間が解決するのを待った。
このまま抜いてしまえばラクだろうが、なるべくそれは避けたかった。
これ以上罪悪感に押し潰されるのはもう勘弁なのだ。
それでも、帝統の声が聞きたくて、触れて欲しくて、心の矛盾が幻太郎を支配する。
帝統に会って、この感情をこれ以上抑えられるとは到底思えない。
いっその事、それこそ当たって砕けてしまえばいいのかもしれない。そんなことでこちらを軽蔑するような奴ではないことは幻太郎にもわかっている。
でも、自分の性格でできるわけが無いこともまた、よくわかっていた。

ぐるぐると色んな思考がめぐって、考えれば考えるほどにどんどん固くなってしまうものがそこにあり、なぜこのような状態になっているのかもよくわからない。
一つだけわかっているのは、おそらく鎮まってくれることは無さそうということだ。
そのとき。あろうことか鍵の開く音がする。
時間的には一二三だろう、一番来て欲しくないタイミングだ。
スタスタという足音が寝室前で止まり、開くなとどれだけ願ったところで現実は進んでいく。
ガチャリと扉が開いた。
幻太郎は布団で問題の箇所を隠して、目を閉じて頭半分くらいまで布団の中に潜り込んだ。
狸寝入りというやつだ。


「あっれ、ゆめのセンセイ寝てる〜?」


すうすうとそれらしい寝息を真似てみるが、一二三は顔をじーっと見た後で布団をひっぺがした。


「寝たフリはよしこちゃ〜ん!······あ、」


そこには真っ赤な顔で局部を隠している幻太郎が転がっていて、しまった、という顔をした後で、何かを思い付いたのかにっと笑う。


「あらまぁ朝勃ち。若いねぇ。」
「デリカシー皆無ですね···」
「俺っちがぬいてあげよっか?」
「は?」
「罪悪感で抜けなくて困ってるんじゃないの〜?」


なんでわかるんだ、と一睨みするが羞恥で顔が真っ赤になっているため勢いはない。
あるのは上目遣いの涙目だけである。


「別に伝えるつもりもないなら、操をたてる必要もないっしょ」


少なくとも俺っちはそう、と言って憂いげに笑うと、ギッとベッドに上がった。


「···結構です」
「そーんな事言ってさ〜、困ってるくせに」


一二三に両手を取られ、上で抑えられると、スマートに親指で幻太郎の涙を優しく拭き取る。
うーん、なんというカッコ良さ···と幻太郎はまじまじ一二三の顔を眺めていたら、なんだか股間は収まってきたようで小さく萎んでいった。


「あっ、萎えた?ウケるんだけど!」


そう言ってひょいっとベッドから降りた。
何がしたかったんだ?と思いながら幻太郎も起き上がると、一二三はその横に座った。


「······いやーゆめのセンセイってばギャンブラーくんのこと大好きだから、俺っち相手なら萎えるかなと思ってやってみた的な?」
「あなた···あのシチュエーションでもし小生がお願いしますと言ってたらどうする予定だったんですかそれ」
「そりゃーもちろん添え膳なので食うけど」


ちょっとやってみたいとも思ってるんだよね、と悪びれることも無く言い、なんだこの都合のいい男は、と幻太郎はため息をついた。
すると一二三は大きな欠伸をして目を擦る。


「俺っち眠過ぎてダメ〜!ちょっと寝さして!」
「家で観音坂さんが待っているのでは?」
「……独歩ちんは昨日から会社に泊まりで仕事」


そういうと、そのまま倒れてグゥ、とすぐに寝てしまった。
相当眠かったのか、と思い一二三に布団を被せ、その顔を眺めため息をつく。
変な体力を使ったからか、朝からどっと疲れた。
だいたい、添え膳なので食うというのはどういうことだ。
こちらは添え膳のつもりも無ければ食われるつもりもさらさらない。
そもそも帝統とすら、しようと思っているわけではないのだ。
身体が勝手に反応するのに困っているだけで。

ただ、さっきの勢いでやってしまえばよかったのかもしれない、と幻太郎は思案する。
伊弉冉一二三も自分も恋焦がれる相手が悪過ぎるのだ。
それならば、互いの性欲処理には適した相手なのかもしれない、と。
まぁそもそも立たないのだから無理なことなのだけれども。

そんなことを考えていたら、また眠気が襲ってくる。
そろそろ本当に帰らないと、仕事にも影響を及ぼしかねない。
だからこそ、ちゃんと考えて解決させないといけないのに、幻太郎はその眠気に抗えず、そのままコテンとベッドに転がってそのまますぐに眠りについた。







幻太郎が目を覚ますと目の前に金色の瞳があって、驚きはしたが寝起きで頭も身体も動かず、その金色をしばらく眺めていた。
そういえばこの人の寝ているベッドにあのまま転がってしまったのだった、と思い出すと、目元を綺麗な指が優しく滑る。


「ゆめのセンセーまた泣いてる〜」


そう指摘され、まったく身に覚えのない幻太郎は不思議に思ったが、一二三が綺麗な顔をして笑っているので、なんだかどうでもよくなった。


「怖い夢でも見たの?」
「いや、特にそういうことは無いと思いますが」
「なになに、超情緒不安定じゃーん!知ってっけどぉ」


うるさい、そう返そうとした瞬間、外から爆発音のようなものと叫び声、走る足音が沢山聞こえ、ベランダから外を覗く。
すると、問題の賭場から沢山の人が出て来て走っている。
「危ない」だの、「逃げろ」だのと言っている中に、微かに、だが確実に聞こえたのは「Dead or Aliveが」という言葉だ。


「まさか…」


そう言うが早いか、幻太郎はすぐに走り出した。
部屋着のままだとか、帝統に会いたくないだとか、そんなことはどうでもよかった。
早く助けに行かなければ、それだけだった。

一二三はすぐに追いかける。
あいつは確か違法マイクを持っていたはずだし、結構強いと聞いたこともあった、となれば最悪二人とも殺されてしまう可能性だってありえることだ。
幸いにも幻太郎は走るのがやたら遅く、直ぐに追いつくと走りながら止める。


「ゆめのセンセイ、ちょっと!!」
「なんですか!急がないと…」


一二三は走りながら、ざっくりと相手の違法マイクの効果を説明した後で、相手が攻めてくる前に一発で仕留めないとこっちも危ない、だから最初が肝心だから、と伝えた。


「どうしろって言うんですか」
「いつもは敵同士だけど、今回は休戦ね。力合わせないと多分無理なやつ」
「不本意ですがそうしていただけると助かります、時間がありません、行きましょう」
「万が一倒れてても攻撃が先だかんね!」
「わかりました。帝統が勝っているということは?」
「うーん、パワーだけで言うと多分、俺っちと独歩でなんとか引き分けって感じ」


そういうと同時に、賭場の扉をぶち破って中に入ると、帝統の呻き声が微かに聞こえた。
だけど先ずは、あの大柄な男からだ。
ニヤつきながら帝統を見下ろしている。
それを見て、幻太郎は自分の血管がブチッと切れたような音が聞こえたような気がした。

「───帝統を見下ろしていいのは小生と乱数だけです!」

2人はヒプノシスマイクを起動させた。


























事を終えると、一二三に帝統を運んでもらった。
神宮寺寂雷なら或いはなんとか出来るかもしれないという一二三の提案を飲み、お願いをした。
幻太郎は警察に連絡をし、違法カジノの摘発と違法マイクの回収をしてもらい、その場を離れる。

それにしても、彼との共闘はなかなか強かったと思う。
2人で2倍では無く2.5倍くらいにはなったのではないだろうか。
いや、考え過ぎか。
自分の帝統を救いたい気持ちが上乗せされたのだろう。
なんだか疲れた。
幻太郎は一二三のマンションに戻ると、ベッドに倒れる。
仄かにする甘い香りは、伊弉冉一二三の香水の匂いだと覚えてしまった。
ここでずっと甘やかされていたらどれだけラクだろうか。
泣いたら涙を救ってくれて、気晴らしに付き合ってくれる。
居心地が良過ぎているこの場所は、きっといつまでもいたらいけない場所だ。
どのみち彼を好きになることなんか無いのだから。
つまらない恋人ごっこを続けるのは、お互いのためにも良くない。
きっと彼も、想い人に対する気持ちが燻っているからこそ、自分に付き合ってくれているのだから。

























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