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帝幻ワンドロまとめ

ネオンが光るここは新宿歌舞伎町ではなく渋谷である。
街はクリスマスの雰囲気一色で、街路樹は綺麗にライトアップされ、恋人同士や家族で賑わっている土曜日の夜。
帝統は賭場にいるわけでもなければ恋人がいるわけでもなく、ふらりとやってきた大きめのマンションは幻太郎の自宅である。
「こんな時期は賭場にいっても素人ばかりだし、若いってだけでカモられるのがオチだからな」
そう笑って、コンビニで買ったであろう安いワインと適当なチーズをぶら下げて入ってくる。
幻太郎は、とっくに寝る支度を済ませちゃんちゃんこを来て目を擦っている、そんな時間のことであった。
「何時だと思ってる」
「いや、まだ9時かそこらだろ」
「寝る時間に決まっているだろ」
まぁ上がりなさい、とスリッパを放り投げると、サンキューと言ってそれを引っ掛ける。
「寝ちゃう?一緒に飲もうと思って買ってきたんだけど」
そう言って買い物袋を見せると、幻太郎はいそいそとワイングラスを用意してこたつに座る。
非常にミスマッチであるが、そんなことはどうでもいい。
だってこたつは暖かいんだから。
「チーズは皿、別にいらないですよね?」
そう言ってぺりぺりと包装を剥がしていると、帝統がワインを開けてグラスに注いだ。
「クリスマスパーティみてーだな、乱数も呼べばよかったか」
「乱数は今週おねえさんとの予定が詰まっているそうですよ」
「ふーん、ご苦労なこったな」
そうして軽く乾杯をすると、香りを確認して少しだけ口に含む。
「あ、これもしかして良いやつじゃね」
「おや帝統、ワインの味がわかるので?」
「まぁちょっと昔な」
二十歳そこそこの若造にとって、昔とは何歳のことを言うのだろうか、なんて無粋な質問はとりあえず飲み込み、幻太郎はまるでビールのように一気に飲む。
幻太郎はザルに見えるがまったくそんなことは無く、どちらかと言うと弱い方だ。本人はお酒に強いと言っているが、少なくとも帝統よりは弱いし、結構タチの悪い酔い方をするのを帝統は知っている。
なのでその様子を見て帝統は少し焦ったが、まぁあと寝るだけと言っていたからいいだろう。
普段は、あまり飲ませないように気にしてはいるのだが、なんと言ってもクリスマスなのだ。今日くらいは酔っ払いに付き合ってもいい。そもそもそう思ってワインを買ってきたのだから。
早くも赤くなった幻太郎は、チーズをひとつ摘んで口に放り込んだ。
「つめたいチーズ」
「普通こういうタイプは冷たい商品だろ」
「わっちは知覚過敏なのでありんす」
「まじか」
「うっそぴょん」
そう言って、ワインをもう一杯飲み、一気に回ったのか頭を押さえた。
「幻太郎、ちょっとゆっくり飲まねー?」
そういうと、買っておいたペットボトルの水を渡す。
それを受け取り机に置くと、ワインを注いでもう一度飲んでいる。
あ、ダメだこれ、と帝統は気付いたが時既に遅し。
向かいに座っていた幻太郎は四つん這いで帝統の隣まで移動し、その膝に無理矢理頭を乗せた。
「だぁいす〜、すきです〜」
これは嘘じゃないですぅ、と言って下から帝統の頬をつんつんと突っついている。
始まったか、とため息をつくと、幻太郎がムクっと起き上がり、帝統の顔をじろじろと見ていた。かと思ったら、そのまま髪の毛を引っ掴んで乱暴に唇を奪う。
幻太郎は泥酔するとキス魔になるのだ。
これは帝統しか知らない。乱数といるときはだいたいセーブして飲んでいるからだ。
サシで飲むと油断しているからだろうか、飲み過ぎることが多々ある。
なので被害者はいつも帝統だった。
しかも起きたら覚えていないというのだからタチが悪い。
「小生、帝統とキスするの大好きなので毎日したいです」
「わーったって!明日の朝も覚えてたらな」
そう言って水を飲ませると、今度はその水を口移しで帝統に飲ませにかかった。
無理矢理押し倒され、入ってくる水を強制的に喉を鳴らして飲む。
「ぷは、幻太郎、お前もう寝ろ、な?ベッド行くぞ」
そう言って引き摺るようにベッドへ運び放り投げると、腕を掴まれひっぱられる。
「だーいす、セックスしましょう」
「だー!明日それ覚えてたらな!」
「・・・記憶なくなるからってそれを逆手にとってそんなこと言うんですから。ふーんだ。おやすみ!」
そう言うと、布団を被ってそのままイビキを響かせ始めたので、帝統はその横に客用布団を敷いて横になる。
そうして、帝統もすぐに寝付いた後で、幻太郎は小さくため息をついた。

「嘘じゃないのに」

帝統のイビキにかき消されたそれは、闇の中でいつまでも燻っていた。
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