気付きたくなかった【帝幻】
どうやらここは山田一郎の事務所らしい。
何でも屋をやっているんだっけか。
しばらくすると扉が開いて、出てきたのはまだあどけない顔の少年だった。
「あっ、さぶろーくん!一郎はいる?」
「いち兄は、今電話中で、いち兄が中に入れろって言うから、仕方なくあけてやったんだよ。」
そう言うと、心底嫌そうにお茶をテーブルに置いて、こちらを見張るようにじっと睨んでくる。
「あははっ、何も取って食おうなんて思ってないんだから、そんなに睨まないでよね〜、ほーんとかわいいんだから!」
「ばっ、ばかにすんな!睨んでなんかいない!」
睨んでるじゃねーか、とは言わないであげたほうがいいだろう。
中学生くらいか、まだ顔付きが幼い。
学校は夏休み中だろうか。
「お前中学生だよな?宿題済んだのか?」
「そんなもの、最初の1週間で終わらせたに決まってるだろ。どっかの低脳とは違うんだよ」
そういってチラリと視線を動かすのでそっちを見ると、
高校生くらいの少年が漫画を広げながら眠りこけている。
「あいつは溜め込むタイプなのか?」
「少なくとも夏休みに入ってから今のところ、1度もやっているところは見ていないな。それに毎年最終日に死にそうな顔してる」
「へぇ、俺と気が合うタイプだな」
「じゃあお前と俺は気が合わないだろうな」
どこまでも態度が悪いやつだ。
まぁ中学生なんてそんなものか。
気付いたら一郎は電話を終えてこちらに来ていた。
「わざわざ出向くってことはよっぽどの困り事か?」
「えっとねー、前に夢野幻太郎について調べて貰ったでしょ?実家とかってわかってるのかなーって」
「実家は確か、えーっとどこだっけな、三郎ーちょっと、」
一郎が喋り終わる前に、三郎は棚からファイルを取り出してパラパラとめくり、小さくため息をつく。
「いち兄、すみません。だいたいの地域はわかっているのですが、詳しい住所までは···」
「だってよ乱数、どーする?」
「買う。いくら?」
「いいよ、随分前の依頼だしあんときの分で」
「うーん、でもそれじゃ商売になんないでしょ?あ!じゃあハイこれ、使って!」
「お前これ、靴屋······?」
「僕のお店ならどの店舗でも使える優待チケット!三郎くんなら気に入ってくれるかなーって!」
乱数が三郎の足元をチラリと見るので、三郎はその視線の先を見る。
『R.amemura』というロゴが小さく入っていた。
「なんだ三郎、乱数のブランド好きなのか!」
「気にせずに、気に入ったから買ったんだけど···まさか飴村乱数の靴だったなんて···クソ」
「あはは、そー言わずにまた使ってよねっ、その靴紐もセンス良いじゃーん!」
「馬鹿にしてんのか?!」
「ひっどいな〜、本心だよぉ」
そう言いながらチケットを10枚ほど手渡すと、一郎の持っているその資料に目を通した。
ふむふむなるほどー、とわざとらしく呟いてからお礼を言い、帝統の手を引っ張って事務所をでる。
「幻太郎の地元に行くのか?」
「1回行ってみてもいいと思うから、ダメ元で出発だよっ。帝統、所持金いくら?」
「あー、あと二千円くらいか···」
「もー!全然足んないよ!仕方ないなぁ、切符買ってあげるからちゃんとついてきてよね!」
つづく