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雨は嫌いだけど【帝幻】*まだ未完です更新中



空が薄暗くなって、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてくるのに気付いたのが5分前。
干しっぱなしの洗濯物に気付いたのが、2分前。
雨脚が強くなったのは1分前で、びしょ濡れで家にたどり着いたのが10秒前だ。
幻太郎は仕方なく玄関で衣類を全部脱ぎ洗濯機に放り込むと、ベランダの外の洗濯物を確認する。
上が屋根になっているので、八割方大丈夫そうだと安堵し、とりあえず被害の少なかったものは部屋干しし、雨がかかってしまったものは再度洗濯機に突っ込む。

週末に溜め込んだのを一気にやっているのがいけないのかもしれないけれど、量が半端ない。
自由業なのだから毎日やれるような気はするが、時間の使い方が幻太郎はあまり得意ではなく、気が付いたら洗濯物は溜まるし食器も山積みだ。
数ヶ月前、気付いてすべての食器を使うことをやめて、紙皿等を使うことにした。
すると今度はゴミが増えてすぐに溜まる。
ゴミ出しの方がもっと面倒なので、紙皿作戦はすぐに幕を閉じ、また食器を溜める日々に戻った。


さてそんな幻太郎に今何が起こっているのかというと、洗濯が追い付いていないため今着れる服がないということだ。
パンツはある。上も、首のところが伸び切ってしまい捨てる寸前だったロンTがあったので、それを着た。
問題は下のズボンだ。
スウェットもパジャマも、乱数にもらったかわいい部屋着も、残念ながらそこに干してある。
本当なら今頃乾いている予定だった。
帰宅したらベランダから取り込んで、お日様の匂いいっぱいの柔らかい部屋着を着て、お昼寝を決め込むつもりだったのに。
雨は嫌いじゃないだとか、そういう情緒的なことをぬかす人間が居ることも否定はしないが、幻太郎はやっぱり雨は嫌いだし晴れてる日が大好きだ。
お日様の匂いも、綺麗な青空も、公園の子どもたちや空を翔ける鳥も、きらきらとしていて気持ちが良い。
誰でもいいから、雨雲をどっかに追いやってお日様を連れ戻してくれないだろうか。
まぁ正確にはお日様はちゃんといるしそれはもちろんわかっているけれど。
せめて気分だけでも晴れやかになりたいし、とりあえず服が着たい幻太郎は、そこにぶら下がっているスウェットを手に取り、洗面台からドライヤーを持ってきてスイッチを入れた。
中に温風を当てると、服が空気を含んでもこっと膨らんで、それを見て少し笑った。
透明人間でもいるような状態にちょっとだけ面白くなり、そのままスイッチを切ると仕事用の机にあるノートに「とうめいにんげん ドライヤー」と書きなぐってから再度戻りスイッチを入れる。
このメモが使われる時が来るかどうかはわからないけれど、楽しいことや悲しいことなど、自分の感情を動かした出来事はなるべく書き留めるようにしている。

そうしてすっかり乾いたスウェットを履いたところで、インターホンが鳴る。
連絡もせず訪問してくるようなやつは1人しか知らない幻太郎は、ドアの覗き穴で相手を確認すると、鍵を開けて中に入れる。


「げんたろー、わりぃけど雨宿りさしてくんね?」


悪びれることもなくそう言う帝統に、とりあえず濡れている衣服を脱いで上がらせ、風邪をひいたらいけないとシャワーを促す。
つまり今干してるバスタオルも1枚早急にドライヤーする必要が出てきた幻太郎は、急いで1番乾いているやつを手に取り、ざっと乾かすと脱衣所のところに雑に放った。
あぁしまった帝統に着せる服が無い。
そろそろ面倒くさくなってきたけれど、1番乾きやすそうなシャツと薄手のステテコを手に取りそれもドライヤーを当てる。
アイロンを当ててもよかったような気はするけれど、アイロンとアイロン台を出して使ったあとに冷ましてから片付けるという作業が嫌いなので、必要最低限にしか使いたくない。
パンツは…まぁノーパンでいいだろう。突然訪問してくる帝統が悪いのだ。あぁしまった、帝統にそのまま渡して自分でやらせたらよかった。

とにかくその男はシャワーを済ませ、与えた衣類を身に付け、ノーパンだというのにニコニコと笑いながらお礼を言っている。
その姿が少し面白くて、またノートにこっそり「帝統 ノーパンにこにこ」とメモをしてからお湯を沸かす。
紅茶でも飲もうと思ったのだ。帝統もきっとついでに渡せば喜んで飲むだろう。


「帝統、紅茶にお砂糖入れます?」
「や、そのままでいいぜ」
「合点承知之助」


そうして、洗濯物だらけの部屋で2人で紅茶をすすると、雨は更に酷くなり、しとしととかザーとかそんな軽いものではなく、マシンガンを乱射しているような音が外に響いた。


「雨、酷いですねぇ」
「だな」
「こんな日は家事も億劫になる」
「……お前だいたい億劫じゃねーか」
「あんなに食器が山積みになってしまって」
「いつ見てもあーなってるような気がするんだが」
「そういえばシャワーを貸して服を貸して雨宿りさせて紅茶を与えているんですけれど」
「へーへー、喜んでやらせていただきますよ……ったく」


こんな流れは何度目かだ。雨は嫌いだが、家事の方がもっと嫌いなので、そう考えると雨の日も悪くは無い。
それに、帝統が来るとなぜかはわからないけれど雨のじとじとが少し緩和されるような気がするのだ。
もしかしたら帝統は、乾燥剤か何かで出来ているのだろうか。
もしかしたら、雨の水分を身体に吸収して、非常時の水分補給に使っているのか?
そうなってくると帝統は人間ではない生き物になってしまうけれど、それも面白いかもしれない。
幻太郎はまたノートを出して、「帝統 雨吸収 人外」とメモを取る。
その帝統はというと、食器を洗い終え、丁寧にシンクまで掃除をして、ガスコンロも布巾で綺麗にしてくれている。
ギャンブル狂いのクズで素寒貧だけれど、基本の性格は良い奴なのだろう。
最後に全体を拭きあげて終わらせ、テーブルに戻って来ると、ため息をつきながら置いてあるお菓子をひとつ摘んだ。


「なんだあの量!シンクも排水口も!」
「うむ、よきにはからえ」


20歳の男の子に、シンクや排水口を掃除するという概念が存在することに幻太郎は衝撃を受けた。
幻太郎自身は幼い頃に足腰の弱っている育ての親の代わりに、自分なりに家事をしながら身につけていったものの、初めの頃はそんなこと思いもつかなかった。
詰まらせては考えて改善し、カビさせては考えて改善し、と試行錯誤しながら基本を身に付けたのだ。
(ちなみに今は、ここで自分一人で住んでいるのだから多少汚れても問題無い上に、賃貸なので最終お金で解決して出ていけばいい話だ。
自分の城を自分の都合で扱っているだけ。
幼い時は、両親の家だったから綺麗にしようと努めただけのことである)
帝統も意外とお手伝いをした子ども時代だったのかもしれない。


「冷蔵庫、なにかありましたっけ…」
「さっき見たけど何も無かったぞ。スライスチーズが3枚くらいあったけど」
「それはヤバいですねぇ。買い物にいけるような空模様では無いですし」


こんな中なので宅配も来られないだろうし、さてどうしよう。
幻太郎は立ち上がると、缶詰やレトルト食品の置いてある棚を開けた。
奥の方は賞味期限に自信が無いので、とりあえず出してみると日付けを確認する。
1年前のレトルトパウチの食品、半年前のサバ缶、乾麺も中途半端に開封されているものがごろごろと出てくる。
ゴミ袋を広げ、それらをポイポイと突っ込みながら日付けを1つずつ見て行くと、残った食品は、期限はあと1ヶ月猶予のあるカレールーにコーンの缶詰、ツナ缶、それだけだ。
お米は幸い買ったばかりだったので、それなら今日の夜ご飯はカレーライスで決まりだ。ツナとコーンでじゅうぶん美味しいしチーズも入れたらもっと美味しい。
幻太郎はひと安心といったふうにテーブルに戻って来ると、そのことを帝統に告げる。
そして時間はまだ夜ご飯には少し早いので、作業はまだいいだろうと幻太郎はそのまま寝室へと向かう。
なにせ雨の日っていうのはやたら眠たいのだから、幻太郎はそれに抗うことなど出来ないのである。
お布団を敷いてその中に潜り込むと、帝統も後を追って入ってくる。


「なんですか。小生の布団一人用なんですけど」
「俺も雨に打たれたし低気圧だしで眠いから入れてくれ〜」
「寝にくいじゃないですか」
「別に無理矢理眠りにつかなきゃいけないわけじゃねーんだろ?頼むよ〜」
「まったく。じゃあカレーとお米炊くのも任せましたよ」
「よっしゃ。さんきゅー幻太郎!」


しかし、帝統の体温は子どもみたいに温かいので、湯たんぽ代わりにはいいのかもしれない。
体温の低い幻太郎にはありがたいような気がする。
特に手足がよく冷えるため、無意識に温かい帝統の脚にくっ付けて暖を取ってしまう。
帝統が冷た!とびっくりしているけれど、だったら出ていけばいい話のため、幻太郎はお構い無しに帝統の脚にすりすりとくっ付いて、あーあったか〜い、なんて幸せに浸りながら、ついでに手もお腹も全部冷えているので帝統の懐に潜り込んで、全身で暖を取ることにした。


「お前、こんな冷たくてよく生きてるな?」
「うむ、よきにはからえ」
「さっきも聞いたわソレ」


あったかくて気持ちが良くて、幻太郎は帝統にしがみつきながら眠りについた。
こんなに暖かいなら、毎日添い寝してもいいなぁなんて思ったけれど、それはさすがに言わなかった。
















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