これから帝幻になるやつ【帝幻未満】
『実家に帰ります。すぐ戻ります。鍵なくさないでくださいね。夢野』
乱数から貰った可愛い便箋に流れるような文字で書かれたメモと、鍵。
幻太郎の家に泊まった帝統が目を覚ましてリビングへ行くと、それらがテーブルの上にあった。
「実家、って確か遠い雪国、だっけ」
帝統は幻太郎のソロ曲を思い出す。
彼の人生について、あれ以外に知ってることは無い。
詮索をしたことも無ければ彼がペラペラ喋るはずもないからだ。
すぐ戻ると書いてあるが、雪国に行ってすぐに戻るなんて出来るのだろうか?
そもそも自分にとってのすぐと幻太郎にとってのすぐはきっと長さが違う。
どう違うのかはわからないが、きっとその、立つことも覚束無い老夫婦だったり病気の青年だったりに会いに行く、もしくは亡くなっていて墓参りに行くのだろう。
だとすれば早くても明後日、長ければ一週間くらいだろうか。
それまで留守番していろという意味か、それとも鍵を持ってろという意味か。
よくわからないが、きっと好きにしていろということだろう、と勝手な自己解釈をして、帝統は財布を掴んで外に出ると、先程の鍵をしっかりと閉めてそれをファスナー付きポケットに入れる。
そして馴染みのパチンコ屋に入り、酒臭いオッサンの隣を避けて適当に座ると、慣れた手付きで玉を転がし始めた。
所持金はあまり多くないが、そこそこ楽しめるくらいは持っているはずだし、勝ったら乱数でも誘って飯に行くか、それとも別の賭場に行くか、まぁ買った金額で決めたらいいか。
帝統はひとつひとつ転がっては落ちていく玉を眺めながらそんなことを思っていた。
やがてルーレットが回り、それが外れては舌打ちをし、気が付けばタバコの本数も増えて、山盛りの灰皿に気が付くと、帝統は手を止めた。
そういえば、幻太郎の家に置いてある灰皿、使ったら中身を捨てるように、と言われていたのに、そのままにしてきたかもしれない。
まぁ次に行った時に片付ければいいのだから大したことではないのだが、1回幻太郎のことを思い出すと芋づる式に幻太郎について考え始めてしまうということは、まれにあることだ。
例えば、あの容姿であの雰囲気なのに強めのタバコを吸っていることだとか、そういえば以前にシンジュクのホストに服を馬鹿にされキレていたなぁ、だとか。
あの服は、何か思い入れがあるんだろう、それこそ例の『青年』もしくは『老夫婦』に貰っただとか、そんな所だろうか。
詮索は好きではないから、憶測というかもはや妄想の域であるが、そんなことが頭を巡った。
パチンコも調子出ないし今日はきっとそういう日だろう、と店を出ると、そのままにしてきた灰皿のゴミを片付けるために幻太郎の家に向かった。
預かっていた鍵であけて中に入ると、当然のように人の気配は無く、こたつの真ん中にある灰皿を綺麗にして元に戻す。
外は寒いので今日はもうここに居させて貰おうとこたつの中に入り電源を入れると、すぐに足元が暖かくなって冷えたつま先がじんじんと響いた。
きっと今日は戻ってこないであろう家主の、滅多に吸わないタバコがこたつの上にポンと置いてあって、それを一本拝借すると傍のライターでカチリと火をつける。
毎日吸わないということは中毒ではないだろうに、何故思い出したかのようにたまに吸っているのかはわからない。パチ仲間の中には、職場でのコミュニケーションのために嗜むことにした、と言う奴も居たが幻太郎は自由業だしそんなことはないだろう。
もしかして、かの友人が好んで吸っていた銘柄だったのか?
しかしまさか、高校生のころにタバコを吸うようなヤンキーが幻太郎に友達になろうなんて言うはずはない。
いや、偏見は良くないから可能性はあるにしろ。
もしくは、育ての親であるおじいさんが吸っていたのか。
貧乏生活だったのだから滅多に買えないだろうに、安いタバコを大切に吸っていたのかもしれない。
特にやることもない帝統は、しなくてもいい妄想を散々拡げ、やがて飽きたのかタバコを揉み消しこたつで寝転んでウトウトし始めた。
さっきから幻太郎のことばかり考えているのは、なんだか自分でも不思議だ。
こんなに丸一日、1人の人間のことで頭がいっぱいなのも珍しい。
目を閉じてみると、幻太郎の綺麗な顔やあの良く似合う和装、嘘をついて楽しそうに笑う顔なんかを思い出して、帝統は気分が良くなりながら意識を手放した。
そうして一眠りし、パチリと目を覚ました時は外は随分真っ暗で、時計を見ると21時を指していた。
変な時間に寝てしまい、しかもこたつで寝入っていたため少しばかり体調が優れないことに気付くと、こたつからもぞもぞと這い出てシンクへ行き、蛇口を捻って水を多めにコップに入れるとそれをゆっくり飲む。
寒気がするから熱が上がるかもしれない、と幻太郎のベッドを借りてもう一度目を閉じると、目の奥側がズキズキとしていて、あぁこれは本格的な風邪だ、と実感する。
小さくため息をついた時、玄関が開く音がした。
あれ、随分早いな、と思いながら目が開けられなくてそのまま寝ていたら、ガチャリと寝室の扉が開く。
「おや帝統。こんなところに…、いやに顔が青白いな」
そう呟くとガサゴソと何かを探りそれを持ってくると、布団を少し捲って脇の下に突っ込む。
体温計を探していたのか、なんてボーッと考えていると終了音が小さく鳴り、それを見て幻太郎は部屋を出ると、パタパタと速足で外に出て行った。
おかえりと言いたかったし、どこへ行くんだ、と問いかけたかったけれど帝統は起きておくことが出来なくてそのまま意識を手放した。
気が付くと外が明るくて、額には冷却シートが貼り付けてあり、枕元にはのど飴がコロンと置いてある。
声を出そうとすると確かに掠れていて痛いので、それをひとつ開封し口に放り込む。
マスクも置いてあったのでそれをつけた。
起き上がると昨日よりも身体がしんどくて、関節も痛い。
これは間違いなくインフルエンザだろう。
いつ貰ったんだ、と思いながらも、パチ屋に入り浸っている以上は仕方の無いことだった。
静かに扉が開くと、ゆっくり幻太郎が入ってきた。
おそらく起こさないようにそっと入ってきたのだろう。
しっかりマスクをして、近付いてくる。
「帝統起きてたんですね。調子はどうですか」
「完全にインフルだわ…」
「でしょうね。病院行きますか。というかあなた保険証あるんです?」
「あるにはあるけど、病院行ったら居場所バレるしそれは避けてぇから、いつも自力で治してる。うつすと悪いし家帰るわ…」
「居場所バレ?まぁよくわからないが、こんな寒い日に電気もガスも止まった埃まみれのところでは自然治癒力もうまく働きませんよ。治るまでいなさい」
そう言うと、なんか作ってきます、と出て行った。
帝統は、何故電気もガスも止まってることがバレてるのか、と思いながらそのままもう一度ベッドに転がった。
しばらく、野菜を刻む音や鍋がグツグツ煮える音を聞いて、ふわっといい匂いがしたかと思うと寝室の扉がまた開く。
「なんかスープおじや的な何かが出来ました。どうぞ」
少し不安な物言いだが、出されたものは小さめに切られた野菜と豆腐の入った味噌ベースのもの。
少しだけご飯も入ってるし溶き卵も。
「味噌はいいですよ。発酵食品は裏切らない」
起き上がるとレンゲを差し出されたので受け取り、少しすくうと納豆も入ってる。
食べ物の好き嫌いは無いので、ゆっくり口に入れ、少しずつ食べた。
半分ほど食べてレンゲを置くと、幻太郎は下げてくれた。
身体がだるくてそのまま横になると、幻太郎が食器を洗う音が聞こえる。
それを聞きながらゆっくり目を閉じて、そのまま意識を手放した。
3日ほどそこで寝させて貰っただろうか、その間に乱数がスポーツドリンクを持ってお見舞いにきてくれたり幻太郎がフルーツを剥いてくれたり、なにかと至れり尽くせりされているうちに、熱は下がり怠さも無くなった。
「3日で治るとか強すぎません?帝統の自然治癒力怖い」
「まぁな!身体の丈夫さには自信あるぜ」
「でもここから5日間くらいは自宅待機ですよ。人にうつします」
「えー、もう元気だから賭場行きてぇのに!」
「ダメに決まってるでしょう、この馬鹿が」
帝統は、あ、と思い出したかのように幻太郎の方を見た。
いきなりなんだ、と思いながら帝統の方を見る。
「なぁ、実家で何してきたんだ?遠いのによくあんなにすぐ帰ってこれたよな」
「遠い?小生の実家はシブヤにありますが?」
「嘘だろ?!雪国じゃねーのかよ」
「あぁ、あれは最後に全部嘘だと告げているでしょう」
「まじかよ」
「まぁそれも嘘ですけどね」
もう何が嘘で何が本当なのかわからない。だけれど、にこにこと笑う幻太郎がいつもよりも明るく見えたから、なんでもいいかと帝統は思った。
「······帝統が居ないと、想像より寂しかったんですよ」
「あ?」
「さっき帝統のジャケットに犬の糞つけといたって言ったんです」
「てンめー!」
「嘘に決まっているでしょう、まったく」
そう言って楽しそうに笑う幻太郎は、よっこらせと立ち上がると、少し原稿があると言って出て行った。
こないだ終わったと言っていたのに、また次の作品だろうか。
パタンと静かに扉が閉まる。
「聞こえてんだよ······」
それが思った以上に嬉しくて、別の意味で顔が熱くなってしまった帝統は、見られなくてよかったと安堵しながら布団の中に潜り込んだ。
乱数から貰った可愛い便箋に流れるような文字で書かれたメモと、鍵。
幻太郎の家に泊まった帝統が目を覚ましてリビングへ行くと、それらがテーブルの上にあった。
「実家、って確か遠い雪国、だっけ」
帝統は幻太郎のソロ曲を思い出す。
彼の人生について、あれ以外に知ってることは無い。
詮索をしたことも無ければ彼がペラペラ喋るはずもないからだ。
すぐ戻ると書いてあるが、雪国に行ってすぐに戻るなんて出来るのだろうか?
そもそも自分にとってのすぐと幻太郎にとってのすぐはきっと長さが違う。
どう違うのかはわからないが、きっとその、立つことも覚束無い老夫婦だったり病気の青年だったりに会いに行く、もしくは亡くなっていて墓参りに行くのだろう。
だとすれば早くても明後日、長ければ一週間くらいだろうか。
それまで留守番していろという意味か、それとも鍵を持ってろという意味か。
よくわからないが、きっと好きにしていろということだろう、と勝手な自己解釈をして、帝統は財布を掴んで外に出ると、先程の鍵をしっかりと閉めてそれをファスナー付きポケットに入れる。
そして馴染みのパチンコ屋に入り、酒臭いオッサンの隣を避けて適当に座ると、慣れた手付きで玉を転がし始めた。
所持金はあまり多くないが、そこそこ楽しめるくらいは持っているはずだし、勝ったら乱数でも誘って飯に行くか、それとも別の賭場に行くか、まぁ買った金額で決めたらいいか。
帝統はひとつひとつ転がっては落ちていく玉を眺めながらそんなことを思っていた。
やがてルーレットが回り、それが外れては舌打ちをし、気が付けばタバコの本数も増えて、山盛りの灰皿に気が付くと、帝統は手を止めた。
そういえば、幻太郎の家に置いてある灰皿、使ったら中身を捨てるように、と言われていたのに、そのままにしてきたかもしれない。
まぁ次に行った時に片付ければいいのだから大したことではないのだが、1回幻太郎のことを思い出すと芋づる式に幻太郎について考え始めてしまうということは、まれにあることだ。
例えば、あの容姿であの雰囲気なのに強めのタバコを吸っていることだとか、そういえば以前にシンジュクのホストに服を馬鹿にされキレていたなぁ、だとか。
あの服は、何か思い入れがあるんだろう、それこそ例の『青年』もしくは『老夫婦』に貰っただとか、そんな所だろうか。
詮索は好きではないから、憶測というかもはや妄想の域であるが、そんなことが頭を巡った。
パチンコも調子出ないし今日はきっとそういう日だろう、と店を出ると、そのままにしてきた灰皿のゴミを片付けるために幻太郎の家に向かった。
預かっていた鍵であけて中に入ると、当然のように人の気配は無く、こたつの真ん中にある灰皿を綺麗にして元に戻す。
外は寒いので今日はもうここに居させて貰おうとこたつの中に入り電源を入れると、すぐに足元が暖かくなって冷えたつま先がじんじんと響いた。
きっと今日は戻ってこないであろう家主の、滅多に吸わないタバコがこたつの上にポンと置いてあって、それを一本拝借すると傍のライターでカチリと火をつける。
毎日吸わないということは中毒ではないだろうに、何故思い出したかのようにたまに吸っているのかはわからない。パチ仲間の中には、職場でのコミュニケーションのために嗜むことにした、と言う奴も居たが幻太郎は自由業だしそんなことはないだろう。
もしかして、かの友人が好んで吸っていた銘柄だったのか?
しかしまさか、高校生のころにタバコを吸うようなヤンキーが幻太郎に友達になろうなんて言うはずはない。
いや、偏見は良くないから可能性はあるにしろ。
もしくは、育ての親であるおじいさんが吸っていたのか。
貧乏生活だったのだから滅多に買えないだろうに、安いタバコを大切に吸っていたのかもしれない。
特にやることもない帝統は、しなくてもいい妄想を散々拡げ、やがて飽きたのかタバコを揉み消しこたつで寝転んでウトウトし始めた。
さっきから幻太郎のことばかり考えているのは、なんだか自分でも不思議だ。
こんなに丸一日、1人の人間のことで頭がいっぱいなのも珍しい。
目を閉じてみると、幻太郎の綺麗な顔やあの良く似合う和装、嘘をついて楽しそうに笑う顔なんかを思い出して、帝統は気分が良くなりながら意識を手放した。
そうして一眠りし、パチリと目を覚ました時は外は随分真っ暗で、時計を見ると21時を指していた。
変な時間に寝てしまい、しかもこたつで寝入っていたため少しばかり体調が優れないことに気付くと、こたつからもぞもぞと這い出てシンクへ行き、蛇口を捻って水を多めにコップに入れるとそれをゆっくり飲む。
寒気がするから熱が上がるかもしれない、と幻太郎のベッドを借りてもう一度目を閉じると、目の奥側がズキズキとしていて、あぁこれは本格的な風邪だ、と実感する。
小さくため息をついた時、玄関が開く音がした。
あれ、随分早いな、と思いながら目が開けられなくてそのまま寝ていたら、ガチャリと寝室の扉が開く。
「おや帝統。こんなところに…、いやに顔が青白いな」
そう呟くとガサゴソと何かを探りそれを持ってくると、布団を少し捲って脇の下に突っ込む。
体温計を探していたのか、なんてボーッと考えていると終了音が小さく鳴り、それを見て幻太郎は部屋を出ると、パタパタと速足で外に出て行った。
おかえりと言いたかったし、どこへ行くんだ、と問いかけたかったけれど帝統は起きておくことが出来なくてそのまま意識を手放した。
気が付くと外が明るくて、額には冷却シートが貼り付けてあり、枕元にはのど飴がコロンと置いてある。
声を出そうとすると確かに掠れていて痛いので、それをひとつ開封し口に放り込む。
マスクも置いてあったのでそれをつけた。
起き上がると昨日よりも身体がしんどくて、関節も痛い。
これは間違いなくインフルエンザだろう。
いつ貰ったんだ、と思いながらも、パチ屋に入り浸っている以上は仕方の無いことだった。
静かに扉が開くと、ゆっくり幻太郎が入ってきた。
おそらく起こさないようにそっと入ってきたのだろう。
しっかりマスクをして、近付いてくる。
「帝統起きてたんですね。調子はどうですか」
「完全にインフルだわ…」
「でしょうね。病院行きますか。というかあなた保険証あるんです?」
「あるにはあるけど、病院行ったら居場所バレるしそれは避けてぇから、いつも自力で治してる。うつすと悪いし家帰るわ…」
「居場所バレ?まぁよくわからないが、こんな寒い日に電気もガスも止まった埃まみれのところでは自然治癒力もうまく働きませんよ。治るまでいなさい」
そう言うと、なんか作ってきます、と出て行った。
帝統は、何故電気もガスも止まってることがバレてるのか、と思いながらそのままもう一度ベッドに転がった。
しばらく、野菜を刻む音や鍋がグツグツ煮える音を聞いて、ふわっといい匂いがしたかと思うと寝室の扉がまた開く。
「なんかスープおじや的な何かが出来ました。どうぞ」
少し不安な物言いだが、出されたものは小さめに切られた野菜と豆腐の入った味噌ベースのもの。
少しだけご飯も入ってるし溶き卵も。
「味噌はいいですよ。発酵食品は裏切らない」
起き上がるとレンゲを差し出されたので受け取り、少しすくうと納豆も入ってる。
食べ物の好き嫌いは無いので、ゆっくり口に入れ、少しずつ食べた。
半分ほど食べてレンゲを置くと、幻太郎は下げてくれた。
身体がだるくてそのまま横になると、幻太郎が食器を洗う音が聞こえる。
それを聞きながらゆっくり目を閉じて、そのまま意識を手放した。
3日ほどそこで寝させて貰っただろうか、その間に乱数がスポーツドリンクを持ってお見舞いにきてくれたり幻太郎がフルーツを剥いてくれたり、なにかと至れり尽くせりされているうちに、熱は下がり怠さも無くなった。
「3日で治るとか強すぎません?帝統の自然治癒力怖い」
「まぁな!身体の丈夫さには自信あるぜ」
「でもここから5日間くらいは自宅待機ですよ。人にうつします」
「えー、もう元気だから賭場行きてぇのに!」
「ダメに決まってるでしょう、この馬鹿が」
帝統は、あ、と思い出したかのように幻太郎の方を見た。
いきなりなんだ、と思いながら帝統の方を見る。
「なぁ、実家で何してきたんだ?遠いのによくあんなにすぐ帰ってこれたよな」
「遠い?小生の実家はシブヤにありますが?」
「嘘だろ?!雪国じゃねーのかよ」
「あぁ、あれは最後に全部嘘だと告げているでしょう」
「まじかよ」
「まぁそれも嘘ですけどね」
もう何が嘘で何が本当なのかわからない。だけれど、にこにこと笑う幻太郎がいつもよりも明るく見えたから、なんでもいいかと帝統は思った。
「······帝統が居ないと、想像より寂しかったんですよ」
「あ?」
「さっき帝統のジャケットに犬の糞つけといたって言ったんです」
「てンめー!」
「嘘に決まっているでしょう、まったく」
そう言って楽しそうに笑う幻太郎は、よっこらせと立ち上がると、少し原稿があると言って出て行った。
こないだ終わったと言っていたのに、また次の作品だろうか。
パタンと静かに扉が閉まる。
「聞こえてんだよ······」
それが思った以上に嬉しくて、別の意味で顔が熱くなってしまった帝統は、見られなくてよかったと安堵しながら布団の中に潜り込んだ。
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